80 / 138
80 愉悦か、恍惚か
しおりを挟む「どうやら目を覚ましたようね?」
リリーサが、床の上に簀巻きにされているメイデンを、ソファーに座りながら傲然とあごを上げて見下ろしながら言った。
「ぐ……き、貴様……」
メイデンは後ろ手に縄で縛られた上、身体を何重にもぐるぐる巻きにされているため、ほとんど身動き取れない中で、首を巡らして声の主を睨みつけた。
「誰が貴様よ。お前にそんな風に呼ばれる筋合いはないわよ」
兄妹だと思うんだけどなあ。
王家の人たちってあんまりそういうの関係ないのかなあ。
でもリリーサも、マールやファルカンとは仲が良いよな。
ジトー侯爵とも良い関係性みたいだし。
何でこの二人は見るからに仲が悪いんだろう。
大体メイデンは、リリーサ暗殺を企てたくらいだし。
俺がそんなこんなを思っていると、リリーサがスッと立ち上がった。
そして、二歩三歩と前に歩み出でて、その足でメイデンの顔を踏みつけた。
「ぐっ!」
うわ~、これは嫌だ。
そっちの趣味でもない限り、これほど屈辱的なことはない。
まあ自業自得ではあるけれど。
「ほうら、ほうら、言ってごらんなさい。あんたの後ろに控えている黒幕の名前を!」
これじゃあ王女様っていうより、女王様だな。
いや、なんのと問われると困るのだけれど。
「き、貴様~!お、覚えておけよ!俺はこの仕打ちを生涯忘れぬぞ!」
メイデンが身体をワナワナと震わせながら言った。
だがリリーサには何処吹く風であった。
「あんたが忘れようと忘れまいとどうでもいいわ。わたしが聞きたいのは、あんたの後ろに潜んでいる奴の名前よ。さあ、さっさと吐き出しちゃいなさいよ!そうすれば楽になるわよ!」
リリーサは先程よりも力を込めて、メイデンの顔をぐりぐりしている。
ああ、哀れだ。
敵とはいえ、これは哀れを誘う光景だ。
俺は、リリーサだけは今後敵にはすまいと心に誓った。
「ほうら、さっさと言わないと、いつまでも続くわよ~?」
ぐりぐりが続く。
果てしなく続いている。
だがメイデンは屈辱に耐え、口を割ろうとはしなかった。
そのため、リリーサがついに足をメイデンの顔からどけた。
俺はなんだかホッとした気分となった。
だが次の瞬間、俺のそんな気分は無残にも吹き飛んだのだった。
「ぐはっ!!!」
メイデンが肺腑の中の空気を、一瞬で全て吐き出した。
そして苦悶の表情を浮かべ、額には玉のような汗が噴き出している。
俺は、恐る恐る視線をメイデンの下腹部へと移動させた。
すると、案の定というか予想通りというか、リリーサの足の先がメイデンの股間に強烈にめり込んでいたのだった。
俺は思わず顔を背けた。
そして俺まで苦悶の表情を浮かべてしまったのであった。
「くっ!……ぐっ……くぅ……」
メイデンが声にならない叫び声を上げる。
判る。
判るよ。
つらいよな?
息が出来ないよな?
だが、地獄は続く。
俺の視界に、再び足を思いっきり振り上げるリリーサの姿が。
俺は思わず目を瞑って、身体をよじった。
すると次の瞬間、ドスッという鈍い音が、俺の閉じられていない耳に飛び込んできた。
俺はその瞬間、息を呑み、生唾を飲み込んだ。
そして恐る恐る目を開け、メイデンの大事な部分をチラ見した。
すると、やはりというか当然というべきか。
リリーサの右脚のつま先部分が消えるほどに、メイデンの股間にめり込んでいたのだった。
「…………」
だがメイデンからはうめき声が聞こえなかった。
俺はゆっくりと視界を上へと上げていった。
下腹部から胸に、そして顔へ。
見ると、メイデンは完全に白目を剥いていた。
ついでに言うと、口からは泡を吹いている。
恐ろしい。
なんて恐ろしい光景だ。
俺はもう一度ごくりと生唾を飲み込むと、ゆっくりリリーサの顔をのぞき見た。
すると、リリーサの顔が何やら不思議な表情となっていた。
傲然とあごを上げてメイデンを見下ろし、目の端をつり上げながら、口の端もつり上げた表情。
それは何と表現したら良いのだろうか。
愉悦に浸っているというべきか、それとも恍惚の表情とでもいうべきか。
するとその悪魔的に歪められた口から、女王様のお言葉が発せられたのだった。
「ふん、気絶したようね。仕方がないわ。また後にしましょう。また後で、たっぷりと楽しませてもらおうじゃない。ねえ、アリオン?」
リリーサは、そう言って俺を見た。
俺は一瞬で震え上がり、思わず何度もうんうんと大きくうなずいた。
するとリリーサは満足げに微笑み、ゆっくりと歩いて移動し、部屋を出ていった。
残された俺は、恐ろしげな表情で気を失っているメイデンを見下ろし、ただただ震え上がるのであった。
1
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる