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魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス②/亜空遊技場
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不思議な空間だった。
パレットアイズの『魔王聖域』は、異空間というより『現実が改変されていくような』空間だった。家がお菓子になったり、お菓子を食べた人間が蟲になったり、妙な軍団がパレードを始めたり。
だが、ここは最初から異変しかない。
『聖域は、使い手によって能力が違う。例えば……パレットアイズの基本能力は『菓子化』という、あらゆるモノを自在に『菓子』に変化させる能力だ。それを『菓子を喰らう蟲』に変化させたり、『菓子を食べるモノを楽しませるパレード隊』や、『パレードを守る騎士』など、能力を拡張させることが可能となったのが『魔王聖域』だ。つまり、聖域内では能力に上限がない。あくまで根底に『菓子』がなければならんがな』
「菓子化……すっごく羨ましい能力だな」
『そっちか……まぁいい。この異空間は確かに『魔王聖域』の術式が根底にある。恐らく、術式の構成を極限まで削り、『異空間展開』と『能力付与』だけに特化させた力だろうな。名を冠するなら魔族が展開する聖域ほどではない空間……『魔族領域』といったところか』
「デミ・アビスね。お前、そういう名前つけるの好きだよな」
魔族領域。
確かに、パレットアイズのような異質さがあまり感じられない。パレットアイズの聖域は、普段の光景が徐々に、徐々に変わっていく異質さ、恐怖を感じたが、この空間は初めからおかしい。
ロイは、一人で白い部屋にいた。何もない真っ白な部屋で、雪の大地に立っていたはずなのに、硬いコツコツした床に変わっている。
ふと、部屋の先に小さなドアがあった。
『あそこから出れそうだな』
「出れそうだけど……どうなってるんだろうな、この空間」
『……ロイ、お前には教えておく。これは、『魔王聖域』を使う魔王も知らん』
「?」
デスゲイズは、意を決したような声で言う。
『絶対に他言するな。『魔王聖域』は、術者の体内のようなモノだ。つまり……空間を展開すると、弱点である《核》も領域内に現れる。これは魔王たちも知らない……我輩が教えなかったからな。つまり、聖域内にある核を破壊すれば、魔族は死ぬ』
「なっ……じゃ、弱点どころじゃないだろ、それ」
『ああ。我輩が作り出した『魔王聖域』は完璧すぎた。そのまま魔王たちに教えると、面倒なことになりそうだったからな。聖域内に《核》の分身が生み出されるように作り直し、魔王たちに伝えた。分身の存在は魔王ですら感知できん。そういう風に教えたからな』
「…………マジか。じゃあ」
『この空間内にも疑似的な《核》があるはずだ。それを破壊すれば、この魔族は死ぬ……だが、それは最後の手段にしてほしい』
「え、なんで?」
『この魔族が死ねば、トリステッツァに聖域内に『疑似核』があると悟られる。つまり、聖域を教えた我輩を連想する……今は、我輩の名も思い出してほしくない。頼むぞ、ロイ』
「……わかったよ」
ロイは、ドアの前に立った。
すると、ドアが自動で開き、先へ進めるようになる。
「とりあえず、ここから出ることを考えよう。あと……エレノアたちに合流しなきゃな」
部屋の外へ一歩踏み出したロイは───。
◇◇◇◇◇
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「むぎゅぅぅ」
エレノア、ユノの二人は───『動く地面』の上に立っていた。
ロイと同じような『白い部屋』にいて、ドアから出て一歩踏みだした瞬間、なんと地面が動き出した。
正確には、二人が立てるほどの大きさの『白い板』が、数十メートル行ったり、戻ったりを繰り返している。
わけがわからず、エレノアはユノをムギュッと抱きしめ、ユノはエレノアの胸に包まれ前が見えず、息もしにくそうだった。が……ようやく顔を出し、慌てるエレノアの背中をポンポン叩く。
「エレノア、エレノア」
「ななな、なにぃぃぃぃ!?」
「落ち着いて。周り、周り」
「えぇぇ!?」
慌てるエレノアがキョロキョロし、ようやく気付く。
今、自分たちがいる『動く床』は、少しだけ浮いて前後に行ったり来たりを繰り返している。
そして、前方で止まると、二秒ほど停止して後方へ戻る。
「……あれ?」
前方で止まると、数メートル先に同じような『白い板』があるのが見えた。
どうやら、自分たちが立っている場所以外も、『白い板』が動いているようだ。
ユノは気付いていた。
「たぶんここ、ダンジョン? 動く板から板に飛び移って、先に進むんだと思う」
「……なるほど」
「エレノア、先に進もう。義姉さんたち、探さないと」
「え、ええ!! その、騒いでゴメン」
「ううん。エレノアのおっぱい、ふわふわして気持ちよかった」
「……ああ、うん」
なんともコメントに困る。
エレノアはコホンと咳払いした。
「それにしても、アスレチックみたいなダンジョンね」
「楽しそうかも」
「かもね。でも、遊んでる場合じゃないし、さっさと行くわよ」
「うん」
エレノアとユノは魔力を漲らせ、身体強化。
白い板が前方で止まると同時に、別の板に飛び移った。
◇◇◇◇◇
「なんだ、ここは……」
マリアは、部下である三人の部隊長と同じ場所にいた。
目の前には、エレノアとユノが体験している『動く板』がある。
だが、その数が尋常ではない。
マリアたちのいる場所は普通の床板だが、その先には『動く板』があった……のだが、どう考えても、自分たちのいる位置が『空の上』としか思えなかった。
なぜなら、自分たちの位置から下を覗くと……地面が、数百、数千メートルは下にあるからだ。
「だ、団長……これ、夢っすかね?」
部隊長の一人、マルローが頬をピクピクさせながら言う。
スキンヘッドの部隊長であるデノスは自分の頬を引っ張っていた。
そして、顔が真っ蒼な最年少の部隊長である女性、ソレナが言う。
「だ、団長……これ、落ちたら……ど、どうなるんですか?」
「…………」
答えられない。
というか、答えなんて決まっている。
「……いずれにせよ、先に進まねばなるまい。マルロー、デニス、ソレナ、いいか……絶対に、落ちるなよ。タイミングを合わせ、一瞬の身体強化を使い、板へ飛び移る。いいか、タイミングを外すな」
「「「は……はい」」」
三人は頷いた。
非現実的な光景に、まだ頭と体が付いて行かないようだ。
マリアは深呼吸し、タイミングを合わせ───跳躍。
「はっ!!」
見事、足場に飛び移れた。
残る三人も、やや危なっかしいが落ちることなく飛び移れたようだ。
「先は長い。慎重に行くぞ」
「「「はいっ」」」
マリアは次の足場へ向けて、跳躍の準備を始めた。
◇◇◇◇◇
アイスウエストの町、正門。
魔界貴族侯爵『遊戯』のルードスは、解けた知恵の輪を投げ捨て、新しい知恵の輪をポケットから取り出し遊び始めた。
そして、魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーは、ルードスの手から知恵の輪を没収。自分で解き始める。
「おい、何すんだよ」
「いいじゃない。どうせいっぱいあるんでしょ?」
「まあ、あるけど」
ルードスは、ポケットから新しい知恵の輪を取り出して解き始める。
カチャカチャと金属の擦れ合う音が響き、シュプレーが言った。
「ね、あとどのくらい?」
「……どっちが?」
「聖剣士」
知恵の輪を解く時間か、聖域内に取り込んだ聖剣士のことか迷った。
シュプレーが「聖剣士」と言うと、ルードスはつまらなそうに言う。
「……今、『アクションゲーム』に二組、もう一人は……あれ? こんな奴いたっけ」
「ん~?」
「黒いコートに仮面のやつ。こんな人間いたかな?」
「……あ、それ知ってる。パレットアイズ様をやっつけた『八咫烏』とかいうヤツね」
「いつの間に」
ルードスは、八咫烏がいつ入ったのか本気でわからない。
興味があったのは、炎聖剣フェニキアと氷聖剣フリズスキャルヴを持った二人だけ。
まさか、ロイが変身したなど、考えもしなかった。
「ま、しっかりやれば~?」
「言われなくても。『アクションゲーム』が終わったら、次は『紅白ゲーム』……ふふっ、楽しみだ」
ルードスの口が少しだけ持ち上がった。
◇◇◇◇◇
「……なんだ、これ」
部屋を出たロイの眼の前に、赤い扉、白い扉が並んでいた。
すると、どこからか声が聞こえてくる。
『問題。魔界貴族男爵の次爵は、子爵である。丸なら赤、バツなら白へ』
「…………はい?」
唐突なクイズに、ロイは首を傾げるのだった。
パレットアイズの『魔王聖域』は、異空間というより『現実が改変されていくような』空間だった。家がお菓子になったり、お菓子を食べた人間が蟲になったり、妙な軍団がパレードを始めたり。
だが、ここは最初から異変しかない。
『聖域は、使い手によって能力が違う。例えば……パレットアイズの基本能力は『菓子化』という、あらゆるモノを自在に『菓子』に変化させる能力だ。それを『菓子を喰らう蟲』に変化させたり、『菓子を食べるモノを楽しませるパレード隊』や、『パレードを守る騎士』など、能力を拡張させることが可能となったのが『魔王聖域』だ。つまり、聖域内では能力に上限がない。あくまで根底に『菓子』がなければならんがな』
「菓子化……すっごく羨ましい能力だな」
『そっちか……まぁいい。この異空間は確かに『魔王聖域』の術式が根底にある。恐らく、術式の構成を極限まで削り、『異空間展開』と『能力付与』だけに特化させた力だろうな。名を冠するなら魔族が展開する聖域ほどではない空間……『魔族領域』といったところか』
「デミ・アビスね。お前、そういう名前つけるの好きだよな」
魔族領域。
確かに、パレットアイズのような異質さがあまり感じられない。パレットアイズの聖域は、普段の光景が徐々に、徐々に変わっていく異質さ、恐怖を感じたが、この空間は初めからおかしい。
ロイは、一人で白い部屋にいた。何もない真っ白な部屋で、雪の大地に立っていたはずなのに、硬いコツコツした床に変わっている。
ふと、部屋の先に小さなドアがあった。
『あそこから出れそうだな』
「出れそうだけど……どうなってるんだろうな、この空間」
『……ロイ、お前には教えておく。これは、『魔王聖域』を使う魔王も知らん』
「?」
デスゲイズは、意を決したような声で言う。
『絶対に他言するな。『魔王聖域』は、術者の体内のようなモノだ。つまり……空間を展開すると、弱点である《核》も領域内に現れる。これは魔王たちも知らない……我輩が教えなかったからな。つまり、聖域内にある核を破壊すれば、魔族は死ぬ』
「なっ……じゃ、弱点どころじゃないだろ、それ」
『ああ。我輩が作り出した『魔王聖域』は完璧すぎた。そのまま魔王たちに教えると、面倒なことになりそうだったからな。聖域内に《核》の分身が生み出されるように作り直し、魔王たちに伝えた。分身の存在は魔王ですら感知できん。そういう風に教えたからな』
「…………マジか。じゃあ」
『この空間内にも疑似的な《核》があるはずだ。それを破壊すれば、この魔族は死ぬ……だが、それは最後の手段にしてほしい』
「え、なんで?」
『この魔族が死ねば、トリステッツァに聖域内に『疑似核』があると悟られる。つまり、聖域を教えた我輩を連想する……今は、我輩の名も思い出してほしくない。頼むぞ、ロイ』
「……わかったよ」
ロイは、ドアの前に立った。
すると、ドアが自動で開き、先へ進めるようになる。
「とりあえず、ここから出ることを考えよう。あと……エレノアたちに合流しなきゃな」
部屋の外へ一歩踏み出したロイは───。
◇◇◇◇◇
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「むぎゅぅぅ」
エレノア、ユノの二人は───『動く地面』の上に立っていた。
ロイと同じような『白い部屋』にいて、ドアから出て一歩踏みだした瞬間、なんと地面が動き出した。
正確には、二人が立てるほどの大きさの『白い板』が、数十メートル行ったり、戻ったりを繰り返している。
わけがわからず、エレノアはユノをムギュッと抱きしめ、ユノはエレノアの胸に包まれ前が見えず、息もしにくそうだった。が……ようやく顔を出し、慌てるエレノアの背中をポンポン叩く。
「エレノア、エレノア」
「ななな、なにぃぃぃぃ!?」
「落ち着いて。周り、周り」
「えぇぇ!?」
慌てるエレノアがキョロキョロし、ようやく気付く。
今、自分たちがいる『動く床』は、少しだけ浮いて前後に行ったり来たりを繰り返している。
そして、前方で止まると、二秒ほど停止して後方へ戻る。
「……あれ?」
前方で止まると、数メートル先に同じような『白い板』があるのが見えた。
どうやら、自分たちが立っている場所以外も、『白い板』が動いているようだ。
ユノは気付いていた。
「たぶんここ、ダンジョン? 動く板から板に飛び移って、先に進むんだと思う」
「……なるほど」
「エレノア、先に進もう。義姉さんたち、探さないと」
「え、ええ!! その、騒いでゴメン」
「ううん。エレノアのおっぱい、ふわふわして気持ちよかった」
「……ああ、うん」
なんともコメントに困る。
エレノアはコホンと咳払いした。
「それにしても、アスレチックみたいなダンジョンね」
「楽しそうかも」
「かもね。でも、遊んでる場合じゃないし、さっさと行くわよ」
「うん」
エレノアとユノは魔力を漲らせ、身体強化。
白い板が前方で止まると同時に、別の板に飛び移った。
◇◇◇◇◇
「なんだ、ここは……」
マリアは、部下である三人の部隊長と同じ場所にいた。
目の前には、エレノアとユノが体験している『動く板』がある。
だが、その数が尋常ではない。
マリアたちのいる場所は普通の床板だが、その先には『動く板』があった……のだが、どう考えても、自分たちのいる位置が『空の上』としか思えなかった。
なぜなら、自分たちの位置から下を覗くと……地面が、数百、数千メートルは下にあるからだ。
「だ、団長……これ、夢っすかね?」
部隊長の一人、マルローが頬をピクピクさせながら言う。
スキンヘッドの部隊長であるデノスは自分の頬を引っ張っていた。
そして、顔が真っ蒼な最年少の部隊長である女性、ソレナが言う。
「だ、団長……これ、落ちたら……ど、どうなるんですか?」
「…………」
答えられない。
というか、答えなんて決まっている。
「……いずれにせよ、先に進まねばなるまい。マルロー、デニス、ソレナ、いいか……絶対に、落ちるなよ。タイミングを合わせ、一瞬の身体強化を使い、板へ飛び移る。いいか、タイミングを外すな」
「「「は……はい」」」
三人は頷いた。
非現実的な光景に、まだ頭と体が付いて行かないようだ。
マリアは深呼吸し、タイミングを合わせ───跳躍。
「はっ!!」
見事、足場に飛び移れた。
残る三人も、やや危なっかしいが落ちることなく飛び移れたようだ。
「先は長い。慎重に行くぞ」
「「「はいっ」」」
マリアは次の足場へ向けて、跳躍の準備を始めた。
◇◇◇◇◇
アイスウエストの町、正門。
魔界貴族侯爵『遊戯』のルードスは、解けた知恵の輪を投げ捨て、新しい知恵の輪をポケットから取り出し遊び始めた。
そして、魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーは、ルードスの手から知恵の輪を没収。自分で解き始める。
「おい、何すんだよ」
「いいじゃない。どうせいっぱいあるんでしょ?」
「まあ、あるけど」
ルードスは、ポケットから新しい知恵の輪を取り出して解き始める。
カチャカチャと金属の擦れ合う音が響き、シュプレーが言った。
「ね、あとどのくらい?」
「……どっちが?」
「聖剣士」
知恵の輪を解く時間か、聖域内に取り込んだ聖剣士のことか迷った。
シュプレーが「聖剣士」と言うと、ルードスはつまらなそうに言う。
「……今、『アクションゲーム』に二組、もう一人は……あれ? こんな奴いたっけ」
「ん~?」
「黒いコートに仮面のやつ。こんな人間いたかな?」
「……あ、それ知ってる。パレットアイズ様をやっつけた『八咫烏』とかいうヤツね」
「いつの間に」
ルードスは、八咫烏がいつ入ったのか本気でわからない。
興味があったのは、炎聖剣フェニキアと氷聖剣フリズスキャルヴを持った二人だけ。
まさか、ロイが変身したなど、考えもしなかった。
「ま、しっかりやれば~?」
「言われなくても。『アクションゲーム』が終わったら、次は『紅白ゲーム』……ふふっ、楽しみだ」
ルードスの口が少しだけ持ち上がった。
◇◇◇◇◇
「……なんだ、これ」
部屋を出たロイの眼の前に、赤い扉、白い扉が並んでいた。
すると、どこからか声が聞こえてくる。
『問題。魔界貴族男爵の次爵は、子爵である。丸なら赤、バツなら白へ』
「…………はい?」
唐突なクイズに、ロイは首を傾げるのだった。
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