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5.発想の転換
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「では、簡単な例で実演しましょう。正方形に切った薄い植物紙が三枚あります。まず1枚に、共通している魔術式で構成した魔法陣を書いて机の上に置きます。次に、移動する魔術式で1枚目の魔法陣と被っていない魔術式だけを書き、1枚目に重ねておきます。最後の紙には、浮く魔術式で1枚目、2枚目と被っていない部分を書いて1枚目、2枚目の上に置きます。これで準備完了です」
本当はアッケル岩塩の溶けた水で育ったアイスシモンの薬草を煮込んで作った蒸留水があれば良かったのだが・・・・・・。その蒸留水に植物紙を浸すとより効果が出るが、親指ほどの人形なら大丈夫だろう。
人形は、ゼーリエがボロ布をツギハギして作ってくれたものだ。着古した服を適当な大きさに切って縛って丸い玉にして使っていたのが気になっていたらしい。
「このままだと全部の服が切り刻まれてしまう!なんてことを!」と危機感を覚えたんだって。
(全く失礼しちゃうわ、布だって、汗を吸うより魔法を吸った方が嬉しいでしょうに)
寒冷地に生息するアイスシモンは氷の粒がびっしりと葉につくことから名付けられ、陽の光で煌めく様は、とても幻想的な光景らしい。1度でいいから見てみたいと思っている。
カレーム先生はピンセットで植物紙を摘み、くまなく調べている。
暫くすると、納得したらしくピンセットを机の上に置いて、無言で頷いて見せた。
「では、この人形を植物紙の上に置きます。そして、魔力をながすと・・・・・・」
人形がゆっくりと浮いたかと思うと、次の瞬間、消えていた。
「なるほど、ここに移動したのね」
カレーム先生はそう言って、モンクスベンチに積まれてる本の上から人形を手に取った。そして、シエルの不正を暴こうとするように、人形を隅々まで確認し、魔法がかけられていないか道具を使って調べていく。
「うーん、透明の魔法も、魔薬も無し。思いつく限り調べたけれど、やはり何も出てこないわね・・・・・・。欠けている魔術式で機能したのは、一枚の魔法陣のように結合して、それは植物紙が薄いことに加え、上から魔力を流したからでしょう。しかし、それだけで可能かしら?」
独り言なのか問いかけられているのか、判断が微妙な所だが、小窓から見える外は暗くなりつつある。もうすぐ七の鐘が鳴ってしまう。
「先生鋭いですね。じっくり考察して欲しいのですが、それはまたにしましょう。この植物紙は、実は薬草と魔木の葉から作ったものなんです」
「魔木から?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして腕を組んだ格好で静止した。
「えぇ、そうです。ただ、魔木だけで作るとあまり魔力を通さず、抵抗力も強いんです」
「思いもよらなかったわ。でも、そうね、うん、納得だわ。まさに最適な使い方ね」
「さらに魔木の魔力がもっと使えるようになれば、魔石よりも軽くて使い勝手がいいと思うのですが・・・・・・。今回は、ティクチョクの葉から植物紙を作ってみましたが、葉に含まれる魔力は全然活用出来てなくて、私は悔しいのです。調べようにも、魔木に関してはなぜか情報が少なくて、調べ方が悪いのでしょうか」
都市の中でも本の蔵書量が多いカタクリン修道院だが、薬草の本は、棚二つ分なのに、魔木の本は棚の一段文と非常に少ない。
(どうしてなのかしら?)
カレーム先生は腕を組んで顎を撫でながら、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。その声は#心做し__こころなし__震えている。
「そうね、昔は西の山林付近に職人がいて、それを生業とした村もあったのよ。でも、魔木は扱えるようになるのに何年もかかるから、時代の流れかしら、弟子入りも少なくなり、今では村も廃村になったそうよ。現役の職人は何年も前から居ないんじゃないかしら」
シエルは、先生が俯いて私の目を見ないことに気がついた。
「シエル、魔法陣の改良で使用魔力量も随分減らせたでしょう。魔導具は魔木を使うのは辞めたらどうかしら?ほら、前に魔絹の作り方が知りたいと話していたでしょう。知り合いに凄腕の人がいるんだけれど」
カレーム先生が、明確な理由なく私に何かを辞めるように勧めたことは今まで一度も無かった。
女でありながら、貴族女性としての嗜みよりも勉学に励み、魔道具や薬草の研究に明け暮れる私を温かく見守ってくれている。
それどころか、助言を求めれば熱心に知識を教えてくれ、お腹を空かせているのに気づいていないフリをして「作りすぎたから」と、お菓子をたくさんくれるのだ。
(魔木は、知るとまずい事情や歴史かあるのかもしれない)
「ぜひ、詳しく知りたい!」
「え?」
「あ、いえ、先生。私に凄腕の布職人を紹介して下さいませ」
心の声が漏れてしまった。危ない、危ない。先生に心配をかけるといけないから、こっそりと魔木の歴史を探ってみよう。
本当はアッケル岩塩の溶けた水で育ったアイスシモンの薬草を煮込んで作った蒸留水があれば良かったのだが・・・・・・。その蒸留水に植物紙を浸すとより効果が出るが、親指ほどの人形なら大丈夫だろう。
人形は、ゼーリエがボロ布をツギハギして作ってくれたものだ。着古した服を適当な大きさに切って縛って丸い玉にして使っていたのが気になっていたらしい。
「このままだと全部の服が切り刻まれてしまう!なんてことを!」と危機感を覚えたんだって。
(全く失礼しちゃうわ、布だって、汗を吸うより魔法を吸った方が嬉しいでしょうに)
寒冷地に生息するアイスシモンは氷の粒がびっしりと葉につくことから名付けられ、陽の光で煌めく様は、とても幻想的な光景らしい。1度でいいから見てみたいと思っている。
カレーム先生はピンセットで植物紙を摘み、くまなく調べている。
暫くすると、納得したらしくピンセットを机の上に置いて、無言で頷いて見せた。
「では、この人形を植物紙の上に置きます。そして、魔力をながすと・・・・・・」
人形がゆっくりと浮いたかと思うと、次の瞬間、消えていた。
「なるほど、ここに移動したのね」
カレーム先生はそう言って、モンクスベンチに積まれてる本の上から人形を手に取った。そして、シエルの不正を暴こうとするように、人形を隅々まで確認し、魔法がかけられていないか道具を使って調べていく。
「うーん、透明の魔法も、魔薬も無し。思いつく限り調べたけれど、やはり何も出てこないわね・・・・・・。欠けている魔術式で機能したのは、一枚の魔法陣のように結合して、それは植物紙が薄いことに加え、上から魔力を流したからでしょう。しかし、それだけで可能かしら?」
独り言なのか問いかけられているのか、判断が微妙な所だが、小窓から見える外は暗くなりつつある。もうすぐ七の鐘が鳴ってしまう。
「先生鋭いですね。じっくり考察して欲しいのですが、それはまたにしましょう。この植物紙は、実は薬草と魔木の葉から作ったものなんです」
「魔木から?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして腕を組んだ格好で静止した。
「えぇ、そうです。ただ、魔木だけで作るとあまり魔力を通さず、抵抗力も強いんです」
「思いもよらなかったわ。でも、そうね、うん、納得だわ。まさに最適な使い方ね」
「さらに魔木の魔力がもっと使えるようになれば、魔石よりも軽くて使い勝手がいいと思うのですが・・・・・・。今回は、ティクチョクの葉から植物紙を作ってみましたが、葉に含まれる魔力は全然活用出来てなくて、私は悔しいのです。調べようにも、魔木に関してはなぜか情報が少なくて、調べ方が悪いのでしょうか」
都市の中でも本の蔵書量が多いカタクリン修道院だが、薬草の本は、棚二つ分なのに、魔木の本は棚の一段文と非常に少ない。
(どうしてなのかしら?)
カレーム先生は腕を組んで顎を撫でながら、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。その声は#心做し__こころなし__震えている。
「そうね、昔は西の山林付近に職人がいて、それを生業とした村もあったのよ。でも、魔木は扱えるようになるのに何年もかかるから、時代の流れかしら、弟子入りも少なくなり、今では村も廃村になったそうよ。現役の職人は何年も前から居ないんじゃないかしら」
シエルは、先生が俯いて私の目を見ないことに気がついた。
「シエル、魔法陣の改良で使用魔力量も随分減らせたでしょう。魔導具は魔木を使うのは辞めたらどうかしら?ほら、前に魔絹の作り方が知りたいと話していたでしょう。知り合いに凄腕の人がいるんだけれど」
カレーム先生が、明確な理由なく私に何かを辞めるように勧めたことは今まで一度も無かった。
女でありながら、貴族女性としての嗜みよりも勉学に励み、魔道具や薬草の研究に明け暮れる私を温かく見守ってくれている。
それどころか、助言を求めれば熱心に知識を教えてくれ、お腹を空かせているのに気づいていないフリをして「作りすぎたから」と、お菓子をたくさんくれるのだ。
(魔木は、知るとまずい事情や歴史かあるのかもしれない)
「ぜひ、詳しく知りたい!」
「え?」
「あ、いえ、先生。私に凄腕の布職人を紹介して下さいませ」
心の声が漏れてしまった。危ない、危ない。先生に心配をかけるといけないから、こっそりと魔木の歴史を探ってみよう。
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