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いっぱいの飴玉

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「マジで!?」
「まあぁ……」

 討滅城から戻ったエレノアたちは、騎士団の天幕で出迎えたララベルとロセを大いに驚かせた。何故なら、二回目のダンジョン挑戦でまさかクリアするなんて欠片も思っていなかったからである。
 しかも、聖剣の第三形態まで獲得し、さらにさらに『公爵級』まで討伐した。
 大金星どころではない。魔族に大ダメージを与えたといっても過言ではない。

「公爵級……ロセ、どう思う?」
「戦ったことは一度だけありますけど……あの時は、辛うじて逃げられたわ」
「アタシも。ね、マジなの?」
「はい、公爵級を倒しました」

 サリオスは力強く頷いた。
 笑ってはいたが、すぐに怪訝な表情になる。

「でも、妙でした。オレたちの前に、すでに『八咫烏』がいて……最初は、公爵級の仲間かと思ったんですけど、オレたちが戦い始めるとすぐにいなくなったんです。そのあと、公爵級と戦って……奴がオレたちにトドメを刺そうとしたら、急に身体が軽くなって……奴は、何かに驚いてるようでした。その隙に、倒すことができたんです」
「…………」

 サリオスの話に、エレノアが口を開きかけ、すぐに閉じた。
 ロセは首を傾げ、ララベルは「んー?」と眉を潜める。

「とりあえず、今日はここまでにしましょうか。ダンジョンもクリアできたし、生徒たちも疲れてるみたいだし……ね?」

 天幕の外では、ダンジョンに入った生徒たちが食事をしている。
 食事というか、宴会だ。それぞれダンジョン内での武勇伝を語っている。

「オレ、初めて魔獣倒したんだ。なぁユイカ、見せたかったぜ!!」
「はいはい。あたしも倒したけど、そんないいもんじゃなかったわ……それより、熱いお風呂入ってのんびりしたいわ~」

 オルカが興奮しながら、増員メンバーとして入ったユイカに語っている。
 他にも、一年生や二年生たちが興奮しながら話をしている。
 そんな様子を眺めながら、エレノアは背伸びした。

「確かに、疲れたわ……あの、もう終わったなら、帰っていいんですよね?」
「ええ。聖剣騎士団が馬車を手配するから」
「わたしも帰る」
「じゃあオレは……」
「あ。サリオスくん、もう少し報告を聞きたいから、お姉さんと一緒に帰らない?」
「あ……は、はい!!」
「ふっふっふ……ロセ、アタシはどうしよっか?」
「好きになさい」
「はいはい。野暮なことしないわ。エレノアたちと帰るから───お、始まったわね」

 すると、『討滅城』が崩壊を始めた。
 光の粒子となり、パラパラと崩れて消えて行く。
 この光景を、生徒たち、騎士団、サリオスたちは最後まで眺めていた。

 ◇◇◇◇◇

 一方、ロイは。
 クリスベノワ討伐後、隠し通路から脱出。天幕を迂回し、城下町まで戻った。
 そして、あのボロい湯屋へ。
 服を脱ぎ、身体を洗い、湯船に浸かる。

「……っはぁ」

 怖気が止まらなかった。
 『色欲』による影響のせいだろう。

『大丈夫か?』
「……なんだよ、あの『色欲』の力……気持ち悪い」
『お前の使った『全てを君に捧げたいクレイジー・エレジー』は、クリスベノワに撃った矢を中継して、お前と繋がったような状態だったからな。クリスベノワが使う魔法、能力など全てをお前が受ける。クリスベノワは魔法や能力を使った実感はあるが、それが行使されていないように感じていた。つまり、何もできないただの魔族というわけだな。ククク、姿を見せずに使えば無敵だ。まぁ、全ての力がお前に向けられるが』
「……最悪だ」
『今回はたまたま上手くいった。あいつの使った『制限』が、お前になんの影響もない力だったことは奇跡だ。もし奴がこのカラクリに気付けば、迷わず自分に即死魔法をかけてお前を殺していた』
「もう二度とこれは使わない……」
『そう言うな。使いどころは難しいが、なかなかに使えるぞ』
「…………」

 ロイは湯を掬い、顔をバシャバシャ洗う。
 
「なぁ、この『色欲』って、もしかして」
『これは「愛」の力だ。矢を刺した相手なら……察しの通りだ』
「…………残酷」
『だから、使いどころを間違えるなよ?』

 『色欲』
 これは、『暴食』のような直接的な攻撃手段ではない。
 だが……ロイの想像通りなら、ロイにとっては危険で、嫌な力だった。

「魔王の力、ってことにしておく」
『それは光栄』
「ふぃぃ……とりあえずもう『色欲』はいいや。それより、これで四人の侯爵級と、側近の公爵級を倒した。残りは魔王だけど……本当に動くのか?」
『恐らくな。まぁ、パレットアイズの『手番』が終わる可能性もある。それより、用心しておけ。パレットアイズが出てこないと、次はトリステッツァの手番だ。奴の手番は最悪だぞ? お前も聞いたことがあるだろう……』
「……ああ」

 『嘆きの魔王』と呼ばれる、悲しみに包まれた魔王。
 ロイは、手拭いで顔を拭う。

「とりあえず、今日はもう寝たいな……すごく疲れ「あーっ!!」……え」

 振り返るとそこには、エレノアとユノ、ララベルがいた。

「ぅぅ~……やっぱりいた。ってかユノ、隠しなさい!!」
「んぁ」
「あ!! 女神の聖木!! ね、これ入れていい?」
「ブッ!?」

 エレノアはガッチリとバスタオルで身体を隠していた。
 ユノは腰に手拭いを撒いているだけで胸は無防備。エレノアに背後から抱きつかれ、脇の下から出した手で胸を覆われる。
 ララベルは、手拭いを肩にかけ、ユノ以上に無防備な姿をロイに晒す。
 そして、壁にかけてあるデスゲイズを勝手に掴み、湯船にドボンと入れた。

『ぬぁぁ!? ここ、このエルフ、何をする!?』
「ん~、やっと効果を試せるわぁ~」
「あ、あの、ララベル先輩!? なな、かか、はは、裸で」
「生まれる時はみんな裸でしょ。お、な~んかスベスベしてきたかも」
「ロイ!! ララベル先輩から離れなさいっ!!」
「わわ、わかった!! ってかエレノア、なんでここ来るんだよ!? しかも俺が入っている時狙って!! この湯屋の前にもっとデカい湯屋あっただろうが!?」
「違うし!! ぐ、偶然よ!! ユノがスタスタ入って行くからここになっただけで」
「ロイ、そっち行っていい?」
「駄目よ!! ユノ、身体洗わないと。ララベル先輩も身体洗って!!」
「アタシはいいわ。ほらほらこれ、なんか出てきた」
『こ、このエルフ……く、喰ってやろうか!?』
「だだ、駄目だ!! おいやめろ!!」
「ん? ちょっと待ってよ、まだちゃんと効能試してないし」

 こうして、浴場はララベルたちの登場で一気に騒がしくなった。

 ◇◇◇◇◇

 風呂から上がり、腹が減ったとララベルが言うので、湯屋の近くにあった大衆食堂へ。
 ロイはフルーツゼリー、エレノアはショートケーキ、ユノはジャンボパフェ、ララベルは巨大ステーキを注文。品物が届くなり、ララベルは豪快に口を開け、肉にかぶりついた。

「う~んまっ!! ね、ところでさ、第三形態になったんだっけ?」
「は、はい。あの……食べてからで」

 エレノアが言うと、ララベルは肉を咀嚼して飲みこむ。

「はぁ~お肉最高。で、第三形態」
「はい。ダンジョンの中で獲得しました」
「早いわねー……アタシとロセが第三形態になったの、聖剣を手に入れて半年後くらいよ?」
「そうなんですか?」
「うまうま」
「ユノ、口にクリーム付いてるぞ」
「拭ってー」
「えぇ? ったく……ほら」
「ん」

 ユノの世話を焼くロイに、エレノアはちょっとだけムスッとした。
 だが、ララベルは続ける。

「聖剣の形態は六つあるの。アタシは五つ、ロセも五つまで覚醒してる。六つめの覚醒までもう少しね」
「む、六つもあるんですか……先は長いかも」
「それに、『能力』もあるわ。『魔法』だって覚えられる。それと───最後」
「……最後?」
「ええ。七聖剣の最終形態……初代の七聖剣士のみ使えたらしいんだけどね」
「……それって、どんな?」
「わかんない。そういう話があるだけ」
「は、はあ……」

 ちょっとガクッときたエレノアだった。
 ユノはパフェを完食。満足していないのか、ロイのフルーツゼリーをジッと見ている。ロイはどこか食べにくそうにしていた。
 
「とりあえず、アタシも学園に戻ったし、ロセと一緒に鍛えてあげる。『風』と『雷』の二人も呼び戻して、七聖剣士で訓練もしたいわね」
「あ、それいいですね!」
「……あの、ユノ、ジッと見られると喰いにくい」
「ひとくちちょうだい」
「え……」

 こうして、楽しい食事の時間が過ぎていった。

 ◇◇◇◇◇

 食事を終え、寮に戻ろうと四人で歩きだした時だった。

「───あいてっ」

 ロイの頭に、何かがコツンと当たったのだ。
 
「いてて……なんだよ、一体」

 自分の頭に当たった何かを拾いあげる。
 それは、紙に包まれた一口キャンディだった。

「飴? なんで頭にこんなのが」
「ロイ、何してんのよ」
「あ、エレノア。いや、頭に飴が」
「雨? 降ってないけど」
「いや、飴だよ、あ

 次の瞬間、空から大量の『飴』が降って来た。

「───……は? あいでっ!? いででっ!? な、なんだこれ!?」
「あ、飴玉!? いたた、痛いっ!!」
「いたたたっ!? なになに、なんかのイベント!?」
「わぁ、飴玉」

 紙に包まれた飴玉が、大量に降って来たのだ。
 ロイたちは慌てて近くの木の下へ。
 意味のわからない現象に、ロイは首を傾げ───……。

『来たか』

 デスゲイズが、どこか待っていたかのように言う。

『来たぞ、ロイ───……パレットアイズだ』
「えっ」

 ロイは、知ることになる。
 魔王の、真の力を。
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