聖女のおまけです。

三月べに

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15 一目惚れ。(エリュ視点)

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 一目惚れだった。
 雪のように真っ白な髪と肌の儚げな容姿の彼女に、一目で虜になってしまったのだ。



 聖女の召喚の儀式に、巻き込まれてしまった異世界の一般人。
 その代償の容姿だと隊長から聞いてはいた。
 二週間ほどが過ぎて、目が覚めた彼女が城を歩いている姿を何人かが目撃したと噂も聞いていたが、実際にオレが目にしたのはジェームズ殿下が連れてきた時だ。
 聖女様の特訓を見に来たらしい彼女を紹介することもなく、逆に自己紹介する暇も与えてもらえなかった。何故だ。
 だが、オレは見惚れてしまう。
 可憐な彼女の名前は、ハナ。
 ハナ様は注目するオレ達騎士に、にっこりと笑みを向けた。
 儚げな微笑。か弱そうで、守ってあげたい。そんな気持ちが湧いた。
 聖女様の特訓を観覧していたハナ様は、黒い瞳で熱心に見つめていたものだから、オレもぼんやりと見つめてしまった。
 聖女様の休憩中にお茶会を少しして、ハナ様は魔導師様に送られて帰ってしまう。その時の微笑みがあまりにも弱々しく見えたものだから、きっと疲れたのだろうとオレ達は思った。ただ観覧しに来ただけでも、疲れてしまうなんてなんてか弱い人なのだろう。
 守って差し上げたい。そういう気持ちが強まった。
 しかし、それからハナ様と接触する機会は巡ってこなかった。聖女様の特訓を観覧したのも一度きり。噂では庭園を歩き、第十三番隊の稽古を覗いているとのこと。オレも会えることを期待して第十三番隊の稽古を何回か覗いたが、結局会えずじまいだった。
 魔物退治の任務についに行くことが決まった聖女様の紹介をするささやかなパーティーが開かれて、そこにハナ様も参加された。
 淡いオレンジ色のドレスで着飾ったハナ様は、それはそれは美しい。
 そう褒めたかったが、魔導師様と常にいて挨拶をするハナ様になかなか近付けなかった。なんでも魔導師様はハナ様を妹のように可愛がっているのだろういう。
 そんなハナ様と話す機会を伺っていれば、事件が起きた。
 ウエイターが令嬢に引っ張られて転倒。聖女様を狙った犯行だった。
 ウエイターの運んでいた水は、聖女様を庇ったハナさんが被ることとなる。それを見て、オレは慌てて駆け寄った。倒れかけた彼女を受け止める。
 真っ白で短い髪から、水を滴った。大きな黒い瞳は、オレを映す。か弱い彼女が風邪を引いてしまわないようにと、ハンカチで拭う。
 オレは魔導師様に言われた通り、パーティー会場からハナ様を運び出した。心配になるほど軽い彼女に、オレはやっと自己紹介をする。

「あの、申し遅れました。私は第一番隊の副隊長を務めています、エリュテーマ・イグニスです」
「は、はい。私はハナです」
「……存じ上げております」

 知っています。ずっと、知っていました。
 やっとオレのことを知ってもらえた嬉しさに浸っていれば、彼女は庭園に下ろしてほしいと言い出す。部屋まで送って差し上げたい気持ちを抑えて、オレは彼女を噴水そばに座らせて、まだ滴り落ちる水をハンカチで拭う。
 壊れ物を扱うように、優しくしないと。

「ありがとうございます……エリュテーマさん」

 初めて名前を呼んでもらえた嬉しさで、唇を噛み締めたくなった。
 でも堪えてもっと親しく呼んでもらおうと「エリュさん」と呼んでもらう。嬉しい。
 そんなハナ様と目が合う。それもそうだ。オレがずっと黒い瞳を見つめていたのだから。
 恋い焦がれている。
 この想いを打ち明けたくなってしまう。
 でも言いかけたその時、彼女は立ち上がって華麗に去って行く。
 しかし去り際に、オレだけに向けて無邪気そうな笑みで。

「また今度、お話しましょう」

 だなんて言ったから、オレの胸は衝撃のようなものを受け止めた。
 胸を押さえて、噴水そばで突っ伏する。

 お慕いしておりますっ……!

 ああ、せめて綺麗だと一言伝えるべきだった。
 なんて、反省をして恋煩いのため息を溢す。


 聖女様の初任務にハナ様も加わることが決まったのは、その前日のことだった。
 しかし任務の最中では話せないだろうと肩を竦めた。
 だが、これは任務だ。気を引き締めよう。
 コロコロと変わったオレの顔を見て、同じ隊の騎士が笑った。パーティーの行動で、ハナ様に恋をしているとバレたらしい。守りたいと思うのは、共感出来るとのことだ。
 初任務の当日。
 ハナ様は騎士の正装に似たデザインの服を着ていた。ズボンを履いていても、可憐でいらっしゃる。でも元気よく「よろしくお願いします!」と挨拶した。



 想定外の巨大なガーゴイルが現れる。その手が聖女様を引き裂こうとしたため、身体を張って庇うしか出来なかった。容易く吹っ飛ばされたオレの元に駆け付けてくれたのはーーーーハナ様。
 仕留めようときた小さなガーゴイルに立ちはだかって、掴み地面に捩じ伏せた。それに目を疑う。オレは、頭でも打ったのだろうか。あんなにもか弱いハナ様がそんなことをするなんて。いや出来るなんて。
 でもそのガーゴイルを仕留めて振り返ったのは、間違いなくハナ様だった。雪のように溶けてしまいそうなほど白い髪に、対照的に黒い瞳。
 血を流すオレのために、治癒魔法を行使してくれたハナ様。
 散りばめられる仄かな光の中、集中している彼女は祈るようだった。
 それを見つめて、オレは意識を手放す。

 目を覚ますと、ハナ様を見つけた。
 ぼやける視界の中で、消えてしまいそうな髪に触れてしまう。夢だと思ったのだ。だって現実だと思うわけがないじゃないか。ハナ様に膝枕されているこの状態。
 聞けば、第一番隊の騎士がそうしろと言ったそうだ。
 これではオレの気持ちがバレてしまうじゃないか。
 いや、別に隠したいわけではない。むしろ伝えたい。
 でも、どうだろうか。オレは彼女を好きだって言い張っていいのか。
 ハナ様が友だち想いだとは知らなかった。聖女様が友だちと大事なのだと、優しい眼差しで微笑んだ。
 ハナ様に髪を触られている間、オレは瞼の裏に先程の彼女の姿を思い浮かべていた。黒い瞳には、間違いなく強さが宿っていたのだ。
 とても強くて、そして美しい瞳だった。
 ハナ様を好きだと言うには、まだ彼女を知らなすぎる気がする。
 だから、まだ言わない。
 もう少しあなたを知ってから……
 恋い焦がれている想いを伝えてもよろしいでしょうか?
 ハナさん。


 
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