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○7 悪魔は変装して従者に。
しおりを挟むもっさもさと髪をぐちゃぐちゃにして、目元を隠すゼノヴィス。
しまいにはダサい分厚い眼鏡をかけて、美貌を隠してしまった。
「どう?」
「どうって……」
ニコッと笑いかけて問うゼノヴィスを、じっと観察。
「典型的な変装? に加えて、若干の認識阻害の魔法を私だけ除外してかけてるね?」
「お! 除外されているのにわかるなんて、ディナ、前回に劣らず上達したね」
なでなでされて嬉しいが、どういうことなんだろう。
ゼノヴィスには前回、お忍びで街に繰り出す時も、冒険者業をする時も、魔法で変装をしてくれたし、多少は学んだ。認識阻害の魔法は高度すぎて、私にはまだ無理だけど、かじった程度には見破れる。まぁ、それもゼノヴィスがコツを押してくれたからなんだけども。
「だって、ディナにはオレを認識してほしいんだもん♡」
眼鏡を外して、片手で前髪を掻き上げたゼノヴィスの美貌が露になり、ギュッと心臓がわし掴みにされて胸を押さえた。
「い、いや、その程度なら、なんとなくみんな、ゼノヴィスだって認識するよね……私だって特に」
「うん。影が薄いなって思わせるためだよ。オレ、これから従者になって、ディナについて回るからね」
「? それは前回もやったでしょ?」
もっさり姿からキラキラの美貌を見せたゼノヴィスに大ダメージを喰らった私は、キョトンと首を傾げる。
「ほら、傷心中で散策に出かけたディナは、今失踪中でしょ? オレが助けたことにして、それから職もない孤児のオレを従者にしてもらう。今日から、オレはディナの目立たない従者。とにかく、今はそうしよう。早くおともの元に戻ろうか」
「え? あ、うん」
またもっさもさの前髪を下ろすと、ゼノヴィスは手を引いて、街へ戻る道を進んでくれた。
その道中で、作戦を立てる。
私はひたすら傷心の様子を見せて、ゼノヴィスに助けてもらったと感謝を示して、お礼に従者の職を与える話に持っていく。
捜し回ったおともと合流して、家に帰ったあと、ゼノヴィスのリードでとんとん拍子に従者の話が確定した。
私はひたすら暗雲を漂わせて聞かないでオーラを出して過ごして、家族の追求を避けた。
その夜、ゼノヴィスは私の部屋の暗闇から現れたのだ。
前回と同じ。人がいない隙をついて、ゼノヴィスは部屋に居座るし、なんなら姿を見えなくするだけで居座っていた。
「従者になれたよー」
闇から現れたにしては、陽気な悪魔。
行方をくらましたから、心配してメイドが部屋の外で待機しているから、ゼノヴィスはポッと防音の魔法を展開した。
「お嬢様、末永くお仕えいたします」
「クスクス、くるしゅうない」
跪いて笑いかけて冗談を言うゼノヴィス。嬉しいな。このゼノヴィスが笑わせようと冗談を言ってくれるやり取り。
「それでね、ディナ。……婚約者とは会える?」
「……それはどういう意味?」
じっと金色の瞳で見つめて、探る視線を向けるゼノヴィスに、怪訝に聞き返す。
「まだあのクズ男はヒロインに会ってないだろ? それで婚約解消が納得いかなくて承諾していない状態。でしょ?」
「そうだよ……和解を考えてるの?」
「ううん。ディナを何度も裏切った挙句に、直接自分の手で殺したアイツを絶対に許さない」
恐る恐ると尋ねたら、想像の遥か上の殺意を込めて、眼を鋭くして低く告げたゼノヴィスに、思わず震え上がってしまう。
ゼノヴィスはパッと明るい笑みに戻ると私の隣に座って、頭を撫でて宥めてくれた。
「オレはちゃんと解消させたいけど、納得してもらえないでしょ? 納得してもらえるように、交流の時間を一応設けてもらおうかと思ったんだ。完全に心を閉ざしているって、知らしめたい。そのためには、ディナが苦痛な時間を味わうことになるでしょ? 無理ならいいんだ。アイツに直接殺されたんだから、無理だって言っていい。そこまでしなくても、他の手を考えるよ」
「婚約者同士の交流……。じゃあ、ゼノが進言したから、重い腰を上げたことにしよう。そうすれば、ゼノの信頼度も上がるでしょ」
「……いいの? 本当に大丈夫?」
見逃さまいと、気遣う眼差しが私を覗き込む。
「うん。ただ……二人でお茶会をするにしても、そばにいてくれる?」
ゼノヴィスの手を握り締めて、私は不安げに頼む。
「ディナ……。うん! オレが進言したら、それを条件にしたって説得するよ! オレへの信頼を寄せているアピールも出来るしね。オレも離れる気はなかったよ。そばにいるつもりだった。破綻してても、クズな婚約者と二人になんかしてやれないもん」
ぱぁっと顔を明るくして、ゼノヴィスは最後だけ不貞腐れたように唇を尖らせては、笑って見せた。
そのまま、握った手は、恋人繋ぎにされて、膝の上に置かれる。
「ディナはもう修復不可能だって思わせる態度を貫いてくれればいいよ。目を合わせるのも嫌だろうけれど、それでいい。フォローが出来れば、オレも割って入るからね」
すりすりと手の甲を親指で撫でながら、ゼノヴィスが筋書きを話してくれた。
私が婚約解消を言い出したのは、悪い夢を続けてみたから。
内容は、他の令嬢に心変わりするアレキサンドが自分を捨てる夢。
それはきっとアレキサンドを真に信用していない心理の表れで、私には信じ続けることはもう無理だと考えが至ったということで、婚約解消を言い出した、と。
それをしっかり伝えた上で、婚約解消を願い出る。まぁ、私もゼノヴィスも絶対承諾しないとは思った。
私はアレキサンドを信じる心も想いを失ったけれど、納得いかないなら、最低限の交流だけはします、と言っておく。こちらの譲歩。実際は、誘導だけども。
私との心の距離を思い知らせて、それで婚約解消に承諾してくれればいいが、どうせそれはないと思った。ゼノヴィスもだ。
固執したアレキサンドは、誰かに言われて考えを改めるわけがない。
例え、庭園で設けたお茶会の時間。私が必要最低限の相槌しかしないし、目も合わせず、無心でお菓子を食べて紅茶を啜るだけ。
ご褒美にはゼノヴィスが抱擁でなでなでしてくれるので、私はアフターケアがある。
がしかし、アレキサンドには堪えるものがあるだろう。突然の裏切りだと言われても、私はちゃんと理由を話した。まぁ、悪夢じゃなくて、事実なんだけど、それは置いといて。私の問題として、無理なものは無理だと話した以上、アレキサンドは信頼回復をしないと無理だ。でもどう足掻いても、無理なものは無理。そう思い知らせる。
それでも難儀な男で、婚約解消を認められないのだ。
無理なものは無理。誰が何度もコロッと心変わりして、毒殺した上に、鬼の形相で胸に短剣を突き刺した男を許すものか。
私の心の壁は、分厚い。超・分厚い。
ゼノヴィスのご褒美は、抱擁なでなでだけではなく、なんと冒険者業に連れ出してくれて、楽しい討伐戦を経験させてくれたのだ。
息抜きにはスリリングだけど、前回で慣れた私には楽しい。
前回の情報で、出没する大物の魔物を選んで、バトルをさせてくれた。
ぶっちゃけ、前回倒した人の手柄横取り案件ではあるが、早い者勝ち、許せ!
冒険者業に行く時は、おとももいたけれど、ゼノヴィスが暗示をかけて、カフェで過ごさせた。お茶でも飲んでて、メイドと護衛諸君!
冒険者登録は、前回と同じく、ゼノヴィスが認識阻害の魔法を使うから、私が貴族令嬢だと認識されることなく登録完了。そして、そのまま冒険に繰り出せた。
前回と同じ、楽しかった冒険も経験して、ちょっと楽しそうな手柄をいただいて、楽しんだ。
街へのデートも、同じ感じ。
おともに暗示をかけたあとは、仲良く腕を組んで店を渡り歩いた。
私達と認識されないことをいいことに、パフェをあーんし合ったり。食べ合いは、前回からちょくちょくやっているけれど、もうどう見ても恋人同士のやり取りだった。
でも、不思議なことに、ゼノヴィスはあの日以来、キスをしてきていない。
あの日の濃厚なキスが嘘のようだ。
とはいっても、ちゅっちゅっと頬にキスはしてくる。頻繁にしてくれる愛情表現。
いや、いいんだよ? 私は嫌でも婚約者持ちなのは事実だから、浮気行為がないに越したことはない。
すでにアウトだとは思うけれども。うん。
どう足掻いても、今回は私の方が先に浮気をしている現状なんだけども……。致し方ない。
本当に私はアレキサンドに二度も殺されて、罪悪感は持っていないのだ。
でも前回も前々回も記憶にないアレキサンドにとっては、ただの浮気。周囲にとってもそうで、私が悪なのだ。
うん、悪役令嬢ですな。
これもまたイレギュラーで、先に浮気して有責で婚約破棄されるという形で原作から抜け出してもいい気もするが、私とゼノヴィスの意見は『くっついたヒーローとヒロインへの報復をする』で合致している。
行動パターンはわかっているのだ。またこちらの悪評を流す彼らを、暴き、断罪してやる。
ゼノヴィスの計画には、大いに賛成だ。
問題は、その後。
どうしようか、と悩む。
私はもう家族への薄れ切った。前回も悪評を流されて、他の令嬢を連れ回すアレキサンドと婚約解消したいと言っても首を縦に振ってくれなかった父。さらには、話して来いとまで言って、その先で殺されたのだ。不信感しかない。
ゼノヴィスの予想だと、あの私の殺害のあと、お金で買収した衛兵達と口裏を合わせて、ゼノヴィスを切り捨ててから私の殺害の罪を着せただろうとのこと。あそこには、アレキサンドの味方しかいなかったから、そういう殺害計画だったのだと、私も納得した。
まぁ、世間は私に同情的だったのだから、果たしてその主張が本当に通ったかはわからない。
それでも、アレキサンドは自分とやり直そうとした私に逆上したゼノヴィスが短剣を突き刺したと言い張ればいいと考えただろう。それに、死人に口なし。葬られた私達は反論出来ないのだから、どうなっていたことやら。
まぁ、ゼノヴィスが易々と殺されるわけがなかったので、あの時、私の息さえあれば、即座に斬殺していたと黒い笑顔で言い退けてた。こわ。
正直、ゼノヴィスとは、遠くの国に行く話で盛り上がり、行きたいと思いを馳せている。
ゼノヴィスが遥か昔に訪れたオアシスも見てみたいし、オーロラの湖も見てみたい。
冒険者業もこなしながら、旅をするんだ。ゼノヴィスと一緒に。
それがいいと思っているけれど、まだ確定じゃない。
ゼノヴィスは悔いのないようによく考えて、と言ってくれる。
一度、旅立てば、きっと戻らないだろう。
出来るなら、後腐れなく、断ち切って旅立ちたいよね。それには、どうしたらいいのかな。
楽しい楽しい時間を過ごしたある日の夜。
なんだか寝苦しいと思えば、目を覚ますと、上に跨るゼノヴィスがキスをしてきた。
「ゼノ……?」
「起こしちゃったね、ごめん」
謝るけれど申し訳なさそうには聞こえない明るい声で、ちゅっと唇に吸い付くゼノヴィス。
「んん? どうして、キス……? 急に……」
「だってもうあいつら出会ったから、浮気してるじゃん。だからもういいでしょ?」
なんだ。アレキサンドとミンティーが浮気を始めるまで、一応待っていたのか。
あの二人は目が合うなり惹かれ合っては、磁石のように引っ付き合うんだもんね。
ゼノヴィスのことだ。しっかり使い魔で確認したのだろう。
「だから……んぅ~」
あっちが浮気しているからこっちもする、という話ではないと苦言を伝えたかったが、寝起きもあるし、唇を塞がれてしまい、私は言うことを諦めた。
ちゅう、くちゅ、と唇に吸い付いて、弄ぶように食むゼノヴィスのキスを受け入れる。
「……夢でも見てた?」
「んぅ? んー……覚えてない……そうかも?」
「そう。じゃあこれからオレの夢見て?」
「んー。なら、寝かせて」
クスクスと笑ってしまい、私はごろんと寝返りを打つ。眠い。
ゼノヴィスはそのまま、かけ布団越しに抱き締めて隣に横たわった。
安心して、私は眠りに落ちた。
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