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夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ③/望まぬ愛
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「ちょぉぉっと待ったぁぁ!!」
エレノア、ロセの二人は、町を練り歩くパレード隊の進行を止めるように前へ出た。
いきなり現れた女子二人に、パレードは止まる。そして、パレードを楽しんでいた住人たちが「なんだなんだ?」という風にエレノアたちを見た。
「あんたら、何者? なんで踊ってるの? なんで動物みたいな恰好してるの?」
『『『『『…………』』』』』
着ぐるみたちは全員首を傾げる。
エレノアは、ビシッと指を突きつけた。
「とにかく!! このお菓子といい、あんたらが原因なのはわかってるのよ!! 即刻、やめなさい!! やめないなら、実力行使でいくわよ!!」
『『『『『っ!!』』』』』
着ぐるみたちは、ワタワタ慌て始めた。
そして、犬の着ぐるみが笛を取り出し拭くと、鳥の鳴き声のような音が響き渡る。
そして、着ぐるみたちの間から、全身鎧の騎士たちが剣を持って現れた。
エレノアに口上を任せていたロセは「あらぁ~」と首を傾げる。
「あらあら。どうやら、戦いは避けられないみたいねぇ」
「先輩、やっちゃいましょう!!」
エレノア、ロセは剣を抜き構えを取った。
◇◇◇◇◇
「サザーランド、『フラッシュ』!!」
『『『『ッッッ!!』』』』
サリオスのサザーランドの刀身が輝き、蟲人間たちの眼が眩む。
そして、眼がくらんだ蟲人間たちの間をユノがすり抜け、チャクラム形態で氷聖剣で四肢を軽く叩く……すると、蟲人間たちの両腕、触手、両足が凍り付いた。上半身や下半身まで凍らせると、生命活動に支障がきたす恐れがあるので、面倒だが部分的に凍らせているのである。
二人は、町を駆け回り、すでに五十人以上を凍らせている。
さすがに疲れたのか、サリオスが言う。
「ユノ、少し休憩しよう」
「いいの?」
「ああ。ほら、聞こえるだろ? ララベル先輩の声だ」
耳を澄ますと聞こえてくる。
『トラビア王国の住人たち、全員耳かっぽじって聞きなさい!! 今、町に妙な蟲人間たち出てると思うけど、それ空から落ちて来たお菓子食べたせいだからね!! いい? 蟲人間になりたくなかったらお菓子食べないように!! わかったら、家で大人しくする!!』
と、いかにもララベルらしい言い方で、国中に声を届けている。
サリオスは、近くの飲食店に入り、金貨を数枚置いて、グラスに水を注いで持ってきた。
「妙だと思わないか?」
「?」
「この、蟲人間たち……人間を一切襲わず、変化した建物だけを喰っている」
蟲人間たちに喰われた建物は、ボロボロになっていた。
かじった跡、触手で細かく刻んだ跡があり、野良猫や野良犬など素通りしている。
「お菓子を食べるためだけに、変わったのか? 目的がわからない……そもそも、これは誰の仕業なんだ? 魔族……確か、今の『手番』は快楽の魔王だったけど……オレらが倒した公爵級の他にも、魔界貴族がいたのか?」
「わからないね」
「ああ……ともかく、今はできることを」
と、サリオスがユノからグラスを受け取り、店の中に戻す。
そのまま蟲人間たちの対処を、そう思った時だった。
「……殿下、あれ」
「え?───……あ」
『……ッ!!』
空から、誰かが落ちて来た。
正確には、建物の屋根を伝って走って来たのだが、飛び降りたようだ。
ユノたちの目の前に落ちてきたのは、漆黒のコートにフードを被り、仮面を付けていた。背中には矢筒、手には黒い弓を持つ、何者か。
サリオスは、聖剣を構えて言った。
「貴様、『八咫烏』……そうか、この現象はお前の仕業だな!?」
『……違う。それと、ちょうどよかった』
老若男女の声が混じり合ったような不快音声のようだった。
八咫烏は、サリオスに手を向ける。
『俺はこの事態を引き起こした犯人を知っている。手を貸してくれ』
「ふざけるな!! ユノ、こいつを捕獲し、騎士団に引き渡すぞ。こいつはこの現象に関わっている!!」
「うん」
『ちょ、待て』
ユノ、サリオスが剣を構え───……八咫烏に戦いを挑んだ。
◇◇◇◇◇
(なんでこうなるんだよ……!?)
ユノ、サリオスが剣を八咫烏……ロイに向ける。
『まぁ、いきなり現れた黒い仮面の人間が『この事態を引き起こした犯人を知っている』なんて、怪しすぎて我輩でも剣を向けたくなる』
(…………)
確かに。
そう言いたかったが、そんなこと考えている場合ではない。
「行くぞ!!」
『ま、待て!!』
「うるさいっ!!」
サリオスは双剣を展開、魔力制御により身体強化、加速し迫ってくる。
今のロイは狩人形態だ。パレットアイズという獲物を狩るために、今目の前にいるサリオスを障害と判断、対処できる。
だが、どうすればいい。
『躊躇うな』
(───っ)
デスゲイズが言う。
すると、ロイの背後に氷の壁が現れた。いつの間にかユノがチャクラムを投げ、チャクラムが通った場所が凍り付いたのだ。
背後に逃げられない。左右も氷で塞がれた。
手はある。だが……これは使いたくない。
『パレットアイズの前にやられるつもりか?』
「……ッ、『換装』!!」
ロイが叫ぶと、装備が変わる。
弓が右手に装着され、矢筒が腰に下がる。ロイは一瞬で矢を抜き、右籠手の『短弓』にセットした。
「姿が変わった!?」
わざわざわかりやすく驚き、声を出すという愚行……この間だけで、ロイはサリオスを三回は殺せた。
だが、サリオスを殺すわけじゃない。
「大罪権能『色欲』装填。『あなたに夢中』」
短矢の先端が桃色に輝き、ロイは矢を放った。
「ぁっ」
ストン、と、サリオスの額に矢が刺さる。
「え」
目を見開くユノ。
殺された。そう思い、行動が完全に止まっていた。
こういう隙を見せるだけで、素人というのがよくわかる。ロイはすでに矢を装填し、ユノに接近し放っていた。
「ぁ」
ストン、と……矢がユノの額に刺さり、消えた。
矢が刺さった二人は茫然としたまま動かない。
『二人とも、手を貸してくれ』
「ああ、わかった」
「うん」
『……ごめん』
大罪権能『色欲』の力の一つ、『あなたに夢中』
この力が込められた矢が刺さると、ロイへの『愛』が増幅され、一定時間どんな命令でも聞く。愛ゆえに、愛のために戦う戦士を生み出せる。
ヒトの心を操る力。ロイはこの力を嫌悪した。
『安心しろ。矢を受けてからの行動は記憶に残らない』
『……だから最悪なんだよ。いっそ、記憶を残して罵られ、憎まれた方がマシだ』
『それより、やるなら早くやるぞ。この二人を連れて行けば、エレノアたちの説得もできる』
『……ああ』
ロイは、熱のこもった眼で自分を見る二人に聞く。
『エレノアたちは?』
「パレードを止めるために、ロセ先輩と一緒にいる」
「行くの?」
『ああ、行くぞ!!』
ロイは、二人を連れてパレードの元へ向かった。
◇◇◇◇◇
トラビア王国の遥か上空。
「おーおー、頑張ってるわねぇ」
パレットアイズは、空中に椅子テーブルを浮かべ、お菓子を食べながら空中に投影された映像を見て笑っていた。
楽しいキャラクターたちによるパレードが始まり、お菓子を食べて『蟲人間』となった人間たちを、ヒーローが駆逐する展開だ。
今は、聖剣士二人が、キャラクターの護衛である騎士と戦っている。
「ふっふ~ん……なかなかやるようだけど、キャラクターたちのヒーローは、こんなもんじゃないわよ?」
パレットアイズが指をパチンと鳴らすと、黄金の鎧を纏った騎士が現れ、ゆっくりとトラビア王国に下降していった。
エレノア、ロセの二人は、町を練り歩くパレード隊の進行を止めるように前へ出た。
いきなり現れた女子二人に、パレードは止まる。そして、パレードを楽しんでいた住人たちが「なんだなんだ?」という風にエレノアたちを見た。
「あんたら、何者? なんで踊ってるの? なんで動物みたいな恰好してるの?」
『『『『『…………』』』』』
着ぐるみたちは全員首を傾げる。
エレノアは、ビシッと指を突きつけた。
「とにかく!! このお菓子といい、あんたらが原因なのはわかってるのよ!! 即刻、やめなさい!! やめないなら、実力行使でいくわよ!!」
『『『『『っ!!』』』』』
着ぐるみたちは、ワタワタ慌て始めた。
そして、犬の着ぐるみが笛を取り出し拭くと、鳥の鳴き声のような音が響き渡る。
そして、着ぐるみたちの間から、全身鎧の騎士たちが剣を持って現れた。
エレノアに口上を任せていたロセは「あらぁ~」と首を傾げる。
「あらあら。どうやら、戦いは避けられないみたいねぇ」
「先輩、やっちゃいましょう!!」
エレノア、ロセは剣を抜き構えを取った。
◇◇◇◇◇
「サザーランド、『フラッシュ』!!」
『『『『ッッッ!!』』』』
サリオスのサザーランドの刀身が輝き、蟲人間たちの眼が眩む。
そして、眼がくらんだ蟲人間たちの間をユノがすり抜け、チャクラム形態で氷聖剣で四肢を軽く叩く……すると、蟲人間たちの両腕、触手、両足が凍り付いた。上半身や下半身まで凍らせると、生命活動に支障がきたす恐れがあるので、面倒だが部分的に凍らせているのである。
二人は、町を駆け回り、すでに五十人以上を凍らせている。
さすがに疲れたのか、サリオスが言う。
「ユノ、少し休憩しよう」
「いいの?」
「ああ。ほら、聞こえるだろ? ララベル先輩の声だ」
耳を澄ますと聞こえてくる。
『トラビア王国の住人たち、全員耳かっぽじって聞きなさい!! 今、町に妙な蟲人間たち出てると思うけど、それ空から落ちて来たお菓子食べたせいだからね!! いい? 蟲人間になりたくなかったらお菓子食べないように!! わかったら、家で大人しくする!!』
と、いかにもララベルらしい言い方で、国中に声を届けている。
サリオスは、近くの飲食店に入り、金貨を数枚置いて、グラスに水を注いで持ってきた。
「妙だと思わないか?」
「?」
「この、蟲人間たち……人間を一切襲わず、変化した建物だけを喰っている」
蟲人間たちに喰われた建物は、ボロボロになっていた。
かじった跡、触手で細かく刻んだ跡があり、野良猫や野良犬など素通りしている。
「お菓子を食べるためだけに、変わったのか? 目的がわからない……そもそも、これは誰の仕業なんだ? 魔族……確か、今の『手番』は快楽の魔王だったけど……オレらが倒した公爵級の他にも、魔界貴族がいたのか?」
「わからないね」
「ああ……ともかく、今はできることを」
と、サリオスがユノからグラスを受け取り、店の中に戻す。
そのまま蟲人間たちの対処を、そう思った時だった。
「……殿下、あれ」
「え?───……あ」
『……ッ!!』
空から、誰かが落ちて来た。
正確には、建物の屋根を伝って走って来たのだが、飛び降りたようだ。
ユノたちの目の前に落ちてきたのは、漆黒のコートにフードを被り、仮面を付けていた。背中には矢筒、手には黒い弓を持つ、何者か。
サリオスは、聖剣を構えて言った。
「貴様、『八咫烏』……そうか、この現象はお前の仕業だな!?」
『……違う。それと、ちょうどよかった』
老若男女の声が混じり合ったような不快音声のようだった。
八咫烏は、サリオスに手を向ける。
『俺はこの事態を引き起こした犯人を知っている。手を貸してくれ』
「ふざけるな!! ユノ、こいつを捕獲し、騎士団に引き渡すぞ。こいつはこの現象に関わっている!!」
「うん」
『ちょ、待て』
ユノ、サリオスが剣を構え───……八咫烏に戦いを挑んだ。
◇◇◇◇◇
(なんでこうなるんだよ……!?)
ユノ、サリオスが剣を八咫烏……ロイに向ける。
『まぁ、いきなり現れた黒い仮面の人間が『この事態を引き起こした犯人を知っている』なんて、怪しすぎて我輩でも剣を向けたくなる』
(…………)
確かに。
そう言いたかったが、そんなこと考えている場合ではない。
「行くぞ!!」
『ま、待て!!』
「うるさいっ!!」
サリオスは双剣を展開、魔力制御により身体強化、加速し迫ってくる。
今のロイは狩人形態だ。パレットアイズという獲物を狩るために、今目の前にいるサリオスを障害と判断、対処できる。
だが、どうすればいい。
『躊躇うな』
(───っ)
デスゲイズが言う。
すると、ロイの背後に氷の壁が現れた。いつの間にかユノがチャクラムを投げ、チャクラムが通った場所が凍り付いたのだ。
背後に逃げられない。左右も氷で塞がれた。
手はある。だが……これは使いたくない。
『パレットアイズの前にやられるつもりか?』
「……ッ、『換装』!!」
ロイが叫ぶと、装備が変わる。
弓が右手に装着され、矢筒が腰に下がる。ロイは一瞬で矢を抜き、右籠手の『短弓』にセットした。
「姿が変わった!?」
わざわざわかりやすく驚き、声を出すという愚行……この間だけで、ロイはサリオスを三回は殺せた。
だが、サリオスを殺すわけじゃない。
「大罪権能『色欲』装填。『あなたに夢中』」
短矢の先端が桃色に輝き、ロイは矢を放った。
「ぁっ」
ストン、と、サリオスの額に矢が刺さる。
「え」
目を見開くユノ。
殺された。そう思い、行動が完全に止まっていた。
こういう隙を見せるだけで、素人というのがよくわかる。ロイはすでに矢を装填し、ユノに接近し放っていた。
「ぁ」
ストン、と……矢がユノの額に刺さり、消えた。
矢が刺さった二人は茫然としたまま動かない。
『二人とも、手を貸してくれ』
「ああ、わかった」
「うん」
『……ごめん』
大罪権能『色欲』の力の一つ、『あなたに夢中』
この力が込められた矢が刺さると、ロイへの『愛』が増幅され、一定時間どんな命令でも聞く。愛ゆえに、愛のために戦う戦士を生み出せる。
ヒトの心を操る力。ロイはこの力を嫌悪した。
『安心しろ。矢を受けてからの行動は記憶に残らない』
『……だから最悪なんだよ。いっそ、記憶を残して罵られ、憎まれた方がマシだ』
『それより、やるなら早くやるぞ。この二人を連れて行けば、エレノアたちの説得もできる』
『……ああ』
ロイは、熱のこもった眼で自分を見る二人に聞く。
『エレノアたちは?』
「パレードを止めるために、ロセ先輩と一緒にいる」
「行くの?」
『ああ、行くぞ!!』
ロイは、二人を連れてパレードの元へ向かった。
◇◇◇◇◇
トラビア王国の遥か上空。
「おーおー、頑張ってるわねぇ」
パレットアイズは、空中に椅子テーブルを浮かべ、お菓子を食べながら空中に投影された映像を見て笑っていた。
楽しいキャラクターたちによるパレードが始まり、お菓子を食べて『蟲人間』となった人間たちを、ヒーローが駆逐する展開だ。
今は、聖剣士二人が、キャラクターの護衛である騎士と戦っている。
「ふっふ~ん……なかなかやるようだけど、キャラクターたちのヒーローは、こんなもんじゃないわよ?」
パレットアイズが指をパチンと鳴らすと、黄金の鎧を纏った騎士が現れ、ゆっくりとトラビア王国に下降していった。
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