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夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ④/黄金騎士

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 騎士は、大したことがなかった。
 エレノアのバーナーブレードで両断すると、騎士はお菓子に戻ってしまった。
 ロセも騎士を一刀両断。残ったのは砕けたチョコだった。

「お菓子……なるほど、人や魔族ではない、ってことねぇ」
「そっちの着ぐるみもかな? ロセ先輩、もう一気に倒した方が」
「……そうねぇ。このパレード、終わらせた方がいいかも」

 炎聖剣フェニキア、地聖剣ギャラハッドを構えるエレノアとロセに、着ぐるみたちがガタガタ震え出す。すると、町の子供たちが叫んだ。

「着ぐるみさんを苛めるなーっ!!」
「そうだそうだ!!」「悪い奴、あっちいけーっ!!」
「え……ちょ、待った!! あのね、悪いのはこいつらで」

 と、エレノアが弁解する。
 ロセは苦笑い。確かにどう見ても、怯える着ぐるみを苛める剣士にしか見えない。
 そして、ロセは気付いた。

「───……エレノアちゃん、上!!」
「えっ、っわぁぁぁぁ!?」

 何かが落ちて来た。
 それは、身長二メートルほどの、騎士。
 だが、今まで倒した騎士とは違う。甲冑が黄金で、両手に剣を持っていた。
 黄金騎士は双剣を構え、エレノアとロセに突きつける。
 黄金騎士の登場に、ギャラリーたちは大興奮だ。未だにこの状況をイベントと勘違いしているようで、ロセは頭が痛くなる。

『我が名は黄金騎士!! 悪しき剣士どもめ、わが剣の錆にしてくれる!!』
「しゃ、喋った……!? ってか、なにが悪しき剣士よ!! 悪いのはあんたらでしょうが!!」
『黙れ!! これ以上、罪なき者たちを傷つけさせはしない!! みんな、みんなの応援が我の力になる。精一杯の応援を頼む!!』
「「「「「がんばれ、黄金騎士ぃぃぃっ!!」」」」」
「え、ちょ、マジで?」
「あららぁ~……もう、こちらが悪人ですねぇ」

 しかも、ギャラリーはどんどん増えている。
 蟲人間たちは着実に増えているし、パレードやお菓子の効果なのか、住人たちは未だにお菓子を食べながらこの『ショー』を楽しんでいる。

「ララベルの声は聞こえているはずなのに……ちょっと、マズいかもねぇ~」
「先輩、どうしましょう……」
「とりあえず……この状況を、乗り切りましょうか」

 ロセは大斧の柄を短くし、両刃状態を折りたたみ、片刃の斧に変えた。
 片手でも扱いやすい『短斧ショートアックス』形態だ。エレノアはバーナーブレードを展開し、黄金騎士に向ける。

『いくぞ、悪しき剣士!!』
「うっさいわね!!」
「エレノアちゃん、挑発に乗っちゃダメよ~」

 エレノアとロセvs黄金騎士の戦いが始まった。

 ◇◇◇◇◇

 エレノアとロセは同時に飛び出し、右と左から黄金騎士に斬りかかる。

「『灼炎楼しゃくえんろう一閃いっせん』!!」
「『地帝ドワーフクラッシュ』!!」

 鋭いバーナーブレードに斬撃と、ドワーフの力任せの重い一撃。
 だが、黄金騎士は左右の手に持った黄金の剣で、二人の一撃を完全に止めた。
 
『なかなかだ。だが、甘い!!』
「あんたいちいちうっさいのよ!! 『灼炎楼しゃくえんろう二咬刃にこうじん』!!」

 ロセは距離を取ったが、エレノアは二連撃の袈裟斬りを繰り出した。が、黄金騎士は双剣で防御。
 それでもエレノアは攻撃を続ける。

「『三尖刀さんせんとう』!!」

 一刀両断からの打ち上げ、そして再び一刀両断の三連斬りは、容易く受けられた。

「『四扇散獄しせんさんごく』!!」

 上下左右の連続斬りは、剣で受けられ躱され、流された。

「『五舞迅ごまいじん』!!」

 流れるような五連斬りは、剣で受けることなく躱された。

「『六歌仙ろっかせん』!!」
 
 力任せの六連斬りも、全て受け流された。

「『七『もうよい』───っぐ!?」

 黄金騎士が深く踏み込み、エレノアの技の出だしを潰した。
 黄金騎士の双剣による連撃をエレノアは躱し、受ける。
 ギンギンギンと剣と剣がぶつかり合う音に、観客たちは大興奮していた。

「エレノアちゃん!!」
「!!」

 エレノアはロセの叫びで横っ飛び、すると、斧を大斧に戻したロセが斧を真横に振りかぶっていた。
 そして、その小さな身体に合わない豪快なスイングで地面を叩く。

「『地帝ドワーフ』!!」

 地面に亀裂が入る。
 豪快な技に、エレノアは「うっそ!?」と呟いた。

「『スマッシュ』!!」

 地割れが一直線に黄金騎士へ進む。
 ただ地面を割っただけではこうならない。さすがの黄金騎士も『チィッ』と舌打ちし、跳躍して地割れを躱す───……が、空中に飛んだのは悪手だった。
 エレノアが『熱線砲』形態にした炎聖剣フェニキアを構えている。
 すでに炎を溜め終わったのか、狙いを付けていた。

「終わりよ」
『ぬっ……!?』
「『#灼炎楼・烈火砲れっかほう』!!」

 圧縮された炎の波動が、黄金騎士を包み込み……完全に消滅した。
 残ったのは、ドロドロに溶けた剣の一部だけ。それがエレノアたちの前に落ちて来た。

「お、終わった……あー疲れた」
「お疲れ様、エレノアちゃん」
「先輩もお疲れです。あの、先輩の技、すごかったです」
「ありがとう。あれ、この『地聖剣』の能力を応用した技なの。この子の能力は『大地干渉』で、この子が触れた地面は、地面に限りどんなこともできるのよ。地割れを作ったりするのは簡単なの~」
「能力……」

 聖剣には、属性と固有の能力がある。
 地聖剣の能力は『大地干渉』で、地聖剣が触れた地面を操作できる。地割れを起こすのはもちろん、その地割れを操作したり、地面を砂や泥に変えるのも難しくないとのことだ。

「…………」
「大丈夫。エレノアちゃんもすぐに目覚めるから」
「あ、はい」

 炎聖剣フェニキアをジッと見ていたのに気づき、ロセはそっとエレノアの肩を叩いた。

「さ、次は……あの子たちを何とかしましょうか」

 ロセは、震えるキャラクターたちを見て、にっこりと黒く微笑んだ。

 ◇◇◇◇◇

 上空にて。パレットアイズはケラケラ笑っていた。

「あっはっは! 黄金騎士、負けてるじゃん! まあ、雑魚だし別にいいけどね~」

 お菓子をモグモグ食べ、スコープバットから送られてくる映像を見て笑う。
 『|魔王聖域__アビス__#』内では、パレットアイズが絶対の存在。たとえ他の魔王でも、魔王が展開した領域内に踏み込むことはできず、干渉もできない。中で何が起きているかはわからない。
 だからこそ、パレットアイズは自由だ。

「さーて、お菓子人間は……んー、風の聖剣士が頑張ってるわ。こいつにはオモチャを送って、炎と地の聖剣士には、黄金騎士よりも強いの送って~……んん?」

 パレットアイズは気付いた。
 光と氷の聖剣士。この二人にも《オモチャ》を送ろうとしたのだが、どうやら二人は別の人間と一緒に行動をしているようだ。

「なにこの黒いの───……ああ、『八咫烏』だっけ? そういや、こいつのこと何も知らないわ。人間だし、聖剣士なのかな? 弓持ってるけど……へんなの」

 飴を転がしながら、パレットアイズは欠伸をする。

「ま、いいや。とりあえず『遊び』だし、トラビア王国の人口半分くらいにしたら終わろっと。滅ぼすの簡単だけど、後々つまんなくなるしね~……ああでも、次の手番はトリステッツァかぁ。あいつ、陰湿だし……半分はやめとこっかなぁ。でも、バビスチェの手番になれば『増える』し、いいかなぁ」

 ブツブツ呟きながら、チョコ菓子を口に入れる。
 パレットアイズは、遊んでいた。
 だからこそ───……チャンスだった。
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