2 / 21
追放
しおりを挟む「はぁ……」
召喚されてから、もう二日。
ジメッとした牢獄の空気が肌にまとわりつき、髪もベタついてきた。
――こんな生活が続くのかな
私の心の中はめちゃくちゃになっていた。
突然異世界召喚されてものの数分で国でにとって不要な存在とされた。
「はぁ……」
何度ため息を吐いたかは二回目以降数えるのをやめた。
「おい!偽聖女!飯だ!」
衛兵が乱暴に投げ込まれた皿の上には、蒸したじゃがいもと人参。
……意外とまとも。でも、所詮は牢獄飯。
私の中では、もっとひどい牢獄飯が出てくると思っていたが……
それを私は地面につかないように必死に……
皿を掴み取り、今日はいつ食べようかなと考えていると衛兵は言った。
「お前を明日、荷馬車で辺境へ飛ばす。これは王の決定だ」
……辺境。
つまり、二度と戻れない地。
それがどういう意味なのか、私は知っている。
『辺境送りになった者は生きては帰ってこれない』
逆らう?そんな事ができるなら、最初からこんな牢獄にはいない。
……なのに、私はただ黙ってうずくまることしかできない。
拳をぎゅっと握る。悔しい。
何も悪いことはしていないのに、召喚されてものの数分で「不要」とされ、こうして囚われている。
何度考えても納得できないのに涙だけが勝手に滲んできた。
そして今ふと思い出す。あの水晶に触れたときの謎の力は何なのだろうと。
あの力は、聖女の力ではない別のなにか。
私は、あの謎の力について考えながらぼーっとしていると衛兵以外の足音が聞こえた。
誰だろうと思いながら、ぱっと前を向くとそこには私と召喚されたもう一人の聖女だった。
少女は、私より派手な服装をしており体も清潔にしているみたいだった。
「なんですか?聖女様。私を咎めにでも来ましたか」
少女は、私を見たまま答えない。
私は不満が爆発した。
「どうして二人召喚されたの?あなたがいなければ、私が聖女になれたのに……」
喋っている間に涙がこぼれてきた。
それに気がついたときには、人生で初めて人に対して暴言を言ったなと思った。
静寂な牢獄の雰囲気の中、もう一人の聖女は小さく口を開けていった。
「……覚えていますか?」
「何を?」
「私とあなたの人生を」
彼女の言葉が、頭の奥に突き刺さった。
私の人生?彼女の人生?
そんなもの、知るはずがない――なのに。
「……っ」
ふと、頭の奥に鈍い痛みが走る。
遠い記憶のような、夢のような、何かが浮かんでは霧のように消えていく。
何かを思い出しかけている――そんな感覚が、私を不安にさせた。
「そうですか……残念です」
少女がそう言い放つと、後ろの方から衛兵や女の声が響き渡った。
「聖女様!」
「聖女様!どこにいるのですか」
彼らは何やら慌てた声をしていた。
私は少女に言った。
「行ったほうがいいんじゃないかしら?聖女様」
少女は、私の方を数秒見つめて背を向けて牢獄の部屋の外へ出る階段を登っていった。
――次の日――
私の辺境の地へ飛ばされる日が来た。
ここまで、3日ほどで決まってしまうのだから行動力が高いのだとと思った。
誰も見送りなどしてはくれなかった。
馬車よりグレードの低い荷馬車なので聖女が乗っているとは誰も思わないだろう。
衛兵に、わらのに隠れるように乗っていけと言われた。
……藁?このちくちくとした中に入れと……
私は少しためらいながらも指示に従った。
昨日、現れたもう一人の聖女は、やはり来なかった
……期待していたわけではない。
でも、せめて最期になにか言葉があってもいいじゃない。
目的地につくまでわらの間から見える景色を楽しむのだった。
***
「本当に、もう一人の聖女を追放してよろしかったのですか?」
「あぁ、上級貴族と話し合った結果だからな。貴族たちの意見にそ向かうことはできん。いつ不満を募らせるか……」
「そこまで、考えていたとは無礼な質問をどうかお許しください」
「あぁ、我は怒ってなどおらぬ」
そんな会話をしていると部屋のドアがノックされた。
使いの者にドアを開けさせるとそこに立っていたのは聖女だった。
「どうかしましたか?聖女様」
「1つ質問をしに」
「えぇ、何なりと」
「もうひとりの聖女は辺境の地へ送り出したのですか?」
「いいえ、もうひとりの聖女は街の何処かにいますよ。そんな辺境へ送るなど考えた事ありません」
「そうですか……ならいいんですが」
聖女はどこかを見ながらそう言い放った。
148
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる