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オーベルシュタイン、二度目の冬
第417話、ドラゴンチェス大会!・後編
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ドラゴンチェス大会開幕。
俺が参加者の前で挨拶し、ルール説明をして、最初の試合が始まった。
うん。始まったんだけど……。
「…………」
コト───……コト───……シーン……コト。
めちゃくちゃ静かだった。
会場内は、ドラゴンチェスの駒を移動させて置く音と、咳払いや呼吸音しか聞こえない。
そりゃテーブルゲームだから声を出す必要はないけど……なんか息苦しい。
ウッドとシロは最初こそ元気だったが、いつの間にかソファで寝ちゃったし。
「…………くぁぁ」
俺も大きく欠伸した。
まだ早朝と言ってもいい時間だし、何もせずにぼんやりしてるとどうも眠い。
各テーブルではドラゴンチェスの戦いが繰り広げられているんだけど……正直、プレイしないと退屈だった。
ミュディたちは仕事だし、話し相手は寝てるし。
「おい」
「うおっ……って、ルミナか」
「みゃう。なでろ」
「はいはい……よしよし」
「ごろごろ」
ルミナがいつの間にか傍にいて、俺に甘えてきた。
手には本を持っていることから、今日の読書はここでするらしい。
ひとしきり俺に甘えるとそそくさと離れ本を開き、無言で読書を始めた。ルミナの甘えは極端なんだよな……べったりくっついて甘えてくると思えば、あっさり離れて見向きもしない。そんなツンデレ風な黒猫も可愛いけどな。
さて、座ってても眠いし、会場内を見て回るか。
◇◇◇◇◇◇
最初に目に留まったのは、ローレライの席だ。
相手は……なんと、ランスローだ。
「───っ」
「ふふ……」
一筋の汗を流すランスローは、『飛竜』の駒を掴み……手を放し……『地龍』の駒に触れ……ローレライをちらりと見る。
「…………(くす)」
「っ!!」
そして、ランスローは『水龍』の駒を掴み移動させた。
だが、ローレライの動きは速かった。
ランスローの迷いですら読んでいたのか、『風龍』の駒を掴んで指先でクルクル弄び、ランスローの目を見ながら盤の上にカツンと置く。
「ドラゴンチェック」
「───っっく、ぬぅぅ」
ランスローは汗を流す。
歯ぎしりをし、盤の上を目で追う。次の一手、さらに次、さらに次……ローレライの猛攻をどう切り抜け、ここから相手の陣地に攻め入るかを頭の中で考える。
ランスローは気付いているのか。流している汗が尋常ではなく、額から頬を伝い、顎から自分の太腿を濡らしていることに。
いつの間にか、俺もゴクリと唾を飲む。当然のことだが、この二人は傍で俺が見ていることなんて気付いていない。完全に二人の戦場だ。
そこに、姫も騎士もない。一対一、盤上の戦い……!!
「───はぁ、はぁ───っっ」
ランスローの呼吸が荒い。
そして、ローレライは。
───コトン。
テーブルの縁を、指で軽く叩いた。
それだけで、ランスローの身体がビクンと跳ね、ランスローの身体から全ての力が抜けた。
そして、ランスローは静かに告げる。
「───参りました」
ここに、ドラゴンロードの姫と騎士のあり得ない戦いの幕が閉じた───って……いや待て。たかがドラゴンチェスなのに世界観がおかしいんですけど!!
◇◇◇◇◇◇
それから、試合は夕方まで続いた。
早く勝負が付いたところもあれば、なかなか勝負が付かないところもあり、最終的に八人残るまでにけっこうな時間が必要だった……ウッドもシロも途中で飽きて出ていったし、ルミナはソファで丸くなって寝てる。
ぶっちゃけ、見てるだけはかなり辛かった……だが、それもようやく終わりだ。
残り八人。そして四人になり、最後の二人になり……優勝が決まる。
まず、八人そろったところで一時休憩。
会場内を片付け、四卓だけテーブルを残し、敗者たちが観戦できるように会場をセッティングした。
残ったメンバーは、ローレライ、母上、エレイン、ゴーヴァン、オードリー、ディミトリ、ディアーナ、シャーロットの八人だ。
というか、ディミトリいたのか……気付かなかった。
会場内の準備を終え、八人を整列させ紹介した。
会場内には、参加者全員に加え、仕事を終えたドワーフやサラマンダーたちも混ざりかなり狭かった。
俺は拡声魔法を使い、杖を片手にみんなを紹介する。
『えー、長い戦いもようやく終盤戦。大勢の中から勝ち残ったのはこの八人です!!』
ワーワーと観客たちが騒ぐ。
ローレライたちは観客に応え、会場内の熱気はますます高まった。
『みなさんお静かに……ではこれより、トーナメントの抽選を行います』
トーナメント表は空白だ。
これからそれぞれくじを引き、トーナメント表を埋めていく。
今まで静寂だったせいか、みんなのテンションが高かった。
アシスタントのシルメリアさんがくじの入った箱を持ち、それぞれが引いていく。
「一番」とローレライ。
「二番ですねェ」とディミトリ。
「さんば~ん」とエレイン。
「四番です」とオードリー。
「五番」とディアーナ。
「六番です」とシャーロット。
「七番ですな」とゴーヴァン。
「八番」と母上だ。
第一試合はローレライとディミトリ。
第二試合はエレインとオードリー。
第三試合はディアーナとシャーロット。
第四試合はゴーヴァンと母上。
おいおい、なんか面白そうな戦いになりそうだぞ。
◇◇◇◇◇◇
試合開始。
いくら組み合わせが面白そうでも、試合自体は静かだった。
コト、コトと、駒を置く音が会場内に響く。
こんな言い方はアレだが……地味だな。
「にゃあ」
「ん、あれ? ミュアちゃん」
「にゃう。お仕事終わったから遊びにきたー」
ミュアちゃんが俺の袖をくいくい引っ張った。
いつものように頭とネコミミを撫でると気持ちよさそうに喉がゴロゴロ鳴る。
試合が終わるまで時間がありそうなので、近くのソファに座りミュアちゃんを撫でることに。
「にゃうー……ご主人さま、たのしい?」
「え、あー……まぁ、うん」
「チェス、だっけ?」
「うん。ドラゴンチェスっていう、ドラゴンロード王国で考えられた遊びなんだ」
「にゃう。ローレライがやってるやつだ!」
「そう。ふふ、ミュアちゃんもできる?」
「にゃおー」
ミュアちゃんは、ローレライたちの試合をじーっと見ていた。
興味があるのかないのか。でも、子供の内からこういう頭脳ゲームに興味を持つのはいい。頭の活性化にも繋がるし、苦手な勉強も好きになれるかも。
すると、ディミトリの表情がどんどん悪くなっていく。
「ぐヌヌヌヌヌ……っ!!」
「ドラゴンチェックメイト……終わりよ」
「ノォォォォォーーーーーーッ!!」
あ、負けた。
他にも、オードリーが勝ち、ディアーナが勝ち、母上が勝利した。
準決勝はローレライとディアーナ、母上とオードリーだ。
「あなたと戦うのは初めてね」
「はい……」
「どうやら、手加減は必要ないみたい。ディアーナ、あなたはどう?」
「相手にとって不足なし。いざ」
「ええ、勝負」
ローレライとディアーナ。共に頭脳派の女性同士の戦いだ。
そして、母上とオードリー。こっちも未知数だ。
戦いは始まり、すっかり夜になる。晩ご飯の時間だが、会場内はドラゴンチェスの準決勝しか見えていない。
ミュアちゃんも、ローレライの駒をじーっと見ていた。
「ミュアちゃん、お腹空かない?」
「にゃうー……だいじょぶ」
「そっか。じゃあ、これが終わったら一緒に食べようか」
「にゃう!」
ソファを見ると、ルミナはいなくなっていた。たぶん、お腹が空いたので帰ったのだろう。
正直言うと、俺も腹減った。でも、あと二試合で終わりだし我慢するか。
そして……。
「……負けました」
「私の負けです。アリューシア様」
ディアーナとオードリーが負けを認め、ローレライと母上の決勝戦となる。
長き戦いもようやく終わりを迎えそうだ。
テーブルを一卓だけにし、観客たちは円で囲む。
緑龍の村最強のドラゴンチェスの使い手が誰か、決まる。
ローレライと母上が席に座った。
「やはり来ましたね、ローレライ」
「はい。お義母さま……手加減は」
「それ以上必要ないわ。ローレライ」
母上は懐から扇子を取り出しバッと広げる。
いつの間にか、母上の後ろには父上とシェリーがいた。
「アリューシア、負けるなよ」
「お母さんしっかりね!」
対するローレライの後ろにはクララベル。そしてランスローとゴーヴァン。
「姉さまがんばれっ!」
「「姫様、勝利を!」」
うーん、熱いね。
俺は主催側なのでどっちかの応援はできない。
会場の後ろでは大きなドラゴンチェス盤が用意され、直に見ることのできない観客のためにローレライと母上の盤上を再現するようだ。
俺はゆっくりとテーブルに近づき、確認する。
「では、二人とも……用意はできたか?」
「ええ」
「大丈夫」
「よし。では、これより第一回緑龍の村ドラゴンチェス大会、決勝戦を行います……始め」
母上とローレライの、最後の戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
夜もすっかり更け……俺たちは家に戻ってきた。
家に入ると、ミュディたちが出迎えてくれる。さらにいい匂いが部屋に充満していた。
「おかえり。晩ご飯できてるよ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとう、ミュディ」
「にゃあ!」
笑顔のローレライ。
そりゃそうだ。接戦の末、ぎりぎりで勝利できたんだからな。
そう。第一回ドラゴンチェス大会の優勝者はローレライだ。
俺たちは着替え、リビングのソファに座る。今日はミュアちゃんも一緒だ。
テーブルには、サンドイッチと暖かいスープが用意されていた。けっこう夜も遅いし、簡単なものでいい。
「にゃあ。おなかへったー」
「よし、じゃあいただけます」
サンドイッチはとても美味しい。
ミュディはエルミナの隣に座り、紅茶を飲みながら言った。
「だいぶ時間かかったね」
「ああ。かなり接戦だったし……というか、みんな時間とか気にしてなかったな」
エルミナは清酒をきゅっと飲む。
「ドラゴンチェスねぇー……冬は長いし、月いちくらいで開催したら?」
「それもいいかもな」
「にゃう。わたしもやりたいー」
ミュアちゃんが挙手し、ローレライがくすっと笑う。
「じゃあミュア、私がいろいろ教えてあげるわ」
「うん! じゃあやろ!」
「ええ」
ローレライとミュアちゃんは少し離れた席に座り、ドラゴンチェスを始める。どうもローレライの機嫌がいい。優勝したのがとても嬉しいようだ。母上との闘いはかなり興奮してたし……ちなみに、シェリーは母上のところで一緒に寝るようだ。
エルミナは、ミュディに清酒を勧めつつ言う。
「ねぇ、次は鍋会よね」
「ああ。雪合戦をやってから夜は鍋会って感じだな。ドラゴンチェス大会のすぐにやるんじゃなくて、少し時間を空けてから開催するよ」
「楽しみねーミュディ」
「うん。おなべ……お腹いっぱいになりそう」
「そのために雪合戦でしょ!! ふふ、燃えてきたわ!! ハイエルフの力を見せてやる!!」
「いや、ハイエルフ関係あるか?」
紅茶を飲みながら談笑していると、ミュアちゃんが俺の元へ。
「にゃあ。今日は寝るね。おやすみご主人さまー」
「おやすみ。なでなで」
「ごろごろ……おやすみー」
ミュアちゃんは去っていった。
俺たちもそろそろ寝ようと立ち上がると……ローレライの様子がおかしかった。
「ローレライ? そろそろ寝ようぜ」
「…………」
「ん、どうした?」
ローレライが青ざめている。
エルミナとミュディの顔を見るが首を傾げ、近くに行く。
ローレライが見ていたのはドラゴンチェス盤……え、うそ。
「お、おい……これって」
「…………」
ドラゴンチェス盤は、圧倒的大差で勝利していた…………ミュアちゃんが。
ルールでは、『覇王龍』の駒を取ると勝利なのだが……ローレライの陣地が圧倒的に攻め込まれ、『覇王龍』の駒が奪われていた。
思わず、ミュアちゃんが去った方を見る。
「…………て、天才っているのね」
「ろ、ローレライ!?」
ローレライは、静かに燃え尽きた……。
俺が参加者の前で挨拶し、ルール説明をして、最初の試合が始まった。
うん。始まったんだけど……。
「…………」
コト───……コト───……シーン……コト。
めちゃくちゃ静かだった。
会場内は、ドラゴンチェスの駒を移動させて置く音と、咳払いや呼吸音しか聞こえない。
そりゃテーブルゲームだから声を出す必要はないけど……なんか息苦しい。
ウッドとシロは最初こそ元気だったが、いつの間にかソファで寝ちゃったし。
「…………くぁぁ」
俺も大きく欠伸した。
まだ早朝と言ってもいい時間だし、何もせずにぼんやりしてるとどうも眠い。
各テーブルではドラゴンチェスの戦いが繰り広げられているんだけど……正直、プレイしないと退屈だった。
ミュディたちは仕事だし、話し相手は寝てるし。
「おい」
「うおっ……って、ルミナか」
「みゃう。なでろ」
「はいはい……よしよし」
「ごろごろ」
ルミナがいつの間にか傍にいて、俺に甘えてきた。
手には本を持っていることから、今日の読書はここでするらしい。
ひとしきり俺に甘えるとそそくさと離れ本を開き、無言で読書を始めた。ルミナの甘えは極端なんだよな……べったりくっついて甘えてくると思えば、あっさり離れて見向きもしない。そんなツンデレ風な黒猫も可愛いけどな。
さて、座ってても眠いし、会場内を見て回るか。
◇◇◇◇◇◇
最初に目に留まったのは、ローレライの席だ。
相手は……なんと、ランスローだ。
「───っ」
「ふふ……」
一筋の汗を流すランスローは、『飛竜』の駒を掴み……手を放し……『地龍』の駒に触れ……ローレライをちらりと見る。
「…………(くす)」
「っ!!」
そして、ランスローは『水龍』の駒を掴み移動させた。
だが、ローレライの動きは速かった。
ランスローの迷いですら読んでいたのか、『風龍』の駒を掴んで指先でクルクル弄び、ランスローの目を見ながら盤の上にカツンと置く。
「ドラゴンチェック」
「───っっく、ぬぅぅ」
ランスローは汗を流す。
歯ぎしりをし、盤の上を目で追う。次の一手、さらに次、さらに次……ローレライの猛攻をどう切り抜け、ここから相手の陣地に攻め入るかを頭の中で考える。
ランスローは気付いているのか。流している汗が尋常ではなく、額から頬を伝い、顎から自分の太腿を濡らしていることに。
いつの間にか、俺もゴクリと唾を飲む。当然のことだが、この二人は傍で俺が見ていることなんて気付いていない。完全に二人の戦場だ。
そこに、姫も騎士もない。一対一、盤上の戦い……!!
「───はぁ、はぁ───っっ」
ランスローの呼吸が荒い。
そして、ローレライは。
───コトン。
テーブルの縁を、指で軽く叩いた。
それだけで、ランスローの身体がビクンと跳ね、ランスローの身体から全ての力が抜けた。
そして、ランスローは静かに告げる。
「───参りました」
ここに、ドラゴンロードの姫と騎士のあり得ない戦いの幕が閉じた───って……いや待て。たかがドラゴンチェスなのに世界観がおかしいんですけど!!
◇◇◇◇◇◇
それから、試合は夕方まで続いた。
早く勝負が付いたところもあれば、なかなか勝負が付かないところもあり、最終的に八人残るまでにけっこうな時間が必要だった……ウッドもシロも途中で飽きて出ていったし、ルミナはソファで丸くなって寝てる。
ぶっちゃけ、見てるだけはかなり辛かった……だが、それもようやく終わりだ。
残り八人。そして四人になり、最後の二人になり……優勝が決まる。
まず、八人そろったところで一時休憩。
会場内を片付け、四卓だけテーブルを残し、敗者たちが観戦できるように会場をセッティングした。
残ったメンバーは、ローレライ、母上、エレイン、ゴーヴァン、オードリー、ディミトリ、ディアーナ、シャーロットの八人だ。
というか、ディミトリいたのか……気付かなかった。
会場内の準備を終え、八人を整列させ紹介した。
会場内には、参加者全員に加え、仕事を終えたドワーフやサラマンダーたちも混ざりかなり狭かった。
俺は拡声魔法を使い、杖を片手にみんなを紹介する。
『えー、長い戦いもようやく終盤戦。大勢の中から勝ち残ったのはこの八人です!!』
ワーワーと観客たちが騒ぐ。
ローレライたちは観客に応え、会場内の熱気はますます高まった。
『みなさんお静かに……ではこれより、トーナメントの抽選を行います』
トーナメント表は空白だ。
これからそれぞれくじを引き、トーナメント表を埋めていく。
今まで静寂だったせいか、みんなのテンションが高かった。
アシスタントのシルメリアさんがくじの入った箱を持ち、それぞれが引いていく。
「一番」とローレライ。
「二番ですねェ」とディミトリ。
「さんば~ん」とエレイン。
「四番です」とオードリー。
「五番」とディアーナ。
「六番です」とシャーロット。
「七番ですな」とゴーヴァン。
「八番」と母上だ。
第一試合はローレライとディミトリ。
第二試合はエレインとオードリー。
第三試合はディアーナとシャーロット。
第四試合はゴーヴァンと母上。
おいおい、なんか面白そうな戦いになりそうだぞ。
◇◇◇◇◇◇
試合開始。
いくら組み合わせが面白そうでも、試合自体は静かだった。
コト、コトと、駒を置く音が会場内に響く。
こんな言い方はアレだが……地味だな。
「にゃあ」
「ん、あれ? ミュアちゃん」
「にゃう。お仕事終わったから遊びにきたー」
ミュアちゃんが俺の袖をくいくい引っ張った。
いつものように頭とネコミミを撫でると気持ちよさそうに喉がゴロゴロ鳴る。
試合が終わるまで時間がありそうなので、近くのソファに座りミュアちゃんを撫でることに。
「にゃうー……ご主人さま、たのしい?」
「え、あー……まぁ、うん」
「チェス、だっけ?」
「うん。ドラゴンチェスっていう、ドラゴンロード王国で考えられた遊びなんだ」
「にゃう。ローレライがやってるやつだ!」
「そう。ふふ、ミュアちゃんもできる?」
「にゃおー」
ミュアちゃんは、ローレライたちの試合をじーっと見ていた。
興味があるのかないのか。でも、子供の内からこういう頭脳ゲームに興味を持つのはいい。頭の活性化にも繋がるし、苦手な勉強も好きになれるかも。
すると、ディミトリの表情がどんどん悪くなっていく。
「ぐヌヌヌヌヌ……っ!!」
「ドラゴンチェックメイト……終わりよ」
「ノォォォォォーーーーーーッ!!」
あ、負けた。
他にも、オードリーが勝ち、ディアーナが勝ち、母上が勝利した。
準決勝はローレライとディアーナ、母上とオードリーだ。
「あなたと戦うのは初めてね」
「はい……」
「どうやら、手加減は必要ないみたい。ディアーナ、あなたはどう?」
「相手にとって不足なし。いざ」
「ええ、勝負」
ローレライとディアーナ。共に頭脳派の女性同士の戦いだ。
そして、母上とオードリー。こっちも未知数だ。
戦いは始まり、すっかり夜になる。晩ご飯の時間だが、会場内はドラゴンチェスの準決勝しか見えていない。
ミュアちゃんも、ローレライの駒をじーっと見ていた。
「ミュアちゃん、お腹空かない?」
「にゃうー……だいじょぶ」
「そっか。じゃあ、これが終わったら一緒に食べようか」
「にゃう!」
ソファを見ると、ルミナはいなくなっていた。たぶん、お腹が空いたので帰ったのだろう。
正直言うと、俺も腹減った。でも、あと二試合で終わりだし我慢するか。
そして……。
「……負けました」
「私の負けです。アリューシア様」
ディアーナとオードリーが負けを認め、ローレライと母上の決勝戦となる。
長き戦いもようやく終わりを迎えそうだ。
テーブルを一卓だけにし、観客たちは円で囲む。
緑龍の村最強のドラゴンチェスの使い手が誰か、決まる。
ローレライと母上が席に座った。
「やはり来ましたね、ローレライ」
「はい。お義母さま……手加減は」
「それ以上必要ないわ。ローレライ」
母上は懐から扇子を取り出しバッと広げる。
いつの間にか、母上の後ろには父上とシェリーがいた。
「アリューシア、負けるなよ」
「お母さんしっかりね!」
対するローレライの後ろにはクララベル。そしてランスローとゴーヴァン。
「姉さまがんばれっ!」
「「姫様、勝利を!」」
うーん、熱いね。
俺は主催側なのでどっちかの応援はできない。
会場の後ろでは大きなドラゴンチェス盤が用意され、直に見ることのできない観客のためにローレライと母上の盤上を再現するようだ。
俺はゆっくりとテーブルに近づき、確認する。
「では、二人とも……用意はできたか?」
「ええ」
「大丈夫」
「よし。では、これより第一回緑龍の村ドラゴンチェス大会、決勝戦を行います……始め」
母上とローレライの、最後の戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
夜もすっかり更け……俺たちは家に戻ってきた。
家に入ると、ミュディたちが出迎えてくれる。さらにいい匂いが部屋に充満していた。
「おかえり。晩ご飯できてるよ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとう、ミュディ」
「にゃあ!」
笑顔のローレライ。
そりゃそうだ。接戦の末、ぎりぎりで勝利できたんだからな。
そう。第一回ドラゴンチェス大会の優勝者はローレライだ。
俺たちは着替え、リビングのソファに座る。今日はミュアちゃんも一緒だ。
テーブルには、サンドイッチと暖かいスープが用意されていた。けっこう夜も遅いし、簡単なものでいい。
「にゃあ。おなかへったー」
「よし、じゃあいただけます」
サンドイッチはとても美味しい。
ミュディはエルミナの隣に座り、紅茶を飲みながら言った。
「だいぶ時間かかったね」
「ああ。かなり接戦だったし……というか、みんな時間とか気にしてなかったな」
エルミナは清酒をきゅっと飲む。
「ドラゴンチェスねぇー……冬は長いし、月いちくらいで開催したら?」
「それもいいかもな」
「にゃう。わたしもやりたいー」
ミュアちゃんが挙手し、ローレライがくすっと笑う。
「じゃあミュア、私がいろいろ教えてあげるわ」
「うん! じゃあやろ!」
「ええ」
ローレライとミュアちゃんは少し離れた席に座り、ドラゴンチェスを始める。どうもローレライの機嫌がいい。優勝したのがとても嬉しいようだ。母上との闘いはかなり興奮してたし……ちなみに、シェリーは母上のところで一緒に寝るようだ。
エルミナは、ミュディに清酒を勧めつつ言う。
「ねぇ、次は鍋会よね」
「ああ。雪合戦をやってから夜は鍋会って感じだな。ドラゴンチェス大会のすぐにやるんじゃなくて、少し時間を空けてから開催するよ」
「楽しみねーミュディ」
「うん。おなべ……お腹いっぱいになりそう」
「そのために雪合戦でしょ!! ふふ、燃えてきたわ!! ハイエルフの力を見せてやる!!」
「いや、ハイエルフ関係あるか?」
紅茶を飲みながら談笑していると、ミュアちゃんが俺の元へ。
「にゃあ。今日は寝るね。おやすみご主人さまー」
「おやすみ。なでなで」
「ごろごろ……おやすみー」
ミュアちゃんは去っていった。
俺たちもそろそろ寝ようと立ち上がると……ローレライの様子がおかしかった。
「ローレライ? そろそろ寝ようぜ」
「…………」
「ん、どうした?」
ローレライが青ざめている。
エルミナとミュディの顔を見るが首を傾げ、近くに行く。
ローレライが見ていたのはドラゴンチェス盤……え、うそ。
「お、おい……これって」
「…………」
ドラゴンチェス盤は、圧倒的大差で勝利していた…………ミュアちゃんが。
ルールでは、『覇王龍』の駒を取ると勝利なのだが……ローレライの陣地が圧倒的に攻め込まれ、『覇王龍』の駒が奪われていた。
思わず、ミュアちゃんが去った方を見る。
「…………て、天才っているのね」
「ろ、ローレライ!?」
ローレライは、静かに燃え尽きた……。
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