マカイ学校の妖達と私。

三月べに

文字の大きさ
6 / 29

06 勉強会。

しおりを挟む



「それでは第一回、勉強会を始めます! イエイ!」

 みやちゃんが声を潜めるのは、ここが図書室だからだ。
 授業を済ませた放課後、約束通り図書室に集合して、四人固まってテーブルについて勉強会を始める。私の右にみやちゃんが座り、向かいには白銀くん。その左隣に狼くん。

「山勘頼りにしてるぜ、小紅芽ちゃん」
「頼りにしていると言われても、半分は中学の予習みたいなものだから必要ないのでは?」
「そうですよ。あまり小紅芽さんに負担をかけてはいけません」
「首席はいいよな、余裕で」
「え? 狼くん、首席だったの?」
「おや、見ていませんか? 俺、新入生代表で入学式に出ていたのですが」

 高校受験の首席だったようだ。
 ちょうど目眩を覚えて、転校したいと呟いている時にでも出ていたのだろう。
「ぼんやりしてて見てなかった……」と白状した。

「そういう小紅芽ちゃんの学力はどれくらいなの? 俺、首席と張り合うくらいは学力高いって自負してる」
「私は……平均より上の点数が取れるくらいだと思う」
「あたし、二十位くらいに入ればいいかなぁー」

 ちょっとレベルは高いみたいだ。
 負けていられないな、と気合いを入れて勉強をした。

「数学、この辺り出そう」
「よし。小紅芽ちゃんの山勘頼りに一位獲ってやる」
「……外れても責任取らないからね?」
「そこはパフェでもおごってよ、小紅芽ちゃん」

 同じく気合いを入れている白銀くんに、一応言っておく。
 嫌だよ。責任持たない。

「パフェと言えば、駅ビルの中の食堂に巨大パフェあるよね! ねぇ、四人で食べに行かない? 打ち上げでさ」

 数学の教科書を開くみやちゃんが提案した。
 そういえば、写真撮影付きで巨大パフェを提供していると、友だちが言っていたな。

「四人で食べ切れるでしょうか?」

 スラスラと問題を解きながら、狼くんは疑問を漏らす。

「四人はつらいんじゃないかな。男子ふた……いや三人いても」

 危うくみやちゃんが男の子だと忘れかけてしまった。

「六人で挑めばちょうどいい感じでしょうか?」
「いや! 別腹ってあるし、四人でもいけるよ!」
「私、そんなにいけないよ?」

 パフェは普通サイズで十分だ。
 無理して食べるのは気が進まない。

「行こうよ、巨大パフェ!」
「やめておきましょう」

 私は断る。右隣でみやちゃんは膨れっ面をした。

「ではこうしましょう。雅の順位が、小紅芽さんを上回ったら、行くということで」
「さんせーい! 頑張っちゃう!」
「ええ……」

 にこりと柔和な表情で考えを出した狼くんに、みやちゃんは声を上げる。
 他にも勉強をしていたり、読書をしていた生徒の注目を浴びてしまったから、みやちゃんは「ごめんないさい」と謝った。
 でも上機嫌そうに勉強に戻った姿を見ると、自信があるらしい。
 負けてはいられないと、私も集中をすることにした。
 下校時刻の前に切り上げて、支度をする。
 下校時刻の放送が鳴ったとほぼ同時に、校門を抜けた。

「小紅芽ちゃんの家って近いんでしょ? 送っていくよ!」
「駅より離れてるから、いいよ。三人とも電車でしょ?」
「いいのいいの。勉強会に誘ったのは俺達だしね」

 駅から十分弱だけれども、家まで送らなくてもいい。
 そう断りたかったのに、三人はついてきた。
 結局、話をしながら、私の家まで行く。

「……結界……」
「え?」
「いえ、なんでもありません」

 一軒家の私の家を見上げて、狼くんは確かにそう呟いた。
 にこりと微笑みで誤魔化される。
 でも、しっかりと聞いた。結界、と。
 みやちゃんも白銀くんも、そわそわしている。

「ではまた明日」
「じゃあね、小紅芽ちゃん」
「バイバイー」

 手を振り、来た道を引き返そうとする三人は、やはり私の家を気にしていた。
 お守り効果で、人ではないものが入れない結界が張られているということなのだろうか。
 だから寝ている時に襲われたりしないのか。
 なんて愛おしい我が家なのだろう!

「ただいま!」

 私は元気よく家に帰った。
 その直後のことだ。

「げ……ノート、忘れた……」

 数学のノートがいくら探しても鞄の中にない。
 考えられるのは一つ。忘れたのだ。ノートに足が生えて去ったわけではないだろう。
 そういえば、一度椅子の上に置いてからまとめて革鞄の中にしまった。その際に落としたのかもしれない。
 明日までの課題があるので、取りに行くしかないが、問題は開いているかどうかだ。

「お母さん、忘れ物したから取りに行ってきます」
「はーい、気を付けてねー」

 開いていますように、と祈って私は結界のある家を飛び出した。
 正直、この時間帯に出歩きたくはない。何故なら夕方から夜にかけてが、一番お化けを見てしまう確率が高いのだ。
 目が合いませんように、と丸眼鏡をクイッと上げては走った。
 もう十八時を過ぎていたから、空は赤みがさした暗い空になっている。

「ラッキー!」

 校門は開いていたので、中に入った。
 あとは職員室に行って、事情を話して図書室を開けさせてもらうだけだ。
 そう思ったのに、足を止める羽目となる。
 校門から昇降口までの広間、前庭には今まで見たことがないほど大きな大きなものだった。
 そして何よりもーーーー美しいと思ってしまう。
 それは水色かかった白銀の羽毛に覆われていた。
 長い身体は、蛇のよう。でも比べ物にならないほど大きい。
 鳥のような翼を羽ばたかせながら、蠢くそれはきっと妖(あやかし)と呼ばれるもの。
 顔はそう、まるで龍を連想させるそれだった。
 どうやらその妖は、怪我を負っているみたいで、唸りながら身体をくねらせる。血らしきものがところどころ白銀の羽に滲んでいた。怪我をしている妖を見ても、私にはどうすることも出来ない。
 だから放心して立ち尽くしていたら、その妖が急に激しく動いた。
 蛇のような尻尾が、私の方に飛んできて直撃する。
 軽く飛ばされた私は、地面に転がった。

「いた、いっ……」

 痛すぎる。気が遠くなりかけたけれど、必死に掴む。
 気を失ったら、だめだ。抑えている霊力がただ漏れになってしまう。
 そうなれば、この目の前の妖だけではなく、他のものにも集中的に狙われてしまう。軋む身体を無理矢理起こそうとしたら、またもや鼻息を荒くした妖が激しく動いた。

「小紅芽ちゃん!?」

 その声は、みやちゃんのもの。
 でも私の目に映ったのは、赤い尻尾だった。
 狼くんが私の目の前に現れ、妖の尻尾を受け止めたのだ。

「どうしたの!? 小紅芽ちゃん、こんなところに倒れて!」

 次に目に映るのは、角を生やしたみやちゃん。
 どうしたもこうしたもない。巨大な妖に吹っ飛ばされたのだ。
 そんなこと答えられない。私は視えていない設定だ。

「な、なにかに、ぶつかって……」
「保健室に行こう? 肩貸すよ」
「ありがとう」

 私は巨大な妖を見ないようにして、みやちゃんに肩を借りた。

「でもなんで……」

 あの妖が唸る声が響く。

「みやちゃん達がいるの?」
「あ、あたしが忘れ物したからだよ!」

 嘘だろう。声が上擦っている。

「私も図書室に忘れ物したの……」
「そっか! 狼くん、和真、ちょっと代わりに見てきてくれない?」
「オッケー!」

 どうやら、白銀くんもいるようだ。
 前庭が騒がしいけれど、私は決して振り返らなかった。
 一階の保健室に入ると。

「美雪ちゃん! 手当てをお願いします」
「あらあら、どうしたの」

 棒付き飴を食べている養護教諭の村田美雪(むらたみゆき)先生がいた。
 水色の髪は波打っていて、それを雪の結晶模様のシュシュで束ねている美女な先生だ。
 美雪ちゃんという愛称で通っている。

「えっとなんと言いますか……転びました」
「擦りむいているわね。ベッドに座って、消毒するわ」

 村田先生とみやちゃんは、意味深に視線を交じり合わせた。
 すぐに手当てをしてもらう。村田先生の手は異常なくらい冷たかった。氷みたい。それに人間ではない気配も感じた。
 まさかこの先生も、人ではない?
 右の掌と右膝を消毒して、絆創膏を貼ってもらった。

「これでよし。飴いる?」
「いただきます」
「気を付けるのよ」

 白衣のポケットから取り出された飴を受け取れば、ポンポンと頭の上に冷たい手が弾んだ。優しい先生ではあるのだけれどね。
 何故こんなにも人外の者が集まる学校なのだろうか。
 よくよく気を配ってみれば、学校全体が異様な気配がいつもより深まっていた。夜になると、妖が多く視えることと関係があるのだろうか。

「数学のノート。落ちてたぜ、小紅芽ちゃん」

 私が棒付き飴をくわえていると、保健室に白銀くんと狼くんがきた。私のノートを持ってきて。不思議なくらい早いな。
 何をしていたのか、二人とも顔や手に血がついていた。それは多分あの妖のものだろう。視えていない、視えていない、視えていない定。

「ありがとう」
「また送りますよ」
「え? いいよ」
「だーめ! 怪我したんだから、転ばないように見張る!」

 二度も送られるなんて、ごめんだと言おうとしたけれど、みやちゃんに先回りされた。
 また巨大な妖と遭遇してしまった時のことを考えると、守ってくれた狼くん達といた方いいのかもしれない。
 私は間抜けなことに、二回目の送りをしてもらった。
 幸い何事も起きなくて、無事安息の地の家に到着。


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...