2 / 6
ヴァーンズ視点
しおりを挟む
……」
俺ーーヴァーンズは、執務室の窓から見える。天災から立ち直ったばかりの領都を眺めていた。
現時刻は6時半を回ったところ。少し前に町の中心にある時計の鐘が鳴り、白い鳩がその周りを飛び去っていった。そして領地を囲む山脈から朝日が顔を出し街を照らした。
「信じられんな……」
自分で淹れたコーヒーを飲みつつ、街を見ながら物思いにふける。
まさか天涯孤独の身で、スラム街出身で、人相の悪さが目立ち人から避けられる存在で、ずっと孤独だった俺が、今や領地を持ち男爵になっている。
「それもこれも全て……」
そこまで言いかけた時、
「旦那様!!」
エミリアの侍女が慌てた様子でノックもせず部屋へと入ってきた。羊皮紙を手にして。
「た、たた、大変です!」
「……?」
「お、おお、おおお!」
あまりに予想外のことが起きたのか、気が動転してうまく言葉が出てこない様子の侍女を見て、
「……すまん」
彼女が手にする羊皮紙を見た方が早いと思い、一応断りを入れて半ば奪い取るような形で手紙を貰い、目を通した。そこには……
『実家へ帰らせていただきます!!』
とだけ書かれていた。
「……エミリア」
手紙を見ただけで、侍女が慌てている理由が理解できた。
"エミリアが出ていった"
どんな事態だろうと命をいつ落としてもおかしくないスラム街で生き抜いた経験から慌てることはない。大抵のことはいつ何時も冷静沈着に対応できる。しかし……。
「……っ!」
この時ばかりは違った。
俺はしばらく放心したのちに、かつて冒険者時代に愛用していた装備を取りに武器庫へ向かった。
部屋へ向かう間、俺のあとをついて来た領主見習いの長男ーーロドリゲスに指示を飛ばす。
「俺は母さんを迎えにいってくる。商工会、領地巡察、寄親との会合……様々な予定が入っているが」
「……」
自分に俺の代役が務まるのか不安といった感じで萎縮するロドリゲス。俺はその丸まった背中を叩いた。
「お前ならできる……頼むぞ!」
普段あまり会話することのない俺からの「頼むぞ」を聞いたロドリゲスは一瞬驚愕に顔を染めて俺を凝視していたが、
「お任せ下さい!父上!」
力強く頷くと迷いなく引き受けてくれた。次に執事たちにも指示を飛ばし、装備一式を身につけた俺は屋敷をたった。
目指すは、かつて俺だけがクリアした世界最難関ダンジョン「神滅領域」
俺ーーヴァーンズは、執務室の窓から見える。天災から立ち直ったばかりの領都を眺めていた。
現時刻は6時半を回ったところ。少し前に町の中心にある時計の鐘が鳴り、白い鳩がその周りを飛び去っていった。そして領地を囲む山脈から朝日が顔を出し街を照らした。
「信じられんな……」
自分で淹れたコーヒーを飲みつつ、街を見ながら物思いにふける。
まさか天涯孤独の身で、スラム街出身で、人相の悪さが目立ち人から避けられる存在で、ずっと孤独だった俺が、今や領地を持ち男爵になっている。
「それもこれも全て……」
そこまで言いかけた時、
「旦那様!!」
エミリアの侍女が慌てた様子でノックもせず部屋へと入ってきた。羊皮紙を手にして。
「た、たた、大変です!」
「……?」
「お、おお、おおお!」
あまりに予想外のことが起きたのか、気が動転してうまく言葉が出てこない様子の侍女を見て、
「……すまん」
彼女が手にする羊皮紙を見た方が早いと思い、一応断りを入れて半ば奪い取るような形で手紙を貰い、目を通した。そこには……
『実家へ帰らせていただきます!!』
とだけ書かれていた。
「……エミリア」
手紙を見ただけで、侍女が慌てている理由が理解できた。
"エミリアが出ていった"
どんな事態だろうと命をいつ落としてもおかしくないスラム街で生き抜いた経験から慌てることはない。大抵のことはいつ何時も冷静沈着に対応できる。しかし……。
「……っ!」
この時ばかりは違った。
俺はしばらく放心したのちに、かつて冒険者時代に愛用していた装備を取りに武器庫へ向かった。
部屋へ向かう間、俺のあとをついて来た領主見習いの長男ーーロドリゲスに指示を飛ばす。
「俺は母さんを迎えにいってくる。商工会、領地巡察、寄親との会合……様々な予定が入っているが」
「……」
自分に俺の代役が務まるのか不安といった感じで萎縮するロドリゲス。俺はその丸まった背中を叩いた。
「お前ならできる……頼むぞ!」
普段あまり会話することのない俺からの「頼むぞ」を聞いたロドリゲスは一瞬驚愕に顔を染めて俺を凝視していたが、
「お任せ下さい!父上!」
力強く頷くと迷いなく引き受けてくれた。次に執事たちにも指示を飛ばし、装備一式を身につけた俺は屋敷をたった。
目指すは、かつて俺だけがクリアした世界最難関ダンジョン「神滅領域」
544
あなたにおすすめの小説
三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました
蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。
互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう…
※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。
椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。
ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います
下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
小説家になろう様でも投稿しています。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
【完結】婚約者とのお茶の時に交換条件。「 飲んでみて?」
BBやっこ
恋愛
婚約者との交流といえば、お茶の時間。客間であっていたけど「飽きた」という言葉で、しょうがなくテラスにいる。毒物にできる植物もあるのに危機感がないのか、護衛を信用しているのかわからない婚約者。
王位継承権を持つ、一応王子だ。継承一位でもなければこの平和な国で、王になる事もない。はっきり言って微妙。その男とお茶の時間は妙な沈黙が続く。そして事件は起きた。
「起こしたの間違いでしょう?お嬢様。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる