大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
223 / 474
オーベルシュタイン、二度目の冬

第416話、ドラゴンチェス大会!・前編

しおりを挟む
 冬のイベントの企画書を書き上げ、ディアーナに提出した。
 ディアーナは企画書を無言で読む……なんというか、めっちゃ汗が出る。こういう時のディアーナって容赦ないからな……ゴクリと唾を飲む。

「……細かい調整は必要ですが、ひとまずこれでいいでしょう」
「え、いいの?」
「はい。簡潔に、それでいてよく練りこまれた企画です。さすが村長ですね」
「お、おおー……」

 ディアーナがにっこり笑った。
 なんか、こんな風に笑ってくれたのめっちゃ久しぶりかも。
 俺はジッとディアーナを見つめていた。

「な、なんですか……あの、あまり見ないでください」

 あ、赤くなってそっぽ向かれた。
 ディアーナってこんな可愛い反応する人だっけ?

「こほん。では、これらイベントの概要書を作成し、各住宅に配布。それから参加者を募り、開催に向けての準備を始めたいと思います」
「うん。頼む……俺ができることは?」
「特にありません。あとは私たち『緑龍の村・事務』にお任せを」

 ディアーナはニヤリと笑った。
 後で知ったことだが、冬の間は事務仕事が少なくけっこう暇らしい……なので、俺が持ってきたイベント関係の仕事は暇つぶしにもってこいだとか。あの、暇つぶしって。
 
 まぁ、やりがいがあるなら邪魔しないほうがいい。というか、俺がいても邪魔になりそうだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 俺は父上と母上、ついでにシェリーをバーに誘った。
 父上はバーをたいそう気に入り、母上も気に入ってくれたのか笑顔だった。なぜかシェリーがドヤ顔だったが気にしないでおく。
 父上はブランデー、母上はミルク、俺はセントウ酒、シェリーはフルーツカクテルを頼むと、手早く慣れた手つきでミリアリアが造り、チコレートやキャンディを添えて出してくれる。

「じゃ、家族に乾杯」
「うむ。乾杯」
「乾杯。ふふ、こんな日が来るなんてね」
「だねー。リュウ兄がいれば完璧だけどねー」

 それぞれグラスを合わせ、お酒を楽しむ。
 母上はチコレートが気に入ったのか、ミルクと一緒にパクパク食べていた。

「これ、とっても美味しい……つい食べすぎちゃうわ」
「お母さん、このチコレート、苦いカーフィーと合わせるともっと美味しいよ。読書のお茶うけにピッタリだし、図書館でも出してるよ」
「そうなの? じゃあ明日にでも試してみようかしら」
「あ、じゃああたしも行く。たまにはのんびり読書したいし」
「うん。じゃあシェリー、明日は私と読書ね」
「おっけー!」

 母上とシェリーはとても仲良くなった。
 親子だから当然だ。
 そして俺は父上を見た。

「…………」
「む、なんじゃ?」
「い、いえ……」

 父上と俺、あんま似てないよな……リュドガ兄さんも母上似だし。
 セントウ酒を飲み欲し、清酒を注文する。
 清酒の小瓶……アウグストさんが作った専用の小瓶『徳利』に入れて出され、小さなカップ『おちょこ』が二つ俺の前に。
 一つを父上に渡し、徳利を掴んで注ぐ。

「おお、すまんな。この清酒、癖になる味じゃ」
「エルミナの自信作で、今は人狼族の方に作ってもらってるんです」

 俺も父上に注いでもらい、おちょこを軽く合わせた。
 女同士、男同士で楽しんでいると、シェリーが言う。

「あ、お兄ちゃん。そろそろ本題に入ったら?」
「あ、そうだった」

 家族の時間を楽しむのはいいけど、本題があった。
 おちょこを置き、父上と母上に言った。

「父上、母上。実は緑龍の村で、冬のイベントを考えているんです」
「「冬のイベント?」」
「はい。雪合戦、鍋会、ドラゴンチェス大会。近日中にお知らせが届くと思います」
「ほぉ……合戦とな」
「はい。父上、大雪で身体を動かす機会が減ってお辛いでしょう?」
「ドラゴンチェス大会……」
「母上。母上はドラゴンチェスの名手でしたよね? ぜひどうです?」

 そう。母上はドラゴンチェスが得意なのだ。
 ビッグバロッグ王国の貴族婦人たちの間でブームになり、母上はその頂点に立つために毎日毎日プレイしてたって兄さんから聞いた……あんまりそのことには触れないでおこう。
 父上と母上は互いに顔を見て、にっこり笑った。

「ぜひ、参加したいな」
「ええ。面白そうだわ」

 よし。参加決定だな!

 ◇◇◇◇◇◇

 数日後。
 村の大宴会場に、ドラゴンチェス大会の準備が整った。
 参加者は村に残った人口の約七割。竜騎士、ハイエルフは全員参加。エルダードワーフ数人、サラマンダー数人、ハイピクシーが数人、なぜかネズミのニックとその仲間数人、アラクネー族のアンナと仲間数人だ。ゴルゴーン族は不参加となった。
 そこに、ローレイアと母上も加わり、会場は頭脳派だらけだ。
 
 宴会場には大量の椅子テーブルが等間隔に置かれ、そこにラードバンさんとアウグストさんが作ったドラゴンチェス盤が置いてある。
 壁には巨大なトーナメント表が貼られ、ブロックごとでの対戦となり、ブロックで優勝した者同士で戦い、勝者を決める。ちなみにブロックは全30ブロック……けっこうな数になった。
 開始時間は早朝から。チェスは時間がかかるので、時間次第では翌日に持ち越すことも考慮している。

 ちなみに、銀猫たちは五人だけ参加。
 残りは全員で昼食や夕食の準備をする。この五人を決めるのに銀猫宿舎ではドラゴンチェスの熱い大会が繰り広げられたそうだ……と、ミュアちゃんが言ってた。

 さて、俺はというと、参加を勧められたが辞退。
 大会責任者として試合を見守るため、俺用にと用意されたソファに座ってくつろいでいた。
 俺の仕事は開会の挨拶と閉会の挨拶。そして優勝者にトロフィーと商品を渡す仕事だ。

 商品は、天空都市ヘイブンにある俺の別荘へ二泊三日のご招待(お小遣い付き)だ。もちろん、種族関係なしに三人まで連れていって可能だ。住人からするとかなりの豪華景品らしい。
 
 大会準備が整った翌日。
 
「……ふぁぁ」
「アシュト。だらしない欠伸をしないでちょうだい」
「す、すまん」

 ローレライにしかられた。
 だって朝早いんだもん……仕方ないじゃん。
 そう、ここは村の宴会場……いや違う。ドラゴンチェス大会に参加する頭脳派の集まる会場だ。
 俺は、ローレライと一緒に早朝の会場入り。会場内はすでに参加者が集まり、静かな熱気に包まれていた。

「おはよう。アシュト」
「母上……おはようございます」
「眠そうね? ふふ、でも私はすっごく元気よ?」
「おば様、おはようございます。今日は手加減しませんので」
「あらローレライ。手加減などしたら許しませんわよ?」
「ふふ」
「うふふ」
「…………」

 こ、怖い。母上とローレライの背から龍と虎が見えた。
 恐怖で目が覚めたと思ったけどまだ寝ぼけているのだろうか?
 柔軟体操を始めた二人と別れ、俺は今日のために用意された自分の席へ。
 すると、すでに先客がいた。

『アシュト!』
「あれ、ウッド……シロも?」
『きゃん!』

 なんと、ウッドとシロがいた。
 しかもウッド、もこもこしたコートに手袋と長靴を履いて防寒している。そういえばミュディが『ウッドくんが寒いとかわいそう』って言って、ウッドとベヨーテのために服を作ってやったんだっけ。

『アノネ、ミンナガココニアツマッテルカラ、シロトキター!』
『きゃぅぅん』
「そっか。じゃあ今日は一緒に見学しよっか」
『ウン!』
『わん!』

 可愛いなぁ。
 俺はシロを抱っこし、ウッドを隣に座らせ、会場内を眺めていた。
 ドラゴンチェス大会……なんだか燃えそうだ!
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。