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【連載中】前世を思い出し、破滅確定の子息を連れて逃げた侍女の話
前編
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「あの人は!あの人は、まだ帰ってこないの!」
「落ち着いてください、奥様」
「あの人を!あの人がいないと駄目なの!」
奥様こと侯爵夫人が豊かな栗毛の髪を振り乱して、テーブルを叩きながら叫んでいる。
奥様のヒステリーはいつもの事なので、投げ飛ばせるような品は既に片付けている。
(顔がいいのは認めるけど、そんなにいいか?顔がいいのは今だけだろう。絶対北欧の至……ん?北欧ってどこ?)
奥様のヒステリーの原因は、愛しい旦那が帰ってこないこと。
顔が良い男で、奥様が一目惚れして、結婚に至った。本当に顔だけ……じゃなくて北欧ってなんだっけ……。
(北欧、北欧…………あああ!前世の記憶だ!そして、ここはあの物語だ!)
何の前触れもなく、前世の記憶思い出しと、物語の中にいると気付く、最強コンボを決めた私。
(悪役令嬢の侍女じゃなくて、男爵令嬢に簡単に騙される美貌の侯爵子息の実家の侍女かあ)
目の前で更に髪を振り乱し、髪を毟るように頭を抱えてカーペットにしゃがみ込み、嗚咽を上げる奥様は完全無視。
いつもの事だから。
そして物語も特に変わったことはない。
この世界の勝者は前世の記憶を取り戻した悪役令嬢。もちろん王太子の婚約者で、婚約破棄を言い渡されてから、領地改革をして隣国の王子やら、もふもふ国の王や、更には魔族と呼ばれる迫害された人たちのリーダーなどから求婚されて「やだ、困っちゃう」しながら、最終的にずっと仕えてくれていた騎士と結ばれるという物語。
そんな悪役令嬢の活躍と対比的に書かれるのが、婚約破棄をした面々。王太子はいうに及ばず、馬鹿な男爵令嬢に籠絡されたその他の男たちの没落とざまぁは、これでもかと言うほど事細かに書かれていた。
その中の一人が、美貌の侯爵子息ジュリアン。当家の跡取り息子であり、
「またあの女の所にいるの?」
「奥様、お気を確かに!」
この目の前で発狂している奥様の子……ではない。
ジュリアンは顔が良くて浮気性な旦那様……様を付ける程の人物じゃないな。浮気男で充分か。えっと浮気男が、愛人に産ませた子……なんだが、その愛人がかなり厄介な相手だった。
その相手とは、この国の王女。
幸いというか、なんというか、王女は未亡人だったので、浮気された夫はいなかった。そして浮気男は元々男爵家の四男。公爵令嬢だった奥様が実父に強請って、結婚することができた。
その際に侯爵位を分けてもらった。
その程度の身分なので、王女とは当然結婚することはできなかった。
そして生まれた男児は、美貌の浮気男と瓜二つ。
奥様の実家は男児を跡取りとして引き取った。
いくら夫と顔が似ているとはいえ、ジュリアンは夫と浮気相手の間に出来た子なので、奥様は全く愛することはなく、浮気男は最初から子どもには興味がないので、ジュリアンは放置されて育った。
いや子どもに興味がないは違うな。男に興味がないんだ。事実この浮気夫は浮気相手の娘を可愛がっていた。
性的な面ではなく、本当に父親として可愛がっていた。
ジュリアンがそれを見かけるという、酷いイベントがあったなあ……そのシーン必要だったの?悪役令嬢を裏切ったのは解るけど、そのイベントなくても……。
そんなジュリアンは物語の後半にならないと、自分が浮気相手だった王女と浮気父の間に生まれた子だということを知らない。
ただ自分を愛してくれない母親だと思っていた奥様に対して、恨みという単純な言葉では言い表せない、複雑な思いを抱えていた。
物語の後半で自分の出生を知ることになるんだが、その時にはもう手遅れ――色々あって、親族を何名か殺害して、死刑判決を受けることに。
その時、奥様ではなく修道女になっていたジュリアンの実の母親が現れて、事実を聞いて、怒り狂って実母も殺害する。
……そんなことは、まあいいとして、このままこの邸で働いていたら、主人の巻き添えになるかも知れない。
それは避けたい……親に見合いでも組んでもらって、結婚退職を狙おうか?
でも、その相手が破滅対象たちと繋がりがあると困る。
悪役令嬢のように、どの家とどの家に繋がりがあるかなんて、私は解らないので……やはり結婚に逃げ込むのではなく、ここで上手く立ち回って逃げ果せよう!
「落ち着いてください、奥様」
「あの人を!あの人がいないと駄目なの!」
奥様こと侯爵夫人が豊かな栗毛の髪を振り乱して、テーブルを叩きながら叫んでいる。
奥様のヒステリーはいつもの事なので、投げ飛ばせるような品は既に片付けている。
(顔がいいのは認めるけど、そんなにいいか?顔がいいのは今だけだろう。絶対北欧の至……ん?北欧ってどこ?)
奥様のヒステリーの原因は、愛しい旦那が帰ってこないこと。
顔が良い男で、奥様が一目惚れして、結婚に至った。本当に顔だけ……じゃなくて北欧ってなんだっけ……。
(北欧、北欧…………あああ!前世の記憶だ!そして、ここはあの物語だ!)
何の前触れもなく、前世の記憶思い出しと、物語の中にいると気付く、最強コンボを決めた私。
(悪役令嬢の侍女じゃなくて、男爵令嬢に簡単に騙される美貌の侯爵子息の実家の侍女かあ)
目の前で更に髪を振り乱し、髪を毟るように頭を抱えてカーペットにしゃがみ込み、嗚咽を上げる奥様は完全無視。
いつもの事だから。
そして物語も特に変わったことはない。
この世界の勝者は前世の記憶を取り戻した悪役令嬢。もちろん王太子の婚約者で、婚約破棄を言い渡されてから、領地改革をして隣国の王子やら、もふもふ国の王や、更には魔族と呼ばれる迫害された人たちのリーダーなどから求婚されて「やだ、困っちゃう」しながら、最終的にずっと仕えてくれていた騎士と結ばれるという物語。
そんな悪役令嬢の活躍と対比的に書かれるのが、婚約破棄をした面々。王太子はいうに及ばず、馬鹿な男爵令嬢に籠絡されたその他の男たちの没落とざまぁは、これでもかと言うほど事細かに書かれていた。
その中の一人が、美貌の侯爵子息ジュリアン。当家の跡取り息子であり、
「またあの女の所にいるの?」
「奥様、お気を確かに!」
この目の前で発狂している奥様の子……ではない。
ジュリアンは顔が良くて浮気性な旦那様……様を付ける程の人物じゃないな。浮気男で充分か。えっと浮気男が、愛人に産ませた子……なんだが、その愛人がかなり厄介な相手だった。
その相手とは、この国の王女。
幸いというか、なんというか、王女は未亡人だったので、浮気された夫はいなかった。そして浮気男は元々男爵家の四男。公爵令嬢だった奥様が実父に強請って、結婚することができた。
その際に侯爵位を分けてもらった。
その程度の身分なので、王女とは当然結婚することはできなかった。
そして生まれた男児は、美貌の浮気男と瓜二つ。
奥様の実家は男児を跡取りとして引き取った。
いくら夫と顔が似ているとはいえ、ジュリアンは夫と浮気相手の間に出来た子なので、奥様は全く愛することはなく、浮気男は最初から子どもには興味がないので、ジュリアンは放置されて育った。
いや子どもに興味がないは違うな。男に興味がないんだ。事実この浮気夫は浮気相手の娘を可愛がっていた。
性的な面ではなく、本当に父親として可愛がっていた。
ジュリアンがそれを見かけるという、酷いイベントがあったなあ……そのシーン必要だったの?悪役令嬢を裏切ったのは解るけど、そのイベントなくても……。
そんなジュリアンは物語の後半にならないと、自分が浮気相手だった王女と浮気父の間に生まれた子だということを知らない。
ただ自分を愛してくれない母親だと思っていた奥様に対して、恨みという単純な言葉では言い表せない、複雑な思いを抱えていた。
物語の後半で自分の出生を知ることになるんだが、その時にはもう手遅れ――色々あって、親族を何名か殺害して、死刑判決を受けることに。
その時、奥様ではなく修道女になっていたジュリアンの実の母親が現れて、事実を聞いて、怒り狂って実母も殺害する。
……そんなことは、まあいいとして、このままこの邸で働いていたら、主人の巻き添えになるかも知れない。
それは避けたい……親に見合いでも組んでもらって、結婚退職を狙おうか?
でも、その相手が破滅対象たちと繋がりがあると困る。
悪役令嬢のように、どの家とどの家に繋がりがあるかなんて、私は解らないので……やはり結婚に逃げ込むのではなく、ここで上手く立ち回って逃げ果せよう!
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