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実家へ帰らせていただきます!
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ヴァーンズと結婚して20年、6人の子育てがひと段落した。
世界最高難度ダンジョン「神滅領域」を単独にして、歴史上唯一クリアした最強の冒険者ーーヴァーンズ・バーンズ。その功績によって男爵位を賜ったのち、冒険者を引退して領地運営に力を注いだ。
「1日5件の討伐依頼をこなし、10年以上休みの取れなかった冒険者時代に比べていくらか休みが取れると思ってた……なのに!」
1回目の妊娠で三つ子を身籠った私は出産後、乳母やメイドの協力を得てなんとか育児をこなしつつも彼との時間を作った。しかし2回目の出産時も三つ子であったため年子6人の子育てに奔走することとなった。
そして時を同じくして、陛下から賜った新領地は順調に開拓が進んでいたのだけど、突然の大雨による土石流、ため池の決壊、河川の氾濫という未曾有の天災に避難場所の設置、街や村の復興などなどの対応に追われることとなり、夫ーーヴァーンズも多忙の日々を送ることになった。
あんなに愛し合った新婚の頃とはうって代わりすれ違う日々が始まった。
それから18年……領地の復興もようやく終わりを迎え、慌ただしかった子育ても終わり、私とヴァーンズの日常に本当に久しぶりの平穏が訪れた。
「これで出会った頃の、新婚の頃のような二人だけの甘い生活が送れる」
新婚の頃を思い出し期待に胸が膨む。
今日はその第一歩。20回目の結婚記念日。
いつもより華やかなドレスに身を包み、お化粧も気合を入れ、結婚式で身につけた真珠のネックレスで着飾り、ヴァーンズが好きだと言ってくれた石鹸の香りがする香水をつけ、最後に長い髪を三つ編みにしてお団子状に後ろでまとめたら……。
「うん!プロポーズされた。綺麗だと言ってくれたあの時と同じ格好!」
私は不老であるため、見た目は歳を取らない。
550年前に生まれ落ちたあのとき、ガラスポッドに写った虚な真紅の瞳とは違い、希望にひかる瞳を見つめて「よし!」と頷いた。
(どんな反応をしてくれるかしら。これまではお互いに忙しすぎてまともに結婚記念日を祝えなかったから……)
普段は寡黙で感情表現をあまりしないヴァーンズだけど、冒険者として二人で旅をしていた頃や新婚時代はお祝いの時にはいつも「綺麗だ」と一言だけだけど言ってくれた。
「奥様。旦那様がお待ちです」
考え事をしていたら、ドアをノックして侍女が部屋へと入ってきた。
久しぶりの……夫と妻ではなく、一人の男と女に戻って過ごす時間を前に、彼に恋をしたあの時のように鼓動が一気に高鳴った。
「ふぅ……今行くわ」
それを鎮めるために一度息を吐き出して、新しい空気を体内に取り入れたら、いくらか落ち着きを見せたので侍女に返事をして部屋を出た。
(はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!)
………
……
…
翌日、深夜2時。
「信じられない!」
未だ夜の闇が支配する時間。私は自室の机に向かって筆を手に、羊皮紙を殴るようにして文字を書いていた。
「離縁よ!離縁!!」
手紙を書き終えると、バンと机を叩き、荷物をまとめたバッグを持って、
「実家に帰らせていただきます!」
魔法の杖を使って窓辺から空へと飛び立った。
世界最高難度ダンジョン「神滅領域」を単独にして、歴史上唯一クリアした最強の冒険者ーーヴァーンズ・バーンズ。その功績によって男爵位を賜ったのち、冒険者を引退して領地運営に力を注いだ。
「1日5件の討伐依頼をこなし、10年以上休みの取れなかった冒険者時代に比べていくらか休みが取れると思ってた……なのに!」
1回目の妊娠で三つ子を身籠った私は出産後、乳母やメイドの協力を得てなんとか育児をこなしつつも彼との時間を作った。しかし2回目の出産時も三つ子であったため年子6人の子育てに奔走することとなった。
そして時を同じくして、陛下から賜った新領地は順調に開拓が進んでいたのだけど、突然の大雨による土石流、ため池の決壊、河川の氾濫という未曾有の天災に避難場所の設置、街や村の復興などなどの対応に追われることとなり、夫ーーヴァーンズも多忙の日々を送ることになった。
あんなに愛し合った新婚の頃とはうって代わりすれ違う日々が始まった。
それから18年……領地の復興もようやく終わりを迎え、慌ただしかった子育ても終わり、私とヴァーンズの日常に本当に久しぶりの平穏が訪れた。
「これで出会った頃の、新婚の頃のような二人だけの甘い生活が送れる」
新婚の頃を思い出し期待に胸が膨む。
今日はその第一歩。20回目の結婚記念日。
いつもより華やかなドレスに身を包み、お化粧も気合を入れ、結婚式で身につけた真珠のネックレスで着飾り、ヴァーンズが好きだと言ってくれた石鹸の香りがする香水をつけ、最後に長い髪を三つ編みにしてお団子状に後ろでまとめたら……。
「うん!プロポーズされた。綺麗だと言ってくれたあの時と同じ格好!」
私は不老であるため、見た目は歳を取らない。
550年前に生まれ落ちたあのとき、ガラスポッドに写った虚な真紅の瞳とは違い、希望にひかる瞳を見つめて「よし!」と頷いた。
(どんな反応をしてくれるかしら。これまではお互いに忙しすぎてまともに結婚記念日を祝えなかったから……)
普段は寡黙で感情表現をあまりしないヴァーンズだけど、冒険者として二人で旅をしていた頃や新婚時代はお祝いの時にはいつも「綺麗だ」と一言だけだけど言ってくれた。
「奥様。旦那様がお待ちです」
考え事をしていたら、ドアをノックして侍女が部屋へと入ってきた。
久しぶりの……夫と妻ではなく、一人の男と女に戻って過ごす時間を前に、彼に恋をしたあの時のように鼓動が一気に高鳴った。
「ふぅ……今行くわ」
それを鎮めるために一度息を吐き出して、新しい空気を体内に取り入れたら、いくらか落ち着きを見せたので侍女に返事をして部屋を出た。
(はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!)
………
……
…
翌日、深夜2時。
「信じられない!」
未だ夜の闇が支配する時間。私は自室の机に向かって筆を手に、羊皮紙を殴るようにして文字を書いていた。
「離縁よ!離縁!!」
手紙を書き終えると、バンと机を叩き、荷物をまとめたバッグを持って、
「実家に帰らせていただきます!」
魔法の杖を使って窓辺から空へと飛び立った。
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