大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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妖狐族の奇病

第438話、妖狐のお悩み

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 カエデ、モミジさん、フヨウさんを来賓邸に案内した。
 村で一番高級感のある建物だ。ランプ一つ、テーブル一つ、ソファ一つがエルダードワーフ渾身の一品。この部屋を使うのは久しぶりだが、銀猫族が毎日欠かさず掃除をしていた。
 カエデたちをソファに座らせ、俺も対面に座る。
 バルギルドさんは俺の後ろに控える。一応、初対面だし護衛ということで。
 ソファに座ると、シルメリアさんが紅茶を出してくれた。もちろん、カップからソーサーに至るまで全て渾身の一品……正直、触れるのすら躊躇ってしまう。
 紅茶が出されるまで無言だったので、俺から話した。

「ささ、緑龍の村で育てられた茶葉です。ミルクと砂糖もありますので」
「これはご丁寧に、ありがとうございます」

 フヨウさんが笑う……なんてイケメンだよ。兄さんよりオーラあるぞ。
 カエデは紅茶を一口啜り渋い顔をした。すると、モミジさんが砂糖とミルクをそっと勧める……なんだ、すごい優しいお母さんじゃないか。カエデはにっこり笑って砂糖をドバドバ入れてるし。
 俺も紅茶を一口……うん、おいしい。
 さて、喉も潤ったし、話をしよう。

「では、先ほどの続きを……俺、じゃなくて私に頼みとは?」

 なんとなく言葉遣いには気を付けた。だって見るからに高貴そうだしね。
 すると、モミジさんがカップを置いて言う。

「この子から緑龍の村の……アシュトさんのことを聞きました。アシュトさん、腕のいい薬師様でいらっしゃるとのことで」
「いや、あはは……まぁ」

 『腕のいい』にちょっと照れる俺。
 おっと、曖昧な笑みを浮かべるのはやめなければ。
 今度はフヨウさんが言う。

「実は、妖狐族の里にて原因不明の病が広がってまして……里の医者が匙を投げてしまったのです」
「え……原因不明?」
「ええ。ここ最近、突然意識を失って倒れる者や、全身に不調を訴えて動けなくなる者が増えております。里の医師が診断したところによると、原因不明との結論が出まして……」

 フヨウさんは苦し気にうつむく。九本の尻尾も萎びていた。
 
「不調者は日に日に増えています。医師も原因がわからず、どうしようもなく……我々は、外部の者の力を借りることに決定いたしました」
「そこでアシュト殿なのじゃ!!……こほん、なのです」

 カエデが顔を赤くして咳払い……うん、可愛いね。
 モミジさんがカエデの頭を撫でながら言う。

「そなたは、カエデを救ってくれた。妖狐という種族を気にすることなく手を貸してくれた。聞けば、他種族を集め村を作り出したと噂の村長であり薬師と聞く。我々が手を借りるべきは……そなたしかおらん」

 持ち上げすぎだろ……未だに噂になってんのかい。
 でも、原因不明か……薬師として血が騒ぐというか、病人を前に放っておけないというか。
 少し悩んでいると、フヨウさんが言う。

「アシュト殿。どうか我ら妖狐の里に来てはいただけぬか。このまま病が蔓延すれば、里を放棄しなければならん……だが、どうしてもその決断をするわけにはいかんのだ」
「えっと……どうしてでしょう?」
「妖狐の里は、我々にとってなくてはならない場所だからです。アシュト殿、どうか病を解明し、我ら妖狐に救いの手を……もちろん、それに見合うお礼は致します」

 フヨウさんが頭を下げた。それに続き、モミジさんとカエデも続く。
 ここまでされて、引き受けないってことはない。
 
「……わかりました。俺にできることなら協力します」
「おお……ありがとうございます!!」
「いえ。では、すぐに出発……とはいかないので、一日だけ時間をください。準備をしますので」

 出発は明日。
 フヨウさんたちはすぐに帰った。転移魔法ならすぐに帰れるそうだ。
 村に数人の妖狐が残り、明日の出発の際に一緒に転移する。
 さっそく、俺はディアーナに相談。俺の家に各種族の代表を集め、このことを話した。

「───ってわけで、妖狐族の里に往診に行く……往診ってか病気の正体を暴いて、治療をすることだけどな」

 すると、ディアーナが言う。

「……個人としては反対です」
「え」
「病気の正体がわからないということは、村長自身も病に侵される可能性があります。そんな場所に行くのは……」
「でも、苦しんでいる人がいる」
「…………」
「俺は薬師だ。大丈夫、なんとかしてみせるよ」
「……はい」

 と、ここでジトーッとした視線。

「……お熱いわねー」
「な、なんだよエルミナ」
「別に。あ、それと私も一緒に行くから」
「は?」
「私の知識が役に立つかもしれないでしょ? 薬草のことならけっこう詳しい自信あるし」
「……危険かもしれないぞ」
「わかってる。でも、フレキやエンジュもいないし、助手は必要でしょ」
「ん~……わかった」

 まず、エルミナを連れていくことに。

「「オレも行こう……む」」

 次に、バルギルドさんとディアムドさんが全く同時に言う。
 互いに顔を見合わせていた。ちょっとだけ笑ってしまった。

「えっと、どちらかおひとりだけで……」
「「…………」」
「じゃ、じゃあ……クジで決めますか」

 シルメリアさんがクジを用意し、二人が引く。
 アタリを引いたのは……ディアムドさんだった。

「ふ……」
「ぐ、ぬぅ……」
「じゃあ、ディアムドさんにお願いします」

 ディアムドさん、護衛として役に立ってもらおう。
 毒も効かないし、けっこう頼りにしている。
 それと、俺からも指名した。

「あと、アウグストさんに同行をお願いしたいんですが」
「ワシか? 構わんが……何故だ?」
「いえ。もしかしたらですけど、技術的なことでお願いすることがあるかも」
「……わかった。まかせておけ」

 アウグストさんも同行決定。
 とりあえず、こんなところか───と、ここで挙手した人が。

「あの、アシュト……わたしも一緒に行っていい?」
「ミュディ?……え、なんで」
「そ、その……そんな場合じゃないってわかってるんだけど、その」
「???」
「あのね、妖狐さんたちが着ていた服……すっごく気になるの」
「…………え」
「そ、それに!! わたしだってなんでもするよ? 水汲みだって、荷物持ちだって……アシュトが病気を治したら、妖狐さんにお洋服の作り方教わりたいなーって……ダメ?」
「…………」

 ミュディ……ある意味、大物だな。
 できれば少数精鋭で乗り込みたい。俺を含めて五人……こんなところか。

「わかった。ミュディも一緒に来てくれ」
「うん!」

 こうして、妖狐族の里に行くメンバーが決まった。
 俺、エルミナ、ミュディ、ディアムドさん、アウグストさん。
 目的は、妖狐族の里で猛威を振るっている病気を解明し、治療すること。
 謎の奇病か、伝染病か。わからないことが多いので、慎重にいかねば。
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