聖女のおまけです。

三月べに

文字の大きさ
16 / 28

16 祝杯。

しおりを挟む



 城に帰れば、すぐに宴が開かれる。
 王様から労いと感謝の言葉をもらい、祝杯を挙げた。
 場所は騎士達が利用しているというダイニングルーム。
 ブラウンの長いテーブルが並べられたそこについた。

「いやぁ、本当に聖女様はすごい! 流石だったね!」
「そんなことないよぉ」

 私もお酒を飲ませてもらい、ほろ酔いを保って亜豆ちゃんにべったりとする。
 同じく飲んでいる亜豆ちゃんは、にへらと可愛らしい笑みを溢す。

「でもエリュテーマさんが飛ばされた時はドキッとしたよ」
「そうだね。あの巨大なガーゴイルが出てくるなんてね、エリュさんは大丈夫そうだ」

 少し離れた席で仲間と飲み合っているエリュさんは、起き上がっても平気そうだった。うん、笑っているし元気そうだ。
 同じ隊に慕われているとよくわかる光景を眺めていれば、目が合った。エリュさんは照れたような笑みで、コップを掲げる。私も掲げて、楽しんでますよとアピールをした。

「エリュテーマさんが飛ばされて焦った時、ジェームズ殿下が“大丈夫だ”って言ってくれなきゃ集中を欠いてたところだったよ。花奈ちゃんもエリュテーマさんを助けたんだってね。二人ともありがとう」

 亜豆ちゃんは、べったりしている私が気に食わないと睨むように見ていた王子と私にお礼を言う。

「へー? そうだったのですか、ジェームズ殿下。指揮している姿も、勇ましくて別人のようによかったですよ」
「……やめてくれ」

 亜豆ちゃんのお礼は素直に受け取ろうとしたけれど、私が褒めると途端に嫌そうな顔をしてお酒を飲んだ。私のことを完全に苦手意識しているみたい。

「本心ですよ。ねぇ? 亜豆ちゃん、かっこよかったよね。ジェームズ殿下」
「うん! そうだね、かっこよかった!」
「そ、そうか」

 亜豆ちゃんの言葉には弱いらしく、王子は鼻を高くした。
 それから、真面目な顔をする。

「エリュテーマへの対応は迅速で助かった。その……魔法を覚えるだけ無駄だと言ったこと、取り消す。頼りになった。……ありがとう」

 後半からごにょごにょとなったけれども、ちゃんと王子から私へのお礼が耳に届いた。
 あのツンツン王子が丸くなりましたよ。

「仲良くなったのっ!?」

 亜豆ちゃんは私と王子を交互に見て、目を輝かせた。
 仲良くなったのかな、ちょっと違う気がする。

「確かに頼りになりましたね。誰よりも迅速に動きましたしね。使った魔法はなんですか?」

 次からとお酒を運んで渡してくれるへーリーさんが、会話に混ざった。
 エリュさんに駆けつけた時の魔法のことだろう。

「私は重力自在魔法を使ったのです」
「あ、それ、花奈ちゃんが最初に覚えた魔法だ」
「そう。十八番です。今や息をするように使えちゃいますよ」
「なるほど、触れた相手の重力も変える魔法でしたか。戦いで使うとは、素晴らしいですね」

 魔導師に褒められた、バンザーイ。

「しかし無理は禁物ですよ。ハナさん。大きなガーゴイルが、あなたに手を伸ばした時は肝が冷えましたよ」
「あの時は助かりました、ありがとうございます。あれはガーゴイルの母親だったのでしょうかね? ガーゴイルを仕留めた相手に怒って、手を上げたようでしたが」

 私にはそう見えた。

「そうかもしれませんね。城に引きずり込んで食べてしまうという情報は、ガーゴイルのそのボスが食べていた、またはそのボスのために運んでいたということになるのでしょう。これからはもっと情報収集に徹底してもらわなければなりませんね」
「なに、不測の事態も対応出来るさ。オレ達ならな」

 へーリーさんの言葉に、前向きな発言をする王子。
 でも大事なことだ。情報というのは。武器にもなる。 
 情報収集も怠らないでほしいものだ。特に今回の巨大なガーゴイルみたいなものが出る場合は。

「ところで、花奈ちゃん。活躍したから、やっぱり第十三番隊の任務についていくの?」

 持ち出した話題を不安げに訊いてきたのは、亜豆ちゃんだ。

「何の話ですか?」

 へーリーさんにギクリとしてしまう。
 この人の許可をもらっていなかった。

「実は第十三番隊の人に誘われたんですよ。任務についてこないかって。私もついていきたいと思っているのですが……」
「……」

 恐る恐ると言ってみると、へーリーさんは一蹴せずに少し考えてくれる。
 王子は第十三番隊にいい印象を持っていないらしく、怪訝な顔つき。

「いいですよ」

 そして意外にも、あっさりと許可が出た。

「本当ですか!?」
「ええ。第十三番隊の次の任務は、大方あのガーゴイルがいた城の探索でしょう」
「え? あの半壊した城ですか?」
「ええ。何か残っていないかを探索してもらう任務となるでしょう。あそこは百年前にとある伯爵が使っていた根城だったそうですよ。それがいつしかガーゴイルの住処になってしまいましてね。あまり発掘は期待出来ないでしょう」
「そうですね……」

 半壊してしまった城だものな。期待は薄い。

「でも行かせてもらいますね」

 せっかく誘ってもらったのだし、許可も出たことだから、第十三番隊について行こう。
「物好きだな……」と王子はそっぽを向いて、お酒を飲んだ。

「活躍したし、いいよね」
「そうだね! あそこならもう安全だからいいよ!」

 聖女が浄化した地でもある。きっと魔物と遭遇することもないだろう。
 亜豆ちゃんは、心底安心した笑みで元気よく頷いた。

「セドリックさんにしっかり挨拶しておきますね」
「そうですね。私からもお願いしておかなければ」

 よろしくお願いしますっと言っておこう。
 へーリーさんもそのつもりらしい。
 私は上機嫌に、ちまちまとお酒を飲んだ。
 長居はしなかった。私も亜豆ちゃんも、先に失礼させてもらう。
「飲みすぎないでくださいね」と声をかけて、騎士達と王子におやすみを告げた。へーリーさんも長居せずに、私達を部屋まで送り届けてくれる。

「ちゃんと水を飲んでから眠ってくださいね」
「はい。へーリーお兄さん。おやすみなさい」
「おやすみなさい。ハナさん」

 いい子いい子と頭を撫でられた。てへへっと笑みを溢す。
 へーリーさんもなんだが上機嫌な笑みで、帰っていった。



 翌日は爽快な気分で、目覚めた。
 リースさんにお世話されながら、朝の支度を済ませる。
 鏡を見てみれば、真っ白なボブの髪。でも黒い瞳とミスマッチ。
 そんな容姿の私は、また騎士のような服を着させてもらう。ジャケットにズボン、そして黒のロングブーツ。
 いざ出掛けようとした時だった。

「おはようございます、ハナさん」

 へーリーさんが、部屋を訪ねにきた。真っ青なケープを持っている。

「おはようございます、へーリーお兄さん。それは?」
「大事な妹を守るためのケープですよ」

 それを肩にかけられた。真っ青なケープは、ひんやりとしている。
 この感触は、この前会わせてもらった幻獣のフォーを思い出す。
 清らかな水に触っているような心地。

「フォーを思い出します」
「フォーに借りて一緒に作ったものですからね」
「そうなのですか?」

 え、フォーの毛で出来ているのだろうか。
 なんて疑問に思っていれば、キュッとリボンが結ばれる。

「水は結界魔法と相性がいいのですよ。だから魔法から守る結界を発動させる魔法を組み込んでいます。もしも魔法のトラップがあってもこれが守ってくれますよ」
「わぁ、そうなんですか。ありがとうございます」
「一緒に行きましょう。セドリックさんに挨拶をしなくては」
「そうですね」

 一緒にセドリックに挨拶するために、並んで歩いた。
 庭園を横切って第十三番隊の稽古場に入る。
 そこにはもう整列している第十三番隊がいた。

「へーリーアンサス様、ハナ様。おはようございます」

 セドリックがペコッと挨拶をするとそれにならって、騎士達は頭を下げて揃って朝の挨拶をする。

「第十三番隊の任務が決まりました。先日、聖女精鋭部隊が戦闘を行ったガーゴイルの城の探索です。ハナさんも同行しますので、守ってやってください」
「よろしくお願いします。セドリックさん」
「ハッ! 任務承りました。ハナ様を誠心誠意でお守りいたします」

 予め聞いていたのか、セドリックは特に動揺も嫌な顔も見せず、綺麗に一礼して見せた。
 顔を上げたセドリックはニコッとしていたので、私は微笑んだ。
 今回は迷惑とは思っていないもよう。楽な任務だからだろうか。
 逆に心なしかげっそりしているランスロットとリクに、私は小首を傾げた。


 
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

【完結】何やってるんですか!って婚約者と過ごしているだけですが。どなたですか?

BBやっこ
恋愛
学園生活において勉学は大事だ。ここは女神を奉る神学校であるからして、風紀が乱れる事は厳しい。 しかし、貴族の学園での過ごし方とは。婚約相手を探し、親交を深める時期でもある。 私は婚約者とは1学年上であり、学科も異なる。会える時間が限定されているのは寂しが。 その分甘えると思えば、それも学園生活の醍醐味。 そう、女神様を敬っているけど、信仰を深めるために学園で過ごしているわけではないのよ? そこに聖女科の女子学生が。知らない子、よね?

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...