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日常編⑬

第338話、ミュアちゃんと竜騎士たち

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 ミュアは、一人で村を散歩していた。
 マンドレイクとアルラウネはシロの元で日光浴。ライラは仕事。ルミナは図書館で勉強。他の遊べそうな子供たちも仕事をしている。
 今日は仕事が休み。他の仕事をしている子の邪魔はできないし、アシュトも今日は忙しそうに薬院で働いている。勉強するのは嫌だし、やることもないので村を散歩しているのである。

「にゃんにゃんにゃにゃ~ん♪」

 だが、散歩は気持ちいい。
 どこか広く高い場所で昼寝でもしようかと考えた。
 たまにはあまり行かない場所でも。いつもは行かない場所というと……一つだけあった。
 ミュアは、のんびり歩きながらそこへ向かう。
 到着したのは、村の外れにある広場。そして大きな建物が二つある場所だった。そして、見知った顔がいる。

「あれ、ミュアじゃない」
「にゃう。シェリー、遊びにきたー」
「遊びにって……ここ、竜騎士の宿舎と訓練場よ?」
「にゃあ。今日は一人だし、いつもと違うところにいくの」
「なるほどね」

 訓練場となっている広場では、大勢の竜騎士たちが訓練している。空を見上げるとドラゴンに乗った騎士が連携訓練をしているのも見えた。
 ミュアは、家事手伝いという自分の仕事とは違う世界に目を光らせる。

「すごーい!」
「ふふ、よかったら見学していく? せっかくだしお昼も食べて行きなさいよ」
「いいのー?」
「ええ」

 シェリーはミュアの頭を撫でる。
 すると、その様子を見ていたランスローが近づいてきた。

「やぁ、銀猫のお嬢さん。見学希望かな?」
「にゃうー。ここ、おもしろいー」
「ははは。ではシェリー、今日はこの子に付いて我ら竜騎士の仕事を見学させてあげなさい。宿舎と厩舎も自由に見せて構わないよ」
「はい。わかりました」
「にゃあ。ありがとー!」

 シェリーはアシュトの妻という立場だが、竜騎士内の序列は新人隊員だ。シェリーの希望で特別扱いはしないと決められている……が、竜騎士団内では姫のように扱われている。
 シェリーは、ミュアと手を繋ぐ。

「じゃ、まずは訓練の見学しよっか。行くわよ」
「にゃあ!」

 二人は、騎士の訓練場へ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 訓練場では、騎士たちが模擬戦を繰り広げていた。
 模擬戦を監督しているのは騎士のゴーヴァン。シェリーとミュアを見て優しく微笑む。

「見学ですかな? 銀猫のお嬢さん」
「にゃあ。おもしろそうだから来たのー」
「そうですか。ではゆっくりとご覧ください」
「にゃう」
「ミュア、こんな言い方はアレだけど、女の子のあんたが騎士を見て面白いの?」
「うん! わたしもやってみたいー」
「よしよし。じゃああたしが相手してあげよっか」
「にゃう! いいの?」
「もちろん、遊びだけどね」

 シェリーはゴーヴァンをチラリと見る。するとゴーヴァンは優しく頷いた。
 木剣をミュアに渡し、シェリーも木剣を持つ。

「さ、いらっしゃい」
「にゃうーっ」

 追いかけっこやお昼寝、木の実集めやアスレチックで身体を動かすことは大好きだが、チャンバラごっこは初めてのミュア。楽しいのか木剣をブンブン振り回していた。
 訓練中の竜騎士たちも、微笑ましい光景にほんわかした気持ちになる。
 そして、ミュアが木剣をシェリーに向けて振る。

「にゃおーっ!」
「あはは。かわい────」

 バギン!!……と、シェリーが受けた木剣が砕け散った。
 
「あれ? 折れちゃったー」
「…………」

 途端に青くなるシェリー。
 騎士の厳しい打ち合いにも耐えられるようにと、ドワーフに依頼して作った木剣だ。硬い樹を加工し、折れないように鉄の芯を入れて油でコーティングしてある。竜騎士団がこの村に来てから作った物で、未だに一つも折れたことがない木剣が……たったの一撃で折れたのである。

「にゃう。もう一回やるー」
「そ、そうね。ちょ、ちょーっと本気出そうかな?」

 折れた木剣を捨て、新しい木剣を掴む。
 いつの間にか、竜騎士たちの動きが止まっていた。

「さ、さぁミュア!! かかってきなさい!!」
「にゃぉぉ!! なんかシェリーかっこいい!!」

 シェリーは剣を構え気を引き締める。
 今更だが気付いた。ミュアは小さくても銀猫族。身体能力だけなら竜騎士より遥かに優れている種族なのだ。
 銀猫族は、村の家事担当だが戦闘能力は非常に高い。シルメリアのひと睨みだけでドラゴンが震えあがったこともあるのだ。
 おふざけとはいえ、ミュアの一撃を喰らったら骨が砕けるかもしれない。

「いくぞシェリーっ!! にゃぁぁぁーーーっ!!」

 ドン!! と、ミュアのいた地面が爆ぜた。
 ギョッとするシェリーは横っ飛び。ミュアが振り下ろした剣が地面を抉り爆発したような衝撃が大地を揺らす。
 いつの間にか、シェリーは汗だくだった。

「にゃはは!! たのしいーっ」
「あ、あはは。ちょ、待った。ミュア、待って」
「にゃう?」
「ちょっとあたし、調子悪い……その、チャンバラごっこは止めましょう」
「えー」
「そ、そうね……あ、ドラゴンの厩舎に行きましょう!! ね?」
「わかったー」

 木剣をポイっと投げ、シェリーにじゃれつくミュア。
 シェリーはミュアの頭とネコミミを撫で、二人はドラゴン厩舎へ。

「…………銀猫族、恐るべし」
「…………あ、ああ」

 ゴーヴァンは顔を強張らせ、いつの間にかいたランスローも冷や汗を流していた。
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