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魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス①/聖域

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 アイスウエストの町。
 こちらは『産業』に力を入れた町で、万年氷で作られた『氷の建物』や『彫刻』などが町に多く並び、ガラスで作った『氷の模型』などが多く販売されている。
 目玉は、町の中心に作られた『氷の街』。
 氷の家、橋、塔、店など、全てが氷で作られている。レイピアーゼ王国の気温は常に低いので、氷の加工は容易で、さらに溶けない。
 ライトアップされた光景は、見る者全てを魅了するとまで言われていた。
 コールドイーストは飲食、アイスウエストは産業、二つしかない大きな町の収入源だ。
 そんな街の正門に、エレノアとユノ、そしてロイはいた。

「氷の門……すっげぇ」
「これ、鉄の門以上の硬度。魔法でも溶けにくいし砕けない」

 驚くロイに、ユノが並んで言う。
 エレノアがちょっとウズウズしていた。

「……エレノア、燃やさないでね」
「や、やらないわよ!!」
「やりたそうにしてた」
「…………」

 否定せずそっぽ向く。ロイは思わず笑ってしまった……が。

『……いるぞ、ロイ』
「!!」
『この感じ、魔界貴族……しかも、相当な手練れだ。向こうもこちらに気付いているぞ』
「さて、ここから先の予定だが」

 と、マリアとその部下であるレイピアーゼ王国聖剣騎士団の部隊長たちがエレノアたちの元へ。
 
「すでに先発隊が潜入している。魔界貴族とは遭遇していな

 マリアは最後まで言えなかった。
 なぜなら、マリアの身体が急に斜めに傾いた・・・・・・

「───……っな、にぃ!?」
 
 だが、すぐに元に戻った。
 マリアだけではない。部隊長たちの身体も傾き、すぐに戻った。
 何が起きたのか、エレノアとユノには理解できなかった。が……ロイは見ていた。

「地面!!」

 その言葉に、全員が反応した。
 マリアたちの立つ地面。雪に覆われた大地が、不自然に『傾いて』いた。
 スプーンでくりぬいたような地面が、まるでシーソーのようにグラングランと揺れていた。普通は立っていられないのだが、マリアたちは大地の揺れに合わせ、身体も揺れていた。まるで地面に固定されたような揺れ方に、戸惑いを隠せない。

「キャハハハハハハハハッ!!」

 すると───……アイスウエストの町の正門に、誰かがいた。

「ゆらゆら揺れるの楽しいでしょお? ふふふ、もっと揺れてみるぅ?」

 女だった。
 派手な服装、日傘を差した騒がしそうな女。それがロイの第一印象だった。
 女が指を鳴らすと、今度はロイの立つ地面が揺れる。

「おぉぉぉぉっ!?」

 不思議な感覚だった。
 地面が揺れているのに、身体も一緒に揺れる。まるでメトロノームのように。

「『灼炎楼しゃくえんろう灼薬玉しゃくやくだま』!!」

 すると、炎聖剣フェニキアを『熱線砲』形態にしたエレノアが、女に向かって熱線───ではなく、圧縮した炎の塊を連続で発射した。
 
「!!」

 女は傘を自分の前に広げると、炎弾が全て傘に弾かれ消滅する。同時に、ロイの揺れも止まった。

「あん、火傷しちゃうじゃない」
「黒ッッコゲにしてやろうと思ったのにねぇ!!」
「野蛮ねぇ。自己紹介くらいさせなさいよぉ」

 エレノアは炎聖剣をバーナーブレード形態にして女へ向ける。
 すると、女は日傘を閉じ、スカートをつまんで一礼した。

「あたしの名前はシュプレー。魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーよ。よろしくねん、炎聖剣と氷聖剣の子、それと雑魚」
「……雑魚、だと?」
「ふふん。ほしいのはコレかしら?」

 女……シュプレーが胸から取り出したのは、透明なケースに入った試験管。中には緑色の液体で満たされており、シュプレーがクルクルと指で器用に回転させていた。

「疫病は順調に広がってるみたいねぇ? この町でもすでに感染が拡大してる。ふふふっ、毎日ワクワクが止まらないわぁ~……次は誰? 次は誰? って、人間がみんな不安になっちゃって、感染者を隔離しろだの差別が始まって……ああ、醜い。でも、面白いわぁ」
「あんた……っ」

 エレノアが歯ぎしりする。
 ロイは距離を取ろうと一歩下がるが、マリアに言われる。

「ロイ君、動かない方がいい……動かれると、守れなくなる」
「あ、いや」

 むしろ、このままだと守れない。
 さすがに、マリアたちの前では変身できない。正体不明の八咫烏でないと、狙撃はできない。
 部隊長たちも、ロイを守るように前に立っている。

「少年、動くなよ」
「安心して、必ず守るから」
「ど、どうも……」

 動けない。
 すると、シュプレーは再び日傘を差した。

「ふふふっ、さぁさぁ聖剣士たちぃ!! このワクチンサンプルが欲しかったらぁ……奪ってみればぁ?」
「ブチ殺すっ!! ユノ、行くよッ!!」
「うん!!」

 エレノアがバーナーブレードを、ユノはレイピアをチャクラムに変え、走り出した。

「マルロー、デノス、お前たちも援護に走れ。ソレナはロイ君の傍に!!」
「「「はっ!!」」」

 部隊長たちも動き出す。
 マリアも聖剣を構えた。
 ロイだけが、何もできない状態だった。

『───ん!? まずい、ロイ!!』
「ッ!!」

 全員が動き出したと同時に、デスゲイズが叫んだ。
 が、もう遅い。
 地面が輝きだし、光のラインが一気に走る。
 
「えっ!?」
「わっ」

 エレノア、ユノが飛びのくと、二人の間に光のラインが通る。
 それだけじゃない。ロイも、マリアも、部隊長たちも光のラインで隔離された。
 さらに、光のラインはアイスウエストの町の中も走り、やがて町全体を駆け巡る。

「これは───」
『そうか、これは───』

 ラインが町中を駆け巡ると同時に、一気に輝きだし───ロイの視界は光に包まれた。

 ◇◇◇◇◇◇

「あーあ……」

 シュプレーは、つまらなそうにワクチンサンプルのケースを手で弄んでいた。
 すると、知恵の輪を弄りながらルードスが現れ、氷の正門に座る。

「これでもう出てこれないよ」

 ルードスは、知恵の輪から目を外さずにシュプレーに言った。
 それが気に食わないのか、シュプレーはムスッとしながらルードスの隣に座る。

「ほんっと、つまんない。あんた、こんなやり方で楽しい?」
「別に。というか、ボクの番だし余計なこと言うなよ」
「……次、あたしだからね」
「ん」

 二人は、交互に聖剣士を相手に戦っていた。
 シュプレーは直接聖剣士を相手にするやり方だが、ルードスは違う。

「ったく、なんであんたみたいなのが、使えんのよ」
「知らないよ。才能じゃないの」
「くーっ、そういうのムカつく」

 魔界貴族侯爵『遊戯』のルードス。
 彼は、侯爵級でありながら、魔王の秘術である『魔王聖域アビス』を展開できる、稀有な存在。
 魔王が使う空間ほど万能性はないが、それでも今の聖剣士たちにとっては計りしれない脅威であった。
 ルードスは、知恵の輪を解きながら言う。

「ボクの『亜空遊技場パズルゲーム』……せいぜい楽しんでよ、聖剣士」

 ◇◇◇◇◇◇

「こ、ここは……」

 光に包まれた後、目を開けると……そこは、白い壁に囲まれた妙な部屋だった。
 見渡すと、誰もいない。
 ロイはデスゲイズを抜き、聞く。

「ここは?」
『この感じ、間違いない。ここは『魔王聖域アビス』だな』
「アビス? おい、アビスって魔王にしか使えないんじゃ」
『そうだ。だが、この感じは間違いない。パレットアイズの聖域に比べるとかなりお粗末で万能性もないが、ここは間違いなく聖域の中だ。驚いたぞ……たかが侯爵級が、聖域を展開できるとは』
「……マジか」
『ロイ、今のうちに』
「ああ」

 ロイは変身し、弓を手にする。
 
「で、どうする? この空間を作ってる魔族を倒せばいいのか?」
『ああ。だが……腐っても聖域だ。どんな仕掛けがあるかわからない。気を付けろ』
「わかった。とりあえず、エレノアたちを探さないと」

 ロイはデスゲイズを構え、再び周囲を見渡した。
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