【R18】死に戻り悪役令嬢は悪魔と遊ぶ

三月べに

文字の大きさ
8 / 18

●8 愛しい人が見る悪夢は。(ゼノ視点)

しおりを挟む


 愛しい人が悪夢に魘されていることを知っている。


 あいつらへの報復をする計画のために、オレは変装をしてディナの従者に収まった。

 侯爵令息のアレキサンドが、のうのうとディナと婚約者の交流を続けるのは、はらわた煮え滾るが、いくら愛想よく笑いかけても興味が引けるはずの話題を振っても、全く心に響かない惨めな思いを味わせられるのは、胸がすく思いだ。
 頑張ったご褒美にディナの頭を撫でると嬉しそうに笑みを零すから、堪らず何度も頬にキスをした。


 可愛い、可愛い。オレの愛しい人、可愛い。


 あんな婚約者には無表情を貫いて、気のない相槌しか打たないのに。
 オレには、こんなにも可愛い顔を見せてくれるんだ。


 愉悦にゾクゾクした。堪らない。

 ディナが想っているのはお前なんかじゃない、オレだ。
 優越感で傍観すれば、婚約者の交流のお茶会も乗り越えられた。


 前回、仕入れていた情報で、記憶していた珍しい魔物の討伐に、ディナを連れて行けば喜んだ。
 ディナを喜ばせるのも、お前なんかじゃない。オレなんだ。
 デートをして、デザートを食べさせ合う甘い空気になるのは、破綻した婚約関係のお前なんかじゃない。オレなんだよ。


 いくらでも自尊心をいたぶってやる。
 オレのディナに短剣を突き刺して殺したお前を、絶対に許しはしないのだから。

 今まで順調に交流していい関係を築けたはずの相手に突き放されて、困惑しろ。戸惑え。混乱して悩め。

 ディナも、本当に悪夢に魘されて苦しんでいるのだから……。


 ディナが悪夢に魘されていると気付いたのは、からだ。
 繰り返される死に戻りの経験は、確実にディナの心を蝕んでいる。

 いくら気晴らしに冒険やデートに連れ出しても、楽しい時間が続けば続くほど、寝静まった夜は魘されているのだ。
 まるで、気が緩んだところを責め立てるように、悪夢はディナを襲う。
 忘れさせまいと、殺される夢を見せる。

 だから、オレは夜になると寝ているディナを確認していた。
 魘されていれば、額を重ねて、悪夢を吸い取る。
 記憶も吸い取る魔法は使えるが、後遺症が残る魔法だ。
 しばらく意識がぼんやりしてしまったり、関係ない記憶まであやふやになってしまったり。
 死に戻りという特殊な記憶を取り除いでどう作用するか、オレにもわからないから、迂闊なことはしなかった。
 だからせめて、悪夢の記憶だけは取り除く。


 死に戻りの運命は、一体、ディナをどうしたいのだろうか。

 ディナは繰り返し殺される運命を課せられる罪を犯した覚えがないという。オレもそんなわけがないと思う。
 ディナが悪いわけではない。絶対。


 不運にも、運命の悪戯に嵌ってしまっただけ。

 その不運から救い出して見せるよ……ディナ。


 ディナが見る悪夢は、あのヒロインに嵌められて孤立させられて護衛に切り捨てられる光景。
 毒の紅茶に倒れて息が出来ないまま死ぬ光景。
 悍ましい恨みの顔で短剣を突き刺す婚約者の光景。
 繰り返される死の恐怖の悪夢。

 その夜。
 ディナの悪夢には、オレがいた。
 短剣が胸に突き刺さったディナを抱えて泣くだけのオレ。
 オレに対しての申し訳ない気持ちが伝わった。
 それから、死に戻って、独りぼっちのディナが、オレと会わないことを選ぶ光景。
 枕を抱き締めて一人震えるディナを、今更責められない。
 一緒に胸が締め付けられる苦しみを味わった。

 オレがいないだけで、こんなにも苦しい思いをするんだね。
 大丈夫。それは悪夢だよ、ディナ。オレが取り除いてあげる。


 悪夢を額から奪い去ったあと、目を開けば、スヤスヤ眠っている愛しい人の寝顔。
 ぷるんとした唇に、自分の唇を重ねた。その柔らかさを味わうように、吸ってはむ。

 やがて、ディナが目覚めた。
 印象がキツイと思われがちな猫目は、可愛い。
 ぽやーと見上げてくるなら、なおさらだ。

「ゼノ……?」

 甘い声で、オレを呼ぶ。
 寝込みを襲われているというのに、無警戒で無防備なディナは怯えも怒りもしない。
 それほどにも、オレを心で許してくれていることに上機嫌になった。
 可愛い。可愛い人。

 今日は添い寝しようか。
 ディナを抱き締める形で、隣に横たわった。


 婚約者持ちだからって、浮気だと気にしていたディナのために我慢していたけれど、もういいよね。

 あっちは原作通り、出会った。ディナ曰く、原作では互いに一目惚れ。
 一回目は、よりよい関係を築いていたにも関わらず、クズ婚約者はヒロインに傾倒した。
 二回目も、三回目も。
 クズ婚約者を篭絡する方法を知っているヒロインは、四回目も同じく、恋とやらに落とした。

 すりすりと柔らかい白銀髪に顔を埋めてすり寄せる。
 いい香り。シャンプーの残り香と香油が、馴染んだ匂いだ。甘い。


 今のうちに楽しむがいい、とほくそ笑む。
 幸せだと上り詰めているところを、突き落としてやるから。
 たっぷり浸れる絶望は、用意しておいてやるよ。


 ディナのため。


 ディナの白い首筋に、痕をつけないようにちゅっと口付けを落とすと、くすぐったそうに身を捩った。
 そんな愛しい人を両腕に包み込んで、一緒に眠った。
 心地いい眠りに浸れたのは、きっとオレの方だ。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...