マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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05 もふもふ。

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 もふもふが、セクハラをしてくる。
 私はそう思ってしまった。
 平均よりちょっと背の低い私の背中に、さっきからもふもふと尻尾が当たっている。言わずともわかる通り、狼くんと白銀くんの尻尾だ。今日はやけに揺れる揺れる揺れる。
 嬉しいことでもあったのですか?
 犬は嬉しいと尻尾を激しく振るとは聞くけど、それと同じなのだろうか。
 そもそも触れてしまっているこの状況をどうしたらいいのだ。
 獣耳と尻尾を持つ狼くんと白銀くんに挟まれて、もふもふをぶつけられてしまっている。
 触れられる=視えているという方程式がぁああ!

「どうかしましたか? 俯いてしまっていますが」

 にこりと眩しいくらいに綺麗な微笑みを向けてくる狼くん。言いながら、スススッと背中をなぞってきた。
 気付いているのか? 気付いているのか? 気付いているのか!?

「ちょっと背中がかゆいというか、なんというか……」

 もふもふが当たっているなんて言えない。
 ここは「なんか感じる」程度の反応を示す。

「え? かゆい? どこどこ?」

 そう問いながら、バシバシっと白銀くんはその名前と同じ白銀のもふもふを強めに叩き付けてきた。

「な、なんか、重い気がする!」

 もふもふに叩けれてよろけてしまいそうになる日がこようとは。
 もふもふは好きだ。そもそも動物が好きだ。うん、好き。
 もふもふで叩かれるなんて、むしろご褒美だと思う。
 想像してみようか。猫の尻尾でビンタされる。
 ご褒美でしょ?
 しかし似たような状況でも、これはまずいと感じる。
 きっと昨日の件で、触れられると気付き、確認しているのだろう。
 私が視えているかどうか。
 ここまでされて黙っているべきか。もうキレてセクハラで訴えてやるべきか。悶々と悩んでしまっていれば、またもや後ろからみやちゃんが抱きついてきた。

「もうやめて!」

 どうやら、みやちゃんにもそれは視えているようだ。

「もうやめてって、何が?」

 私はとぼけてみた。

「なーにやってるんだ? お前達」

 そこで声をかけてきたのは、学校の門の前に立つ生徒指導の先生。
 茶色い髪を束ねて、少し無精髭があるハンサムな先生の名前は、神宮。下の名前は忘れた。何故か、呆れたご様子。

「神宮先生、おはようございます」
「おはようー神宮先生」
「おはようございます! 神宮先生」

 彼ら三人はニッコリと笑みで挨拶をした。
「おはようございます」と私もあとから挨拶をする。

「おはよう。お前達……あまり安倍を困らせるんじゃない」

 そう叱ってくれるけれど、何のことを言っているのだろうか。
 私が首を傾げていると。

「あ、いやぁ……ほら、狼も和真もモテるだろう? 囲っていたら、女子の嫉妬の的になるかもしれないぞって話だ」

 神宮先生はそう言った。言われてみれば、ちらほらいる生徒達の視線が集まっている。この獣耳を持つ美少年二人に挟まれているせいか。もちろん、耳が視えているのは私だけだけれども。
 そう言えば、耳が人間の耳と合わせて四つになっているのだけれど、両方とも機能しているのだろうか。そんなどうでもいいようで、気になる疑問が過った。

「大丈夫! あたしが守るもん!」

 ボンと自分の胸を叩いて見せるみやちゃんの頭に、神宮先生の軽いチョップが落とされる。

「お前は学ランを着ろ。担任の先生から毎日苦情がきてるぞ」
「ええー! いたーい体罰ぅ! 小紅芽ちゃん、言ってやってよ!」
「先生。規則に明記しない限り、規則違反は見なされず強制は出来ませんよ。生徒手帳に記載された規則によれば、指定した制服を着るべきと書いていても、男子生徒は学ランを着るべきとは書いていませんから」
「んー……」

 頭を押さえるみやちゃんに助けを求められたから、私が言えば、神宮先生は困って唸った。
 そんな神宮先生はどこかどう見ても人間にしか視えなかったが、気配が普通の人と違うように感じられる。なんだろう。今まで気付かなかった。

「常識の問題だろ。可愛い格好がしたいなら、学校じゃない時に着ろよ」
「セーラー服可愛いもん! 絶対に譲らない!」

 神宮先生が弱弱しく言えば、腕を組んでみやちゃんは断固拒否を示す。

「では失礼します」
「ん? ちょっと待って、安倍」

 軽く頭を下げて、三人と校舎に向かおうとしたら、肩を掴まれて止められた。

「……お前、霊感あるとか言われたことないか?」
「……言われたことないですけれど」

 内心驚いたが、私は嘘をつかずに答える。
 生まれてこの方、言われたことはない。

「そうか……いや、変な先生だとは思わないでくれよ。ちょっと気になっただけだ」
「はぁ……では」

 普通は変な先生だと思ってしまう。
 また軽く頭を下げて、今度こそ校舎に向かった。

「神宮先生には霊感があるようですね」

 下駄箱で靴を履き替えながら、狼くんがフォローするように言う。
 ということは、彼は狼くんと白銀くんの尻尾攻撃が視えていたのか?
 だから困らせるなと釘をさしたのかもしれない。
 私以外に視える人に会ったのは初めて!
 相談してみようかな。なんて考えが行き着いたけれど、もしも人間に視えて実は人ではないものだったというあり得なくもない可能性が浮上してきたものだから、迂闊に話せない。ただでさえ、この学校には人間ではない者が多いのだ。
 それに今まで一人で抱えてきた秘密を、打ち明けることは、酷くハードルが高く感じられた。

「小紅芽ちゃんはどうなの? 霊感とか、信じるタイプなの?」

 上履きをコンコンと叩くようにして履いた白銀くんも、私を下の名前で呼んだ。狼くんと同じ理由で、みやちゃんにつられたのだろう。

「……山勘なら、よく当てる」
「まーじーで? いいな、それ! 霊感あるんじゃない?」

 テストで山勘が当たることは多々ある。
 ケタケタと白銀くんは笑った。

「単に勉強の賜物ではないのですか?」
「ああ、いや、問題の範囲を絞って勉強すると、そこが的中することが多い」
「おや、山勘ですね」
「じゃあ勉強会しようよ! 小紅芽ちゃんの山勘という強い味方をつけて、テストに挑もう!」

 もうすぐ中間試験。勉強会を提案してきたみやちゃんだけれども、私は断りたかった。

「さんせーい」
「図書室で行いましょうか」

 白銀くんも狼くんも賛成。多数決で負けだ。
 まぁいいか。ちょっと霊感がある程度と誤魔化せたみたいだし、またもふもふ攻撃を仕掛けてはこないだろう。それならいいや。

「せっかくだから、小紅芽ちゃんの家で勉強会したいな!」
「それはだめ。絶対にだめ。だめ」
「三回言いましたね」
「小紅芽ちゃん、二回まで言ったら三回目も言わずにいられないんだって」

 私の家を知られたくないのもあるし、何より私の部屋は霊力で満ちているかもしれない。ちょっと霊感があるくらいと誤魔化せたのに、台無しになってしまうかもしれないから、却下だ。

「まぁ、女子の家にいきなりお邪魔するのは悪いですから、図書室で静かに勉強をしましょう」

 そう狼くんが決定させた。
 人ではない三人と勉強会だ。


 
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