心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(前)

 花の金曜日の夜に。 (後半)

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 そして、当日。花の金曜日!
 カラオケでオールナイトすることにワクワク!

 団子にしてまとめた髪をほどけば、くるくるにカールした髪が肩から下りる。
 軽く化粧をして、コロンをつけた。
 仕事着は、ブラウスを着ることが決まっているので、その上に薄手のカーディガンを着て、スラックスのままだけど、仕事用のシューズから、お気に入りのブーティに履き替える。
 ブラウスのボタンをいくつか外して、下に着たフリルのキャミソールが見えるようにした。

 べ、別に……恋人と初めて会うことに、はしゃいでいるわけではない。べ、別に……。

 準備オッケー。数斗さんにもう駐車場にいるというメッセージに、私も今出ますっていうメッセージで返事した。
 廊下を出て、バックヤードから出るために、事務室を横切ると。

『おっ。何、今日、お洒落してんじゃん』
「お疲れ様、古川さん」

 げっ。その声を呑み込んだ私を、誰かに褒めてほしい。
 目の前が、ドアなのにっ……! 悔しい気持ちのまま、しぶしぶ振り返る。

「お疲れ様です」
「めっちゃお洒落じゃん。雰囲気変わっていいね」
「そうですかね。どーも」

 ぺこっと愛想笑いをして会釈をして出ようとしたけれど。

「聞いたよ。イケメンカレシが出来たんだって? おれにも見せてよ」
『どいつだよ。どんだけイケメンか見てやる。相談とかに乗るってことで、おれが寝取ってやる』

 ぞわっと鳥肌が立ちすぎて死にそうになるような心の声を聞いて、オエッとしそうになりながらも、実物を会わせますよ! と言ってやろうかどうか、迷ったのも刹那。

『出入口、ここかな? 関係者以外立ち入り禁止って書いてあるけど、覗くだけならいいか』

 数斗さんの声が後ろから聞こえた。

 実物キター!
 振り返って、ドアを押せば、そこに私が出てきたことに目を見開く数斗さんがいた。

「数斗さんっ。お疲れ様です。ここまで、迎えに来てくれたんですか?」
「うん、お疲れ様。七羽ちゃん。今丁度覗こうと思って」
『恋人になってから初めての再会! 可愛い……やっぱり可愛いな、はぁ、好き。今日はスラックス? あ、仕事着かな』

 ホッとして、数斗さんの腕をギュッと握る。

『こいつがカレシ? クソ、イケメンじゃねぇか……うぜー』
「副店長。見せましたよ」

 うぜーのはそっちだと頭の中で中指を立てて、ちょうど話していたイケメンカレシを見せたことを示す。

「副店長? へぇ? どうも。すみません、恋人を迎えに来ただけでして、お邪魔しました」
「あーいや、大丈夫ですよー。ハハッ」

 数斗さんの目がすぅっと細めらた。そして、私を片腕で抱き寄せる。

「本当にお疲れ様、七羽ちゃん」

 そうグッと引き寄せた私の頭の上に、キスをしたらしい。

『俺の七羽ちゃんを下劣な目で見るな、近付くな、殺すぞ』
『うわ。今睨んだな……牽制された。クソ。嫉妬深いクソイケメンかよ』

 数斗さんの物騒な心の声に、今回は震え上がらなかった。
 こんなドクズ相手ならどうぞ、言うだけならどんどん言ってやって。

 ……もしかして、私、数斗さんの物騒発言、慣れた?

『早く消えろよ、殺すぞ。邪(よこしま)な目で見ているソレ、くり抜いてしまいたい』

 あ、数斗さんの心の声、今までで最高に殺気立ってる。マズい。
 数斗さんを連れて、私がこの場を離れようとしたら。

「副店長、古川さん? あっれ? もしかして、古川さんの噂のイケメンカレシさん?」
「あ! 写真と同じ人だ! ホント、イケメンですね!」
『何? わざわざ迎えに来させたの? パートのくせに、あんなイケメンカレシなんて……あり得ない』

 事務室のそばのドアに突っ立っている私達に声をかけたのは、事務室に揃って入ろうとした精肉部門の主任と副主任だ。

「あ、数斗さんです。男性の方が、主任で、女性の方が、副主任でして、直属の上司ですね」
「俺の恋人がお世話になってます」

 私を片腕で引き寄せたまま、数斗さんは顎を乗せるくらい密着して挨拶。
 恥ずかしいっ。腕の中にいる私は赤くなったであろう顔を俯かせた。

『副主任って……この不倫男の元カノじゃないか……』
「あはは、ラブラブですねー」
『若いっていいな~』
「羨ましいー」
『この男と大違い』
「あ、あのっ! では、失礼します! お疲れ様でした!」

 主任はのほほんと笑い、副主任は副店長をじとりと見る。

 気まずいし恥ずかしいし、私はぺこっとしてから数斗さんの手を引いて、早々とバックヤードから退散した。

「数斗さん、ありがとうございます。ナイスタイミング」
「来てよかったよ、ホント。大丈夫だった?」
「はい。ちょうどイケメンカレシを見せてって言われたところでして……」
「ギュッとさせて」

 胸を撫で下ろすと、数斗さんは私の許可を聞く前に、両腕で軽く抱き締めてくる。

「またちょっかいかけようとしたら、俺に言ってね? すっ飛んでくるから」
『……本当なら、ずっとそばにいて守りたい』
「今ので効果あるといいけど……後日、様子を教えてね」
『結構俺のことが噂になってるみたいだけど、ちゃんとあの男が諦めるかどうか、様子見しないと。七羽ちゃんが転職をするまで、安全を保てるように何か考えないとな』
「はい。わかりました。引き続き、警戒しておきます」

 ……ん? 転職? 考えるとは言ったけれど……もしや、かなり本気でさせようとしている……?
 不倫男一人のために転職って……馴染みのある職場を、変えたくないのになぁ……。

『ん? コロン以外に、匂うけど……なんの匂い?』
「あっ! か、数斗さん! 放してください! 仕事上がりなので、生肉臭いはずです!」
『ああ。生肉か。匂いついちゃうものなんだ』
「仕事を頑張った証でしょ?」
「はーなーしーてー!」

 もがけば、やっと解放されたので、バックからコロンを出して、頭からかぶるようにシュッと一回プッシュ。
 そのコロンを数斗さんが、さりげなく手に取ってしまう。

 コロン、覚えられた……。か、買ったりしませんよね……? 高いわけじゃないけれども、買わなくていいですからね?

「七羽ちゃん」
『七羽ちゃんの匂いだ。甘い。食べちゃいたいな』
「会いたかった」
『会いたかったよ、毎日、ずっと』

 数斗さんからコロンを取り返してバックにしまうと、真っ直ぐに見つめては甘く微笑まれた。

 じゅわりと、また顔が熱くなる自覚をする。

「わ、私も、です……」

 そう返すのが、限界だった。

『嬉しい。大好き。好き。俺の七羽ちゃん』

 数斗さんの優しい声。

 好きな人の心の声は。

 想いで溢れている。



 
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