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22 護衛。
しおりを挟む王弟殿下の笑い声が、へーリーさんの部屋に響く。
「精霊オリフェドートの宴に招待されただって? 君って人は、どこまですごいんだい?」
お腹を抱えるジェイミー殿下は、笑いが治らないといった様子だった。
「あの、ジェイミー殿下はどうしてこちらに?」
「いや、へーリーから君は国を救ったお礼は要らないと聞いたから、何かしら受け取ってもらいたいと思って僕が説得しに来た」
引きつらないように細心の注意を払って笑みを浮かべて問うと、そんな風に返された。相変わらずよくわからない魅力的な色気がただ漏れの殿下だ。
「何を言ってもいいんだよ? 金品財宝を求めたっていいし、いい土地を求めてもいい。最良の夫が欲しいっと言っても、誰も咎めたりしないよ?」
国を救った報酬は、なんでもありか。
するとパキンという音が鳴った。そばにいたへーリーさんが、羽ペンをへし折ったのだ。
「夫が……欲しいのですか?」
ゴゴゴッという効果音がぴったりなオーラをまとい、へーリーさんが笑みで尋ねてきた。
あ、これ私は、当分お嫁に行けない感じですか。
「夫も土地も金品財宝も要らないです……」
私は二人にそう言った。
「そうなのかい? ……惜しいなぁ」
すごく残念そうに漏らすジェイミー殿下は、私と隣のレイヴを見つめる。
惜しいって何がでしょうか。
「じゃあ僕のお嫁さん、なんてどうだろう? なーんてね」
首を傾げて、にっこり笑いかける。
うーわぁ。ステキな冗談。そんな色気たっぷりに求婚されたら、卒倒してしまうわ。レイヴ、ちょっと寄りかからせてちょうだい。
「お戯れを、ジェイミー殿下」
へーリーさんが、やんわりとやめさせてくれた。
「ふふ。気が変わったら言って、ハナさん。こちらはいつでも君の望むものを用意したいと思っていることを覚えておいてくれ」
「……はい、ジェイミー殿下」
からかい済んだのか、ジェイミー殿下はへーリーさんの部屋をあとにする。私は接客スマイルで見送った。
「……へーリーお兄さん。彼が苦手です」
「そうなのですか? 女性は皆殿下が好きだと言いますが……」
へーリーさんは男だからわからないのだ。
あの女性を魅了するフェロモン放出している殿下は、身につけているアクセサリーさえも色っぽく見せられる。卒倒してしまいそうな色気の持ち主だ。私は苦手。
「惜しいとは、どういう意味ですかね?」
「……国の利益になる、と考えているのでしょうね」
「私が、ですか?」
「精霊オリフェドートが、人間嫌いの精霊だとは教えましたね」
「はい。でも契約している人間が二人いるみたいですよ」
「ああ、それはオーフリルム王国の魔導師と伯爵令嬢のことですね。その二人しか、心を許していないそうです。植物を司る精霊と契約出来るなんて、国にとっても有益ですからね。その二人は重宝されていることでしょう」
「伯爵、令嬢?」
精霊オリフェドートは、魔法契約をしているとローニャちゃんを紹介した。
ローニャちゃんは魔導師? それとも伯爵令嬢?
どっちとも思えない質素なドレスを着てエプロンをつけていた。伯爵令嬢なら、フリルをふんだんにあしらった重たそうなドレスで着飾っているだろう。それは私の思い込みなのだろうか。
いや女魔導師って線も捨てがたい。
「ハナさんも精霊オリフェドートと友好的な関係を築ければ、重要な人間として大切にしたいということですよ」
へーリーさんの言葉に、思考が逸れた。
「ああ、なるほど……でもそれは難しいと思います。確かにレイヴの主人として宴には招待されましたが、シーヴァ国には不信感を抱いてしまっています。その、私が失言してしまいまして……」
おずっと私は自分が巻き込まれ召喚をしたことで、余計悪い印象を抱かせてしまったことをへーリーさんに話す。
「人間嫌いな幻獣ラクレインにも睨まれてしまっていましたし、シーヴァ国が望むような有益は得られないと思います」
「まぁいいでしょう。レイヴの件で国が砂漠化して滅ぶことを阻止してくれただけで、十分ですよ」
精霊オリフェドートを敵に回すと国が砂漠になってしまうのか。
へーリーさんに頭を撫でられながら、レイヴと向き合う。
「私、こんな微妙な立場にいるけれど、レイヴは平気?」
「いざって時は食い散らかしてやる」
ニカッと笑いかけられた。
ちょっと待とう。一体誰を? んん?
私を利用するともれなくレイヴが暴れるそうです、へーリーお兄さん。
「さぁ、早く宴に行こう」
「待ってください。一人騎士を同行させてください」
「え?」
「ある騎士がハナさんの護衛を買って出てくれたのですよ」
「ある騎士ですか?」
穏やかに微笑むへーリーさんを見て、レイヴと顔を合わせる。
コンコンとノック音が扉からした。
その騎士が来たのだろうと思って、扉に行き開く。
目の前には肌色。逞しい肉体があったものだから、自然と閉めようとした。
でもブーツが阻んだ。
「なんですぐ閉めようとするんだ?」
「何かの条件反射ですかね」
ノットがその逞しい身体をジャケットをしめて隠してくれたら、閉めないと思うけれども。
「ある騎士って、ノットさんのことですか?」
「いいえ?」
「えっ」
じゃあなんでノットは来たのだ。
否定するへーリーさんから、ノットに目を戻した。そうすれば、もう一人いることに気付く。扉を大きく開けば、そこに立っていたのは。
「エリュさん」
「こんにちは、ハナさん」
ノットと同じジャケットをしっかり着たエリュさんが立っていた。
力なく微笑んで見せて、ちらっとノットを目を向ける。
「ハナさんの護衛任務をすることになりました」
「任務か。オレも同行する」
「えっ」
「えっ」
私もエリュさんも、ノットの発言に驚いた。
「それがいい。獣人の方がラクレインも機嫌を悪くしないだろう」
レイヴが頷く。
「いいえ、だめです。十三番隊はハナさんのケープを利用して、地下のトラップをくぐり抜けたのでしょう? いくら私の魔法が便利だからといって利用するのはよくありませんね。罰として反省文を書くようにセドリック隊長に伝えましたが……ノットさんは手合わせをしてハナさんを医務室送りにしましたね? そんな人に護衛を任せられません」
レイヴの左隣のへーリーさんがネチネチと言った。
「あ、いや、医務室送りにしたのはちょっと違いますよ?」
「とにかく、護衛はエリュテーマさんに任せます」
とりあえずノットをフォローしようとしたのだけれども、へーリーさんはエリュさんを推す。
「いいえ、オレが行きます。レイヴが言うように人間ではない方が適任かと」
きっぱりとノットは進言した。
獣人であるノットが適任だと言い張る。
「いえ、ここは私がハナさんをお守りいたします」
ノットに首を振って、エリュさんも護衛をすると言った。
「いや、ノットがいいと言っている」
「いいえ、エリュテーマさんです」
「オレが行きます」
「私が守ります」
「!? ……!?」
レイヴ、へーリーさん、ノット、エリュさん、と順番に見ていたら、目が回ってしまう。
何これ。ノットかエリュさんのどちらかを選ばなければいけない展開?
「あ、あの、護衛は要らないんじゃないかと思うのですが……レイヴもいますし」
「いけません。護衛をつけなければ、宴の参加を許可出来ません」
お兄さん、強し。
また「ノットだ」とか「エリュテーマさん」とか、「オレが」とか「私が」と言い始めて、目が回ってきてしまう。
「じゃ、じゃあ二人にお願いします!!」
私はノットとエリュさんの手を掴んで上げた。
間を取って二人にすれば、レイヴもへーリーさんも異論はないだろう。
「人間が増えるとラクレインが」とレイヴがぶつくさ言ったが、ここは私の護衛ということで許してあげて。
「という事情だから二人参加しますって伝えてもらえるかな? レイヴ」
「……ああ」
じとっとエリュさんを見たレイヴは、私に頷いて見せて魔法陣で先に精霊の森に行った。
聖女のおまけなのに、護衛が二人もつくなんて。
「おい、いつまで手を握っているつもりだ?」
「……」
「あ、失礼」
ノットに言われて、パッと手を放す。ずっと掴んでいた。
「あの、えっと、持参するお酒を持ってきました」
「それはいいですね!」
もう片方の手に持っていたワインボトルを、エリュさんは見せてくれる。
シーヴェ国産のお酒を持参とは、ナイスアイデアだ。
私がにっこりと笑みになれば、エリュさんは笑い返した。
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