上 下
12 / 12

噂の勇者

しおりを挟む
「グアアアア!」

「く、縮地!」

 真竜のブレスをギリギリ交わし、

「くそトカゲが!ウォータースラッシュ!」

 弱点属性の水魔法で反撃しつつ街を目指して走り続ける。

「グアアアア!」

「うるさい!黙れ!」

 くそ、くそ!なんで僕がこんな目に遭わなくちゃいけない!
 
「最強の剣を手にし、魔王軍四天王と魔王を倒し歴史に名を刻み贅沢な暮らしをするはずだったのに!」

 くそ!くそ!あいつらだ。バズとマリアあいつらが使えなかったからこんなことに!
 それにあいつだ。エクスカリバー!あいつさえ僕の元を離れなければこんな事には!

「失ってたまるか……勇者の称号に相応しいのは僕だけだ!絶対に失ってたまるか!」

 もうあんな貧しいのを美徳していた頃のような生活を送るのは絶対に嫌だ!

「グアアアア!」

 背後から隕石のような真竜のブレスが飛んできて少し離れた後ろの地面に着弾。
 爆風に巻き込まれて前方へ飛ばされる。

「く、死んでたまるか……絶対に生きてやる!」


◇◇◇


「お姉ちゃん絶対にまたきてね!」

「それまでに剣の練習しておくから!」

 たのしい宴もあっという間に終わり、みんなで気絶するように眠って起きた朝。
 あたし達はカーティスの街に帰るため村の門をくぐり外へ。

「にゃはは!エーさん人気だねーこのこの」

 村の門の上から手を振る子供達。
 まだなにがあるかわからないということで子供達は門の上からあたし達を見送る。

「……」

「あれ?エーさん、どうかした?」

 反応のないエーさん。
 笑顔で手を振る子供達をボーッと眺めて動かない。
 あれ?なんか……悲しそう?

「え?あ、そうですね……また来ますので安心してください!皆さんの成長を楽しみにしてますね!」

 子供達に手を振るエーさんはあたしに背を向けて下を向く。
 ズッと鼻を啜る音。

「今度は負けねぇからな!」

「覚えとけよ!アイリス!」

 青白い顔で吠えるおっさん達。

「にゃはは!覚えておくよその青白い顔!それじゃ、お達者でー」

「ありがとうございました!またきます!」

 あたしとエーさんは村に別れを告げて歩き出す。
 そしてあたしは食べる予定だったチーズを半分に割ってエーさんに差し出す。

「エーさん。チーズってさ外側は腐るけど芯まで腐ることはないんだって。いつまでも根っこの部分は変わることがないって誰か言ってた。だからきっと大丈夫。いつかまた勇者達と笑える時が来るよ」

「……」

 半分に割れたチーズを見て口に運ぶエーさん。

「美味しいです」

 にっこりと笑うエーさん。


 それから行きとは違い帰りは2日かけてゆっくり帰った。
 途中の宿場町でエーさんと美味しいものを食べたり、街道横の川で一緒に魚を釣って食べて木陰でお昼寝したり、服をあまり持っていないというエーさんに服をたくさん買ってあげたりと楽しみながら帰った。
 初めはそれでも勇者達とのことを切り替えられていなかったエーさんも途中から笑うようになり、

「アイリス様!あれ!あれなんですか!あの雲のようなお菓子!」

「ああ、あれは確か亜人の国「フリーデン」名物の「わたあめ」ってお菓子だよ」

「はー……食べみたいです!」

 なんて小旅行を満喫してくれた。
 今回のバジリスク討伐できっとかなりのお金が入るからどこか落ち着いた所にゆっくりと旅行に行くのもいいかも。
 そんなこんなで楽しみながらカーティスの街へ無事帰還しギルドでクエスト達成の報告。

「アリスお前、特殊個体がいる可能性が高いのがわかってて黙ってたろ」

「ええ。あなた達2人ならS級モンスターくらい難なく倒せるからいう必要もないと思ったの」

「あのなぁ……まあ、いいや。それじゃ、依頼達成ってことでいい?」

「問題ないわ。素材の方は流石に査定に時間がかかるから2日後ギルドにきて。それでこれが今回の依頼達成料、金貨30枚と特殊個体討伐報酬の金貨50枚よ。確認して」

 あたしはアリスから袋を受け取り枚数を数える。
 
「うん。確かに。それじゃ金貨30枚は通常種を倒したエーさんの取り分ね。特殊個体はあたしが倒したからあたしがもらうね」

「え、いえ。受け取れません」

「ダーメ!このお金はエーさんが危険を犯して働いたことに対する正当な報酬!働いたものにはそれ相応の対価が支払われるのは当然の権利!だから、遠慮せずにもらいなさい!」

 エーさんに金貨30枚を強引に渡す。

「わかりました。このお金で美味しいものをたくさん食べに行きましょうアイリス様」

 金貨を受け取るエーさん。
 
「え!いいの!なら、すぐにいこう!行きたいところがたくさんあ」
 
 エーさんの手を握り入り口へと歩き出すあたし。

「……た、助けてくれ!」

「うおお!ゾンビがギルドに入って来た!」

 ドアを開けようと手を伸ばした時、勢いよくドアが開け放たれ1人の金髪の男がギルドへ飛び込んできた。
 
「もしかして……クロード!?大丈夫ですか?!」

 エーさんは入り口で倒れる血みどろの金髪を見て駆け寄り慌てて名前を呼ぶ。

 こいつが噂の勇者。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...