子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ

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ヴァーンズ視点

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……」

 俺ーーヴァーンズは、執務室の窓から見える。天災から立ち直ったばかりの領都を眺めていた。

 現時刻は6時半を回ったところ。少し前に町の中心にある時計の鐘が鳴り、白い鳩がその周りを飛び去っていった。そして領地を囲む山脈から朝日が顔を出し街を照らした。

「信じられんな……」

 自分で淹れたコーヒーを飲みつつ、街を見ながら物思いにふける。

 まさか天涯孤独の身で、スラム街出身で、人相の悪さが目立ち人から避けられる存在で、ずっと孤独だった俺が、今や領地を持ち男爵になっている。

「それもこれも全て……」

 そこまで言いかけた時、

「旦那様!!」

 エミリアの侍女が慌てた様子でノックもせず部屋へと入ってきた。羊皮紙を手にして。

「た、たた、大変です!」

「……?」

「お、おお、おおお!」

 あまりに予想外のことが起きたのか、気が動転してうまく言葉が出てこない様子の侍女を見て、

「……すまん」

 彼女が手にする羊皮紙を見た方が早いと思い、一応断りを入れて半ば奪い取るような形で手紙を貰い、目を通した。そこには……

『実家へ帰らせていただきます!!』

 とだけ書かれていた。

「……エミリア」

 手紙を見ただけで、侍女が慌てている理由が理解できた。

"エミリアが出ていった"

 どんな事態だろうと命をいつ落としてもおかしくないスラム街で生き抜いた経験から慌てることはない。大抵のことはいつ何時も冷静沈着に対応できる。しかし……。

「……っ!」

 この時ばかりは違った。

 俺はしばらく放心したのちに、かつて冒険者時代に愛用していた装備を取りに武器庫へ向かった。

 部屋へ向かう間、俺のあとをついて来た領主見習いの長男ーーロドリゲスに指示を飛ばす。

「俺は母さんを迎えにいってくる。商工会、領地巡察、寄親との会合……様々な予定が入っているが」

「……」

 自分に俺の代役が務まるのか不安といった感じで萎縮するロドリゲス。俺はその丸まった背中を叩いた。

「お前ならできる……頼むぞ!」

 普段あまり会話することのない俺からの「頼むぞ」を聞いたロドリゲスは一瞬驚愕に顔を染めて俺を凝視していたが、

「お任せ下さい!父上!」

 力強く頷くと迷いなく引き受けてくれた。次に執事たちにも指示を飛ばし、装備一式を身につけた俺は屋敷をたった。

 目指すは、かつて俺だけがクリアした世界最難関ダンジョン「神滅領域」
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