大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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10巻

10-3

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 えー、そんなこんなで大宴会となりました。
 宴会場にはドラゴン一家、そして、自由参加にしたので村の住人たちが出たり入ったりしている。
 俺はガーランド王にしゃくをし、ローレライたちとの生活について話していた。

「で、孫はまだぶがっふぁ!?」

 孫の話になった途端、ガーランド王はローレライにブッ叩かれた。
 ガーランド王は頭を押さえながらゲラゲラ笑う。

「まぁ結婚してまだ短いし、新婚気分も大事だな!!」
「そうね。お父様、気長にお待ちくださいな」
「お、おう……アシュトくん、ローレライの奴、アルメリアに似てきたぞ」
「あ、あはは」
「聞こえてますよ、お父様?」
「ひっ」

 ローレライはにっこり笑い、ガーランド王に酌をした。
 一方、クララベルはアルメリア様に甘えていた。

「ママ、ゆっくりできるの?」
「ええ。国のことは心配ないわ。久しぶりにあなたたちに会えたからね、ゆっくりしていこうと思うわ」
「やった!! あのね、わたしお菓子作りを習ってるの。ママ、わたしの作ったお菓子食べてくれる?」
「あら嬉しい。ふふ、楽しみにしてるわね」

 クララベル、これでもかと甘えてるな。
 アルメリア様に抱きつくと頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めている。
 まぁ久しぶりに会えたんだし、思いっきり甘えるといい。
 俺は、少し怖かったがフォルテシモ様とレクシオン様に酌をする。
 酒はセントウ酒……村の特産品で、自慢の一品だ。

「ほお、んまいわねぇ~♪」
「確かに。これほど上品な味わいの果実酒、初めてだ」

 フォルテシモ様とレクシオン様はセントウ酒に夢中だ。
 だが急に、フォルテシモ様はにんまり笑う。

「お酒は美味しいけど、あんたのこと認めたわけじゃないからね。うちの可愛い娘を預けるに足る男かどうか、アタシが見極めてやるから」
「は、ははは……」
「フォルテシモ。今はその話はいいだろう。すまんね、少し酔っているようだ」

 レクシオン様は優男やさおとこって感じだ。線が細いイケメンだが、立派なドラゴンなんだよな。
 それよりも気になったのが、隅っこでチビチビ飲んでいるアイオーンだ。
 俺はセントウ酒の瓶を持って彼女の元へ。

「どうも、飲んでる?」
「お構いなく」

 なんというか、クールな感じだよな。
 群青色のロングヘアに知的な眼鏡。なんとなくディアーナに似ている。
 アイオーンは、俺をジッと見た。

「結婚されてるんですよね」
「え、まぁ」
「しかも何人ものお嫁さんが」
「う、うん」
「なるほど……山育ちの私にはわかりませんが、結婚とはどういうものです?」
「え……えーっと、それは俺よりもローレライとかクララベルに……」
「いえ、あなたから聞きたいのです。ドラゴンと人間の交配……どんな感じですか?」
「ちょ!? な、何言ってんだよ!!」

 こ、交配とか……声がデカいっての。

「う、うふふ……うふふふふ」

 酔ったせいか? アイオーンの様子がおかしくなってきた。

「あ、あの」
「異種族の交配めっちゃ興味あるわぁ……あんちゃん、この酒もんめぇし、ここはいいとこだなし」
「え? あの……」
「来てよかっただぁ。っと……失礼。どうやらこの村で学べることが多そうですね」

 なんとなく、ヤバそうな奴だとわかった。
 なまりもすごいし、見た目は学者風なのに底が知れないな。

「アシュトさん。母上との戦い、死なないようにお気を付けくださいね」
「ど、どうも……」

 なんか怖い……それがアイオーンに対する俺の印象だった。


 翌日。シエラ様の準備がまだ整わないようなので、ドラゴン一家に村を案内することにした。
 アイオーンの生活環境を知るのは大事だし、前回ガーランド王たちが来てからだいぶ変わったこともあるからね。
 浴場、図書館、美容店と案内する。

「図書館……素晴らしいですね」
「ああ。これほどの図書館、ドラゴンロード王国にもない」

 アイオーンとレクシオン様が図書館に感動していた。
 図書館内で出したカーフィーも気に入ったようだ。
 フォルテシモ様だけが「何これ苦っ!!」って言って、残りのカーフィーをレクシオン様に飲ませてたけど。

「ここなら勉強ができそうです。いろんなお勉強がね……ふっふふ」

 眼鏡をクイッと上げて笑うアイオーン……なんだこの悪寒は。
 それから農園でブドウを食べたり、クララベルがお菓子を振る舞ったり、ドワーフたちが仕込んだ酒を試飲したり、モグラのブラックモール一族たちが発掘した鉱石を加工してお土産にしたり……ドラゴン一家は村を満喫した。

「ああ楽しい。娘たちとのんびり過ごせるなんて久しぶりだわ」
「ええ。私もクララベルも楽しいです」
「うん!! ママ、パパ、いっぱい遊んでね!!」
「はっはっは!! もちろんだ愛しの娘よ!!」

 そんな風に話すガーランド王一家。
 その時、ローレライがアイオーンの元へ。

「そういえば、きちんと挨拶していなかったわね。私はローレライ、よろしくね」
「よろしくお願いします。どうぞアイオーンとお呼びください」
「そんなに堅くならなくてもいいわ。同じ村に住む友人として接してちょうだい。年も同じだし、いろんなお話ができたら嬉しいわ」
「いろんなお話……ふふふ。私も興味あります」
「あ、姉さまばかりずるいー!! ねぇねぇお姉ちゃんって呼んでいい?」
「もちろん。ふふ、可愛い妹ができて嬉しいわ」

 うーん、微笑ほほえましい。ローレライ、アイオーン、クララベルの、ドラゴン少女たちの会話。

「ちょっとちょっと、あんた」
「はい? っと!?」

 急にフォルテシモ様に肩を組まれた。

「あんた、うちの娘まで狙ってんの? ……うちのアイオーンが欲しけりゃアタシを倒すことね」
「いやいや、いらないです。はい」
「はぁぁ!? あんた、うちの子が不満だっての!?」
「ちち、違います、違いますって!!」

 め、めんどくさいなこの人……
 この人と戦うんだよなぁ……なんか殺されないか不安になるわー。
 戦いとかしたくないけど、どうも逃げられそうにないなぁ。


 ローレライとクララベルの伯母フォルテシモ様との戦いを明日に控え、妻たちが俺の部屋に集まって激励してくれている。
 ついでに黒猫族のルミナも、ソファに座る俺の太ももを枕にして甘えている最中だ。

「アシュト、明日だけど……大丈夫なの?」
「ごろごろ……」
「まぁ大丈夫……だと思う」
「お兄ちゃん、もっとやる気出しなよ」
「だ、出してるって」
「みゃう……」
「お兄ちゃんなら大丈夫!! おば様に負けないでね!!」
「あ、ああ」
「アシュト、怪我だけはしないでね」
「わかってる。ありがとなミュディ」

 エルミナに心配され、シェリーに呆れられ、クララベルに応援され、ミュディに気遣われた。
 その後、エルミナがごろごろしてるルミナを抱き寄せようとしたら引っかかれた。
 ルミナは、名前が一字違いだからって妹扱いするエルミナを苦手に思っているようだ。
 俺がルミナのネコミミを揉み、優しく撫でると尻尾しっぽが揺れる。

「みゃぁん……」

「おば様に力を認められれば今後は安泰ね。今は隠居しているけど、ドラゴンロード王国での発言力はお父様に匹敵するわ。何かあった時に助けになるはずよ」と、ローレライ。

「そ、そうか……今がまさに『何かあった時』だと思うんだが」
「ふふ、そうね」

 とろけるルミナを撫でていると、ミュアちゃんとシルメリアさんがお茶を運んできた。

「む……ルミナが甘えてるー」

 ミュアちゃんは、俺に甘えるルミナを見てムッとするが、お茶を淹れる仕事を優先したようだ。
 シルメリアさん、ミュアちゃんの成長を喜んでいるみたいだ。無表情だけどなんとなくわかる。
 よし、ミュアちゃんもいっぱい撫でてやるか。

「にゃう。ご主人さま、お茶です」
「ありがとう。よしよし」
「にゃう……」

 お茶を受け取り、ミュアちゃんの頭を撫でる。
 ルミナは丸くなったまま気持ちよさそうにしている。一応ルミナのお茶も出されたが、手をつける気はなさそうだ。
 明日、久しぶりに大きな戦いがある。
 最近、気が緩んでたからな……戦いが好きなわけじゃないけど、少しは気を引き締めないと。

「……よし!!」

 俺はお茶を一気に飲み干し、明日に備えて早く寝ることにした。
 ちなみに、この後ルミナとミュアちゃんが俺のベッドにもぐり込んでにゃーにゃー騒ぐことになるとは思わなかった……
 まぁ可愛いからいいや。


 ◇◇◇◇◇◇


 こうして決闘の日。突如として現れたシエラ様に案内された場所は、ドでかい大樹だった。
 でかい、マジででかい……何これ?

「ここが試合会場よ♪ ほらほらこっちこっち」

 ここに来たのは、俺とその妻たち、ウッドとフンババとベヨーテ、ドラゴン一家、デーモンオーガ一家、村の種族代表数名だ。
 催しものではないので、他の住人たちは普通に村で仕事をしている。
 大樹の根元に行くと、つたを絡み合わせて作ったような大きな乗りものがあった。
 全員が乗り込む。

「では、皆様を上にごあんな~い♪」

 楽しそうなシエラ様が指をパチッと鳴らすと、乗りものがゆっくりと上昇……
 何これ、どういう仕組みになってるんだ……?
 全員が驚く中、試合会場に到着した。

「す、すっげぇ……」

 大樹の上は、恐ろしく広かった。
 大きく開かれた円形の空間になっている。日の光がとても明るい。
 周囲の壁は蔦が絡み合ってできた天然の壁だ。これなら下に落ちることもない。
 そして床はとても硬く、太い枝がいくつも合わさってできていた。
 シエラ様はにっこり笑う。

「私が作った特別製の樹木よ。硬いし燃えないし絶対安全♪ そこのデーモンオーガくん、思いっきり床を殴ってくれるかな?」

 ガチムチなデーモンオーガのバルギルドさんにお願いしたシエラ様。

「……手加減できんぞ」
「もちろん♪」

 バルギルドさんは拳を握る。そして、全身全霊の一撃が床を破壊……
 あれ、破壊?

「むっ……」
「と、こんな感じ。もちろん、フォルテシモちゃんがドラゴンに変身しても大丈夫♪」
「むぅ……硬いな」

 バルギルドさんの拳の皮がめくれ、血が出ていた。
 シエラ様がバルギルドさんの手に軽く触れると、傷は消えた……すっげぇ、薬師いらずだ。
 ともあれ、準備は整った……はは、整っちゃった。
「じゃ……やろっか」と、フォルテシモ様。
 やばい。急に怖くなってきた。
 いざとなったらシエラ様やガーランド王が止めるだろうけど……
 ていうか、止めてほしいと祈ってるが、俺って戦いとは無縁むえんの世界で生きてきたからわからん。
 それに最初は少しやる気だったけど、いざとなるとやっぱ怖い!!

『アシュト、オラ、ガンバル!!』
『マカセナ、オレガツイテル』
『ガンバル、ガンバル!!』
「み、みんな……」

 フンババががおーっとうなり、ベヨーテがフッと笑って帽子を持ち上げ、ウッドは楽しげにぴょんぴょん跳ねる。
 やる気だねみんな……し、仕方ない。覚悟を決めるか。
 ちなみに、観客はシエラ様が作った攻撃が届かない特別な席に座った。
 フォルテシモ様は着ていたローブを脱ぎ捨てる……
 その下に着ていたのは、ドラゴンの鱗みたいな胸当てと籠手こて、両足にも似たようなものがくっついている。

「フォルテシモ……『ダイヤモンド・ウェポン』を」
「母上、本気みたいですね」

 そうつぶやくレクシオン様とアイオーン。
 いやいや、『ダイヤモンド・ウェポン』って何? もっとわかりやすく教えてくれよ。

「安心なさい。あなたは魔法師でしょ? 戦うのはそっちの愉快な子たちね」

 ウッドたちを見てそう言うフォルテシモ様。
 フンババが両拳を打ちつけ、ベヨーテが全身から針を出し、ウッドは相変わらずぴょんぴょん跳ねる。
 俺も本と緑龍の杖を握り、手の震えをなんとか抑えた。

「さ、せなさい。ガーランドを倒したあなたの力を確かめてあげるわ!!」

 こうして、俺とフォルテシモ様の戦いが始まった。
 フォルテシモ様は格闘家みたいな構えをしている。
 俺の陣営はフンババが前、ベヨーテがその後ろ、俺を守るようにウッドが立つ。
 作戦は単純。フンババが攻めてベヨーテが援護、ウッドは俺を防御するという戦法だ。
 フォルテシモ様は、以前ガーランド王が俺との対戦で放ったのと同じ闘気を俺に向ける。

「殺す気で来なさい。そうじゃなきゃ意味がないわ」
「え、ええ……はい」

 おいおい、ガーランド王とそっくりすぎだろ。殺す気で来いとか俺には無理!!

『オラ、タタカイ、ヒサシブリ……ガンバル!!』
『エンゴハマカセナ……ネライウツゼ!!』
『ボク、アシュトヲマモル!!』

 みんなやる気満々だよ……もしかして俺だけ場違い?
 とりあえず、杖と本は持ってるけど。

「先手は譲ってあげる。ふふ……来なさい、ボウヤ」
『ウォォォォォォォォーーーッ!!』
「ちょ、フンババ!?」

 フンババが唸りを上げ、フォルテシモ様へ突っ込む。
 同時にベヨーテの全身から鋭い針がジャキッと飛び出し、それを放とうと両腕をフォルテシモ様へ向ける。

『アシュト、カクゴキメナ……アノオジョウサン、ヤルキダゼ!!』
「え……」
『ボク、マモル!!』

 ウッドは両手から根を出し、絡ませ合って壁を作る。
 フンババが拳を握り、フォルテシモ様めがけて振り下ろす。
 フンババの拳が床を直撃。地面が大きく揺れて思わず叫ぶ。

「うおわぁぁっ!?」

 フォルテシモ様は振り下ろされる拳を難なくかわしていた。

「あっはは!! いいパンチじゃない!!」

 あの、なんか戦い方がガチすぎじゃない!?
 さらに……

「おっと!!」
『ッチ』

 躱すフォルテシモ様めがけてベヨーテの針が飛ぶ。
 だがフォルテシモ様は、両手に装備した籠手で針をはじく。
 ベヨーテはフォルテシモ様が躱したタイミング、そしてフンババに意識を向けた瞬間を狙って撃っているのに、それすら躱され弾かれた。

『バケモンメ……アノタイミングデカワスノカヨ!!』
「ふふ、小さいのにすごいじゃない。ていうかアタシ、お嬢さんって年じゃないのよねぇ!!」

 そんな応酬をベヨーテとフォルテシモ様が交わす中……

『ムゥゥッ!?』

 フンババが振り下ろした拳を片手で受け止めたフォルテシモ様。
 そして、拳を思いきりカチ上げ、フンババのがら空きのボディを迷いなくぶん殴る!!

『グゥゥゥゥッ!!』
「フンババ!!」

 フンババの樹木製の身体がけずれた。
 パラパラと木屑きくずが落ちる。だが、俺の魔力ですぐに回復する。

『ッチ……アノジョウチャン、ナンツーパンチシテヤガル……オレモマエニデルゼ!!』
「あ、ベヨーテ!!」
『ウッド、アシュトヲマモンナ!!』
『ワカッタ!!』

 ベヨーテが前に出て針を飛ばしまくる。
 だが、フォルテシモ様は片手を機敏に動かし、針を全て防御した。
 とんでもないバケモノレベルの強さだ。龍人、とんでもない。
 フンババは立ち上がり、再び攻撃開始。
 ベヨーテが前に出たことで、フォルテシモ様との形勢は一対二となった。
 ベヨーテは機敏に動き針を飛ばし、フンババは大振りだが当たれば終わりの拳を振り下ろしまくる。

「いい、いいわね!! 楽しいわぁぁっ!!」

 フォルテシモ様は、笑っていた。
 拳を躱し、針を弾く。全て紙一重、当たれば終わり。
 だが、その状況を楽しんでいた。なんて人だ……
 そして、ついに。

『オォォォォォーーーッ!!』
「む……がっふぁぁっ!?」

 フンババの拳がフォルテシモ様に直撃。
 フォルテシモ様は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
 だが、壁に叩きつけられた瞬間体勢を変え、壁を足場にしてフンババへ急接近。

「痛いなぁぁっ!!」
『グォォォォッ!?』

 思いきり体当たりし、フンババの身体が砕け、右腕が吹っ飛んだ!!
『コノッ』と、悪態をつくベヨーテ。

「オチビちゃんも、チクチクチクチク痛いってのよ!!」
『ッ!?』

 フォルテシモ様はフンババの砕けた右腕を掴み、ベヨーテに向けてぶん投げる。
 ベヨーテは右腕を横っ飛びで躱すが、躱した先にフォルテシモ様がいた。
 巨大なフンババの右腕に隠れて急接近……真の狙いはベヨーテへの直接攻撃。

『ガッハァァッ!?』
「ベヨーテ!!」

 ベヨーテが蹴り飛ばされ、右腕と足が吹っ飛んだ。
 だがフンババとベヨーテは立ち上がる。俺の魔力で肉体の損傷が修復される。

「……なら、動けなくなるまでぶっ叩く!!」

 修復される光景を見たフォルテシモ様の攻撃が、激しさを増す。
 フンババとベヨーテは、いつの間にか防戦一方となっていた。
 攻撃を躱され、攻撃の隙を見抜かれダメージを負う。
 フォルテシモ様の動きがいつの間にかどんどんよくなっている。間違いない、動きが読まれている。

「つ、強い……!!」

 俺は杖を握り、汗を流していた。


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