聖女のおまけです。

三月べに

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21 精霊の森。

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 口をポカンと開けて、見つめてしまう。
 笑いかけた長身の男性のような精霊は、鹿の角のような白い冠をつけている。濡れた蔦のような長い長い髪と、大きなペリドットの瞳を持ち、若々しい枝の色のような肌をしていた。そしてシルクのようになめらかそうな羽織りは真っ白。
 これが精霊。精霊のオリフェドート。
 神秘的で美しい存在だった。

「精霊オリフェドート。久しいな」
「百年近くぶりか? お主の住処の森が瘴気の魔物に呑まれたと知り、もう息絶えたとばかり思っていたぞ!」
「それが……」

 レイヴが言いかけた時に、バサバサと羽ばたく音が鳴って、風が巻き起こる。レイヴの風ではない。白い羽根が見えた。

「レイヴ!! お前、生きていたのか!?」
「おお、ラクレイン。久しぶりだな」

 現れたのは、これまた長身の男性のような人。でも腕は翼のそれで、足も黒いズボンを穿いて見えるけれど、黒い鳥の足だ。長い髪は羽根で、唇は黒いグロスが塗られているように艶めいている。
 レイヴと同じ鳥型の幻獣だろうか。

「実はな」

 そう切り出して、レイヴはシーヴァ国の伯爵に囚われていたことを話した。そして今まで地下に閉じ込められていたのだと打ち明ける。
 当然のように、精霊オリフェドートとラクレインと呼ばれた幻獣は激怒した。

「おのれっ! シーヴァ国!! 滅びの黒地の影響で瘴気纏う魔物に国民が脅かされていると同情しておったのに!! 滅ぼしてやる!!」

 ひぃい!! やっぱりその結論になっちゃう!?

「まぁ落ち着け」
「落ち着いていられるか! そして何故お前は人間を連れているんだ?」

 ギロリ、とラクレインの鋭い眼差しが私に向けられた。
 ひぇえ。怖い。きっとへーリーさんの言っていた人間嫌いの幻獣だ。

「ああ、コレはハナと言ってな。我を救ってくれた人間だ。魔法契約を結んだ」

 精霊も幻獣も激怒しているというのに、レイヴは喜色満面の笑みで紹介した。
 オリフェドートもラクレインも、呆気に取られてしまう。
 長年人間に監禁されていたにも関わらず、人間と魔法契約を結んで笑っているのだから、当然か。

「正気か? レイヴ」

 ラクレインは心底同情した目をして、翼の先でレイヴの頭を撫でた。
 これは監禁されたせいで、まともな判断力を失ったと思っているに違いない。

「我は正気だ、ラクレイン。シーヴァ国の国王から謝罪はもらった。詫びにハナの召喚獣にしてもらったのだ。コレの温もりに癒してもらっている。怒ってくれる気持ちはわかるが、鎮めてくれ。我はこの人間のおかげで無事だ」

 レイヴが静かに言い聞かせるように伝える。
 ちょっと照れた。厳密に言えば、レイヴを救ったのは十三番隊なのだけれど。いや、きっと私の温もりが一番効果的で救われたと感じたのだろう。とても照れてしまう。
 じっと、オリフェドート達の視線を受ける。
 ハッとして、私は挨拶をすることにした。

「私は花奈と申します。シーヴァ国の聖女召喚の際に巻き込まれてしまった異世界の一般人です。この度は、その、人間を代表としてと言ったらおこがましいのですが……悪い人間のせいで大切な友を傷付けてしまい、申し訳ありません」
「全くだ!」

 深々と頭を下げて謝罪をすると、オリフェドートの厳しい声が返ってきて、ビクッとする。

「ん? 聖女召喚の巻き込まれた異世界人だと? それはまた……色々やらかすな、シーヴァ国。難儀だな、ハナとやら」

 態度は急変して、同情の眼差しがオリフェドートから降り注がれた。

「あ、いえ、シーヴァ国は悪くないんですよ? ただ聖女様の召喚の際に、私が迂闊にも聖女様の手を掴んでしまったので、そのまま引き摺り込まれてしまっただけでして……その代償に髪の毛も肌も真っ白になっちゃいました。でも後悔はしていません。魔法が大好きなので、この世界に来れて幸運だと思っております」

 シーヴァ国の失態を払拭しつつ、私は説明をして、にっこりと笑って見せる。

「こうして幻獣と精霊様にもお会い出来るなんて、感激です!」
「お? なんだ、精霊に会うのは初めてか? シーヴァ国には水の精霊がいるではないか」
「水の精霊のところにいる幻獣フォーになら会わせてもらいましたが……精霊ってそう簡単に会える存在ではないのでは?」
「我は人間嫌いで通っておるが、他の精霊は違う。魔法学園で魔法契約をしろと課題が出るくらいだ、珍しいことでもあるまい」
「魔法学園……」

 すごいな、魔法学園。精霊に魔法契約を持ちかけろって、勇者の旅にでも出す気か。
 案外話せば、友好的な精霊だという印象を抱く。
 我は認めないぞ、という視線がラクレインからくるけれども。
 そんなラクレインが、ピクリと反応した。

「あら……珍しい。お客様ですか?」

 そこに聞こえたのは、穏やかで可憐な声。
 ラクレインの視線の先を追えば、その人物が歩み寄ってきた。
 驚く。これまた美少女だったからだ。
 水色に艶めく白銀の髪を、緩い三つ編みにして束ねている少女は青い瞳をしている。質素な青いドレスにエプロンを巻いているから、どこかの村娘さんみたいな格好なのだけれど、キラキラしているオーラが眩しい。美少女オーラかな。

「お話中のところすみません」

 申し訳なさそうに眉をハの字に垂らして、微笑む姿はまさに可憐だった。
 何この美少女!! 絶世の美少女なのだけれど!!

「ローニャ! いいところに来た!」

 はい、名前すら可愛い!!

「紹介する! こっちはシーヴァ国の森に住んでいた幻獣レイヴだ。百年ぶりに会った」
「こんにちは。私はローニャと申します」
「我が友だ」

 オリフェドートが紹介する。破顔していた。もうデレデレの様子だ。
 でもわかる。こんな美少女と友だちなんて、自慢したくもなる。
 いやでもこっちにも聖女という美女がいますよ! 亜豆ちゃんっていうのだけれどもね!!

「シーヴァ国と言えば……滅びの黒地の隣に位置する国ですよね。そこからいらしたのでしょうか?」

 美少女・ローニャが、私に首を傾げて問う。
 はい、可愛いです。
 滅びの黒地とは、瘴気に満ちた黒い地域のこと。
 シーヴァ国に瘴気をまとった魔物が出るのは、その地が原因だと言われている。

「はいっ! とは言っても、私はシーヴァ国の国民ではないのです。聖女の召喚に巻き込まれた異世界人なんですよ! 名前は花奈っていいます!」
「!」

 きゃわわわいいな。内心はしゃぎながら、ローニャちゃんを見ていたら、彼女は目を真ん丸にして驚きの表情をした。

「異世界、人……」
「あ、はい。シーヴァ国には聖女を召喚する風習がありまして、それに巻き込まれてしまい、それで真っ白な姿になってしまいまして……」
「あ、あのっ」
「はい!?」

 ずいっとローニャちゃんが迫って来たかと思えば、手を握られる。
 その手も綺麗で可憐だった。
 じゃなくて、何故かローニャちゃんが目を輝かせている。キラキラ眩しい。でも見ていたい。眩しい!

「どこの国の……いえ、どこの星ですか?」
「えっ?」

 国や星を問われたのは、初めてで、私は困惑する。
 それを尋ねたところでわかるわけない。
 けれども、何か期待しているような眼差しだ。
 すると、そこで首が締まったかと思えば、襟をレイヴに引っ張られた。

「この人間は何故入って来れた?」
「ああ、我が魔法契約している人間だからな」
「何? ここ百年で人間嫌いが治ったのか?」
「いや、グレイとローニャだけだ。ローニャはラクレインと契約しているのだぞ」

 人間嫌いの精霊は、二人限定で契約をしているらしい。
 人間嫌いの幻獣も、ローニャちゃんとは契約を交わしているようだ。
 そりゃこんな美少女なら、私も契約してもらいたい。……何の。

「ラクレインが人間と契約だと? 一体何があった!?」

 レイヴは大笑いをした。

「あの、お話のところすみません。私は用事があるので、失礼します。オリー、リューをお願いします」

 オリフェドートが話そうとしたその前に、ローニャちゃんはずっと引っ付いていたらしい子どもを預ける。真っ青な髪が長くて、青い瞳がチラッと見えた女の子はすぐにオリフェドートに抱き付いた。

「そう言えば、冒険に出掛けるんだったな」
「はい」

 冒険とは、美少女のローニャちゃんの格好には似つかないワードだ。

「獣人傭兵団と楽しんでこい」

 獣人傭兵団? 私はそのワードにもふもふな傭兵団を想像した。
 ノットみたいな獣人の傭兵団がいる国に、ローニャちゃんはいるのか。

「また会いましょう。ハナさん」
「は、はい! また会いましょう、ローニャちゃん!」

 女の子をひと撫ですると、ローニャちゃんはカツンとブーツを踏み鳴らしただけで光に包まれて消えてしまう。
 すごい! 今の美少女、ただ者ではないな!
 今のはどうやって魔法を発動させたのだろう。例の魔法学園に通っている生徒なのだろうか。

「こんにちは。私は花奈です」

 私は挨拶をしそびれた女の子と目を合わせるために、しゃがんだ。
 でもシルクの羽織りに隠れてしまった。

「構わないでやってくれ。リューは人間不信だ」

 人間嫌いに人間不信が集まる森なのか。ここは。
 それともそうさせる人間が多い世界なのだろうか。
 悲しいことだ。しょんぼりしてしまう。

「さて!! 宴をしようではないか!」
「えっ?」
「久しぶりの再会を祝して乾杯といこう!!」
「オリフェドートの酒は美味だぞ」
「いや、待って、私帰らないと」
「何を言う、ハナとやら! 主人であるお前も付き合うのだぞ!!」
「ええ!? でもお兄さんが心配してしまうので一度帰らせてください!!」

 せっせと宴の準備をし始めるオリフェドートをなんとか説得をして、無事へーリーさんの元に戻った。
 私もローニャちゃんみたいにカツンとブーツを鳴らしただけで転移魔法が使えるようになりたいと言ったら、それは高度な技術が必要だと困った顔をさせてしまう。
 ローニャちゃん、何者。


 
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