異世界で神の化身は至極最高に楽しむ。

三月べに

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20 初仕事。

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 ひらひらな袖がついたオフショルダーと、ハイウエストなズボンを履く。イサークにドレス姿では、危なすぎると言われたからズボンを買った。
 ウエストを締め付けるコルセットを締めたそのあとには、火に強いサラマンダーの皮で出来たマントを羽織る。べレス戦に、必要な装備だ。
 まぁ、私はべレスが吹くと言う炎に近付くつもりはないのだけれど。念のためだ。
 この初仕事は、結果的に皆が引き受けることに同意した。
 厳密には、べレス討伐のゴールドランクとハーピィ討伐のシルバーランクに分かれて仕事をする。
 ダレンが「ボクは飛行タイプの魔物と戦った経験がありません。お役には立てないかと」と正直に話して、断ろうとしたので、私がフォローすることを提案した。
 防壁魔法を応用して、空中に足場を作るのだ。それなら接近戦タイプのダレンもハーピィと戦える。それが出来ることにまず驚かれたけれど、それなら戦えると自信を持って頷いてくれた。
 長年の経験からして、ギルマスのグラディさんも、アントンさんも、このメンバーで戦えると判断。
 その日のうちに準備をして、翌日の陽が昇る前に、ルーシー街を発った。
 馬車の中に揺られている新人冒険者のダレンとアメーは、またもや緊張をした顔付きでいる。
 冒険者になって初仕事。しかも新人レベルのものではない。
 シルバーランクの仕事だもの。実力と同等の魔物と対決。

「気を引き締めていこう!」

 気合いを入れる私は、初実戦である。

「うん!」
「ええ!」

 返事をしてくれるダレンとアメー。いい子。

「予習だけど、私は防壁の魔法を見えるように張る。それを階段にして、飛んでいるハーピィに届くように、上手く配置するから」
「うん。わかった」

 ダレンは、私に頷いてみせた。

「……」

 私の隣のイサークは、じぃいいっとダレンを見ている。
 どうした。

「えっと?」

 ダレンが首を傾げて言葉を待つも、イサークは無言。
 今は人の姿だけれど、やや目付きが悪いので、怖い気がする。

「イサーク達も接近戦タイプじゃなかった?」

 確か短剣やナイフを所持していたし、イサークは見るからに接近戦タイプに思えた。飛び付いて噛み付くとかしそう。

「オレ達は、素人じゃねぇ。飛行タイプの魔物でも戦える。お前は新人の心配だけしてればいい」

 そう言えば、ドラゴンを狩ろうとしていたことを、今思い出した。
 冒険者じゃなくても、狩人としては、戦闘経験が豊富。
 飛行タイプの魔物相手の戦い方は心得ている、か。
 ダレンは、羨望と尊敬の眼差しを向けた。
 私はイサーク団の戦いを観察しつつ、ダレンとアメーのフォローをしよう。
 もちろん、本命のべレス戦まで温存はするけれど。

「アメティス様。くれぐれも気を抜いて防壁魔法を解かないように」

 アメーの隣にいるアントンさんが釘をさす。
 アメーは力強く頷いた。
 アントンさんも、べレス戦中はアメーから離れることを躊躇していたけれど、イサーク団がそばにつくことを条件にやっと参加をすると頷いてくれたのだ。
 べレス戦中は、イサーク以外のシルバーランクは距離を取って待機する。
 イサークは念のために、私のそばにいたいとのこと。
 私とアリーさんが後方で魔法攻撃を仕掛けるから、イサークがいると専念できるとグラディさんは許可した。
 馬車に乗ってから、だいたい六時間だろうか。
 北西に真っ直ぐ来た。足場の悪い荒地に到着したけれど、これから徒歩で進む。さらに三時間ほど。
 小山に近付くにつれて、鳥の臭いがした。
 やがて、上空から鳥よりも大きなものの群れが現れる。
 ハーピィだ。
 想像していたのは、長い髪と美しい女性の上半身と鳥の下半身と翼の魔物。しかし、現実は違った。
 身体は、ほぼ鳥。顔だけ人には見えたけれど、牙が並んだ凶悪な顔。人面鳥と言った方が、しっくりくる魔物だった。
 人を襲う習性があるというだけあって、獲物である私達を見て、舌舐めずりをする。中々怖い顔だ。

「アオォオオオンッ!!!」

 最初に動いたのは、イサークだ。
 咆哮が強烈すぎて、近くを飛んでいた人面鳥もといハーピィが落ちる。
 落ちたハーピィ達を、イサーク団であるシン達が仕留めた。
 負けていられない。

「ダレン! 行くよ!」
「うん!!」
「防壁!」

 私は階段をイメージをして、防壁を出現させた。
 上空に向かって、薄く白い階段が出来上がる。
 魔力を徐々に防壁にしているのか、ちょっと想像より遅く感じた。
 遠くに防壁を張る時は、素早く張れそうにないな。

「”ーー真空を、切り裂けーー“!」

 上空のハーピィと距離が詰められたダレンは、風の攻撃魔法を発動させた。
 ナイフに風を纏わせて、切り裂くもの。
 一気に三体のハーピィを両断した。

「”ーー燃えろ、火球ーー“!!」

 アメーも、ダレンに当たらないように、さらに上にいるハーピィを狙ってファイアボールを放つ。しかし、それは避けられた。やっぱり、シルバーランクの魔物。黙ってやられているわけではない。
 ダレンの次の攻撃を避け、つむじ風を起こして攻撃を仕掛けた。
 ダレンに逃げ場を作ろうとしたが、間に合わない。

「レウ!!」
「ありがとう!」

 あらかじめ元の姿に戻ってもらったレウに、防壁の足場から落ちたダレンを救ってもらう。なんとか背中でダレンを受け止めたレウも、ハーピィに食らいつく。ダレンもレウに乗ったまま、ハーピィの脳天にナイフを突き立てた。

「“ーー炎よ、いかづちとなり、轟けーー”!!」

 アメーが選んだ今度の魔法は、ファイアボルト。
 ファイアボールよりも素早くハーピィに届き、避ける暇を与えずに命中。黒焦げたハーピィが、何体か落ちた。
 アメーも、中々やる。
 またイサークが咆哮を放ち、ハーピィを落としては、シン達がトドメをさす。
 もうすぐで片付く。
 順調だと、そう思っていたが、それは現れた。

「ちっ!! おいでなすった!!」

 大剣を背負っていたグラディさんが、構える。

「なんで……ここに!?」

 アリーさんが、驚愕をした。
 どしん。巨体の足音が耳に届く。
 青白い馬に似た顔の巨人がいる。絵の通りの姿。
 小山の麓に住処があり、そこを奇襲する予定が大いに狂ってしまった。
 べレスの登場だ。

「ハーピィを先に殲滅するぞ!! シルバー組は後ろへ!!」

 グラディさんの素早い指示に従う。
 近すぎるイサーク団が駆けて離れると、べレスが大きく息を吸い込んだ。お腹が膨らみ、そして赤く光った。その動作が炎を吐くためのものだと理解した私は、イサーク団とすれ違うように駆けた。

「やめろアイナっ!」

 イサークの制止は、間に合わない。

「防壁!」

 詠唱している暇はなかったから、素早く自分の前に防壁を作る。
 マグマのように真っ赤な炎を目の当たりにして、ルヴィンスの言葉を思い出す。火傷は済まない強力な炎を吐くーー。
 熱を感じた。防壁にヒビが割れていく。
 まずい。とっさに張っただけの防壁では破られる。
 イサークが私の腕を掴んだ。引っ張ったところで避けきれない。

「風よ!!!」

 私は咄嗟に風を巻き起こして、イサーク団もろとも自身を吹っ飛ばした。
 防壁がガラスのように割れて消えたのは、その直後だ。
 私達がいた地面に降り注いだ炎は、溶かした。
 本当に火傷では済まない。人間なんて跡形もなく溶かされるほどの熱だ。

「いい判断だ!」

 グラディさんの声が、近い。
 イサークに受け止められた形で振り返れば、いた。
 なんとかイサーク団と私は、一番後方にいたグラディさんとアリーさんの元まで後退出来たようだ。

「問題はアントン達か!」

 グラディさんの視線を追えば、残りのハーピィ達に囲まれているアントンさんとアメー、そしてレウから降りたダレンが、後退出来ずにいた。

「アイナ! 防壁魔法を張り直せ!」
「はい!」
「オレ達でべレスを引き付けるぞ!!」

 そうだ。べレス相手では、アメーとダレンと危なすぎる。
 こっちに来てもらわなくては。
 私がさっきよりもまともな防壁を張ると、アリーさんが呪文を唱える。

「“ーー凍て付かせーー”」

 地面から氷結が走り、べレスの足元を凍らせた。

「うおおっ!!」

 グラディさんが、その氷ごと足を大剣で切り崩そうとするが。
 べレスは近くにあった枯れ木を掴むと、振り回した。
 根元まで引っこ抜かれた枯れ木でも、巨人が持つと凶器だ。
 大剣で防いだが、グラディさんは軽く吹っ飛ばされた。枯れ木は、粉々になる。
 グラディさんが、着地をする。
 自分の息で足の氷を溶かすつもりなのか、べレスがまた大きく息を吸い込んだ。

「吹かせるな!!」

 グラディさんの指示が投げられた。

「“ーー暴風を叩き込めーー”!!」

 アリーさんが拳を突き出すと、まさに暴風の塊が飛んだ。
 それはべレスの顔を強打した。もろ入ったように見えたが、それでも、べレスは炎の息を吐く。
 それはべレス自身の足に向かっていない。
 顔を強打されたせいで、方向が変わってしまったのだ。
 その方向はーーーーハーピィと戦っている最中のダレン達。

「しまった!」
「避けろ!!!」
「っ!」

 ダレン達は、グラディさんの声で、べレスの炎の息に気付いた。
 でもハーピィ達もいて身動きが取れそうにもない。
 私は彼らの前に防壁を作ろうと手を翳した。

 さっき知ったように、魔力がそこまで届かないと防壁が作れない!
 間に合わない!!

 アントンさんが二人を庇って前に出る。
 アメーが防壁を張っているはずだけれど、アントンさんの前にはないはず。最悪、アントンさんが死ぬ。

 いいや! 死なせてたまるか!

 目の前で、誰かを死なせるなんて、真っ平御免だ。戦う以上、いつかは死に目を見るかもしれない。冒険者は誰かの死を見なくてはいけない職業だろう。でも、今じゃない。
 自分勝手上等! 私の目の前で戦死はさせない!!

 間に合え!!!

 私は駆け出した。届くように手を伸ばして。


 
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