DEIVANITE / デイヴァナイト

ばにく

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第4話 生きて

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 気が落ち着いた頃、俺はクラウドの医療テントのベッドに横たわっていた。戦場に出てまだ間もないのに、何人もの死を見た。その現実に、俺の心は追いつけなかった。

 「具合はどうだ?」

 ベッド横の椅子に三十代くらいの男が座っていた。付きっきりで俺を見ていたのだろう。立ち上がろうとした瞬間、胃の奥から何かが込み上げてくる。

 「うっ…!」

 それが外に出るまで一瞬だった。ベッドがゲロまみれになった。もう嫌だ。日常に戻りたい。軍服を見るとまた吐きそうになる。帰りたい。

 「大丈夫か? 今、水を取ってくる。」

 しばらくして、項垂れている俺に男はコップ一杯の水を差し出した。

 「ゆっくりでいい、飲め。」

 水面に映った俺の顔は、死体みたいに無表情で、ひどい顔をしていた。俺は一口、また一口と、吐いた分を埋めるようにごくごくと飲み干した。

 「落ち着いたかね?」

 「はい…」

 コップを片付けながら、男は自己紹介を始めた。

 「私はミッチェル大佐だ。君はゼン・ブライト候補生だね?」

 「はい、そうです。」

 「まだ若いというのに、辛い目にあったようだ。だが、あの状況を生き延びたのは大きい。」

 生き残れたんじゃない。みんなが生かしてくれたんだ。隊長に、ネロ、マーフィ、そしてイヴ──そうだ、イヴ!

 「大佐、イヴっていうエルフの男を知りませんか?」

 「ああ、もう一人の生き残りか。彼なら次の任務に出る準備をしているよ。『俺なら大丈夫です』って言ってた。」

 「俺も行きます。行かせてください!」

 「彼と違って、君は怪我をしているだろう。肋骨が内臓に刺さりかけていたんだぞ。」

 「平気です。行かせてください。」

 俺がしつこく説得すると、大佐はため息をついた。

 「いいだろう。ブリーフィングは終わってしまった。私が作戦の概要を説明しよう。」

 「ありがとうございます!」

 ミッチェル大佐は隣の机に置いてあった黒い鞄を開け、中から折り畳まれた地図と封筒を取り出した。封筒から二枚の写真を抜き出しながら、ベッドに広げようとして──ゲロまみれなのを思い出し、顔をしかめる。

 「机に広げよう。起き上がれるか?」

 俺は痛む体を起こして机の前へ行った。

 「現在地はここ、クラウド前哨基地。ここから東に進むと、敵の大規模基地がある。」

 大佐は地図を指し示しながら説明を続け、次に写真を一枚ずつ指した。

 「この基地には多数の敵デイヴァナイトが駐屯している。今回の作戦は、写真のターゲット二名の排除が目的だ。」

 一枚には、目に一本の縦傷が入った白髪の男。もう一枚には赤髪の若い女が写っている。大佐はまず白髪の男を指した。

 「一人目はダヴァン。駐屯するデイヴァナイト部隊のリーダーだ。異名は“白豹”。二人目はグレイ。ダヴァンの右腕で、異名は“赤ずきん”。この二人を排除できれば、ケイル奪還に一歩近づく。」

 その時、医療テントにイヴが入ってきた。彼を見た瞬間、俺は思わず抱きついてしまった。突然抱きつかれて困惑した様子のイヴだったが、何も言わずに俺を抱き返してくれた。まだ出会って間もないのに、彼といると妙に安心する。
 しばらくして体を離すと、イヴは俺の目を見て優しい笑みを浮かべた。

 「生きててよかった、ゼン。」

 「ああ、イヴも。」

 二人がにやにやしていると、大佐が咳払いして場が一気に気まずくなった。

 「作戦の概要は以上だ。質問がないなら、今すぐ準備して部隊に合流するんだ。」

 「はい、ありがとうございます。」

 俺は大佐に敬礼し、イヴと共に医療キャンプを出ようとした──。

 「ゼン。」

 振り返ると大佐が敬礼している。彼は続けた。

 「幸運を。」

 「はい!」

 大佐の言葉に勇気をもらい、俺は力強く頷いて医療キャンプを後にした。宿舎へ向かうと、イヴが声をかけてくる。

 「怪我の方は大丈夫か?」

 「大丈夫…ではないだろうけど、やれるところまで頑張る。」

 「あまり無理するな。体だけじゃなく、精神面でもな。」

 「うん、ありがとう。」

 宿舎に着くと、俺は装備を手早く整えた。銃はM4A1ベースのMK18カスタムを手に取り、マガジンと手榴弾をポーチに詰める。

 「準備完了。行こう。」

 基地の入口付近にハンヴィー六台が隊列をなして停まっていた。それだけではない、さらに二機の攻撃ヘリも待機している。

 「大規模だな。」

 「相手はデイヴァナイトだ。近くで見て、奴らの強さは分かっただろう。」

 「ああ…」

 一人の筋肉質な男がこちらへ歩み寄ってきた。彼の服にはデイヴァナイトのワッペンが付いている。

 「よお、訓練生か。」

 俺たちはすかさず敬礼する。

 「ゼン・ブライトと申します。」

 「イヴ・ベアーと申します。」

 自己紹介が終わると、男は二人に肩を組んで笑った。

 「そうかそうか、ゼンとイヴ。お前らが生き残りだな! 俺はガイル。よろしく頼む。あ、それと──」

 突然、ガイルが持っていたM249軽機関銃が眩く光り、光が収まるとそこには美しい女神が立っていた。ガイルは彼女を親指で示して言う。

 「こいつはマーヤ。俺のバディだ。」

 マーヤは色気のある笑みを浮かべる。

 「ふふ、よろしくね、ボーイたち。」

 「よろしくお願いします。」

 「よ、よろしく…お願いします。」

 マーヤを見たイヴは急に照れ出した。さてはこいつ、童貞だな──そんなことを思いながらイヴを横目で見ていると、彼が咳払いをした。

 「さ、出発だ。お前たちも来るんだろ?」

 「はい。」

 「よし、乗れ!」

 俺たちはガイルと同じハンヴィーに乗り込んだ。車内はガイルの筋肉でぎちぎちに狭い。全員の無線からガイルの声が響く。

 「お前たち、準備はいいな!」

 野郎どもの掛け声が前後から上がる。

 「出発だ。クソったれのダブD.A.B.共に、一泡食わせてやるぞ。」

 攻撃ヘリ二機が頭上を上昇すると同時に、地上部隊も基地を後にした。

 








 
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