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涙が奏でる哀歌・嘆きの魔王トリステッツァ⑩/それは魔王の『』
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ユノは、意識が朦朧としていた。
トリステッツァに攻撃され、何が起きたかわからないうちにボロボロになっていた。
動かせるのは、瞼と眼球だけ。
眼を動かすと、ひどく出血しているようだった。
「ぅ……」
声を出そうとすると、それだけで全身に激痛が走る。
右腕が砕け、左腕もヒビが入っている。
地面を転がった影響で、全身に打撲と擦過傷、右足が折れていた。さらに、内臓にも損傷があり、したくもないのに咳き込んでしまい吐血。激痛が走る。
眼がチカチカするが、逆に意識ははっきりしていた。
見えるのは、立ち上がろうとするスヴァルト。
魔力の枯渇で真っ蒼なサリオスが身体を引きずりながら歩き、ロセも右腕を肘から失ったが片手で大戦斧を担いでトリステッツァに向かっている。
「───……」
そして、エレノア。
トリステッツァ相手に一歩も引かず、バーナーブレードを構える。
そして、トリステッツァの背後。
八咫烏が、ショットガンを心臓に向け、散弾を連射した。
『ッッ!!』
ドンドンドンドン!! と、八咫烏は背中の中心に銃口を当てて連射。
背中から、トリステッツァの心臓を狙った連射だ。トリステッツァの背中が反り返り、衝撃で前のめりになる。
そこに、突撃槍を真っ赤に燃やしたエレノアがいた。
「『灼炎楼・絶突』!!」
正面から、心臓を狙った突き。
背中からの射撃、正面からの突き。
挟み込むような心臓への攻撃に、さすがのトリステッツァも驚いていた。
『これは、なかなか───……!!
「『おぉぉぉォォォォォッ!!』」
さらに、八咫烏の背後からサリオスが。
「まだまだァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
命を絞り出すような声で、槍形態となったサザーランドで心臓を突く。
さらに、血まみれのスヴァルトがエレノアの隣から、大鎌を振って刃の先端を心臓に突き刺す。
そして、手斧形態のギャラハッドを片手で振り、サリオスの隣でロセが心臓を狙った。
「だラァァァァァァァァぁッ!!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スヴァルト、ロセも叫ぶ。
サリオスも、エレノアも、八咫烏も。
「…………わ、た」
わたし、も。
ユノは、激痛を堪え立ち上がる。
すると───大きな手が、ユノを支えた。
『がんばれ、ユノ』
「───っ」
その手は、クマのような、とてもゴツゴツした手。
朦朧とした意識が見せた幻だろうか?
でも、この温かさはきっと、夢じゃない。
ユノは、流れる涙を拭わず、叫んだ。
レイピアを手に、自分の背後を斬りつける。
「『水祝』───……ッ!! お、ァァァァァァァァァァ!!」
斬りつけられた空間から、水が噴き出す。
ユノの身体が水の噴射と共に、宙を舞う。
痛みを超え、レイピアを構えると───形状が変わった。
それは、『突撃槍』だった。
エレノアと全く同じ形状で、細部が氷で補完された突撃槍。
「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ───っ!!」
背後から、トリステッツァの心臓めがけて突撃槍が突き刺さる。
『───!? く、ハハハハハハハッ!! これは、素晴らしい!!』
トリステッツァは歓喜する。
五人の聖剣士と、八咫烏の全力だった。
前と後ろから、挟み込む攻撃。
ピシリと、トリステッツァの防御に亀裂が入った。
『見事』
そして。
『───逃げろ!!』
デスゲイズが叫ぶ。
トリステッツァの魔力が一気に膨れ上がり、爆発するように弾けた。
『───なっ』
青い光に包まれる。
八咫烏───ロイの傍には、ユノがいた。
ユノは、意識を失いかけていた。
八咫烏はユノを庇うように手を伸ばし───手を掴んだ。
そして、光に包まれ……意識が消失した。
◇◇◇◇◇
「…………ぅ」
八咫烏が目覚めると、周囲の地形が変わっていた。
地面が抉れ、雪が蒸発し水たまりがいくつもあった。
全身に激痛が走り……どうやら、全身打撲を負ったようだ。
そして、八咫烏の腕にいる、小さな少女。
「…………やっぱり、ロイ」
「……あ」
八咫烏の仮面が割れ、ロイの素顔が見えていた。
額から血が出ているのか、ユノの顔に血が落ちる。
正体が、バレた。
『…………もういい、ロイ』
「……デスゲイズ?」
『我輩は諦めた。もう、好きにしろ』
「な、何言ってんだよ」
『勝てない。もう、終わった。奴は我輩らを逃がすつもりはない』
「……?」
ユノが疑問符を浮かべている。
ロイが独り言を喋っているように見えていた。
「み、みんなは……」
ロイは、身体を半分起こし周囲を確認する。
「……あ」
スヴァルトは、陥没した地面に倒れていた。
服が焼けこげ、右半身が炭化している。傍にいるエレノアを庇ったのか、エレノアは傷だらけだったが、辛うじて生きていた。
サリオス、ロセは折り重なるように倒れていた。
サリオスの背中が重度の火傷で、ロセを守ったのがわかった。ロセは完全に気を失っている。
「ユノ、お前は……」
「…………」
ユノも、重症だった。
吹き飛ばされた時の傷が酷く、もう立ち上がれないようだ。
すると、上空からトリステッツァが、青い魔力を纏い静かに下りてきた。
『ササライ殿の言った通り……今回の聖剣士は、なかなかに見事だった』
無傷。
あれほどの攻撃でも、ほんの少し魔力を削った程度。
これが、魔王。
『さて───』
トリステッツァは、エレノアに顔を向ける。
『炎聖剣……過去の清算を、ここに』
大鎌を、エレノアに向けた。
ロイは立てない。動けない。力が入らない。
「ロイ……」
「ユノ……?」
「ありがと、ロイ」
ユノは、涙を流し……ロイの頬を、そっと撫でた。
それは、諦め。
「最後が、ロイと一緒でよかった。えへへ……エレノアに悪いこと、しちゃった」
「…………」
「ロイ、おねがい……手」
「…………嫌だ」
「え?」
「俺は、諦めない……!!」
ロイは立ち上がる。
仮面が魔力によって再生する。
『…………ロイ、もういい。お前はよくやった』
「ふっざけんな!!」
ロイは叫ぶ。
そして───胸の中に、妙な違和感を感じ取った。
デスゲイズを持つ手が、もの凄く熱くなる。
トリステッツァがロイに気付いた。
『ああ、貴様か……ふぅむ。そういえば貴様は何なのだ? その力……ただの聖剣ではあるまい。どれ、ササライ殿への土産にはなるか』
ロイは、冷静になる。
頭がさえわたり、自分の中にある『違和感』を、冷静に分析した。
過去、命の危機を感じた時、何があった?
死にかけた時───デスゲイズの封印の一部が破れた。そして、デスゲイズが現れた。
パレットアイズを圧倒し、デスゲイズの『聖域』が展開された。
全て、後から聞いた話だ。
『無駄だ。我輩の顕現は不可能だ。あの時とは状況が違う……お前が死ねば、我輩も死ぬ。奴は器用に弓だけを破壊はしないだろう』
「…………違う」
『なに?』
「この『違和感』は、ヒントだ。そう───俺が、俺がやるんだ」
『ろ……ロイ?』
その『違和感』は、デスゲイズが現れた時の違和感。
デスゲイズとロイは繋がっている。
デスゲイズが現れた時。デスゲイズが何をしたのか、ロイは知っている。デスゲイズの行動が、繋がっているロイの『魂』に刻まれている。
あり得ない『何か』をしたデスゲイズ。その意味を、ロイは知っている。
ロイは胸に手を当て、叫んだ。
『エレノア!! ユノ!! サリオス!! ロセ先輩!! スヴァルト先輩!!』
聞こえただろうか。
ロイには見えた。エレノア、サリオス、ロセ、スヴァルトの手が、僅かに動いたのだ。
胸に手を当て、ロイは『違和感』を『答え』にする。
『俺が───俺が、『援護』する!! もう一度……もう一度だけ、立ち上がってくれ!!』
ロイは───答えを見つけた。
もう、答えは一つしかなかった。
『な、何を……ロイ』
「デスゲイズ、見てろ……これが、俺の『可能性』!! 俺が、聖剣士のためにできることだ!!」
ロイは、合掌し、その手をずらした。
神に祈るのではない。ずらした手は、神ではなく、自分への祈り。
ロイの中の『答え』を、形にする祈り。
『───…………馬鹿な』
デスゲイズが理解し、唖然とした声が出た。
ロイは叫んだ。
◇◇◇◇◇
「───『魔王聖域』展開!!」
トリステッツァに攻撃され、何が起きたかわからないうちにボロボロになっていた。
動かせるのは、瞼と眼球だけ。
眼を動かすと、ひどく出血しているようだった。
「ぅ……」
声を出そうとすると、それだけで全身に激痛が走る。
右腕が砕け、左腕もヒビが入っている。
地面を転がった影響で、全身に打撲と擦過傷、右足が折れていた。さらに、内臓にも損傷があり、したくもないのに咳き込んでしまい吐血。激痛が走る。
眼がチカチカするが、逆に意識ははっきりしていた。
見えるのは、立ち上がろうとするスヴァルト。
魔力の枯渇で真っ蒼なサリオスが身体を引きずりながら歩き、ロセも右腕を肘から失ったが片手で大戦斧を担いでトリステッツァに向かっている。
「───……」
そして、エレノア。
トリステッツァ相手に一歩も引かず、バーナーブレードを構える。
そして、トリステッツァの背後。
八咫烏が、ショットガンを心臓に向け、散弾を連射した。
『ッッ!!』
ドンドンドンドン!! と、八咫烏は背中の中心に銃口を当てて連射。
背中から、トリステッツァの心臓を狙った連射だ。トリステッツァの背中が反り返り、衝撃で前のめりになる。
そこに、突撃槍を真っ赤に燃やしたエレノアがいた。
「『灼炎楼・絶突』!!」
正面から、心臓を狙った突き。
背中からの射撃、正面からの突き。
挟み込むような心臓への攻撃に、さすがのトリステッツァも驚いていた。
『これは、なかなか───……!!
「『おぉぉぉォォォォォッ!!』」
さらに、八咫烏の背後からサリオスが。
「まだまだァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
命を絞り出すような声で、槍形態となったサザーランドで心臓を突く。
さらに、血まみれのスヴァルトがエレノアの隣から、大鎌を振って刃の先端を心臓に突き刺す。
そして、手斧形態のギャラハッドを片手で振り、サリオスの隣でロセが心臓を狙った。
「だラァァァァァァァァぁッ!!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スヴァルト、ロセも叫ぶ。
サリオスも、エレノアも、八咫烏も。
「…………わ、た」
わたし、も。
ユノは、激痛を堪え立ち上がる。
すると───大きな手が、ユノを支えた。
『がんばれ、ユノ』
「───っ」
その手は、クマのような、とてもゴツゴツした手。
朦朧とした意識が見せた幻だろうか?
でも、この温かさはきっと、夢じゃない。
ユノは、流れる涙を拭わず、叫んだ。
レイピアを手に、自分の背後を斬りつける。
「『水祝』───……ッ!! お、ァァァァァァァァァァ!!」
斬りつけられた空間から、水が噴き出す。
ユノの身体が水の噴射と共に、宙を舞う。
痛みを超え、レイピアを構えると───形状が変わった。
それは、『突撃槍』だった。
エレノアと全く同じ形状で、細部が氷で補完された突撃槍。
「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ───っ!!」
背後から、トリステッツァの心臓めがけて突撃槍が突き刺さる。
『───!? く、ハハハハハハハッ!! これは、素晴らしい!!』
トリステッツァは歓喜する。
五人の聖剣士と、八咫烏の全力だった。
前と後ろから、挟み込む攻撃。
ピシリと、トリステッツァの防御に亀裂が入った。
『見事』
そして。
『───逃げろ!!』
デスゲイズが叫ぶ。
トリステッツァの魔力が一気に膨れ上がり、爆発するように弾けた。
『───なっ』
青い光に包まれる。
八咫烏───ロイの傍には、ユノがいた。
ユノは、意識を失いかけていた。
八咫烏はユノを庇うように手を伸ばし───手を掴んだ。
そして、光に包まれ……意識が消失した。
◇◇◇◇◇
「…………ぅ」
八咫烏が目覚めると、周囲の地形が変わっていた。
地面が抉れ、雪が蒸発し水たまりがいくつもあった。
全身に激痛が走り……どうやら、全身打撲を負ったようだ。
そして、八咫烏の腕にいる、小さな少女。
「…………やっぱり、ロイ」
「……あ」
八咫烏の仮面が割れ、ロイの素顔が見えていた。
額から血が出ているのか、ユノの顔に血が落ちる。
正体が、バレた。
『…………もういい、ロイ』
「……デスゲイズ?」
『我輩は諦めた。もう、好きにしろ』
「な、何言ってんだよ」
『勝てない。もう、終わった。奴は我輩らを逃がすつもりはない』
「……?」
ユノが疑問符を浮かべている。
ロイが独り言を喋っているように見えていた。
「み、みんなは……」
ロイは、身体を半分起こし周囲を確認する。
「……あ」
スヴァルトは、陥没した地面に倒れていた。
服が焼けこげ、右半身が炭化している。傍にいるエレノアを庇ったのか、エレノアは傷だらけだったが、辛うじて生きていた。
サリオス、ロセは折り重なるように倒れていた。
サリオスの背中が重度の火傷で、ロセを守ったのがわかった。ロセは完全に気を失っている。
「ユノ、お前は……」
「…………」
ユノも、重症だった。
吹き飛ばされた時の傷が酷く、もう立ち上がれないようだ。
すると、上空からトリステッツァが、青い魔力を纏い静かに下りてきた。
『ササライ殿の言った通り……今回の聖剣士は、なかなかに見事だった』
無傷。
あれほどの攻撃でも、ほんの少し魔力を削った程度。
これが、魔王。
『さて───』
トリステッツァは、エレノアに顔を向ける。
『炎聖剣……過去の清算を、ここに』
大鎌を、エレノアに向けた。
ロイは立てない。動けない。力が入らない。
「ロイ……」
「ユノ……?」
「ありがと、ロイ」
ユノは、涙を流し……ロイの頬を、そっと撫でた。
それは、諦め。
「最後が、ロイと一緒でよかった。えへへ……エレノアに悪いこと、しちゃった」
「…………」
「ロイ、おねがい……手」
「…………嫌だ」
「え?」
「俺は、諦めない……!!」
ロイは立ち上がる。
仮面が魔力によって再生する。
『…………ロイ、もういい。お前はよくやった』
「ふっざけんな!!」
ロイは叫ぶ。
そして───胸の中に、妙な違和感を感じ取った。
デスゲイズを持つ手が、もの凄く熱くなる。
トリステッツァがロイに気付いた。
『ああ、貴様か……ふぅむ。そういえば貴様は何なのだ? その力……ただの聖剣ではあるまい。どれ、ササライ殿への土産にはなるか』
ロイは、冷静になる。
頭がさえわたり、自分の中にある『違和感』を、冷静に分析した。
過去、命の危機を感じた時、何があった?
死にかけた時───デスゲイズの封印の一部が破れた。そして、デスゲイズが現れた。
パレットアイズを圧倒し、デスゲイズの『聖域』が展開された。
全て、後から聞いた話だ。
『無駄だ。我輩の顕現は不可能だ。あの時とは状況が違う……お前が死ねば、我輩も死ぬ。奴は器用に弓だけを破壊はしないだろう』
「…………違う」
『なに?』
「この『違和感』は、ヒントだ。そう───俺が、俺がやるんだ」
『ろ……ロイ?』
その『違和感』は、デスゲイズが現れた時の違和感。
デスゲイズとロイは繋がっている。
デスゲイズが現れた時。デスゲイズが何をしたのか、ロイは知っている。デスゲイズの行動が、繋がっているロイの『魂』に刻まれている。
あり得ない『何か』をしたデスゲイズ。その意味を、ロイは知っている。
ロイは胸に手を当て、叫んだ。
『エレノア!! ユノ!! サリオス!! ロセ先輩!! スヴァルト先輩!!』
聞こえただろうか。
ロイには見えた。エレノア、サリオス、ロセ、スヴァルトの手が、僅かに動いたのだ。
胸に手を当て、ロイは『違和感』を『答え』にする。
『俺が───俺が、『援護』する!! もう一度……もう一度だけ、立ち上がってくれ!!』
ロイは───答えを見つけた。
もう、答えは一つしかなかった。
『な、何を……ロイ』
「デスゲイズ、見てろ……これが、俺の『可能性』!! 俺が、聖剣士のためにできることだ!!」
ロイは、合掌し、その手をずらした。
神に祈るのではない。ずらした手は、神ではなく、自分への祈り。
ロイの中の『答え』を、形にする祈り。
『───…………馬鹿な』
デスゲイズが理解し、唖然とした声が出た。
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