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辺境の地へ
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辺境の地へ
ガタッガタッ
荷馬車の乗り心地は最悪だった。
藁はチクチクするし、匂いもあまりいい匂いでもない。
こんなはずじゃなかったのになぁ……
心のなかで呟いた。
すると、荷馬車を操っている人が言った。
「お嬢ちゃん、なんで乗ってるんだい?」
「……っ!」思わず息を呑んだ。
私が乗っていることは誰もしらないはずなのに……どうして?
そんなはずはないのに……混乱する私をよそに男は続けた。
「もしかして、追放された聖女かい?」
私は、口を開きかけて、閉じる。答えるべきか、迷った。
この男性に私のことを教えてもいいのか。
三角座りをしていた私は手に力が入り、震えた。
どうせまた同じことを言われるのだろう。
「まぁ、答えてくれないだろうと思っていたよ」
パチンっ!
馬を叩くムチの音が聞こえた。
あぁ……私も辺境の地で生き残れなかったらむち打ちでもされるのだろうか。
「嬢ちゃん、ついたぞ」
そう言うと、荷馬車を操っていた男性は椅子から降りて私の方へ近づいてきた。
そして、藁をかき分けて言った。
「さぁ、ついたぞ。ここがお前の住む場所だ」
私は立ち上がり、その景色を見た……
見た瞬間に言葉を失った。
なぜなら……
目の前には何もなかったからだ。
砂漠のような地面。生えているのは枯れた植物。
分厚い雲が空を覆い、太陽の光は地面に届かない。とても寒い。
吹き付ける風が肌を刺し、むき出しの腕が真っ赤になっていく。
膝のあたりからじわじわと熱が奪われ、爪先の感覚が薄れていく。
思わず腕を抱え込んだが、指はかじかみ、思うように力が入らない。
こんなところに来るんだったら、牢獄のほうが、まだ人の暮らす場所だったな……
そんなことをふと思った。
荷馬車を操っていた人は言った。
「まずは、家を作ることだな。ここは、なにか温まるものがなきゃ生きていけない」
男性は笑いながら
「まぁ、そんなもん、この地にはねぇがな!」
そう行って笑う男の顔は、どこか諦めが滲んでいた。
まるで、何度もこうやって追放者を運び、こうやって見送ってきたかのように。
「もう行ってくれますか?」
「あぁ、すぐに行くさ。こんな場所用なんてないからな」
そう言い、男性は荷馬車の椅子に座り馬にムチを打って動き始めた。
(どうしようか……これから)
このまま何もしなければ死ぬのは当たり前。
が、サバイバル知識など備わっているはずもない。
「どうしたものか……」
口に出していうと少し気が楽になった。
息を吐くと白く染まり、凍える寒さを実感する。
ひゅう、と冷たい風が頬を撫でた。
その風の音に混じるように、かすかな音が聞こえる。
「――お客さん?」
耳元で囁かれたような気がして、ゾクリとした。
反射的に振り返るが誰もいなかった。
「わたしたちの声が……聞こえるの……?」
まるで、小さな女の子が話しかけてきているような声だった。
さっきよりも近く、確かに複数の声だった。
周りを見渡すが全く見当たらない。
幻聴なのか?と思っていると……
ー手のひらを開いて!ー
私は言われたとおりに手を広げた。
すると、そこには――
――同じ頃、アクア王国の聖女の部屋――
部屋のドアがノックされた。
私は、ドアの前まで行き開けた。
「聖女様、少し中に入ってもよろしいでしょうか?」
「どのような要件でしょうか」
「今後の予定についてお話したいと思いまして」
「そうですか……いいですよ。手短にお願いします」
「承知しました」
私専属のマネージャーと言うのだろう、予定などを管理している専属メイドのアリアだった。
アリアは、慣れたように椅子に座り込み言った。
「明日は、国民に聖女様が誕生したことに知らしめる式典があります」
「式典?そんなもの知らないのだけど」
「すみません。私の伝達不足で」
私は、ため息を吐きながらアリアを見上げた。
アリアは、可愛いのに話すことはまるでロボットだ。
可愛い容姿がもったいないなと思っていると……
「聖女様!?聞いていますか」
「あぁ――ごめんなさい」
私はそう言い放った瞬間視界が真っ暗になった。
最近の疲れが溜まっていたのか……
目の前が暗転する。
ふと、床の冷たさを感じた――そこで意識は途切れた。
ガタッガタッ
荷馬車の乗り心地は最悪だった。
藁はチクチクするし、匂いもあまりいい匂いでもない。
こんなはずじゃなかったのになぁ……
心のなかで呟いた。
すると、荷馬車を操っている人が言った。
「お嬢ちゃん、なんで乗ってるんだい?」
「……っ!」思わず息を呑んだ。
私が乗っていることは誰もしらないはずなのに……どうして?
そんなはずはないのに……混乱する私をよそに男は続けた。
「もしかして、追放された聖女かい?」
私は、口を開きかけて、閉じる。答えるべきか、迷った。
この男性に私のことを教えてもいいのか。
三角座りをしていた私は手に力が入り、震えた。
どうせまた同じことを言われるのだろう。
「まぁ、答えてくれないだろうと思っていたよ」
パチンっ!
馬を叩くムチの音が聞こえた。
あぁ……私も辺境の地で生き残れなかったらむち打ちでもされるのだろうか。
「嬢ちゃん、ついたぞ」
そう言うと、荷馬車を操っていた男性は椅子から降りて私の方へ近づいてきた。
そして、藁をかき分けて言った。
「さぁ、ついたぞ。ここがお前の住む場所だ」
私は立ち上がり、その景色を見た……
見た瞬間に言葉を失った。
なぜなら……
目の前には何もなかったからだ。
砂漠のような地面。生えているのは枯れた植物。
分厚い雲が空を覆い、太陽の光は地面に届かない。とても寒い。
吹き付ける風が肌を刺し、むき出しの腕が真っ赤になっていく。
膝のあたりからじわじわと熱が奪われ、爪先の感覚が薄れていく。
思わず腕を抱え込んだが、指はかじかみ、思うように力が入らない。
こんなところに来るんだったら、牢獄のほうが、まだ人の暮らす場所だったな……
そんなことをふと思った。
荷馬車を操っていた人は言った。
「まずは、家を作ることだな。ここは、なにか温まるものがなきゃ生きていけない」
男性は笑いながら
「まぁ、そんなもん、この地にはねぇがな!」
そう行って笑う男の顔は、どこか諦めが滲んでいた。
まるで、何度もこうやって追放者を運び、こうやって見送ってきたかのように。
「もう行ってくれますか?」
「あぁ、すぐに行くさ。こんな場所用なんてないからな」
そう言い、男性は荷馬車の椅子に座り馬にムチを打って動き始めた。
(どうしようか……これから)
このまま何もしなければ死ぬのは当たり前。
が、サバイバル知識など備わっているはずもない。
「どうしたものか……」
口に出していうと少し気が楽になった。
息を吐くと白く染まり、凍える寒さを実感する。
ひゅう、と冷たい風が頬を撫でた。
その風の音に混じるように、かすかな音が聞こえる。
「――お客さん?」
耳元で囁かれたような気がして、ゾクリとした。
反射的に振り返るが誰もいなかった。
「わたしたちの声が……聞こえるの……?」
まるで、小さな女の子が話しかけてきているような声だった。
さっきよりも近く、確かに複数の声だった。
周りを見渡すが全く見当たらない。
幻聴なのか?と思っていると……
ー手のひらを開いて!ー
私は言われたとおりに手を広げた。
すると、そこには――
――同じ頃、アクア王国の聖女の部屋――
部屋のドアがノックされた。
私は、ドアの前まで行き開けた。
「聖女様、少し中に入ってもよろしいでしょうか?」
「どのような要件でしょうか」
「今後の予定についてお話したいと思いまして」
「そうですか……いいですよ。手短にお願いします」
「承知しました」
私専属のマネージャーと言うのだろう、予定などを管理している専属メイドのアリアだった。
アリアは、慣れたように椅子に座り込み言った。
「明日は、国民に聖女様が誕生したことに知らしめる式典があります」
「式典?そんなもの知らないのだけど」
「すみません。私の伝達不足で」
私は、ため息を吐きながらアリアを見上げた。
アリアは、可愛いのに話すことはまるでロボットだ。
可愛い容姿がもったいないなと思っていると……
「聖女様!?聞いていますか」
「あぁ――ごめんなさい」
私はそう言い放った瞬間視界が真っ暗になった。
最近の疲れが溜まっていたのか……
目の前が暗転する。
ふと、床の冷たさを感じた――そこで意識は途切れた。
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