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6 新たな出会い
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カレーム先生から、布職人の住所を聞くと、急いで支度をして図書館を出た。
(ナハルの馬車に乗せて貰わないと帰れなくなってしまう!)
半分駆け足になりながら、中庭を通っていく。暗くなった外からは明かりに灯された室内がよく見える。
左手にある礼拝堂のステンドグラスに赤銅の月光が吸い込まれているようだ。
シエルは近づいていくにつれ、礼拝堂の中に人が大勢いることに気がついた。
(あれ?今日は集会の日ではないのに・・・・・・)
「おい、お前、こっちに来い」
張りのある面白がるような響きの声に振り向くと、礼拝堂の窓から男が覗いていた。
紫がかった黒髪に、引き締まった身体をした男の佇まいからは気品が感じられる。
女性のように整った顔立ちをしているが、海のように澄んだ青い目は強く光を宿していた。
「わ、わたくしでしょうか?」
服装も質素でとても令嬢には見えない自分に何の用か訝しむ。
周囲に人影が見当たらないので、ひとまず大人しく指示に従う。
先程声をかけてきた男は窓にもたれて気だるげにこちらを見ていた。男は、金や銀糸を用いて華やかな織り柄が施された翡翠のコートを身に着けていた。
(まぁ、ヒスイ!初めて見たわ)
青と黄色で二重の染色工程が必要な上に、透き通った深い緑色を出すのは熟練の職人でも難しいのだ。高貴でお金持ちの方しか購入出来ない代物であることから宝石の名前から翡翠色と呼ばれている。
中の様子に気を取られていて、思いっきり脚を挫いてしまった。痛みに悶えながらも叫び声をあげなかった自分を褒めてあげたい。
痛みに耐えていたシエルは、男が笑っていたことに気付く由もなかった。
礼拝堂の扉を開けると、波が引くようにざわめきが止み、自然と左右に人が割れていく。
真正面の内陣には先程の男が、従者を伴って立っている。
シエルは、ドレスの裾を掴み、左右に膝を広げ姿勢を低くして挨拶をする。
「格式ばったことはいい。ここに来い。お前、これが何か分かるか?」
優雅な所作を心がけながら祭壇に向かう。一挙手一投足にまで注目されているようで緊張する。
周囲からひそひそと声が聞こえる。
「サバラン様は何をされたいのでしょう。あんなみすぼらしい庶子にまで声をかけて」
「変わり者という噂は本当のようだ。あんなよく分からない問いかけをして何を測りたいのでしょう」
「私達のことを無視するなんて非常なお方ですわ。土いじりなど庶民の成すことで、興味を持たなくて当然のことでしょう」
(ひどい言われようね。それにしてもサバランってどこかで聞いた覚えがあるのだけれど・・・・・・ダメだ、思い出せないわ)
主祭壇の前で立ち止まり、机の上を見る。そこには、茎まで黒い一輪の花が置かれていた。黒い蕾は何かを守るように閉じられている。
シエルは、ギザギザとした大ぶりの葉に見覚えがあった。葉脈がくっきりとしているから間違いがないだろう。
「確証は持てませんが、ドゥッシェではないでしょうか。魔木であるドゥッシェの葉は、ギザギザとしていて大ぶりなことに加え、二重楕円の葉脈が光る特徴があります。この花は一見普通の木に見えますし、葉脈は光りもしていませんが、二重楕円の葉脈が明瞭に見てとれます」
サバランという男は、鷹揚に頷いた。
「ドゥッシェは、花を咲かせないし、黒くもないが、それについては?」
「ドゥッシェが花を咲かせないかどうか は存じません。が、黒いことには理由がいくつか考えられます。ひとつは、魔術の影響を受けて傷ついたか呪われてしまったから。魔術の影響で枯れた植物が黒くなることは一般的な事象でしょう?他には何らかの理由でドゥッシェの魔力量が減り防衛反応で色が変化したから・・・・・・」
ただ、どれもこれも憶測でしかない。なにせ魔木の情報はひと握りしか得られていないのだ。
しかし、確実に言えることがただ一つある。口に出すべきか迷う。
「この修道院から王都へ向かう途中にある森で見つかったものだ。古くから精霊が棲む、あの森だ。他でも国境に隣接した3つの森で見つかったと聞いている。同じ植物かは定かではないが・・・・・・。今後も起きると思うか?君なら森を見れば何か分かるか?」
シエルの目を覗き込むように見つめるサバランからはピリッとした空気を感じる。
危険で気軽には入れない森の奥深くまで入れる機会は滅多にない。自信満々に出来ると答えたいが、鋭く光る青い目がそれを許さない。
「確約は出来ません。ただ、森で良くないことが起きていることは間違いないでしょう。私の知る限り、魔木について詳しい者はこの街にはいません。王都へ専門家の派遣を依頼した方が良いと思います」
「そうか。」
シエルは、カレーム先生が魔木の話題を避けていたから名前を敢えて出さなかった。サバランを注意深く見るも、表情に変化は無い。それが逆に怪しく見えて仕方がなかった。
暫しの沈黙の後、サバランは声を張り上げた。
「ドレーン伯爵家の令嬢はいるか?」
驚きで固まったシエルは誰かに強く押された。それは、どこからともなく、するりと現れたナハルだった。
(ナハルの馬車に乗せて貰わないと帰れなくなってしまう!)
半分駆け足になりながら、中庭を通っていく。暗くなった外からは明かりに灯された室内がよく見える。
左手にある礼拝堂のステンドグラスに赤銅の月光が吸い込まれているようだ。
シエルは近づいていくにつれ、礼拝堂の中に人が大勢いることに気がついた。
(あれ?今日は集会の日ではないのに・・・・・・)
「おい、お前、こっちに来い」
張りのある面白がるような響きの声に振り向くと、礼拝堂の窓から男が覗いていた。
紫がかった黒髪に、引き締まった身体をした男の佇まいからは気品が感じられる。
女性のように整った顔立ちをしているが、海のように澄んだ青い目は強く光を宿していた。
「わ、わたくしでしょうか?」
服装も質素でとても令嬢には見えない自分に何の用か訝しむ。
周囲に人影が見当たらないので、ひとまず大人しく指示に従う。
先程声をかけてきた男は窓にもたれて気だるげにこちらを見ていた。男は、金や銀糸を用いて華やかな織り柄が施された翡翠のコートを身に着けていた。
(まぁ、ヒスイ!初めて見たわ)
青と黄色で二重の染色工程が必要な上に、透き通った深い緑色を出すのは熟練の職人でも難しいのだ。高貴でお金持ちの方しか購入出来ない代物であることから宝石の名前から翡翠色と呼ばれている。
中の様子に気を取られていて、思いっきり脚を挫いてしまった。痛みに悶えながらも叫び声をあげなかった自分を褒めてあげたい。
痛みに耐えていたシエルは、男が笑っていたことに気付く由もなかった。
礼拝堂の扉を開けると、波が引くようにざわめきが止み、自然と左右に人が割れていく。
真正面の内陣には先程の男が、従者を伴って立っている。
シエルは、ドレスの裾を掴み、左右に膝を広げ姿勢を低くして挨拶をする。
「格式ばったことはいい。ここに来い。お前、これが何か分かるか?」
優雅な所作を心がけながら祭壇に向かう。一挙手一投足にまで注目されているようで緊張する。
周囲からひそひそと声が聞こえる。
「サバラン様は何をされたいのでしょう。あんなみすぼらしい庶子にまで声をかけて」
「変わり者という噂は本当のようだ。あんなよく分からない問いかけをして何を測りたいのでしょう」
「私達のことを無視するなんて非常なお方ですわ。土いじりなど庶民の成すことで、興味を持たなくて当然のことでしょう」
(ひどい言われようね。それにしてもサバランってどこかで聞いた覚えがあるのだけれど・・・・・・ダメだ、思い出せないわ)
主祭壇の前で立ち止まり、机の上を見る。そこには、茎まで黒い一輪の花が置かれていた。黒い蕾は何かを守るように閉じられている。
シエルは、ギザギザとした大ぶりの葉に見覚えがあった。葉脈がくっきりとしているから間違いがないだろう。
「確証は持てませんが、ドゥッシェではないでしょうか。魔木であるドゥッシェの葉は、ギザギザとしていて大ぶりなことに加え、二重楕円の葉脈が光る特徴があります。この花は一見普通の木に見えますし、葉脈は光りもしていませんが、二重楕円の葉脈が明瞭に見てとれます」
サバランという男は、鷹揚に頷いた。
「ドゥッシェは、花を咲かせないし、黒くもないが、それについては?」
「ドゥッシェが花を咲かせないかどうか は存じません。が、黒いことには理由がいくつか考えられます。ひとつは、魔術の影響を受けて傷ついたか呪われてしまったから。魔術の影響で枯れた植物が黒くなることは一般的な事象でしょう?他には何らかの理由でドゥッシェの魔力量が減り防衛反応で色が変化したから・・・・・・」
ただ、どれもこれも憶測でしかない。なにせ魔木の情報はひと握りしか得られていないのだ。
しかし、確実に言えることがただ一つある。口に出すべきか迷う。
「この修道院から王都へ向かう途中にある森で見つかったものだ。古くから精霊が棲む、あの森だ。他でも国境に隣接した3つの森で見つかったと聞いている。同じ植物かは定かではないが・・・・・・。今後も起きると思うか?君なら森を見れば何か分かるか?」
シエルの目を覗き込むように見つめるサバランからはピリッとした空気を感じる。
危険で気軽には入れない森の奥深くまで入れる機会は滅多にない。自信満々に出来ると答えたいが、鋭く光る青い目がそれを許さない。
「確約は出来ません。ただ、森で良くないことが起きていることは間違いないでしょう。私の知る限り、魔木について詳しい者はこの街にはいません。王都へ専門家の派遣を依頼した方が良いと思います」
「そうか。」
シエルは、カレーム先生が魔木の話題を避けていたから名前を敢えて出さなかった。サバランを注意深く見るも、表情に変化は無い。それが逆に怪しく見えて仕方がなかった。
暫しの沈黙の後、サバランは声を張り上げた。
「ドレーン伯爵家の令嬢はいるか?」
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