92 / 182
魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス①/聖域
しおりを挟む
アイスウエストの町。
こちらは『産業』に力を入れた町で、万年氷で作られた『氷の建物』や『彫刻』などが町に多く並び、ガラスで作った『氷の模型』などが多く販売されている。
目玉は、町の中心に作られた『氷の街』。
氷の家、橋、塔、店など、全てが氷で作られている。レイピアーゼ王国の気温は常に低いので、氷の加工は容易で、さらに溶けない。
ライトアップされた光景は、見る者全てを魅了するとまで言われていた。
コールドイーストは飲食、アイスウエストは産業、二つしかない大きな町の収入源だ。
そんな街の正門に、エレノアとユノ、そしてロイはいた。
「氷の門……すっげぇ」
「これ、鉄の門以上の硬度。魔法でも溶けにくいし砕けない」
驚くロイに、ユノが並んで言う。
エレノアがちょっとウズウズしていた。
「……エレノア、燃やさないでね」
「や、やらないわよ!!」
「やりたそうにしてた」
「…………」
否定せずそっぽ向く。ロイは思わず笑ってしまった……が。
『……いるぞ、ロイ』
「!!」
『この感じ、魔界貴族……しかも、相当な手練れだ。向こうもこちらに気付いているぞ』
「さて、ここから先の予定だが」
と、マリアとその部下であるレイピアーゼ王国聖剣騎士団の部隊長たちがエレノアたちの元へ。
「すでに先発隊が潜入している。魔界貴族とは遭遇していな
マリアは最後まで言えなかった。
なぜなら、マリアの身体が急に斜めに傾いた。
「───……っな、にぃ!?」
だが、すぐに元に戻った。
マリアだけではない。部隊長たちの身体も傾き、すぐに戻った。
何が起きたのか、エレノアとユノには理解できなかった。が……ロイは見ていた。
「地面!!」
その言葉に、全員が反応した。
マリアたちの立つ地面。雪に覆われた大地が、不自然に『傾いて』いた。
スプーンでくりぬいたような地面が、まるでシーソーのようにグラングランと揺れていた。普通は立っていられないのだが、マリアたちは大地の揺れに合わせ、身体も揺れていた。まるで地面に固定されたような揺れ方に、戸惑いを隠せない。
「キャハハハハハハハハッ!!」
すると───……アイスウエストの町の正門に、誰かがいた。
「ゆらゆら揺れるの楽しいでしょお? ふふふ、もっと揺れてみるぅ?」
女だった。
派手な服装、日傘を差した騒がしそうな女。それがロイの第一印象だった。
女が指を鳴らすと、今度はロイの立つ地面が揺れる。
「おぉぉぉぉっ!?」
不思議な感覚だった。
地面が揺れているのに、身体も一緒に揺れる。まるでメトロノームのように。
「『灼炎楼・灼薬玉』!!」
すると、炎聖剣フェニキアを『熱線砲』形態にしたエレノアが、女に向かって熱線───ではなく、圧縮した炎の塊を連続で発射した。
「!!」
女は傘を自分の前に広げると、炎弾が全て傘に弾かれ消滅する。同時に、ロイの揺れも止まった。
「あん、火傷しちゃうじゃない」
「黒ッッコゲにしてやろうと思ったのにねぇ!!」
「野蛮ねぇ。自己紹介くらいさせなさいよぉ」
エレノアは炎聖剣をバーナーブレード形態にして女へ向ける。
すると、女は日傘を閉じ、スカートをつまんで一礼した。
「あたしの名前はシュプレー。魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーよ。よろしくねん、炎聖剣と氷聖剣の子、それと雑魚」
「……雑魚、だと?」
「ふふん。ほしいのはコレかしら?」
女……シュプレーが胸から取り出したのは、透明なケースに入った試験管。中には緑色の液体で満たされており、シュプレーがクルクルと指で器用に回転させていた。
「疫病は順調に広がってるみたいねぇ? この町でもすでに感染が拡大してる。ふふふっ、毎日ワクワクが止まらないわぁ~……次は誰? 次は誰? って、人間がみんな不安になっちゃって、感染者を隔離しろだの差別が始まって……ああ、醜い。でも、面白いわぁ」
「あんた……っ」
エレノアが歯ぎしりする。
ロイは距離を取ろうと一歩下がるが、マリアに言われる。
「ロイ君、動かない方がいい……動かれると、守れなくなる」
「あ、いや」
むしろ、このままだと守れない。
さすがに、マリアたちの前では変身できない。正体不明の八咫烏でないと、狙撃はできない。
部隊長たちも、ロイを守るように前に立っている。
「少年、動くなよ」
「安心して、必ず守るから」
「ど、どうも……」
動けない。
すると、シュプレーは再び日傘を差した。
「ふふふっ、さぁさぁ聖剣士たちぃ!! このワクチンサンプルが欲しかったらぁ……奪ってみればぁ?」
「ブチ殺すっ!! ユノ、行くよッ!!」
「うん!!」
エレノアがバーナーブレードを、ユノはレイピアをチャクラムに変え、走り出した。
「マルロー、デノス、お前たちも援護に走れ。ソレナはロイ君の傍に!!」
「「「はっ!!」」」
部隊長たちも動き出す。
マリアも聖剣を構えた。
ロイだけが、何もできない状態だった。
『───ん!? まずい、ロイ!!』
「ッ!!」
全員が動き出したと同時に、デスゲイズが叫んだ。
が、もう遅い。
地面が輝きだし、光のラインが一気に走る。
「えっ!?」
「わっ」
エレノア、ユノが飛びのくと、二人の間に光のラインが通る。
それだけじゃない。ロイも、マリアも、部隊長たちも光のラインで隔離された。
さらに、光のラインはアイスウエストの町の中も走り、やがて町全体を駆け巡る。
「これは───」
『そうか、これは───』
ラインが町中を駆け巡ると同時に、一気に輝きだし───ロイの視界は光に包まれた。
◇◇◇◇◇◇
「あーあ……」
シュプレーは、つまらなそうにワクチンサンプルのケースを手で弄んでいた。
すると、知恵の輪を弄りながらルードスが現れ、氷の正門に座る。
「これでもう出てこれないよ」
ルードスは、知恵の輪から目を外さずにシュプレーに言った。
それが気に食わないのか、シュプレーはムスッとしながらルードスの隣に座る。
「ほんっと、つまんない。あんた、こんなやり方で楽しい?」
「別に。というか、ボクの番だし余計なこと言うなよ」
「……次、あたしだからね」
「ん」
二人は、交互に聖剣士を相手に戦っていた。
シュプレーは直接聖剣士を相手にするやり方だが、ルードスは違う。
「ったく、なんであんたみたいなのが、使えんのよ」
「知らないよ。才能じゃないの」
「くーっ、そういうのムカつく」
魔界貴族侯爵『遊戯』のルードス。
彼は、侯爵級でありながら、魔王の秘術である『魔王聖域』を展開できる、稀有な存在。
魔王が使う空間ほど万能性はないが、それでも今の聖剣士たちにとっては計りしれない脅威であった。
ルードスは、知恵の輪を解きながら言う。
「ボクの『亜空遊技場』……せいぜい楽しんでよ、聖剣士」
◇◇◇◇◇◇
「こ、ここは……」
光に包まれた後、目を開けると……そこは、白い壁に囲まれた妙な部屋だった。
見渡すと、誰もいない。
ロイはデスゲイズを抜き、聞く。
「ここは?」
『この感じ、間違いない。ここは『魔王聖域』だな』
「アビス? おい、アビスって魔王にしか使えないんじゃ」
『そうだ。だが、この感じは間違いない。パレットアイズの聖域に比べるとかなりお粗末で万能性もないが、ここは間違いなく聖域の中だ。驚いたぞ……たかが侯爵級が、聖域を展開できるとは』
「……マジか」
『ロイ、今のうちに』
「ああ」
ロイは変身し、弓を手にする。
「で、どうする? この空間を作ってる魔族を倒せばいいのか?」
『ああ。だが……腐っても聖域だ。どんな仕掛けがあるかわからない。気を付けろ』
「わかった。とりあえず、エレノアたちを探さないと」
ロイはデスゲイズを構え、再び周囲を見渡した。
こちらは『産業』に力を入れた町で、万年氷で作られた『氷の建物』や『彫刻』などが町に多く並び、ガラスで作った『氷の模型』などが多く販売されている。
目玉は、町の中心に作られた『氷の街』。
氷の家、橋、塔、店など、全てが氷で作られている。レイピアーゼ王国の気温は常に低いので、氷の加工は容易で、さらに溶けない。
ライトアップされた光景は、見る者全てを魅了するとまで言われていた。
コールドイーストは飲食、アイスウエストは産業、二つしかない大きな町の収入源だ。
そんな街の正門に、エレノアとユノ、そしてロイはいた。
「氷の門……すっげぇ」
「これ、鉄の門以上の硬度。魔法でも溶けにくいし砕けない」
驚くロイに、ユノが並んで言う。
エレノアがちょっとウズウズしていた。
「……エレノア、燃やさないでね」
「や、やらないわよ!!」
「やりたそうにしてた」
「…………」
否定せずそっぽ向く。ロイは思わず笑ってしまった……が。
『……いるぞ、ロイ』
「!!」
『この感じ、魔界貴族……しかも、相当な手練れだ。向こうもこちらに気付いているぞ』
「さて、ここから先の予定だが」
と、マリアとその部下であるレイピアーゼ王国聖剣騎士団の部隊長たちがエレノアたちの元へ。
「すでに先発隊が潜入している。魔界貴族とは遭遇していな
マリアは最後まで言えなかった。
なぜなら、マリアの身体が急に斜めに傾いた。
「───……っな、にぃ!?」
だが、すぐに元に戻った。
マリアだけではない。部隊長たちの身体も傾き、すぐに戻った。
何が起きたのか、エレノアとユノには理解できなかった。が……ロイは見ていた。
「地面!!」
その言葉に、全員が反応した。
マリアたちの立つ地面。雪に覆われた大地が、不自然に『傾いて』いた。
スプーンでくりぬいたような地面が、まるでシーソーのようにグラングランと揺れていた。普通は立っていられないのだが、マリアたちは大地の揺れに合わせ、身体も揺れていた。まるで地面に固定されたような揺れ方に、戸惑いを隠せない。
「キャハハハハハハハハッ!!」
すると───……アイスウエストの町の正門に、誰かがいた。
「ゆらゆら揺れるの楽しいでしょお? ふふふ、もっと揺れてみるぅ?」
女だった。
派手な服装、日傘を差した騒がしそうな女。それがロイの第一印象だった。
女が指を鳴らすと、今度はロイの立つ地面が揺れる。
「おぉぉぉぉっ!?」
不思議な感覚だった。
地面が揺れているのに、身体も一緒に揺れる。まるでメトロノームのように。
「『灼炎楼・灼薬玉』!!」
すると、炎聖剣フェニキアを『熱線砲』形態にしたエレノアが、女に向かって熱線───ではなく、圧縮した炎の塊を連続で発射した。
「!!」
女は傘を自分の前に広げると、炎弾が全て傘に弾かれ消滅する。同時に、ロイの揺れも止まった。
「あん、火傷しちゃうじゃない」
「黒ッッコゲにしてやろうと思ったのにねぇ!!」
「野蛮ねぇ。自己紹介くらいさせなさいよぉ」
エレノアは炎聖剣をバーナーブレード形態にして女へ向ける。
すると、女は日傘を閉じ、スカートをつまんで一礼した。
「あたしの名前はシュプレー。魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーよ。よろしくねん、炎聖剣と氷聖剣の子、それと雑魚」
「……雑魚、だと?」
「ふふん。ほしいのはコレかしら?」
女……シュプレーが胸から取り出したのは、透明なケースに入った試験管。中には緑色の液体で満たされており、シュプレーがクルクルと指で器用に回転させていた。
「疫病は順調に広がってるみたいねぇ? この町でもすでに感染が拡大してる。ふふふっ、毎日ワクワクが止まらないわぁ~……次は誰? 次は誰? って、人間がみんな不安になっちゃって、感染者を隔離しろだの差別が始まって……ああ、醜い。でも、面白いわぁ」
「あんた……っ」
エレノアが歯ぎしりする。
ロイは距離を取ろうと一歩下がるが、マリアに言われる。
「ロイ君、動かない方がいい……動かれると、守れなくなる」
「あ、いや」
むしろ、このままだと守れない。
さすがに、マリアたちの前では変身できない。正体不明の八咫烏でないと、狙撃はできない。
部隊長たちも、ロイを守るように前に立っている。
「少年、動くなよ」
「安心して、必ず守るから」
「ど、どうも……」
動けない。
すると、シュプレーは再び日傘を差した。
「ふふふっ、さぁさぁ聖剣士たちぃ!! このワクチンサンプルが欲しかったらぁ……奪ってみればぁ?」
「ブチ殺すっ!! ユノ、行くよッ!!」
「うん!!」
エレノアがバーナーブレードを、ユノはレイピアをチャクラムに変え、走り出した。
「マルロー、デノス、お前たちも援護に走れ。ソレナはロイ君の傍に!!」
「「「はっ!!」」」
部隊長たちも動き出す。
マリアも聖剣を構えた。
ロイだけが、何もできない状態だった。
『───ん!? まずい、ロイ!!』
「ッ!!」
全員が動き出したと同時に、デスゲイズが叫んだ。
が、もう遅い。
地面が輝きだし、光のラインが一気に走る。
「えっ!?」
「わっ」
エレノア、ユノが飛びのくと、二人の間に光のラインが通る。
それだけじゃない。ロイも、マリアも、部隊長たちも光のラインで隔離された。
さらに、光のラインはアイスウエストの町の中も走り、やがて町全体を駆け巡る。
「これは───」
『そうか、これは───』
ラインが町中を駆け巡ると同時に、一気に輝きだし───ロイの視界は光に包まれた。
◇◇◇◇◇◇
「あーあ……」
シュプレーは、つまらなそうにワクチンサンプルのケースを手で弄んでいた。
すると、知恵の輪を弄りながらルードスが現れ、氷の正門に座る。
「これでもう出てこれないよ」
ルードスは、知恵の輪から目を外さずにシュプレーに言った。
それが気に食わないのか、シュプレーはムスッとしながらルードスの隣に座る。
「ほんっと、つまんない。あんた、こんなやり方で楽しい?」
「別に。というか、ボクの番だし余計なこと言うなよ」
「……次、あたしだからね」
「ん」
二人は、交互に聖剣士を相手に戦っていた。
シュプレーは直接聖剣士を相手にするやり方だが、ルードスは違う。
「ったく、なんであんたみたいなのが、使えんのよ」
「知らないよ。才能じゃないの」
「くーっ、そういうのムカつく」
魔界貴族侯爵『遊戯』のルードス。
彼は、侯爵級でありながら、魔王の秘術である『魔王聖域』を展開できる、稀有な存在。
魔王が使う空間ほど万能性はないが、それでも今の聖剣士たちにとっては計りしれない脅威であった。
ルードスは、知恵の輪を解きながら言う。
「ボクの『亜空遊技場』……せいぜい楽しんでよ、聖剣士」
◇◇◇◇◇◇
「こ、ここは……」
光に包まれた後、目を開けると……そこは、白い壁に囲まれた妙な部屋だった。
見渡すと、誰もいない。
ロイはデスゲイズを抜き、聞く。
「ここは?」
『この感じ、間違いない。ここは『魔王聖域』だな』
「アビス? おい、アビスって魔王にしか使えないんじゃ」
『そうだ。だが、この感じは間違いない。パレットアイズの聖域に比べるとかなりお粗末で万能性もないが、ここは間違いなく聖域の中だ。驚いたぞ……たかが侯爵級が、聖域を展開できるとは』
「……マジか」
『ロイ、今のうちに』
「ああ」
ロイは変身し、弓を手にする。
「で、どうする? この空間を作ってる魔族を倒せばいいのか?」
『ああ。だが……腐っても聖域だ。どんな仕掛けがあるかわからない。気を付けろ』
「わかった。とりあえず、エレノアたちを探さないと」
ロイはデスゲイズを構え、再び周囲を見渡した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
355
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる