聖女のおまけです。

三月べに

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20 国の救世主。

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 今度は私に注目が集まり、嫌な沈黙が降りる。
 わぁーこの視線やだぁー。
 私は硬直してしまった。

「……あの方は、国民ではない。例え彼女が我が国民でも、捧げるわけにはいかない。その願いを叶えることは出来ない」

 王様はそう言って、きっぱりと断ってくれる。
 え、ちょっと待って。捧げるって何?
 どういう意味ですか? 生贄ってこと? え?

「勘違いするな。取って食いたいわけではない。単純にハナが欲しいと言っているだけだ」

 レイヴはそう言い退けるので、安堵しておく。
 そっか、食べたいわけではないのね。
 でも単純に欲しいと言われると、それはそれでドキッとするわ!!

「しかし、彼女はこの城で保護をしているとはいえ、誰のものでもない故……」

 そう王様は付け加えて、私に視線を送った。
 え? 何それ、私が答えを出せってことですか? 王様。

「そうか。ならば精霊オリフェドートの力を借りて、この国を滅ぼす」

 とんでもない発言をしたレイヴに、王様もたじろぎ、その場にいた全員がざわめき始めた。
 えっと、精霊オリフェドートって確か、植物を司る偉大な精霊だっけ。
 彼なしでは緑も枯れて育たないという。世界で必要不可欠な存在。
 そんな偉大な精霊なら、国一つを滅ぼせる。
 しかもしかも、人間嫌いだって噂だ。幻獣を監禁していたなんて聞いたら、激怒するに違いない。私だって、伯爵が健在だったら、後先考えずに殴り飛ばしていた。

「ちょ、ちょっと」
「ちょっと待ってください」

 私が口を挟もうとした瞬間、先に割って入ったのは、玉座側の家臣達と共に並んで立っていたへーリーさんだ。

「私はこの城の魔導師であり、ハナさんの兄のような存在です」

 こんな空気でもお兄さん発言しちゃうへーリーさんすごい!

「誠悦ながら、具体的にハナさんをどうしたいのでしょうか?」

 やばい。返答次第ではお兄さんが暴走するのではないか。
 私は冷や汗をダラダラ流して、双方を交互に見た。

「そばに置きたいだけだ」

 あっさりとレイヴは、そう答える。

「さようですか」

 へーリーさんは笑みで頷く。

「でしたら、こうするのはどうでしょうか? ハナさんと魔法契約をしてあなたがハナさんのそばにいればよいかと思います」

 魔法契約をして、逆にレイヴが私のそばにいればいい。
 そう提案したへーリーさんは、優しげな眼差しで私を見た。
 魔法契約とは、その名の通り魔法で協力関係を契約すること。
 へーリーさんがフォーを呼び出したように、契約すればレイヴをいつでも召喚出来るということだ。
 つまり、レイヴに私の召喚獣になればいいと言った。
 再び沈黙が降りた中、レイヴは顎に手を添えて考える素振りをする。

「ふむ。それがいい。いいか? ハナ」
「えっ? わ、私?」
「あとはお前の返答次第だ」

 それは暗に私の返答次第でシーヴァ国が滅ぼされるということを言っているのだろうか。
 聖女じゃないのに、何これ重い。
 と、とりあえず、私はレイヴのところまでカツカツと歩み寄った。
 足音が異様に響いて、恐ろしい。

「私の召喚獣になってください」

 そう言ってレイヴの手を握った。

「ああ、そうしよう」

 レイヴは嬉しそうに破顔する。
 その瞬間、歓声が湧き上がった。
 大袈裟じゃなく、この国を救った瞬間だからだろう。

「ありがとう。本当にありがとう」

 王様の手が肩に置かれて、温かな眼差しを送られた。
 いや、よかったです。聖女の亜豆ちゃんが救う最中の国が滅ぼされなくて。

「当然のことをしたまでです、国王陛下」

 私はレイヴの手を握ったまま、王様に一礼をした。
 魔法契約をしようとへーリーさんに、レイヴの手を引きながらついていく廊下で、私は詰め寄る。

「レイヴ! なんであんなこと言ったの!? そりゃ滅ぼしたい気持ちはわかるけれども、私に先に相談してくれてもよかったんじゃないの!?」
「あの場で思い付いた」

 思い付きで国を滅ぼすと王様に言ったのか! 恐ろしい子!!

「だいたい、私の召喚獣になってそばにいたいだなんて……帰る場所があるんじゃないの?」
「……帰る場所は、あの森だ。瘴気で一度汚された森に、顔見知りはもういない……」
「えっ……じゃあ行く宛がないの?」

 元々あの森に住む幻獣だったらしい。
 視線を落としてレイヴを見て、私は足を止めた。

「オリフェドートの森なら……」

 頼れるのは、その精霊だけみたいだ。

「それなら、なんで私のそばにいたいと言い出したの?」
「……人間なんぞもう二度と信用しないと思ったが、お前がそれを変えてくれた。お前という人間になら信用出来ると思った。だから、我の傷をお前の温もりで癒してくれ」
「……レイヴ……」

 コツン、とレイヴは私と額を重ねた。
 温もりには癒しのパワーがあると言ったのは、私だ。
 聖女の亜豆ちゃんの方がいいと思うんだけれどなぁ。

「レイヴがそこまで言うなら」

 よしよし、と頭の上を撫でてやった。

「行きましょう。ハナさん」

 その手を掴まれて、へーリーさんに部屋まで連れて行かれる。
 へーリーさんの部屋で、魔法契約。へーリーさんが長い呪文を唱えてくれている間、私とレイヴは魔法陣の中に向き合って立つ。へーリーさんの詠唱が終わると同時に、光の輪が私達を包み、そして砕けるように散った。
 これで契約完了だ。

「へーリーお兄さん、ありがとうございます。へーリーお兄さんの機転がなかったらどうなっていたことやら……」
「いいえ。大切な妹を守れて、兄として誇らしいです」

 妹どころか、国を守ったのですが。あなたは。

「国王陛下から何かしらの礼をもらえるでしょう」
「え、いいですよ……遠慮したいとお伝えください。私はここに居させてもらっているだけで十分だと!」
「少しは欲張ってもいいのですよ? 国を救ったのですから」

 クスクスと、へーリーさんは笑う。

「いえいえ、思い返せば我が儘ばかり言ってますよ? 任務について行きたいとか、任務について行きたいとか、ついて行きたいとか」
「可愛い我が儘ですよ」

 そう言ってへーリーさんは私の頭を撫でた。
 主に任務に行きたいとしか言ってないな、私。

「明日はここに来てください。召喚獣を喚び出す魔法を教えましょう」
「はい、ありがとうございます」

 新たな魔法を教えてもらえるとはしゃいだ。



 翌朝は、もふもふといい香りで目が覚めた。
 使っているシャンプーの香りだ。昨日念入りにリースさんが、レイヴを洗ったから、香ってくるのだろう。
 手を伸ばせば、短い毛に覆われた身体に触れる。真っ黒い翼を持つ豹が、部屋を占領していた。
 なるほど、こういう光景を目にしながら起きるのね。至福!

「レイヴ、おはよう。人間の姿に戻ってー」
「んぅ……この部屋は狭いな」
「レイヴが大きいだけ」

 部屋の広さは十分である。
 そんなレイヴが人の姿に戻った。朝の支度を済ませて、へーリーさんの部屋を目指す。今日はオフホワイトのドレスと黒のコルセット。そして青いケープを身につける。

「おはようございます、へーリーお兄さん」
「おはようございます、ハナさん。そして幻獣レイヴ」

 へーリーさんと挨拶を交わしたら、早速召喚獣の召喚の仕方を教わった。
 その間、チョークを手に持ったレイヴは何やら魔法陣を床に書き始める。
 それが気になってしょうがなかったので、へーリーさんは教えることを止めた。

「それは転移魔法の魔法陣ですね」
「今からオリフェドートに挨拶しに行こう」
「え?」
「なんですって?」

 私とへーリーさんは、魔法陣を書き終えたレイヴに聞き返す。
 あの偉大な精霊に会いに行くと言わなかったか? 今。

「だめです。オリフェドートの森には人間嫌いの幻獣が」
「我の主になったのなら問題はない。行かせてもらうぞ」
「わ!?」
「待ちなさい!」

 手をグイッと引っ張られて魔法陣の中に入ると、途端に光り出した。
 へーリーさんが呼び止めるも、遅かった。
 光に包まれたかと思えば、森の香りが満ちる。
 森の中にいた。道らしき道なんてなく、ただ生い茂った森はペリドット色に輝いて見えた。木々の背はかなり高くて、三メートルは優に超えてそう。
 足元も緑に溢れていて、そして空気がとても澄んでいると感じた。
 ぽけーと見上げていれば、また手を引かれる。

「オリフェドートはこっちだ」
「え、ちょ、待って!? 精霊様に会ってもいいの!?」
「我の命の恩人として、そして主人として会ってもらいたい」

 レイヴは淡々と返すと、どんどん茂みを掻き分けて進んでしまう。
 王様よりも偉い精霊に会うとわかって、緊張が高まった。もうこれ以上は無理ってほど緊張してしまう。粗相したらシーヴァ国が潰されるかもしれないとか、プレッシャーを考えてしまった。でも精霊様を拝めると思うと、そっちのドキドキもしてしまう。
 すると、ギシメシと木が軋めく音が響いた。
 顔を上げると「案ずるな、襲ってこない」とレイヴが言う。
 え? 何が襲うの? 私、何か見逃してる?

「生きていたか! 我が友、レイヴよ!」

 パッと光で目の前が眩む。開けた場所に出たかと思えば、精霊がそこにいた。


 
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