66 / 182
夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ⑤/作戦
しおりを挟む
ロイは、サリオスとユノを連れて城下町を走っていた。
今は、七聖剣士の力───少なくとも、ララベルの力が必要だった。
なので、ララベルの『声』が聞こえる方に向かって走る。
『ユノ、ララベル先輩はどこに?』
「わかんない」
『殿下は?』
「オレもわからない。ララベル先輩は、ロセ先輩の指示を受けてすぐに行ってしまったからな」
『愛』の矢を受けたユノとサリオスに、ロイは普通に接していた。
今、この状態の二人は、後に記憶が無くなる。そういう力なのである。
正直、ロイはこの『色欲』の力を使いたくはない。そう考えていた。
そう思いながら走っていると、見つけた。
『あーもう!! だからお菓子食うなって言ってんでしょ!? いい、これはイベントじゃないの、魔族の攻撃なの!! わかったら家に入ってなさい!!』
いた。
お菓子を拾う子供に怒鳴り、子供たちが反撃にとお菓子をララベルに投げつけている。額にキャンディがコツンと当たったララベルは子供たちを追い回すようにキレていた。
『……何してんだあの人』
「ん? あ、アンタ!! 八咫烏!! って、サリオスくんにユノ、何してんの!?」
「ララベル先輩。こいつは敵じゃありません。お願いします、話を聞いてください」
「わたしからもお願い」
「えー……」
ペコっと頭を下げた二人。ララベルは「まぁ、いいか」と言って傍に来た。
「で、どういう状況?」
『簡潔に。これは魔界貴族じゃない、『快楽の魔王』が、トラビア王国に仕掛けた大規模な魔法だ』
「……マジ?」
『ああ。『魔王聖域』っていう、魔王だけが展開できる疑似空間だ。今、快楽の魔王はトラビア王国の上空にいる。今なら、手が届く───」
と、ロイは矢を一瞬で番え放つ。
ギョッとするララベル。矢はララベルの顔の横を通り、後ろに音もなく迫っていた『氷菓子のトラ』に命中し、粉々に砕いた。
「びび、ビックリした……な、なにこれ? 氷菓子?」
『来るぞ』
「!!」
すると、路地裏やお菓子の家の屋根に、同じような氷菓子の獣が大群で現れた。
これには、住人たちも一気に逃げ惑う。
「あーもう、これが本性ってわけ? サリオスくん、ユノ、やるわよ」
「はい!!」
「ん」
「アンタは……?」
『俺は援護する。前衛は苦手なんでね』
「ん、じゃあやるわよ!!」
襲い掛かる氷菓子の獣を、ロイたちは迎え撃った。
◇◇◇◇◇
一方、エレノアとロセは───大苦戦していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「エレノアちゃん、下がって!!」
「くっ……」
『フハハハハハっ!! 無様なり、邪悪なる剣士!!』
突如として現れたのは、透明な水色に輝く『金剛騎士』だ。
黄金騎士の上位互換なのか、剣術は全て躱し、いなされ、熱線砲も無効化する強靭な鎧装備。そして剣術はエレノアよりも格上で、受けるので精一杯だ。
前衛をロセと変わり、エレノアは呼吸を整える。
「ああもう、何よこいつ……ッ」
エレノアは歯を食いしばる。
片手斧形態で戦うロセ。金剛騎士は嬉しそうに叫んだ。
『貴様のが強いな!! クハハハッ、楽しいぞ!!』
「私はぜ~んぜん、楽しくないですけど───ねっ!!」
『むっ!?』
地面が砕かれ、礫が金剛騎士を叩く。
ロセは『大地干渉』を使い、金剛騎士の足元を泥化。足が沈んだ瞬間に地面を固め、素早く斧を大斧に変形させ跳躍、振りかぶった。
『ぬぅ、貴様!!』
「『地帝』!!」
金剛騎士は剣を頭上で構え、防御姿勢を取る。
そして、ロセの大斧が全力で振り下ろされた。
「『インパクト』!!」
金剛騎士の剣が砕け、頭から股間にかけて一刀両断。金剛騎士は真っ二つになり消滅した。
この結果を、エレノアは茫然と見ていた。
「す、すごい……」
「ふぅ、なかなかでした」
「ろ、ロセ先輩……っすごいです!!」
「ふふ、ありがとね~」
ニコニコと、いつもの優し気な笑みを浮かべる。
エレノアはロセと合流し、気付いた。
「あ!! 変な着ぐるみ連中がいない!!」
「あらあら、戦ってる間に逃げちゃいましたねぇ」
「探しましょう!!」
「ええ、そうねぇ」
ロセとエレノアは、パレード隊を探すために走り出した。
◇◇◇◇◇
エレノアとロセが走り出して数分後。
城下町のほぼ中心地。住人たちの憩いの場である『トラビア大公園』で、ロイたちと合流した。
「殿下、ユノ!! あれ……っ、ぁ、八咫烏!!」
「ララベル、あなたも……」
「あ、ロセにエレノア!! おーい!!」
公園の中心に植えられている大樹の下で、ロイを含めた七聖剣士は集まった。
ロセは、八咫烏をジッと見る。
「あなた、八咫烏ですね? どうしてここに?」
『…………』
「あー、ロセ先輩。それより、ララベル先輩たちの話を!!」
エレノアがフォローに入る。
すると、八咫烏の背からララベルがにゅっと現れて言った。
「じゃあアタシから。八咫烏によると、この事態は魔界貴族じゃなくて、魔王の仕業らしいわ。で……八咫烏なら、魔王を引きずり出せるかもしれないって」
「……え」
「ま、魔王って……ほんとなの? っ」
エレノアの口が何かを言おうとするが、声が出ない。
エレノアは、ついつい八咫烏のことを『ロイ』と呼び、呪いによって声が出なくなっている。呪いをかけて正解だなと、ロイは思っていた。
「待って。魔王ですって?……仮に本当だとしても、どうするの?」
「は? どうするって?」
「ララベル……あなた、魔王と戦うつもり?」
「そりゃ、まあ」
「無理よ。七聖剣士が揃っていない今の状況では、魔王にちょっかいを出すのは自殺行為。仮に、七聖剣士が揃っていても……魔界貴族にすら手こずる私たちじゃ、魔王を倒せるわけがないわ」
「そんなの、やってみないとわかんないじゃん!!」
「おばか。そんな賭けには乗れないわ。それに、もし私たちが死んだらどうするの?」
「ど、どうするって」
「私たちは、数百年ぶりにそろった七聖剣士なのよ? 全員が限界まで強くなって、魔王と対等に戦えるようになるまで、決して無理はしちゃいけない」
「…………」
いつになく真面目なロセ。
ララベルも、何も言い返せない。
だが、サリオスは違った。
「でも、先輩……この状況、魔王の仕業なら、何とかしなくちゃいけません!!」
「それは、わかっているけど……」
「オレ、弱いです。先輩にも、ララベル先輩にも勝てません。でも……光聖剣サザーランドに選ばれた聖剣士としての使命は、果たします」
「……え?」
「逃げちゃいけない。オレ、今この瞬間、魔王から逃げたら……たとえ聖剣を完璧に使いこなしても、今よりずっと強くなっても、魔王には勝てないと思います!!」
「……サリオスくん」
「倒さなくていい。この状況を打開できればいい。その可能性があるなら、魔王に挑むべきだと思います!!」
「…………」
サリオスの真っ直ぐな意見に、ロセが考えこむ。
そして、エレノアとユノも。
「殿下に全部言われちゃったわね」
「うん」
「あなたたち……」
「ロセ先輩、あたしとユノも同じ意見です。このまま魔王にやられっぱなしは、悔しいです」
「同意」
ユノはウンウン頷く。
ララベルはロセの肩をポンと叩いた。
「負けたわね。やっぱり、アタシも同じ意見」
「ララベル……」
「やりましょ。『雷』と『闇』がなくても、この状況を打破するくらいなら、なんとかなるわ。ね、八咫烏!!」
『……ああ』
「……わかりました」
ロセはため息を吐いて頷く。
そして、八咫烏に向かって、これまでにないくらい真剣な声で言った。
「八咫烏。あなたが何者か知りませんし、あなたの情報を全て鵜のみにして行動するのもリスクがあると私は思っています……でも、今はあなたを信じます」
『…………』
「あなたの考えを」
『わかった』
八咫烏は、聖剣士たちに『作戦』を伝えた。
それは、この状況を打破する作戦ではない。
その作戦は、パレットアイズを『撃破』する作戦だった。
今は、七聖剣士の力───少なくとも、ララベルの力が必要だった。
なので、ララベルの『声』が聞こえる方に向かって走る。
『ユノ、ララベル先輩はどこに?』
「わかんない」
『殿下は?』
「オレもわからない。ララベル先輩は、ロセ先輩の指示を受けてすぐに行ってしまったからな」
『愛』の矢を受けたユノとサリオスに、ロイは普通に接していた。
今、この状態の二人は、後に記憶が無くなる。そういう力なのである。
正直、ロイはこの『色欲』の力を使いたくはない。そう考えていた。
そう思いながら走っていると、見つけた。
『あーもう!! だからお菓子食うなって言ってんでしょ!? いい、これはイベントじゃないの、魔族の攻撃なの!! わかったら家に入ってなさい!!』
いた。
お菓子を拾う子供に怒鳴り、子供たちが反撃にとお菓子をララベルに投げつけている。額にキャンディがコツンと当たったララベルは子供たちを追い回すようにキレていた。
『……何してんだあの人』
「ん? あ、アンタ!! 八咫烏!! って、サリオスくんにユノ、何してんの!?」
「ララベル先輩。こいつは敵じゃありません。お願いします、話を聞いてください」
「わたしからもお願い」
「えー……」
ペコっと頭を下げた二人。ララベルは「まぁ、いいか」と言って傍に来た。
「で、どういう状況?」
『簡潔に。これは魔界貴族じゃない、『快楽の魔王』が、トラビア王国に仕掛けた大規模な魔法だ』
「……マジ?」
『ああ。『魔王聖域』っていう、魔王だけが展開できる疑似空間だ。今、快楽の魔王はトラビア王国の上空にいる。今なら、手が届く───」
と、ロイは矢を一瞬で番え放つ。
ギョッとするララベル。矢はララベルの顔の横を通り、後ろに音もなく迫っていた『氷菓子のトラ』に命中し、粉々に砕いた。
「びび、ビックリした……な、なにこれ? 氷菓子?」
『来るぞ』
「!!」
すると、路地裏やお菓子の家の屋根に、同じような氷菓子の獣が大群で現れた。
これには、住人たちも一気に逃げ惑う。
「あーもう、これが本性ってわけ? サリオスくん、ユノ、やるわよ」
「はい!!」
「ん」
「アンタは……?」
『俺は援護する。前衛は苦手なんでね』
「ん、じゃあやるわよ!!」
襲い掛かる氷菓子の獣を、ロイたちは迎え撃った。
◇◇◇◇◇
一方、エレノアとロセは───大苦戦していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「エレノアちゃん、下がって!!」
「くっ……」
『フハハハハハっ!! 無様なり、邪悪なる剣士!!』
突如として現れたのは、透明な水色に輝く『金剛騎士』だ。
黄金騎士の上位互換なのか、剣術は全て躱し、いなされ、熱線砲も無効化する強靭な鎧装備。そして剣術はエレノアよりも格上で、受けるので精一杯だ。
前衛をロセと変わり、エレノアは呼吸を整える。
「ああもう、何よこいつ……ッ」
エレノアは歯を食いしばる。
片手斧形態で戦うロセ。金剛騎士は嬉しそうに叫んだ。
『貴様のが強いな!! クハハハッ、楽しいぞ!!』
「私はぜ~んぜん、楽しくないですけど───ねっ!!」
『むっ!?』
地面が砕かれ、礫が金剛騎士を叩く。
ロセは『大地干渉』を使い、金剛騎士の足元を泥化。足が沈んだ瞬間に地面を固め、素早く斧を大斧に変形させ跳躍、振りかぶった。
『ぬぅ、貴様!!』
「『地帝』!!」
金剛騎士は剣を頭上で構え、防御姿勢を取る。
そして、ロセの大斧が全力で振り下ろされた。
「『インパクト』!!」
金剛騎士の剣が砕け、頭から股間にかけて一刀両断。金剛騎士は真っ二つになり消滅した。
この結果を、エレノアは茫然と見ていた。
「す、すごい……」
「ふぅ、なかなかでした」
「ろ、ロセ先輩……っすごいです!!」
「ふふ、ありがとね~」
ニコニコと、いつもの優し気な笑みを浮かべる。
エレノアはロセと合流し、気付いた。
「あ!! 変な着ぐるみ連中がいない!!」
「あらあら、戦ってる間に逃げちゃいましたねぇ」
「探しましょう!!」
「ええ、そうねぇ」
ロセとエレノアは、パレード隊を探すために走り出した。
◇◇◇◇◇
エレノアとロセが走り出して数分後。
城下町のほぼ中心地。住人たちの憩いの場である『トラビア大公園』で、ロイたちと合流した。
「殿下、ユノ!! あれ……っ、ぁ、八咫烏!!」
「ララベル、あなたも……」
「あ、ロセにエレノア!! おーい!!」
公園の中心に植えられている大樹の下で、ロイを含めた七聖剣士は集まった。
ロセは、八咫烏をジッと見る。
「あなた、八咫烏ですね? どうしてここに?」
『…………』
「あー、ロセ先輩。それより、ララベル先輩たちの話を!!」
エレノアがフォローに入る。
すると、八咫烏の背からララベルがにゅっと現れて言った。
「じゃあアタシから。八咫烏によると、この事態は魔界貴族じゃなくて、魔王の仕業らしいわ。で……八咫烏なら、魔王を引きずり出せるかもしれないって」
「……え」
「ま、魔王って……ほんとなの? っ」
エレノアの口が何かを言おうとするが、声が出ない。
エレノアは、ついつい八咫烏のことを『ロイ』と呼び、呪いによって声が出なくなっている。呪いをかけて正解だなと、ロイは思っていた。
「待って。魔王ですって?……仮に本当だとしても、どうするの?」
「は? どうするって?」
「ララベル……あなた、魔王と戦うつもり?」
「そりゃ、まあ」
「無理よ。七聖剣士が揃っていない今の状況では、魔王にちょっかいを出すのは自殺行為。仮に、七聖剣士が揃っていても……魔界貴族にすら手こずる私たちじゃ、魔王を倒せるわけがないわ」
「そんなの、やってみないとわかんないじゃん!!」
「おばか。そんな賭けには乗れないわ。それに、もし私たちが死んだらどうするの?」
「ど、どうするって」
「私たちは、数百年ぶりにそろった七聖剣士なのよ? 全員が限界まで強くなって、魔王と対等に戦えるようになるまで、決して無理はしちゃいけない」
「…………」
いつになく真面目なロセ。
ララベルも、何も言い返せない。
だが、サリオスは違った。
「でも、先輩……この状況、魔王の仕業なら、何とかしなくちゃいけません!!」
「それは、わかっているけど……」
「オレ、弱いです。先輩にも、ララベル先輩にも勝てません。でも……光聖剣サザーランドに選ばれた聖剣士としての使命は、果たします」
「……え?」
「逃げちゃいけない。オレ、今この瞬間、魔王から逃げたら……たとえ聖剣を完璧に使いこなしても、今よりずっと強くなっても、魔王には勝てないと思います!!」
「……サリオスくん」
「倒さなくていい。この状況を打開できればいい。その可能性があるなら、魔王に挑むべきだと思います!!」
「…………」
サリオスの真っ直ぐな意見に、ロセが考えこむ。
そして、エレノアとユノも。
「殿下に全部言われちゃったわね」
「うん」
「あなたたち……」
「ロセ先輩、あたしとユノも同じ意見です。このまま魔王にやられっぱなしは、悔しいです」
「同意」
ユノはウンウン頷く。
ララベルはロセの肩をポンと叩いた。
「負けたわね。やっぱり、アタシも同じ意見」
「ララベル……」
「やりましょ。『雷』と『闇』がなくても、この状況を打破するくらいなら、なんとかなるわ。ね、八咫烏!!」
『……ああ』
「……わかりました」
ロセはため息を吐いて頷く。
そして、八咫烏に向かって、これまでにないくらい真剣な声で言った。
「八咫烏。あなたが何者か知りませんし、あなたの情報を全て鵜のみにして行動するのもリスクがあると私は思っています……でも、今はあなたを信じます」
『…………』
「あなたの考えを」
『わかった』
八咫烏は、聖剣士たちに『作戦』を伝えた。
それは、この状況を打破する作戦ではない。
その作戦は、パレットアイズを『撃破』する作戦だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
355
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる