聖女のおまけです。

三月べに

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23 森の宴。

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 オリフェドートの許可ももらって、ノットとエリュさんと一緒に森に来た。もちろん主役のレイヴもいる。
 暗くなってきたので、ちょっと鬱蒼とした森は怖いかな。なんて思ったが、予想と違っていた。
 さっき来た開けた場所の隅っこには、頭の上に鬼灯が飾られている。それが赤や橙や黄色の暖色系に淡く光っていた。照らされたその空間は、まるで絵本で見たような妖精の森の宴。幻想的で温もりがあるようなそんな場所になっていた。

「素敵……」

 私はそう、うっとりと言葉を零す。

「あ、精霊オリフェドート様。人嫌いなのに、私と護衛二人の参加を許可してくださり、ありがとうございます」

 ぽけーと立ち尽くしていたら、精霊オリフェドートがどうしたのかと覗き込んできた。慌てて、一礼する。

「エリュテーマ・イグニスと申します。この度はハナさんの護衛としてついてきました。これは手土産の酒です」
「ノットと申します。同じくハナの護衛についてきました」
「護衛つきとは、シーヴァ国はよほどお主を重宝したいのか?」
「いえ、兄のような存在の人が心配してくれただけのことですよ」

 何故かじとりと横目で精霊オリフェドートは見てきたけれど、私はのほほんと笑い退けた。
 利益云々が過ったけれど、へーリーさんの場合、過保護を発揮しているだけのこと。シーヴァ国はまだ私が有益な存在だとは認識していない。これからもそうならないことを願う。だって私は、聖女のおまけだもの。
 精霊オリフェドートは、エリュさんから丁重に差し出されたワインボトルを受け取ってくれる。

「へーリーという名の魔導師が兄のように振舞っているのだ」

 レイヴが言ってくれた。

「そうだ。ノットは獣人なのだぞ」
「なんと! 獣人の騎士もいるのだな! まぁ座れ」

 レイヴに手を引かれて隣に座る。
 顔を上げて見てみれば、ノットが姿を変えた。白い煙の中から、純白の獅子が現れた。もふもふだ。

「ほーう! シゼと同じ獅子か」

 私とノットは、精霊オリフェドートの言葉に反応をした。

「獅子の姿の獣人とお知り合いですか?」
「ああ、友になったばかりだ。傭兵団長をやっている者でな、この前ここで飲んでいったぞ。純黒の獅子の姿だ」
「真っ黒なライオンさん……!」

 ドンッと威張った風の純黒の獅子を想像した。なんか傭兵って威張っているイメージがあるからだろう。黒獅子の傭兵団長。ぜひとも会ってみたい。

「あ、ローニャちゃんが冒険に行くと言っていたもふっ……いえ、獣人傭兵団さんのことですか?」

 もふもふ傭兵団。

「ああ、そうだ」

 真っ黒なライオンさんが率いるもふもふ傭兵団!!
 見てみたいな! そしてローニャちゃんを囲っているのでしょう!? もふもふと絶世の美少女のセット、見たいわー!
 でもよくよく考えたら、傭兵と令嬢のセットってあり得るのだろうか。令嬢と騎士ならしっくりくるけれども。傭兵と魔導師? それもしっくりこない。

「ではレイヴの生還を祝して、乾杯しようではないか!」

 尋ねようとしたけれど、その前に精霊オリフェドートからお酒らしきものが入った木のコップが渡される。
 ふふ、なんか可愛い。
 蜂蜜のような匂いと色のお酒は、とろっとしている。
 おつまみは、果物が用意されていた。大きな葉っぱをお皿代わりにして乗せていて、いっぱいだ。

「レイヴに!」
「あ、レイヴに」
「レイヴに」

 乾杯、とレイヴと精霊オリフェドートとラクレインと共にコップを掲げた。
 一口、飲んでみる。まろやかな甘いそれが喉を通ると熱が広がった。

「……美味しい!」
「そうだろう、そうだろう。この森特製のお酒だ」

 精霊オリフェドートは、鼻を高くする。

「本当に美味しいですね」
「シーヴァ国のワインもなかなかだ」

 手土産のお酒には、ご満悦のよう。何よりだ。
 後ろに控えるエリュさんと顔を合わせて、安堵の笑みを互いに浮かべた。

「ハナ。お前のことを聞かせてくれ」
「私?」
「ああ、そうだ。異世界の暮らし、家族、なんでも知りたい」

 レイヴがお酒を飲みながら、そう話題を振ってくる。

「異世界の話か! 我も聞きたいぞ」
「……」

 精霊オリフェドートが食い付いた。でも横たわった大木の上に座って黙々と飲んでいるラクレインは、興味なさそう。彼をもふもふする日は遠そうだ。むしろ来ないかもしれない。純白の羽毛は、もふもふし甲斐がありそうなのにな。しょんぼり。

「異世界の暮らしは……今より退屈でした。毎日同じことの繰り返しで特に面白くない仕事を淡々とこなしてましたよ。もしも願いが叶うとしたら、こうやって異世界に来たいと思っていました。魔法で溢れるファンタジーな世界に行きたい、そう恋焦がれていたのです」

 ゴクン、と熱くて甘いお酒を一口飲んで話し始める。

「子どもの時から親が不仲で、それから目を逸らすように物語を読んでいて、その中で魅力を感じたのが魔法で溢れる世界のものでした。ずっとこんな世界に憧れていたのです。だから、巻き添えという形でも、こうしてこの世界に来れて嬉しく思いました」

 にっこりと顔を綻ばせた。

「そうか……それは難儀であったな、ハナ。我の森の住人が人馴れしていれば、総出でもてなしてやったんだが」
「森の住人とは?」
「妖精達のことだ」
「妖精! まだ見たことないです! そっか……お目にかかれないのが残念です」

 妖精と聞いて目を輝かせる。でも私達がいるから出て来ないのだ。
 それは残念。しょんぼりとしてしまう。この場に妖精が加われば、まさに夢の実現なのだけれど。

「そう落ち込むな、レイヴの主よ。何度か来れば、妖精と打ち解けられるだろう」
「え、それって何度も来てもいいということですか?」
「レイヴの主だからな。特別だぞ」
「光栄です! 嬉しいです!」

 昼間はペリドットのような輝きを放つ美しい森、夜は鬼灯が温かみのある光が灯る森。そんな精霊様の森に来てもいい許可を直々にもらえて、手放しで喜んだ。

「さて、もっと飲んでお主のことを話せ」
「そうだ。もっとハナのことを教えろ」
「レイヴが主役なのに、私ばかり話していていいのですか?」
「構わん、そのレイヴがご所望だ」

 精霊オリフェドートとレイヴに急かされて、また私の話をした。
 父はリストラ。母が苦労して働き、長女の私は色々と我慢したこと。
 お酒が入っているせいか、ちょっとだけ涙が出てしまった。

「ハナさん、どうぞ」

 スッと差し出されたのは、ハンカチ。エリュさんだ。

「ありがとうございます、エリュさん」

 そう言えばこの人もいたのだった。後ろに控えているから忘れてしまっていた、申し訳ない。

「異世界にも円満な家庭に恵まれない人間がいるのだな……全く、これだから人間は」
 他にも円満ではない家庭を知っている風に、精霊オリフェドートはプンプンしながら果物を口の中に放った。
 私はノットの姿が後ろにないことに気付いて、キョロキョロと首を回して捜す。ラクレインが座っている大木の前にいた。何やらラクレインと話しているようだ。
 何の話だろうか。気になる。
 ラクレインも獣人相手だと許せるらしく、柔らかな表情で話していた。
 私の視線の先を見たレイヴは。

「何の話をしているんだ?」

 そう声をかける。

「獣人の傭兵団のことを話していた。ノットは獣人の仲間を知らないと言うのでな、今度紹介してやろうと言っていたところだ」
「え? ノットさん、そうなのですか?」
「……ああ」

 獣人の仲間を知らない。それって寂しいことではないだろうか。
 同族を知らないとは、分かり合える相手がいないということ。
 うん、きっと寂しいはずだ。

「ん? ならば、会いに行けばいいんじゃないか? ちょうどローニャと一緒にシーヴァ国の外れにある水の都の盗賊の根城……」
「おい! オリフェドート!」
「あっ」

 酔いが回ってきたのか、ヘラヘラと精霊オリフェドートが言いかけた。
 それを鋭い声を上げて遮るのは、ラクレイン。

「い、今のは忘れてくれ!」
「え……ええ、はい……」

 そわそわする精霊オリフェドートに、私は頷いて見せる。
 シーヴァ国の外れにある、水の都の盗賊の根城。
 ローニャちゃんと獣人傭兵団が、一緒。
 それを合わせて導く答えは、ローニャちゃんが冒険している先。
 まぁそれだけではわかるわけないので、私は忘れることにしてお酒を飲んだ。
 ノットだけは、違ったけれども。


 
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