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第1話 神威代理戦争
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教官の号令によって、場の空気は一気に凍りついた。張り詰めた緊張が痛いほど肌に染みる。
「貴様らは訓練校の中でもずば抜けて優秀だった者たちだ。」
周りを見渡して同期がどんなものか確認する。人数はざっと100人ほど。筋骨隆々な男から何を考えてるか分からない異端児まで多種多様だ。中でも興味を持ったのは右斜め前に立っているエルフの男だった。なぜならそいつは、俺が視線を向けた瞬間に少し姿勢を低くし、何かを感じとっていたからだ。
そんなことを考えていると、隣にいる背の低いゴブリンの男が甲高い声で話しかけてきた。
「なあ、あんた。ゼン・ブライトだろ?全科目満点の超優秀候補生って噂の。」
彼は尖った鼻を擦りながら話を続ける。
「俺はイート。よろしく頼むぜ!」
イートはそう言って握手を求めてきた。俺がよろしく頼むと言って手を交わそうとした時、教官の怒号が飛んできた。
「そこのゴミクズ共!話をしてる余裕があるのか!?今からお前らが行くのは楽しい飲み会じゃあねぇ!戦場だ!わかったら黙りやがれ!」
明らかに言い過ぎだとは思ったが、イートのせいで俺も巻き込まれたという苛立ちのほうが勝った。俺は申し訳なさそうに謝るイートを無視して姿勢を正した。
口に手を当て咳払いした教官が話を戻す。
「現在、D.A.B.が占領中の街ケイルに友軍が侵攻中だ。貴様らは友軍と合流し作戦を遂行してもらう。無事に生きて戻ってこれた者は、晴れてデイヴァナイトだ。」
教官の言葉に候補生達が雄叫びをあげる。その一体感は、何にも負けない力強さがあった。
「3分で準備しろ。絶対にケイルを取り戻せ。幸運を祈る…!」
そう言って教官は力強く敬礼する。俺たちもバシッと息を合わせて敬礼をした。
俺が宿舎で装備を整えていると、先程のイートが隣にきて準備をし始めた。
「ほんとに、さっきは悪かったな。」
「大丈夫だ、気にしてない。」
俺は黙々と準備しながら素っ気なく答える。気まずい雰囲気をかき消すために、イートが話を振る。
「お前はなんで軍に入った?」
その問いかけには明白な答えがあった。俺の命の恩人。俺の憧れの部隊。
「ドミニオン部隊に憧れて入った。」
「ドミニオン?H.S.B.最強のデイヴァナイト部隊か。」
ドミニオン部隊。神聖安全保障省最強の部隊。H.S.B.設立当初からある伝説と言っていい部隊。3年前、あと少しでクインテーゼを暗殺できたが、惜しくも仕留めきれなかった。
「強いのはわかるけど、なんで憧れてんだ?」
「ああ、それはな…」
言いかけた時、外から兵士の声が聞こえてくる。
「出発だ、全員乗り込め~。」
「行くぞ、話は後な。」
そう言って荷物を持った俺は、イートの肩を叩いて宿舎を後にした。前哨基地の広場には、10機以上のブラックホークが待機していた。
初めての実戦に、俺は興奮を抑えきれずにいた。ようやく、憧れと同じ位置に立てる。そんな浅はかな考えが、後の後悔となる。
「よし、出発だ!」
ブラックホークが大きなプロペラ音を立ててゆっくり上昇する。綺麗な編隊を組んで大空を飛び立つ。それはまさにひとつの生き物のようだった。生暖かい風が機内に流れ込んでくる。
「俺、ヘリ初めてなんだよ。まじワクワク止まんないぜ…!早くデイヴァナイトになりてぇ…!上級神がバディだったらいいなぁ。」
イートが遠足に向かう小学生のようにウキウキはしゃいでいる。多分、こいつは良い奴なんだろうな。ぶっちゃけ、俺も今すぐはしゃぎたい気分だ。
「作戦区域まで残り180秒。」
だがそんな気持ちも、操縦手の言葉で全て吹き飛んだ。機内は一気に緊張に包まれる。
「残り60秒。」
あとたったの1分で戦場だ。俺は胸を手で軽く叩き、気合いを入れた。
すると1人の兵士がハーネスを装着してない兵士に注意する。
「おい、もうすぐ着くとはいえハーネスは付けとけ…」
そう言った時だった。爆発音と共に凄まじい揺れがヘリを襲った。
「スパロー1-1、被弾!繰り返す、スパロー1-1被弾!」
機体は激しく回転し、徐々に高度が落ちていく。被弾した衝撃で、ハーネスを装着していなかった兵士がドアサイドに吹っ飛ばされる。間一髪手すりを掴むが、回転する機体の遠心力には適うはずもない。
「いやだぁぁぁ!」
そう言って兵士は外へと放り出され落下していった。
「メーデーメーデー!スパロー1-1は被弾した!スピン中!スピン中!」
俺の初仕事は最悪な始まり方をした。
「衝撃に備えろ…!」
激しい衝撃と共にスパロー1-1は墜落した。
何分経っただろうか?俺はしばらくして目を覚ました。幸いハーネスが守ってくれたが、同時に胸部に凄まじいダメージを負ってしまった。あばらが折れたのだろうか?
逆さになった機内を見渡して俺は衝撃を受けた。
「イート…」
目の前の席だったイートは、破損したプロペラの破片が喉元に深く突き刺さり息絶えていた。
他の兵士たちも、体を揺らしても目を覚ますことはなく、皆死んでいた。生き残ったのは俺だけ。ショックで頭が回らなくなっていた俺に聞こえてきたのは敵兵の声。
「まだ生きてる奴がいれば殺せ。」
当たり前だ。このヘリは作戦区域に墜落したのだから。早く逃げないと、確実に命はない。
俺は急いでハーネスを外そうとするも、装着部分が墜落した衝撃で歪んでいてうまく外すことが出来ない。敵兵が近づいてくる焦りも相まって、ますます困難だ。もう敵兵は5mもないほどの距離まで迫っていた。
その時、3発の銃声がしたと同時に、目の前にいた3人の敵兵が力なく倒れた。
「クリア、生存者を探します。」
残骸をどかして機内に入ってきたのは、作戦前に気になっていたあのエルフの男だった。
「生存者発見、1名です。」
彼の言葉を最後に、俺は安堵感からゆっくりと意識を失った。
「貴様らは訓練校の中でもずば抜けて優秀だった者たちだ。」
周りを見渡して同期がどんなものか確認する。人数はざっと100人ほど。筋骨隆々な男から何を考えてるか分からない異端児まで多種多様だ。中でも興味を持ったのは右斜め前に立っているエルフの男だった。なぜならそいつは、俺が視線を向けた瞬間に少し姿勢を低くし、何かを感じとっていたからだ。
そんなことを考えていると、隣にいる背の低いゴブリンの男が甲高い声で話しかけてきた。
「なあ、あんた。ゼン・ブライトだろ?全科目満点の超優秀候補生って噂の。」
彼は尖った鼻を擦りながら話を続ける。
「俺はイート。よろしく頼むぜ!」
イートはそう言って握手を求めてきた。俺がよろしく頼むと言って手を交わそうとした時、教官の怒号が飛んできた。
「そこのゴミクズ共!話をしてる余裕があるのか!?今からお前らが行くのは楽しい飲み会じゃあねぇ!戦場だ!わかったら黙りやがれ!」
明らかに言い過ぎだとは思ったが、イートのせいで俺も巻き込まれたという苛立ちのほうが勝った。俺は申し訳なさそうに謝るイートを無視して姿勢を正した。
口に手を当て咳払いした教官が話を戻す。
「現在、D.A.B.が占領中の街ケイルに友軍が侵攻中だ。貴様らは友軍と合流し作戦を遂行してもらう。無事に生きて戻ってこれた者は、晴れてデイヴァナイトだ。」
教官の言葉に候補生達が雄叫びをあげる。その一体感は、何にも負けない力強さがあった。
「3分で準備しろ。絶対にケイルを取り戻せ。幸運を祈る…!」
そう言って教官は力強く敬礼する。俺たちもバシッと息を合わせて敬礼をした。
俺が宿舎で装備を整えていると、先程のイートが隣にきて準備をし始めた。
「ほんとに、さっきは悪かったな。」
「大丈夫だ、気にしてない。」
俺は黙々と準備しながら素っ気なく答える。気まずい雰囲気をかき消すために、イートが話を振る。
「お前はなんで軍に入った?」
その問いかけには明白な答えがあった。俺の命の恩人。俺の憧れの部隊。
「ドミニオン部隊に憧れて入った。」
「ドミニオン?H.S.B.最強のデイヴァナイト部隊か。」
ドミニオン部隊。神聖安全保障省最強の部隊。H.S.B.設立当初からある伝説と言っていい部隊。3年前、あと少しでクインテーゼを暗殺できたが、惜しくも仕留めきれなかった。
「強いのはわかるけど、なんで憧れてんだ?」
「ああ、それはな…」
言いかけた時、外から兵士の声が聞こえてくる。
「出発だ、全員乗り込め~。」
「行くぞ、話は後な。」
そう言って荷物を持った俺は、イートの肩を叩いて宿舎を後にした。前哨基地の広場には、10機以上のブラックホークが待機していた。
初めての実戦に、俺は興奮を抑えきれずにいた。ようやく、憧れと同じ位置に立てる。そんな浅はかな考えが、後の後悔となる。
「よし、出発だ!」
ブラックホークが大きなプロペラ音を立ててゆっくり上昇する。綺麗な編隊を組んで大空を飛び立つ。それはまさにひとつの生き物のようだった。生暖かい風が機内に流れ込んでくる。
「俺、ヘリ初めてなんだよ。まじワクワク止まんないぜ…!早くデイヴァナイトになりてぇ…!上級神がバディだったらいいなぁ。」
イートが遠足に向かう小学生のようにウキウキはしゃいでいる。多分、こいつは良い奴なんだろうな。ぶっちゃけ、俺も今すぐはしゃぎたい気分だ。
「作戦区域まで残り180秒。」
だがそんな気持ちも、操縦手の言葉で全て吹き飛んだ。機内は一気に緊張に包まれる。
「残り60秒。」
あとたったの1分で戦場だ。俺は胸を手で軽く叩き、気合いを入れた。
すると1人の兵士がハーネスを装着してない兵士に注意する。
「おい、もうすぐ着くとはいえハーネスは付けとけ…」
そう言った時だった。爆発音と共に凄まじい揺れがヘリを襲った。
「スパロー1-1、被弾!繰り返す、スパロー1-1被弾!」
機体は激しく回転し、徐々に高度が落ちていく。被弾した衝撃で、ハーネスを装着していなかった兵士がドアサイドに吹っ飛ばされる。間一髪手すりを掴むが、回転する機体の遠心力には適うはずもない。
「いやだぁぁぁ!」
そう言って兵士は外へと放り出され落下していった。
「メーデーメーデー!スパロー1-1は被弾した!スピン中!スピン中!」
俺の初仕事は最悪な始まり方をした。
「衝撃に備えろ…!」
激しい衝撃と共にスパロー1-1は墜落した。
何分経っただろうか?俺はしばらくして目を覚ました。幸いハーネスが守ってくれたが、同時に胸部に凄まじいダメージを負ってしまった。あばらが折れたのだろうか?
逆さになった機内を見渡して俺は衝撃を受けた。
「イート…」
目の前の席だったイートは、破損したプロペラの破片が喉元に深く突き刺さり息絶えていた。
他の兵士たちも、体を揺らしても目を覚ますことはなく、皆死んでいた。生き残ったのは俺だけ。ショックで頭が回らなくなっていた俺に聞こえてきたのは敵兵の声。
「まだ生きてる奴がいれば殺せ。」
当たり前だ。このヘリは作戦区域に墜落したのだから。早く逃げないと、確実に命はない。
俺は急いでハーネスを外そうとするも、装着部分が墜落した衝撃で歪んでいてうまく外すことが出来ない。敵兵が近づいてくる焦りも相まって、ますます困難だ。もう敵兵は5mもないほどの距離まで迫っていた。
その時、3発の銃声がしたと同時に、目の前にいた3人の敵兵が力なく倒れた。
「クリア、生存者を探します。」
残骸をどかして機内に入ってきたのは、作戦前に気になっていたあのエルフの男だった。
「生存者発見、1名です。」
彼の言葉を最後に、俺は安堵感からゆっくりと意識を失った。
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