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脇役剣聖、事情を聴く

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 俺、ドバト。そしてフルーレ、ラストワン、アナスタシアの五人は、屋敷の地下にある会議室へ移動した。
 この地下室。秘密の会議をするために作ったものだ。ケインくんが『こういうのあった方が便利ですよ』なんて言うから作ったけど、さっそく出番があるとは思わなかった。
 部屋に入るなり、ラストワンが言う。

「で……まずはラス、お前からだ。魔族と繋がってるのか?」
「そういう意味では繋がっていない。ラクタパクシャは、俺の『冥狼斬月』……ルプスレクスを持つに相応しいかどうか、見極めに来ただけだ」

 俺は、ラクタパクシャが来た理由を説明。そして、滞在した理由も説明した。
 フルーレが言う。

「魔界と人間界を結ぶ空が不安定で帰れなくなった。だから、落ち着くまで滞在を許可した、ね……」
「嘘じゃない。ラクタパクシャは本当に、ルプスレクスに会いに来ただけだ」

 確信を持って言える。
 俺は、『冥狼斬月』をテーブルに置く。
 ラストワンは、アナスタシアを見た。

「アナスタシア。お前らしくねぇな……お前なら、速攻で報告してたはずだろ?」
「そうね。でも、ラスの言う通りよ。『天翼』ラクタパクシャ……彼女はルプスレクスに、そしてそれを持つラスに会いに来ただけ。彼女に会えばわかるわよ……だって彼女」

 アナスタシアは、『冥狼斬月』をそっと撫でた。

「彼女、一人の男を愛する女だから。私も女だからわかるの……彼女は純愛よ」
「……? えと、すまん、わからん」
「男にはわからないわ。確かに、最初こそ私も恐怖したけど、今はもう敵対するつもりもない。彼女は優しい、ラスが認める魔族。もちろん、そこの彼もね」
「おお……!! アナスタシア女史!!」

 ドバトは、アナスタシアを見て目を潤ませていた。
 そういやこの二人、戦ったんだよな。
 ラストワンは頭を掻き、大きなため息を吐く。

「はぁ~……わかった、わかったよ。いい魔族もいるってのはラスから散々聞いてたしな。というか……ここまで来る道中、オレもこの鳥男が悪だとは思えなかった。おとなしいし、口開けば主の心配ばかりだからな」
「……私はまだ認めてないけど」
「じゃあ、お嬢ちゃんは引っ込んでなさい。ここからは大人の時間」
「はぁ?」

 アナスタシア、フルーレが険悪な雰囲気になる。
 俺は二人の間に割り込んだ。

「待て待て。フルーレ、話が進まないから今は先に進ませてくれ。お前が思ったことを団長やランスロットに報告していいからよ」
「…………」
「アナスタシアも、大人げないことを言うなっての」
「……ふん」

 二人を落ち着かせ、俺はドバトを見た。

「ドバト。お前たちの身に何が起こったのか、詳しく説明してくれ」
「わが友……感謝する」

 ようやく、本題に入ることができそうだ。

 ◇◇◇◇◇◇

「主の留守中に、『破虎』が攻めてきたのだ……そして、領地に戻った我々は何の準備もないまま、『破虎』と、その子供たちと戦い敗北……主は『破虎』に捕らえられ、上級魔族たちはほぼ処刑された。我とビンズイは何とか逃げ出したが……ビンズイはどうしても主が心配だと言って残り、我は命からがら人間界まで飛んできたのだ」

 ドバトは辛そうに言う。
 そりゃそうだろう。自分たちの同胞が、ほぼ処刑されたなんて。

「ラクタパクシャは、無事なのか?」
「ああ……『破虎』に捕らえられてはいるが」
「……『虎』か」

 すると、ラストワンが言う。

「おい鳥男。デッドエンド大平原で『虎』たちが活発化してるのは何でだ?」
「……それは、奴が人間界への侵攻を企んでいるからだ」
「何? おいお前、それ初耳だぞ」
「すまんな。わが友がいる前で言おうと決めていた」

 ラストワンが舌打ちする。
 というか……人間界侵攻?

「おいドバト。人間界侵攻って、どういうことだ?」
「……奴は、これで『冥狼』と『天翼』の領地を手に入れた。八つある魔界の領地のうち、三つを手にしたことになる。そこの住む魔獣を手懐け軍勢とし、他の七大魔将の元にいる上級魔族も何人か『破虎』に寝返った。しかも……魔王様は動かない。『破虎』によると、魔王様は弱体化しているという」
「……弱体化?」
「ああ。『破虎』曰く、ルプスレクス様と戦った後、魔王様は急激に弱くなったと。詳しいことは知らんがな」
「……それで、人間界侵攻ってのは」
「奴は、魔界と人間界、両方を征服するつもりだ。しかも、同時に」
「同時に!?」
「ああ。奴は強欲だ……わかっているのは、ラクタパクシャ様を利用し、『天翼』に属する鳥族を利用して海を渡る計画を立てている。すでに、『破虎』の軍勢の一部が、デッドエンド大平原に流れ込んでいる」

 それを聞き、フルーレが言う。

「団長と私が倒した虎の軍勢は、魔界から来た連中のようね」
「……ドバト。ラクタパクシャは、『破虎』の言いなりなのか?」
「ああ。虎たちをデッドエンド大平原に運んでいる。嵐を避けるルートを的確に選んでいることから……恐らく、ビンズイも捕まって協力しているのだろう」
「…………」
「なーるほどな。つまり、『天翼』は『破虎』の人間界侵攻に手ぇ貸してるってわけか」
「……やっぱり、魔族は敵ね」

 ラストワン、フルーレが納得したように言う。
 ドバトは首を振る。

「いずれ、『破虎』が直々に人間界へ下見に来るだろう。恐らく今も、『虎』の主要戦力を送り込んでいるはず。魔界の領地が手薄になるが、今の七大魔将と魔王様が、危険を冒して『破虎』を脅かすとも思えん……」
「マジかぁ。ったく、めんどくせぇ。おいラス、どうすんだ」
「……あなたの責任もあるわよ。『天翼』と『破虎』を倒すしかないわ」
「…………」

 本当に、ラクタパクシャは……『破虎』に付いたのだろうか。
 ドバトは俯いたまま何も言わない。
 ───……すると、アナスタシアがため息を吐いた。

「……ラス、あなた本当に、ラクタパクシャが『破虎』に付いたと思っているの?」
「……え」
「私は、そうは思わない。ラクタパクシャはきっと、わざと人間界に『虎』の戦力を送っている。送れば送った分だけ、私たちが倒すと信じているから」
「…………」
「いずれ、『破虎』が乗り込んでくるのなら……倒せばいいわ。きっと、ラクタパクシャもそれを望んでいる」

 ガツンと殴られたかと思った……それくらい、その言葉には力があった。
 ああ、そういうことか……アナスタシアの言う通りだ。

「そうだな……そういうことなんだな。アナスタシア、お前の言う通りだ」
「ええ、そうね」
「……おいラス、アナスタシア、何言ってんだ?」
「ラストワン。団長に報告する。『破虎』が来るかもしれない、その時は……俺が斬るってな」

 俺は『冥狼斬月』を手にする。
 もう決めた。俺は、『破虎』が来るならぶった斬ってやる。
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