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第1話 不合格な少女
行き道と帰り道
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ど、どういう事? 確かに蓮はわたしと同じ北高に行くって言ったよね? 内心をウキウキ、いや、ドキドキとさせるが平静を装う。
わたしは受験戦争の歯医者。敗者だね。まあ何だか歯も緊張で痛んできた気もするけど、そんな事を考えてる場合じゃない。
ここでわたしが取れる行動は限られている。口を閉じて待つ事だけだ。
黒目だけをキョロキョロとさせて残り女子三人の動向を注視する。
「ちょっと蓮! 何言ってるのよ! アンタが青楓高校に行くって言ったから、皆んな受験頑張ったんでしょ!」
案の定、小春が癇癪を起こした。流石はボーカルだ。ハスキーな高音が狭いバックヤードにこだました。
彼女はバンドメンバーでは無く、ソロのシンガーソングライターとして活動している。
「まあな、だけど気が変わったんだ」
「気が変わったって……。雫が青楓高校に行けなくなったから、考えを変えたって事?」
ズバリと言いなさる。出来立てのホヤホヤの傷口に、塩を塗る所業。小春は良くも悪くも裏表の無い性格だ。
「別に雫の事は関係ない。実は前々から考えてた事だ。オレたちは高校生になれば大規模なライブ活動に入る。それなら校則が緩い北高の方が活動し易いと思っただけだ」
蓮は理論整然と言葉を紡ぐ。彼は本当に同年代かと疑うほどクールだ。
「それならもっと早くに言えばよかったじゃない。何で雫の結果を待ったりしたのよ! 蓮はアタシたちより雫を優先するって事でしょ。千夏とさやかもそれで納得出来るの!」
「小春がどう捉えようがどうでもいい。オレは北高に行く。別に違う高校に行っても放課後ここで練習すればいいだけだ。それにさっき言っただろ、強制はしないって」
「っ……!」
小春は言いかけた言葉を飲み込んだ。
彼女もわたしと同じ蓮の幼馴染だ。何を言っても彼が考えを変える事は無いと早々に理解したのだろう。
「私も北高でいいよ。別に大学に進学する訳じゃ無いしね。千夏はどうする?」
「えっ、えーと……、さやかが行くなら私も北高に行く。それに雫ちゃんとも一緒にいたいし」
ジーザス! 親友二人も来てくれるの。ゴメンね、わたしが馬鹿なばかりにこんな事になって。
「さやかと千夏まで!」
「小春は何が気に入らないんだ? 小春も別に大学へ進学する気無いんだろ。バンドやシンガーソングライターとしてやってくんだから高校なんて何処でもいいだろ?」
さやかは隅に置いてあるキーボードを弄りながら小春へと、そう投げかけた。
小春は言葉に詰まり、肩を震わせながらコートの裾をギュッと握りしめた。
そんな彼女に蓮は近づき肩に手を添えた。
「別に今すぐ答えを出す必要はない。小春なりの答えを出せばいい。まあ、出来れば小春にも来て欲しいと言うのがオレの勝手な本音だ」
「……う、うん」
彼女は少し涙を滲ませながらコクリと頷いた。
「皆んな本当にゴメンなさい! わたしの所為で迷惑かけて」
真摯に謝る事しか出来ない。責められるは愚かなわたしの筈なのだから。
「最初に言っただろ。別に雫の為じゃないって」
蓮は何事も無かったかのように、ニコリと笑みを浮かべてくれた。わたしは泣き出しそうになったが、何とか涙腺をグッと閉じた。
「それじゃあ、今日のところは解散としますか」
ムードメーカーの雄大が、鬱々とした場を区切りよく終わらせた。
ライブハウスを出て直ぐに、帰宅路が違う四人とは別れた。
わたしは蓮と小春、三人でまだ肌寒い夕方の田舎道を歩く。殆ど会話は無い。
肩を落として歩く小春に、歩幅の大きい蓮はゆっくりと歩調を合わせている。
二人の後ろを歩くわたしはどんな表情をすれば良いのかわからずに、只々、通い慣れた道を歩くだけだったのだ。
「あれ? さっきのお姉ちゃんかな?」
「人違いでしょ。だってあんなにニコニコしてなかったもの」
わたしは受験戦争の歯医者。敗者だね。まあ何だか歯も緊張で痛んできた気もするけど、そんな事を考えてる場合じゃない。
ここでわたしが取れる行動は限られている。口を閉じて待つ事だけだ。
黒目だけをキョロキョロとさせて残り女子三人の動向を注視する。
「ちょっと蓮! 何言ってるのよ! アンタが青楓高校に行くって言ったから、皆んな受験頑張ったんでしょ!」
案の定、小春が癇癪を起こした。流石はボーカルだ。ハスキーな高音が狭いバックヤードにこだました。
彼女はバンドメンバーでは無く、ソロのシンガーソングライターとして活動している。
「まあな、だけど気が変わったんだ」
「気が変わったって……。雫が青楓高校に行けなくなったから、考えを変えたって事?」
ズバリと言いなさる。出来立てのホヤホヤの傷口に、塩を塗る所業。小春は良くも悪くも裏表の無い性格だ。
「別に雫の事は関係ない。実は前々から考えてた事だ。オレたちは高校生になれば大規模なライブ活動に入る。それなら校則が緩い北高の方が活動し易いと思っただけだ」
蓮は理論整然と言葉を紡ぐ。彼は本当に同年代かと疑うほどクールだ。
「それならもっと早くに言えばよかったじゃない。何で雫の結果を待ったりしたのよ! 蓮はアタシたちより雫を優先するって事でしょ。千夏とさやかもそれで納得出来るの!」
「小春がどう捉えようがどうでもいい。オレは北高に行く。別に違う高校に行っても放課後ここで練習すればいいだけだ。それにさっき言っただろ、強制はしないって」
「っ……!」
小春は言いかけた言葉を飲み込んだ。
彼女もわたしと同じ蓮の幼馴染だ。何を言っても彼が考えを変える事は無いと早々に理解したのだろう。
「私も北高でいいよ。別に大学に進学する訳じゃ無いしね。千夏はどうする?」
「えっ、えーと……、さやかが行くなら私も北高に行く。それに雫ちゃんとも一緒にいたいし」
ジーザス! 親友二人も来てくれるの。ゴメンね、わたしが馬鹿なばかりにこんな事になって。
「さやかと千夏まで!」
「小春は何が気に入らないんだ? 小春も別に大学へ進学する気無いんだろ。バンドやシンガーソングライターとしてやってくんだから高校なんて何処でもいいだろ?」
さやかは隅に置いてあるキーボードを弄りながら小春へと、そう投げかけた。
小春は言葉に詰まり、肩を震わせながらコートの裾をギュッと握りしめた。
そんな彼女に蓮は近づき肩に手を添えた。
「別に今すぐ答えを出す必要はない。小春なりの答えを出せばいい。まあ、出来れば小春にも来て欲しいと言うのがオレの勝手な本音だ」
「……う、うん」
彼女は少し涙を滲ませながらコクリと頷いた。
「皆んな本当にゴメンなさい! わたしの所為で迷惑かけて」
真摯に謝る事しか出来ない。責められるは愚かなわたしの筈なのだから。
「最初に言っただろ。別に雫の為じゃないって」
蓮は何事も無かったかのように、ニコリと笑みを浮かべてくれた。わたしは泣き出しそうになったが、何とか涙腺をグッと閉じた。
「それじゃあ、今日のところは解散としますか」
ムードメーカーの雄大が、鬱々とした場を区切りよく終わらせた。
ライブハウスを出て直ぐに、帰宅路が違う四人とは別れた。
わたしは蓮と小春、三人でまだ肌寒い夕方の田舎道を歩く。殆ど会話は無い。
肩を落として歩く小春に、歩幅の大きい蓮はゆっくりと歩調を合わせている。
二人の後ろを歩くわたしはどんな表情をすれば良いのかわからずに、只々、通い慣れた道を歩くだけだったのだ。
「あれ? さっきのお姉ちゃんかな?」
「人違いでしょ。だってあんなにニコニコしてなかったもの」
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