双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

文字の大きさ
10 / 69

10 万霊の森

しおりを挟む
馬車から降りると、外には完全武装した男2人が直立不動の姿勢で立っていた。ジルバが何か指示を出しているようだ。

目の前には、毛を逆立てた黒猫のように枝葉を広げた万霊の森が昂然とたっていた。
すっかり闇に包まれた森は、不吉な予言が無くても十分不気味だった。


時折、鳥や魔物の鳴き声が静寂を突き破る。得体の知れないものが隠れてシエル達を取り囲んでいるように思えてならない。自分自身の足音にさえ驚きそうになる。こんな暗闇の中、森を移動するのは危険極まりないだろう。


「火の精霊よ、サラマンダーよ、力を貸し給え」  


ジルバの凛とした声に振り向くと、ランタンの中に小さく切ったミロを入れていた。


「ケオフロガ」


ジルバが呪文を唱えると、ぼぉっとミロが燃え、甘くまろやかな酸味の香りがあたりに漂った。そっと手を離しながら上に少し押し出す。すると、ランタンが宙に浮かんだ。


「綺麗・・・・・・」
「でしょう?我ながら良い魔道具を作ったと思っています」

ジルバがにこりと微笑み、私の方にランタンを動かしてくれた。あまりの美しさに手を伸ばしかけて、踏みとどまる。


「ふふっ、気になりますか?」
「はい。美しさと実用性を兼ね備えていることが素晴らしいと思います。浮くと両手が自由になりますし。あの、浮かせるのは難しくないのですか?魔力も相当使うでしょう?」
「魔石で枠を作っているので、そんなに難しくないんです。それに、火は精霊の力を借りていますから」
「ミロに火がついてましたよね!私とても驚きましたっ」
「ミロでなくてもいいのですが、自分の好物を捧げた方が精霊も気前よく力を貸してくれるかなと思って」


火の精霊は、パチパチッと楽しげな音を鳴らしてご機嫌な様子。熱々のミロを頬張る精霊の姿を想像すると思わず笑ってしまう。


(なんて可愛らしいのでしょう)


「魔法を直接見るのは初めてですか?」
「えぇ、魔石で使える魔道具を触ることはあっても、魔法は、使える人が限られているので・・・・・・」


魔法は弟子入りしないと学べない。聖顕式で適性が認められた男性だけが試験を経て弟子入りが適う。女性も形だけ聖顕式に参加するが適性を測ってさえくれないのだ。


「男にしか教えぬなど馬鹿馬鹿しい。せめて修道院で習う基礎呪文は女にも教えるべきだと思わんか?」
「え、修道院で基礎呪文を学べるんですか?」


突然横に現れたサバラン様は、ついて来いと合図をして歩き出した。


「火、水、風、土の四大精霊への呼びかけ方と火をつけるとか各属性の簡単で代表的な呪文を教えてるはずだ。使えると便利だからな」

羨ましい。ぼそりと呟いた声が聞こえたらしく、

「この件が片付いたら、たっぷり教えてやろう。お前の方がよく働いてくれそうだしな」


にやりと笑ってこちらを見られても困る。呪文は知りたいが、何かさせられそうで怖い。

「お手柔らかにお願いします!あの、魔法を使うには、お供えが必要なんでしょうか?」
「んー、魔法は、基本的に精霊の力を借りるので、お供え物があると良いですね。けど必須ではないし、供える物も何でも構いません。精霊は人それぞれですから、供えたい物を供えれば大丈夫です」
「精霊は固有の存在ではないのですか?自然の物に宿るものでしょう?」
「えぇ、精霊は自然の魂のようなもので、目に見える形が無いため、使用者のイメージがそのまま反映されてしまうんです。お供えも魔法の効果や効率が良くなるのでする人が多いんですが、食べ物やら服やら装飾品やらと、何でもありな状態です」
「ふふっ、精霊も色々お供えされて困っちゃってそうですね。あぁ、私も魔法を使えるようになって、お供え物の種類で効果に変わりがあるのか実験してみたいです!!」


そもそも精霊に好みはあるのだろうか。シエルは、実験の段取りをあれこれ考えるのに夢中になってしまい肝心な事をすっかり忘れていた。


「あっ!あの、こんな少人数で夜の森に入るのは危険じゃないんですか?」

サバラン様は、くっくっくと喉の奥を鳴らして笑い、ジルバも笑いを噛み殺していた。


「今更指摘することか!?」
「魔法に気を取られて、つい忘れちゃいました」

ハハハ、と笑って誤魔化す。サバラン様には盛大なため息をつかれた。


「5人なのは、少人数の方が動きやすいことと、確実に信頼出来て強い者しか連れてこなかったからだ。ジルバは、紫帯の魔法使いでもあり護衛騎士でもある。別合流した2人は、従騎士だ。若さ故にまだ叙任されていないが 、1人は槍使いの名手で、もう1人は魔術師見習いでもある。」
「・・・・・・皆さんとても優秀なのですね」
 

深紫のローブが魔法使いで、黒いローブが魔術師と決められている。階級を表す帯の色は共通で、紫、紺、赤、黄、茶の順に最上級、上級、中級、初級、見習いとなっている。


なんと、ジルバは最上位の紫で、現役の護衛騎士でありながら魔法使いと兼任しているというのだ。兼任する者もいるにはいるが、年老いた名誉騎士が魔法使いとなる例がほとんどで、現役となると滅多にいない。
 

シエルの額からは、冷や汗がたらりと流れ落ちる。サバラン様が確実に信頼できる仲間で固めて臨む調査に参加しているということは、既に相当巻き込まれているのではないだろうか。


(なぜそこまで周囲を警戒しているのかも、サバラン様が何者かも絶対に知りたくないわっ。はやく話題を逸らさないと!)


人は焦ると、ろくな事を言わないらしい。口をついて出たのは、なぜかこの場にそぐわないものだった。


「食べ物だと何が1番好きですか?」


(わたし、お腹すいてる?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...