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プロローグ
しおりを挟む私は涼宮ありさ。
都内の名門私立に通う、平凡な女子高生。
毎日勉強漬けの生活。異世界小説やゲームだけが、唯一の息抜きだった。
そんな私の人生が、一瞬で終わることになるなんて——。
「……もう無理……」
目の前の参考書はちっとも頭に入らず、時計の針は深夜0時を回っていた。
諦めてベッドに倒れ込む。
その瞬間—— 光が爆発した。
視界が白く染まり、身体がふわりと浮く感覚。
まぶたの裏に焼きつくような閃光。
これは……夢? それとも——
***
目を覚ますと、そこは見知らぬ大広間だった。
豪奢なシャンデリアが輝き、壁には金色の装飾。赤い絨毯が敷かれた玉座の前には、
——威圧的な王。
——見知らぬ少女。
——そして、私。
(……え? 何、これ?)
状況を把握できないまま、王がゆっくりと立ち上がる。
静寂の中、重々しい声が響いた。
「……ようこそ、異邦の聖女たちよ」
「せ、聖女……?」
王の言葉に、隣の少女と顔を見合わせる。
「貴様たちはこのアクア王国の『聖女』として召喚された。だが、これまで二人同時に召喚された例はない……」
戸惑う間もなく、目の前に水晶玉が運ばれる。
澄んだ水色のその玉を見た瞬間、理由のわからない不安が胸をよぎった。
「これは聖女の力を測る水晶である。触れれば数値が可視化される」
隣の少女が先に触れる。
すると—— 大広間を覆うほどの光が弾けた。
「こ、これは……っ! 聖女の力、1万……! こんな数値、今までの歴史で見たことがない……!」
(うそ……そんなにすごいの……!?)
少女を見れば、彼女自身も驚いているようだった。
「すばらしい! では、もう一人の聖女も測ろう」
嫌な予感がする。
だけど、逃げられない。
私は震える指先で、水晶にそっと触れた。
——何も、起こらなかった。
光はない。静寂が満ちる。
大広間が、凍りついた。
「……まことか?」
王の冷たい声が落ちる。
「水晶が壊れているのでは?」
「いえ、国宝に異常はありません」
沈黙のあと、誰かが言った。
「召喚されたのに、聖女じゃない……?」
その言葉を皮切りに、ざわめきが広がる。
「そんなバカな! 聖女の力がない者を召喚するはずが——」
「……いや、“役立たず”なら、奴隷にでも売ればいいのでは?」
(……え?)
心臓が凍りつく。
身体が震え、膝が勝手にすくむ。
「聖女の力なき者は、災厄を呼ぶ。」
アルベルト王の冷たい瞳が、私を見下ろす。
「この国に置いておくことはできん。
よって、この者を—— この国から追放する。」
あまりにも、唐突に。
あまりにも、無慈悲に。
「そんな……待ってください! 私、何もしてないのに……っ」
王の足元にすがりつこうとするも、衛兵が容赦なく私の肩をつかむ。
「引きずり出せ」
「離して……! ねえ!」
強い力で腕をねじられ、扉の外へと引きずられる。
隣の少女が何か言いたげに口を開くも、王の一瞥にすくみ上がり、結局何も言わなかった。
(……嘘でしょ?)
異世界に召喚されて、わずか数分。
私は「不要」とされ、追放された。
だけど。
震える指先を見つめる。
——さっき、水晶に触れたとき。
確かに何かが流れ込んだ気がした。
身体の奥で、何かが熱を持ち、鼓動を打っている。
水晶には映らない「異質な力」が私の中に眠っていることを、私はまだ知らなかった——。
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