大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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もう一つの龍人族

第662話、ちょっとその……勘弁してください

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 準備されていた服に着替えると、浴場の前にいた案内人さんが別室へ案内してくれた。
 そこで、髪や顔に化粧水っぽいのを付けてくれる。
 いい匂い。なにかの樹液か、葉を潰したものか……薬師として興味あるな。
 そんなことを考えていると、化粧が終わり、また別室へ。
 そこには、ローレライたちがいた。全員ドレス姿で、髪も丁寧にまとめている。

「ふふ、似合ってるわ、アシュト」
「お、おう……お前もな」

 ローレライ。
 胸元を強調した、白いドレスで、所々にブルー系の装飾が施されている。背中にはなんと月の刺繍……すごいな、ローレライにピッタリだ。

「お兄ちゃん、わたしは?」
「うん、クララベルは可愛いね」
「やったぁ」

 クララベルも白いドレスだ。
 長い髪はポニーテールにして、髪飾りを付けている。
 白いツノにもリングみたいなのをはめており、綺麗というよりは可愛らしい。

「あ、うちに感想はいらないっすよん」
「お前ならそう言うと思ったよ……ま、似合ってるけど」
「い、いらないって言ったべさ!!」

 照れてるアイオーン。
 こっちは紫系のドレス。なんというか、ローレライよりも胸元を強調してるせいで、普段は野暮ったい服装のアイオーンが色っぽく見えてしまう。
 俺はコホンと咳払いした。

「これから宴なんだよな?」
「そうらしいわね。ふぅ……トルトニス様、不思議なお方ね」
「なんか可愛くなったよね」
「うんうん。ショタはいいねぇ」
「シエラ様が言うには、感情でいろいろ変わるらしい。まぁ、怖い感じじゃなくて安心したよ」
「そうね。友好的みたいだし……お爺様やお父様も、ちゃんとご挨拶できれば、ドラゴンロード王国と友好関係を結べるかもしれないわ」

 と、ここでドアがノックされ、ドレス姿のレヴィが入ってきた。

「支度はできたか? 会場へ案内しよう」
「ああ、頼む」
「……王はやや不安定だ。いいか、刺激するなよ」

 レヴィは俺をジロッと睨み、さっさと歩き出す。
 俺たちはそのあとに続き、城の渡り廊下を抜け、別館にある宴会場へ。
 宴会場は立食形式のようだ。たくさんの円卓に、この国の重役っぽいおじさん、おばさんが大勢いる。みんなツノが生えているし、龍人族なのかもな。
 玉座には、よぼよぼのおじいさんが座っていた……ああ、あれが今のトルトニス様か。

「き、き、来たか……おっふぉっふぉっふぉ」

 トルトニス様は立ち上がるとプルプルしながらグラスを手に取った。

「さささ、アシュトくんや、こっちにおいで」
「は、はい」
 
 レヴィにこっそり背中を小突かれ玉座の隣にある椅子へ。
 うわっ……トルトニス様、めちゃくちゃヨボヨボじゃん。手足が骨と皮みたいだし、眼もほとんど閉じてるし、顔も染みだらけで腰めちゃくちゃ曲がってる。
 ローレライたちは、俺の隣に並んで座った。
 トルトニス様は、立ち上がって言う。

「みな、聞けぃ……今宵は、素晴らしき出会いに、グェッホエッホ!! かか、感謝!! 新たな同胞、えーっと……アシュト? だっけ? えーと……まぁうん、今宵はよく飲み、よく食べるように!! では乾杯しようかの」

 め、めちゃくちゃボケてる……さっきの凛々しい青年トルトニス様と別人すぎるぞ。
 重役たちや龍人たちは慣れっこなのか、特に何も言わずグラスを取る。
 俺たちもグラスを取り、トルトニス様がグラスを掲げた。

「では、かんぱいっ、っぐぇっふぉえっほ!!」

 トルトニス様は盛大にせき込み、なんとも言えない乾杯となった。

 ◇◇◇◇◇

 さっそく宴会が始まった。
 だが……俺は飲み物をさっそくこぼしたトルトニス様のために、おしぼりを手にする。

「トルトニス様、大丈夫ですか?」
「おお、すまんの、すまんのぉぉ」

 おしぼりで口を拭き、新しい飲み物を給仕に頼む。
 目の前には料理のテーブルがあるので、聞いてみた。

「トルトニス様、何か食べます?」
「ふむぉぉ……肉がいいのぉ」
「肉ですね。じゃ、取りますね」
「すまんのぉ……優しいのぉ」

 シエラ様に頼まれてるからな……でもこれ、友達ってか介護みたいだな。
 まぁ別にいいか。俺は肉の皿をトルトニス様の前に置き、フォークを渡す。

「肉、切りますか?」
「頼んでいいかのぉ?」
「もちろん」
「……ね、アシュト。大丈夫?」

 と、ローレライが小声で言う。
 よく見ると、周りの重役や龍人たちは俺たちを見ていた。会話こそちゃんとしているが、視線はこっちを向いている……なんだろうか?
 すると、レヴィがローレライの背後へ。

「おい、あまり世話を焼きすぎるな……後悔するぞ」
「え? どういうことかしら?」
「……まぁ、我々としては構わん、ということだ」
「レヴィ? ね、意味を」

 ローレライたちが何かを喋っている。
 俺は肉を切り分け、フォークをトルトニス様へと渡した。

「どうぞ。小さくカットしたので食べやすいと思いますよ」
「優しいのぉ……本当に、優しいのぉ」
「いやいや、そんな」
「優しい……フフ、優しい子、好きよ?」
「え」

 トルトニス様は一瞬で、金髪の巨乳美人へと変わっていた。
 え、え、え……せ、性別も変わるのかい!? めちゃくちゃ妖艶。ローレライ以上の巨乳が、服からこぼれそうなんですけど!?
 そ、そうか……感情でいろいろ変わるけど、《愛情》を抱くと女になっちゃうのね。

「ね、アシュトくん。アナタのこと、すごく好きになっちゃった……私と、結婚しない?」
「え、いや、その、俺にはもう奥さんいますし」
「フフ、ドラゴンの生は長いの。ちょっとだけ、火遊びしてもいいでしょ?」
「え、遠慮します……」

 すると、ローレライが俺の腕を取った。

「申し訳ございません。トルトニス様……アシュトは、私の物なので」
「わぉ、可愛い。フフ……アツアツで火傷しちゃいそう♪」

 トルトニス様は妖艶に微笑み、俺とローレライに投げキッスした。

 ◇◇◇◇◇

 宴会は夜まで続き、ようやく終わり部屋へ。
 部屋は一室だけ。俺、ローレライ、クララベル、アイオーンの四人で、めちゃくちゃデカいサイズのベッドで寝るようにとのこと……いやこれ、めちゃくちゃ気を使われてるし。俺、そんなつもりないですけど。

「あ、おっぱじめるなら言ってくださいね。うち、ソファにいますんで」
「するか!! そういう気は使うな!!」
「うしし、ざんねん。うちも混ざりたかったのにぃ~……なんちゃって」

 アイオーンは自分の頭をポンと叩いて舌を出した。
 悪いがそんなつもりはない。そもそも、クララベルがおねむの時間だ。

「姉さま……眠いー」
「たくさん食べるからよ。ほら、着替えなさい」
「んー」

 クララベルはドレスを脱いで全裸になり、ローレライが用意した寝間着をモゾモゾ着る。
 着替えが終わると、なぜか俺に抱き着いた。

「お、おい」
「お兄ちゃん、なでて~」
「はいはい。ったく、甘えん坊め」

 ベッドに寝かせ、クララベルを撫でると……五分もしないうちに寝てしまった。

「緊張もあったんでしょうね。気疲れも多かったみたいだし、疲れてたみたい」
「そういうお前は?」
「私は平気。アシュトは?」
「俺も。アイオーンは?」
「ま、ふつーですね。クララベルだけがお子様だべさ」

 俺たちは笑う。
 すると、ドアが控えめにノックされた。
 こんな時間に、しかも寝室に来るとは……誰だろう? 
 俺がドアを開けると、十七歳くらいの金髪少女が、枕を手にペコっと頭を下げた。

「あ、あの……きょ、今日、ここで寝ていいかな?」
「……えっと」
「わ、私……トルトニス」
「え」

 と、トルトニス様かい。
 美女モードから少女モードへ。こっちはすごくびくびくしてる。
 長い金髪、大きかった胸は普通サイズに、身長も縮み、やや気弱な女の子にしか見えない。
 トルトニス様は小さく微笑んだ。

「私、お友達と一緒に、パジャマでおしゃべりしてみたくて……ダメ、かな?」
「…………」

 こっちはなんか可愛いな。
 ってか、どれが本当の《トルトニス様》なんだろう?
 とりあえず部屋に入れて紹介するが、もうローレライたちも驚かなかった。
 ベッドに座り、俺は聞く。

「あの、今日だけでいろんなトルトニス様を見ましたけど……どれが本当のトルトニス様なんですか?」
「へ、変だよね……でも、でもね? みんな《私》なの。私は、私たちで《トルトニス》なの。共通しているのは、みんなシエラ様が大好きってことなの。だからアシュトくんがすっごく羨ましいの……」
「……そう、なんですか」
「ね、アシュトくん。今日いろいろあってびっくりしたと思うけど……私を、私たちを怖がらないでほしいの。私たちみんな、アシュトくんのこと知りたいから」
「俺のこと?」
「うん。シエラ様が気に入った男の子……みんな、知りたいの」
「…………」
「次に会う時は今の私じゃない、別の私だけど……気持ちは同じだから。ね」
「……ああ、そうだね」
「ね、おねがい。友達になろ?」
「ああ、いいよ」

 握手する。
 トルトニス様……龍人の始祖の一人。いろんな人格を持つ、ちょっと変わったドラゴンさん。
 俺の新しい友人として、俺はしっかり握手をするのだった。
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