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ドワーフの穴倉
第347話、穴倉の飲食店
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ドワーフの穴倉にある飲食店街。
半円形の空間で、円を描くように飲食店が並んでいる。家を建てるのではなく、壁を掘ってその穴の中を店にしているようだ。中心の広場には椅子やテーブルがたくさん並び、いろんな人が酒盛りしていた。
よく見ると、お客はドワーフだけじゃない。ブラックモール族やリザード族、オーガ族など多種多様な種族が集まっていた。みんな職人なのかガタイがいい人ばかり。あと女性が全くいない。
俺、シェリー、エイラちゃんの三人は飲食店街を歩く。
「腹減った……のど乾いた」
「お兄ちゃん……お水くらいもらえないかな?」
「どうだろう……」
俺たち、金を持っていない。
というか、通貨があるのかな。どっちにしろ手ぶらの俺たちじゃ何も買えん。
「くーださーいな!」
「おう嬢ちゃん。何がいい?」
「のどがかわいたのー」
「そうかい。じゃあキラービーのハチミツとシビレモンの果実水だ。うめぇから飲んでみな」
「ありがとー!」
いつの間にか、エイラちゃんが露店にいた。
ドワーフのおじさんから葉っぱで作ったようなカップを受け取り、黄色い果実水をゴクゴク飲んでいる。
俺とシェリーは仰天して露店へ。
「す、すみません! 俺たちお金持ってないんです!」
「おいしーの!」
「え、エイラ! ああもう、ごめんなさい!」
俺とシェリーが頭を下げると、ドワーフのおじさんはガハハと笑った。
「ガハハ! 金なんざもらわねぇよ。つーか、穴倉での飲食はどこも無料だ。肉も酒も大地の恵み、この世界に生きる者に平等に与えられるってもんだ」
「「え……」」
「ほれ、兄ちゃんと姉ちゃんも飲みな。美味いぜ!」
「「あ、ありがとうございます……」」
まさかの無料……マジで?
俺とシェリーは顔を見合わせ、露店のおじさんにお礼を言い、近くのベンチに三人で座った。
とりあえず、喉も乾いたし果実水を飲んでみる。
「う、うまっ……レモンみたいな酸味とハチミツっぽい甘さが混ざってなんともいえない美味さ」
「確かに、美味しい……」
「おいしー!」
でも、ちょっと……いや、けっこう温い。
シェリーも同じことを考えたのか、杖を取り出して俺たちのカップを軽く叩く。すると果実水が冷やされ、とても飲みやすく美味しくなった。
「ん~美味しい♪ やっぱこうじゃないとね!」
「ああ、ありがとなシェリー」
「つめたーい! おいしいの!」
ようやく落ち着いた。
俺は果実水を飲みながらシェリーに言う。
「なぁ、ドワーフのおじさん……タダって言ったよな」
「うん。あ、見て」
シェリーが指差した方を見ると、露店で肉串を受け取ったドワーフが、支払いをせずにその場を離れる。
顔見知りだから無料……ってわけでもなさそうだ。
「マジで無料っぽいな」
「うん……すごいよね」
「どうやって利益出してると思う?」
「さぁ……」
暑いせいか、思考力が落ちている。
果実水を飲み干したエイラちゃんが、俺の腕を引っ張った。
「おにーたん、おなかすいたのー」
「腹……うん、確かに。俺も腹減った」
「あたしも……ねぇお兄ちゃん、タダみたいだし何か食べない?」
「……そうだな。長に会う前に腹ごしらえだ。それに、この辺りの人たちに聞けば、ドワーフの長がどこにいるか聞けるかも」
「ごはんー!」
せっかくだ。ドワーフの穴倉料理を堪能しようじゃないか。
◇◇◇◇◇◇
最初に向かったのは、ノレンがかけられている壁のお店。ノレンには『穴モグラの丸焼き』って書いてある。
お店の中は明るく、石を削って作られた椅子やテーブルがいっぱい並んでいた。
テーブルの上には熱した石のプレートが中央にあり、その上に皮を剥いだ大きなモグラが丸焼きになっていた……内臓は抜かれているようだし、下処理も完璧なんだろうけど、ちょっとグロイ。
驚いたことに、ブラックモール族の集団がモグラを食べていた……。
「おうらっしゃい!! 三人だな、空いてる席に座れや!!」
「は、はい」
店主らしきドワーフが大声で叫ぶので驚いた。
とりあえず入口近くに座ると、店員らしき……お、女性のドワーフだ。が、石板の下にある油の塊に火を付ける。そして俺とシェリーにはちょっと温いエール、エイラちゃんには水が出され、すぐに穴モグラが石板の上に置かれた。まだ何も言ってないんだが……まぁいいや。
「メニュー表もないし、穴モグラの丸焼きしかないみたい」
「見た目はともかく美味そうな匂い……あと暑い」
俺とシェリーは上着を脱ぐ。
シェリーにエールと水を冷やしてもらい乾杯。穴モグラが焼けるまで待つ。
すると、ジュージューと音がし始め、脂が石板を濡らしていく。
「お、お兄ちゃん……めっちゃ美味しそう」
「あ、ああ……暑いけど、この暑さと匂いがたまらん」
「おいしそーなの!」
どうやって食べるのか周囲を観察すると、素手で足を千切って食べていた。
テーブルには皿もナイフもフォークもない。とりあえず足を千切ってエイラちゃんに渡し、俺とシェリーも穴モグラの前足と後ろ足を千切る。
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす」
「いただきますなの!」
塩味もなにもないが……あっさり淡白でおいしい。
鳥肉を食べてるみたいだけど脂がすごい。これはエールが進む。
手がベトベトになるのは仕方ないけど美味い。俺たちは夢中で食べ……頭の部分は食べる勇気がなかったが、エイラちゃんが骨ごとバリバリ食べてた。
穴モグラ完食……脂が多かったおかげでお腹いっぱいになった。
「いやー……満足」
「お肉だけってのもいいかも」
「おいしかったのー……けぷ」
お腹いっぱいで満足だ。
こんな美味しいのが無料とは素晴らしい。
「あ、そうだ」
俺は店員さんの女性ドワーフに聞いてみた。
「あのー、このドワーフの穴倉の長に会いたいんですけど、どこにいるかわかりますか?」
「長? ああ、ドンドラングね。あの人なら自分の工房にいるんじゃない?」
「えっと、そこまでどう行けば……」
「ああ~……あなたたち初めてなのね。ここは地図なんてないからねぇ……ところで、あの爺さんに何か御用なのかしら?」
「はい。俺たち、緑龍の村……から来まして、ぜひ挨拶をと」
「まぁ!? 緑龍の村って……そうなのそうなの。わかったわ、あたしが案内してあげる。父ちゃん!! ちょっくら出てくるから後は頼むよ!!」
「あぁ!? おいカカァ、このクソ忙しいときに」
「やかましい!! こちらの方々は緑龍の村から来てんだよ、案内してやらにゃあいかんのよ!!」
「お、おう……」
こ、怖い……ドワーフの店主さんが黙っちゃった。
「さ、案内するよ。こっちこっち」
「は、はい。シェリー、エイラちゃん、行くよ」
「うん」
「はーい!」
よかった。ようやく本来の目的が果たせそうだ……。
半円形の空間で、円を描くように飲食店が並んでいる。家を建てるのではなく、壁を掘ってその穴の中を店にしているようだ。中心の広場には椅子やテーブルがたくさん並び、いろんな人が酒盛りしていた。
よく見ると、お客はドワーフだけじゃない。ブラックモール族やリザード族、オーガ族など多種多様な種族が集まっていた。みんな職人なのかガタイがいい人ばかり。あと女性が全くいない。
俺、シェリー、エイラちゃんの三人は飲食店街を歩く。
「腹減った……のど乾いた」
「お兄ちゃん……お水くらいもらえないかな?」
「どうだろう……」
俺たち、金を持っていない。
というか、通貨があるのかな。どっちにしろ手ぶらの俺たちじゃ何も買えん。
「くーださーいな!」
「おう嬢ちゃん。何がいい?」
「のどがかわいたのー」
「そうかい。じゃあキラービーのハチミツとシビレモンの果実水だ。うめぇから飲んでみな」
「ありがとー!」
いつの間にか、エイラちゃんが露店にいた。
ドワーフのおじさんから葉っぱで作ったようなカップを受け取り、黄色い果実水をゴクゴク飲んでいる。
俺とシェリーは仰天して露店へ。
「す、すみません! 俺たちお金持ってないんです!」
「おいしーの!」
「え、エイラ! ああもう、ごめんなさい!」
俺とシェリーが頭を下げると、ドワーフのおじさんはガハハと笑った。
「ガハハ! 金なんざもらわねぇよ。つーか、穴倉での飲食はどこも無料だ。肉も酒も大地の恵み、この世界に生きる者に平等に与えられるってもんだ」
「「え……」」
「ほれ、兄ちゃんと姉ちゃんも飲みな。美味いぜ!」
「「あ、ありがとうございます……」」
まさかの無料……マジで?
俺とシェリーは顔を見合わせ、露店のおじさんにお礼を言い、近くのベンチに三人で座った。
とりあえず、喉も乾いたし果実水を飲んでみる。
「う、うまっ……レモンみたいな酸味とハチミツっぽい甘さが混ざってなんともいえない美味さ」
「確かに、美味しい……」
「おいしー!」
でも、ちょっと……いや、けっこう温い。
シェリーも同じことを考えたのか、杖を取り出して俺たちのカップを軽く叩く。すると果実水が冷やされ、とても飲みやすく美味しくなった。
「ん~美味しい♪ やっぱこうじゃないとね!」
「ああ、ありがとなシェリー」
「つめたーい! おいしいの!」
ようやく落ち着いた。
俺は果実水を飲みながらシェリーに言う。
「なぁ、ドワーフのおじさん……タダって言ったよな」
「うん。あ、見て」
シェリーが指差した方を見ると、露店で肉串を受け取ったドワーフが、支払いをせずにその場を離れる。
顔見知りだから無料……ってわけでもなさそうだ。
「マジで無料っぽいな」
「うん……すごいよね」
「どうやって利益出してると思う?」
「さぁ……」
暑いせいか、思考力が落ちている。
果実水を飲み干したエイラちゃんが、俺の腕を引っ張った。
「おにーたん、おなかすいたのー」
「腹……うん、確かに。俺も腹減った」
「あたしも……ねぇお兄ちゃん、タダみたいだし何か食べない?」
「……そうだな。長に会う前に腹ごしらえだ。それに、この辺りの人たちに聞けば、ドワーフの長がどこにいるか聞けるかも」
「ごはんー!」
せっかくだ。ドワーフの穴倉料理を堪能しようじゃないか。
◇◇◇◇◇◇
最初に向かったのは、ノレンがかけられている壁のお店。ノレンには『穴モグラの丸焼き』って書いてある。
お店の中は明るく、石を削って作られた椅子やテーブルがいっぱい並んでいた。
テーブルの上には熱した石のプレートが中央にあり、その上に皮を剥いだ大きなモグラが丸焼きになっていた……内臓は抜かれているようだし、下処理も完璧なんだろうけど、ちょっとグロイ。
驚いたことに、ブラックモール族の集団がモグラを食べていた……。
「おうらっしゃい!! 三人だな、空いてる席に座れや!!」
「は、はい」
店主らしきドワーフが大声で叫ぶので驚いた。
とりあえず入口近くに座ると、店員らしき……お、女性のドワーフだ。が、石板の下にある油の塊に火を付ける。そして俺とシェリーにはちょっと温いエール、エイラちゃんには水が出され、すぐに穴モグラが石板の上に置かれた。まだ何も言ってないんだが……まぁいいや。
「メニュー表もないし、穴モグラの丸焼きしかないみたい」
「見た目はともかく美味そうな匂い……あと暑い」
俺とシェリーは上着を脱ぐ。
シェリーにエールと水を冷やしてもらい乾杯。穴モグラが焼けるまで待つ。
すると、ジュージューと音がし始め、脂が石板を濡らしていく。
「お、お兄ちゃん……めっちゃ美味しそう」
「あ、ああ……暑いけど、この暑さと匂いがたまらん」
「おいしそーなの!」
どうやって食べるのか周囲を観察すると、素手で足を千切って食べていた。
テーブルには皿もナイフもフォークもない。とりあえず足を千切ってエイラちゃんに渡し、俺とシェリーも穴モグラの前足と後ろ足を千切る。
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす」
「いただきますなの!」
塩味もなにもないが……あっさり淡白でおいしい。
鳥肉を食べてるみたいだけど脂がすごい。これはエールが進む。
手がベトベトになるのは仕方ないけど美味い。俺たちは夢中で食べ……頭の部分は食べる勇気がなかったが、エイラちゃんが骨ごとバリバリ食べてた。
穴モグラ完食……脂が多かったおかげでお腹いっぱいになった。
「いやー……満足」
「お肉だけってのもいいかも」
「おいしかったのー……けぷ」
お腹いっぱいで満足だ。
こんな美味しいのが無料とは素晴らしい。
「あ、そうだ」
俺は店員さんの女性ドワーフに聞いてみた。
「あのー、このドワーフの穴倉の長に会いたいんですけど、どこにいるかわかりますか?」
「長? ああ、ドンドラングね。あの人なら自分の工房にいるんじゃない?」
「えっと、そこまでどう行けば……」
「ああ~……あなたたち初めてなのね。ここは地図なんてないからねぇ……ところで、あの爺さんに何か御用なのかしら?」
「はい。俺たち、緑龍の村……から来まして、ぜひ挨拶をと」
「まぁ!? 緑龍の村って……そうなのそうなの。わかったわ、あたしが案内してあげる。父ちゃん!! ちょっくら出てくるから後は頼むよ!!」
「あぁ!? おいカカァ、このクソ忙しいときに」
「やかましい!! こちらの方々は緑龍の村から来てんだよ、案内してやらにゃあいかんのよ!!」
「お、おう……」
こ、怖い……ドワーフの店主さんが黙っちゃった。
「さ、案内するよ。こっちこっち」
「は、はい。シェリー、エイラちゃん、行くよ」
「うん」
「はーい!」
よかった。ようやく本来の目的が果たせそうだ……。
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