追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう

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第七章

強敵

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 俺は闘気を全開にし、右腕を巨大化させ身体を隠すように広げた。
 すると、キルトの指示で魔法部隊が俺に向かって魔法を放ってくる。
 火、水、風、氷、雷……いろいろな属性だ。しかも、レベルも高い。
 でも───俺は全く恐怖を感じていなかった。
 魔法は全て、俺の開いた手に直撃する。だが、僅かな衝撃だけで傷一つ付かない。

「あぁ? クソが、なかなかの防御力だ。なんの『獣化』だ? まぁいい、魔法部隊はそのまま魔法を放て。近接部隊は前へ、中距離部隊は援護しろ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」

 なかなか統率の取れた部隊だ。
 チームに熟練の冒険者がいるせいでもある。明らかに三十代、四十代の男が混ざってるもんな。
 近接部隊が、武器を構えて迫って来る……が、前ばかり気にしているわけにもいかない。

『ガァァァァァァァ!!』
「チッ、こっちもか」

 巨大な赤鬼だ。手に持った大剣に火が付き、身体の各所もメラメラ燃えている。
 こいつ、エンシェントドラゴンの知識にある。大罪魔獣の一体、『憤怒の鬼帝』スルトだ。
 ステュムパリデスもミドガルズオルムもだけど……大罪魔獣、七体のうち三体もイザベラが飼っているようだ。
 まずは、迫って来る人間の方から対処するか。

「『闘気開放』」

 闘気を全開にし、床を蹴る。
 床が砕け、近接部隊の一人の目の前へ。

「!?」
「安心しろ、殺しはしない」

 闘気を込めた右手で数発殴ると、吹き飛んで壁に激突しめり込んだ。
 俺が殴ったのは、両腕と両足。戦えないように、立てないように骨を砕いた。
 殺してもいいけど、殺すより裁いた方が効きそうだしな。

「このっ!!」

 すると、俺の背後に来た男が斧を振う。
 俺は斧をデコピンで砕き、四肢を殴り骨を砕いた。
 さらに、双剣を構えていた細身の女へ接近。腕ではなく両手首を叩いて骨を砕き、蹴りで膝を砕いた。足が変な方向に曲がり女は絶叫する。

「ひるむんじゃねぇ!! 全員でかかれば必ず隙ができる!! 怪我してもあとでオレが治してやる!! 恐れるな、行けぇぇぇぇっ!!」

 キルトが命令すると、冒険者たちは襲い掛かって来る。
 魔法がいくつも飛んできたので躱し、中距離部隊が矢を放つ。俺はその矢を何本か掴み、背後から迫ってきているスルトの顔面に向かって投げた……が、スルトの顔に刺さらず、なんと皮膚で弾かれた。
 
「あいつは直接叩くか、闘気の武器じゃないと無理か」
「っしゃぁぁぁ!!」

 『加速』のスキル、さらに支援魔法で強化したナイフ使いの少女が連続攻撃してくる。こいつ確か、Aクラスの新入生だな。
 俺はそいつの両手を掴んで動きを止め、軽く握った。

「っぎ、やぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 ベギョボギグシャ、と音がして少女の手首を破壊される。
 手首がだらんと落ち、少女は座りこんで絶叫した。
 不思議だ。全く罪悪感がない……関わりがないとはいえ、同じ学年、同い年の少女なのに。
 すると、ようやくキルトが気付いた。

「……ただの『獣化』じゃねぇ。あの野郎、一体何の動物をモチーフにした『獣化』を手に入れたんだ!? ええい、プリメラ!!」
「はい!!」

 プリメラが前に出て、杖を俺へ向ける。
 かつては婚約者だったこともあるのに……俺へ対する攻撃に、なんの躊躇いもなかった。

「重力魔法、『グラビトン』!!」
「っ!!」

 身体が重くなる。強大な『圧』がかかる。
 何か、上から押されているような……これがプリメラのスキルか。
 でも、俺は平然と立つ。

「くっ……れ、レベル25の魔法を、こんな」
「……この程度か?」
「なっ」
「『闘気精製ドラゴンスフィア』───〝サイス〟」

 俺は片手用の鎌を造り、プリメラに向かって投げた。
 ハッとしたプリメラは魔法を解除して避けようとするが、少し遅い。
 魔法を解除、横へ逃げようとして───杖を持つ右腕が、肘から切断された。

「あ、あ、あ……あ、ぁ……あ、アァァァァッ!? う、腕がぁァァァァァァァァァァ!?」

 ボトリと落ちる腕。肘から噴き出す血を何とか押さえるプリメラ。

「ぷ、プリメラぁぁぁぁぁぁぁっ!! テメェ、よくも!!」
「…………」

 もう、面倒くさいな。
 
「スキルイーター・セット……『樹龍闘気』」

 黄緑色の闘気が俺の両手を包み込む。
 俺は両手を床に突き刺し、闘気を一気に解放───床を突き破り、大量の『樹』が生えてきた。
 その樹の枝や蔦が伸び、冒険者たちを全員拘束する。腕、足、首に絡みつく樹は並みの武器やスキルでは傷つけられない。ドラゴンの闘気で作り出した木を舐めるな。

「『樹龍群生リンドブルム』……この技は大勢を拘束する技だ。一対多数なんてよくありそうだしな、いい技で助かるよ、リンドブルム」
「こ、この、野郎……」
『ギ、ォォォォ!!』
「くっ……キルト!! そいつを始末しなさい!!」

 イザベラとスルトも拘束できたようだ。
 俺は、手のひらサイズの球体を造り、イザベラに向かって投げる。

「ぁん!?」

 鉄球は頭に直撃。イザベラの額から血が噴き出し、がっくりと気絶した。
 スルトはいずれ拘束を破るだろう……その前に、やることがある。

「キルト、これで一対一だ。本気でやろうか」
「い、一対一……!?」

 怪我人も含め、チーム『アークライト』は全員拘束した。
 俺は腕を交差し呟く。

「『第二解放セカンドリベレーション』」

 腕から伸びた鱗が身体を覆い、翼も生える。
 ギョッとしたキルトは、杖を構え向けた。

「く、くっ……く、ははははははははっ!! いいね、いいね兄貴!! いいぜ、やってやる!! オレは『大賢者』キルトだ!! レジェンドスキルの、新たな王となる男だ!!」
「…………」
「大賢者魔法……来たれ隕石、『メテオ

 俺は一瞬でキルトの懐へ潜り込み、右手で頬をビンタした。

「がぶぅわっぱ!?」

 空中で回転しながら吹っ飛び地面を転がるキルト。
 頬がパンパンに膨れ、鼻血もボタボタ流れ涙を浮かべている。

「ぼ、ぼぉ、て、テメェ」
「立てよ。まだ終わりじゃないぞ」

 キルトは立ち上がる。
 ああ、この眼だ……昔から、キルトはこんな目で俺を見ていた。
 見下すような、でも、どこか羨ましそうな……そんな目。

「ちくしょう、ちくしょぉぉぉぉ!! 大賢者まほ

 再びビンタ。またしてもキルトは吹っ飛んだ。

「びゅぱぁ!?」
「…………立てよ」
「は、は、はぁ……く、くそ、が」

 キルトは立つ。
 
「てめぇ、なんかに……く、ははは。魔力を失ったカスに、負けるか。オレのが、優れてるんだ。おまえ、なんかに、まけるか……まける、カァァァァァ!!」
「そうか。もういいよ」
「───……っ!!」

 俺は接近し、キルトの杖をキルトの腕ごとへし折った。

「ギャァァァァァァァァァァァ!?」
「お前が俺をどう思ってるのか知らないし、知りたくもない。でもな、キルト……お前が屋敷に来た時、俺はお前のことを本当の弟のように、可愛がろうと思ってたよ」
「は、お、オレは……オレはテメェのこと、兄貴だなんて思ったことなかった、ぜ!!」
「そうか……さよなら、キルト」

 俺は拳を強く握り、キルトの顔面を叩き潰すように殴った。
 顔面が陥没したキルトは吹っ飛び、近くに樹に激突。蔦が絡みつき、そのまま気を失った。
 
『グァァァァァ!! グァァァァァ!!』

 俺はもう、キルトを見なかった。
 暴れるスルトの叫び。蔦を切っては絡みつき、切っては絡みつくの繰り返しだ。
 俺は跳躍し、右手を巨大化させ強く握る。そして、そのまま振りかぶってスルトの頭に叩きつけた。

「『龍槌ドラハンマ』!!」

 バギャッ!! と、頭蓋骨が砕け脳が鼻や耳から噴きだした。スルトの目は真っ赤になり、そのまま死亡……首を切断し、身体は右手で食う。

「───……お!! スキルレベル上がった。レベル4、スキルのストック数1つ増えた。さらにスルトのスキル『凶戦士・火』……これはいらないな」

 全ての攻撃力が三倍になるが理性を失い、身体が燃えて火属性を獲得するスキルだ。強いんだろうけど、理性を失うってところで使い道がない。
 まぁ、いい。

「あとは……こいつだけか」

 俺は、額から血を流し気絶するイザベラを見た。
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