追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう

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第七章

四分の三

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 四分の三スリークォーターの龍人形態。
 両足を包む鱗の装甲。その脹脛部分がガパッと開くと、黄金の闘気が噴射。リュウキは超高速で拳を振りかぶり、エキドナを狙う。
 だが、エキドナは避けなかった。
 代わりに、テュポーンが動き、リュウキの巨大化した右拳を受け止めた。

「よくできました」
「おま、避けるなり受け止めるなりしろよ」
「いいじゃない。あなたがいるんだもの……ねぇ、テュポーン」
「へいへい」

 そして、テュポーンの左腕が巨大な《蛇》となり、リュウキの身体を弾き飛ばす。
 リュウキは宮殿に激突。再び貫通し、反対側へ吹き飛んだ。
 そして、テュポーンの左腕の《蛇》が大きな口を開ける。
 テュポーンは宮殿の屋上へ飛び、そこから《蛇》をリュウキが吹き飛んだ場所へ向けた。

「『ヴェノムブレス』」

 口から濃い紫色の猛毒ブレスを吐きだす。
 濃い紫色の霧が、リュウキのいる周囲の森を包み込んだ。
 木々が枯れ、大地が腐り、魔獣、動物たちが紫色の泡を吹いて倒れ、そのままグズグズに溶けて液状になり、最後は腐った地面と同化する。
 リュウキも例外ではなかった。

「グハッ!? ガハッ、ガハッ……う、ゲェェッ!!」

 吐血、嘔吐を繰り返した。
 闘気で辛うじて身を守っているが、毒の浸食が早く闘気で相殺できない。それだけじゃない、鱗の鎧に亀裂が入り、龍人形態が解除される寸前だった。
 そして、テュポーンとエキドナが何事もなく、毒霧の中を歩いてくる。

「御父上の力でも、オレの毒は相殺できないみたいだな。ははは、なんか嬉しいぜ」
「調子に乗らない。それで……?」
「ま、一番弱い毒でこのありさまだ。どんなに頑張っても、オレらに傷一つ付けられねぇだろうさ。エキドナ、楽にしてやれよ」
「えー? この子で遊びたいわ」
「やめとけって。こいつの《核》奪って、御父上の力を手に入れようぜ。上のクソ兄貴とクソ姉貴に一泡吹かせてみるのも、面白そうかもよ?」
「…………確かにねぇ」
「グ、ゥゥ……」

 リュウキは、ガクガク震え吐血し、真っ赤に充血した眼から血の涙を流す。ヨダレも、流れ出る全ての液体が血になっていた。
 内臓も、機能が停止しつつある。心臓の鼓動も弱く、今にも止まりそうだ。
 せっかく『四分の三スリークォーター』に進化しても、まるで歯が立たない。
 これが、ドラゴン。
 世界を壊し、世界を変える力を持つ、偉大なる生物。
 ちっぽけな人間が力を手にし、身体を鱗で覆ったところで、辿り着けない境地だ。

「ゥ、ぐ……」

 意識が朦朧となり、ようやく頭が落ち着き……リュウキの意識が、戻ってきた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 頭が痛かった。
 喉が痛かった。
 お腹も、腰も、背中も、何もかも痛い。
 目がかゆく、擦ると真っ赤な血で染まった。
 目がほとんど見えない。だが、エキドナとテュポーンが何やら話しているのは聞こえた。

「頭に《核》があるんだっけ?」
「そうみたい。普通は心臓なのに、変な子ねぇ」
「あっちの人間とリンドブルム、どうする?」
「始末していいわよ。この子が使えないなら、イザベラで遊ぶからいいわ」
「はいよ」

 毒、か。
 まったく……とんでもないドラゴンだ。
 ほんの少し毒を吸っただけなのに、もう身体がガタガタだ。
 力を75%まで解放したのに、歯が立たない。
 所詮、俺じゃあ……エンシェントドラゴンの力を、引き出せないのか。

『───、───』
「……?」

 何かが、聞こえたような気がした。
 眼は見えない。耳からも血が出ている。でも……やけにはっきり聞こえた。
 まるで、耳に直接、声が届いているような。

『いいの?』
「……?」
『諦めたら、そこでおしまい』
「…………」
『あがく? ふふ、あがくなら……手を貸してあげる』
「…………っ」

 俺は、小さく頷いた。
 まだ、死ねない。
 死にたくないし、仲間たちと冒険だってしたい。
 それに、アキューレを助けなきゃ。
 こんな連中に、負けたくない。

『大きく口を開けて……あなたに、《力》をあげる』
「…………」
『この力でも、エキドナとテュポーンを倒せる保証はない。でも、完全に油断している今なら、どちらかに致命傷を与えることができるかもしれない』
「…………」
『あとは───わかるわね?』

 俺は小さく頷き、最後の力を振り絞って大きく口を開けた。

「ぷっ……何? どうしたの? お腹減ったのかしら」
「ハハハっ、そろそろ死んどけ」

 テュポーンの手が伸びてくる。
 そして───俺は、見た。
 上空から、何かが落ちてきた。
 エキドナたちは気付いていない。
 それは───小さな、指のような肉の塊。 
 それが、俺の空いた口の中に落ちた。

「「……?」」

 俺は咀嚼することなく飲み込み───気付いた。
 これは、ドラゴンだ。
 ドラゴンの肉を、俺は食った。
 そして、緑色の闘気が俺の全身を包み込む。
 スキルイーターのレベルが上がり、新しいスキルをセットした。

「『嵐龍闘気』───『女神の嵐槍ヴィーナスゴスペル』!!」
「えっ?」

 創造するのは、嵐。
 その嵐を突っ切るのは、槍。
 嵐を纏う突撃槍を一本作り立ち上がる。油断しているエキドナの心臓目掛けて突き刺した。
 胸に槍が刺さったエキドナは大量に血を吐き吹っ飛ぶ。
 俺は全ての力を振り絞り、唖然としているテュポーンの顔面めがけて槍を突き刺す。

「ごぇ!?」

 頬に槍が刺さり、口を貫通。
 俺は右手を巨大化させ、テュポーンの腕に右手を喰らいつかせ食い千切った。
 
「スキルイーター、『咀嚼インストール』……『反芻ダウンロード』!!」

 レベルが上がり、テュポーンのスキル『毒龍闘気』を手に入れた。
 同時に、テュポーンの毒を無毒化。倒れたテュポーン、エキドナに向かい、俺は両手に槍を作り、何度も何度も二人の身体に突き刺した。

「う、ォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す!!
 死ぬまで刺す。胸にも、心臓にも、足にも腕にも手にも、頭にも刺す。
 殺すしかない。今しか殺せない。
 俺はメチャクチャに槍を刺し続けた。そして、二人の原型がなくなった時、ようやく変身を解除し、エキドナの肉片を喰らう。
 右手で肉片を咀嚼し、反芻……再び、レベルが上がった。
 スキルイーターのレベルが6になり、ストックできるスキルも六つ。
 新しく、『水龍闘気』を手に入れた。

「はぁ、はぁ、はぁ……は、ははは……か、勝った」

 槍がカランと落ち、俺は崩れ落ちる。
 原型のなくなった肉片。
 エキドナとテュポーンは、完全に油断していた。

「……何だったんだ?」

 俺に話しかけてきた声……女のような、声。
 上空から落ちてきた、ヒトの指のような肉。それを食ったら風が操れるようになり、テュポーンとエキドナが硬直した。
 よくわからない。だが……助けられた。

「…………」

 なんとなく、空を見上げるが……そこには、誰もいなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ボロボロの身体を引きずり、レイたちの元へ。
 
「リュウキ!! あんた、無事なの!?」
「あ、ああ……身体、重いけどな」
「リュウキ、お前……あの二人、倒したのか?」
「なんとかな」
「リュウキくん、怪我を治すよ」
「頼む、サリオ」
「リュウキくん……心配、しました」
「ごめんな、アピア」
「リュウキ……」

 リンドブルムが、信じられないような眼で俺を見ていた。

「ふぁ、ファフニールお兄さまの力……ど、どこで?」
「……わからん」
「ファフニールお兄さま、ずっと行方不明なの。わたしも、他のお兄さまやお姉さまも、一度くらいしか会ったことないの」
「そうなのか?」
「う、うん……リュウキ、すごい」
「…………」

 本当に───わけ、わからん。
 誰かに救われたのは間違いない。でも……それが誰だかわからない。
 どこどなく、気味の悪い勝利だった。

「と、ともかく。脅威は去ったようね、早くアキューレを助けに行くわよ」
「「「「了解」」」」
「はーい」

 俺たちは、宮殿に向かって歩き出し───。

 ◇◇◇◇◇◇

 次の瞬間、エキドナとテュポーンがいた腐った大地が爆発した。

 ◇◇◇◇◇◇

『『やぁぁってくれたなぁぁぁぁ~~~ッ!!』』

 現れたのは、双頭の大蛇。
 頭が二つある大蛇だ。尻尾がない、一本の長い身体に、頭が二つ付いている。
 水色の、ウミヘビのようなドラゴン、毒々しい紫色の、マムシのようなドラゴン。
 宮殿を簡単に丸呑みできそうな、あまりにも長く巨大な蛇だった。
 ミドガルズオルムの数倍の大きさを誇る蛇は、俺たちを見下ろす。

『『許さん!! 貴様ら全員、丸呑みにしてくれるわ!!』』

 エキドナとテュポーン、双子龍の、本来の姿だった。
 俺は意を決し、全員に向かって叫ぶ。

「みんな!! こいつは俺が足止めする……アキューレを助けて、ここから離脱してくれ!!」
「ちょ……本気!? あんなバケモノ、あんたでも」
「わかってる!! でも、やるしかない!! 『龍人変身ドラゴライズ』!!」

 俺は変身し、翼を広げ飛び立つ。
 ばかばかしいサイズ差だ。あまりにも、テュポーンとエキドナは巨大すぎる。

『『この、人間ガァァァァァァーーーーーーッ!!』』
「来い!! こうなったら……やってやる!!」

 俺と双子龍、最後の戦いが始まった。
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