双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

文字の大きさ
12 / 69

12 リガスケラス

しおりを挟む
シエルが振り向いた瞬間、リガスケラスの右足が頬を掠めた。かぁっと燃えるような熱さが走る。迸った血が深く鋭い痛みを感じさせた。


恐る恐る頬に触れると、血が留まることを知らず流れ続け、指を赤く染めた。


鈍い打撃音が頭上で響く。顔を動かすと、サバラン様が呪文を唱えているのが分かった。


「「エピセスィナ!」」


四方から光線が飛ぶ。ジルバと従騎士達も来てくれたようだ。大量の岩がリガスケラを襲う。


リガスケラスは、呻き声をあげ、尻尾を振り回して暴れた。砂埃が巻きあがる中、ジルバ達はばっと後ろに飛び退く。


シエルは、リガスケラスがジルバ達に気を取られているうちに、移動しようとした。


(ち、力が入らないっ!なんで?)


骨抜きにされたみたいに脚が全く動かなかった。実はシエルは、今まで自分は魔獣にも物怖じしないと思っていた。怖くても自分の身くらいは守れると。しかし、それがいかに愚かで甘い目算だったのか、まざまざと痛感する。震える腕を動かしてそろそろとスライムみたいに地面をずり、距離を稼ぐ。


俄に、後ろから真っ赤な光が飛びだして、リガスケラスにぐるぐると巻き、ぎゅうっと縛り上げ始めた。


光を目線で追って振り向くと、サバラン様が握った右手を突き出した格好で、何か呟いていた。目の前には宙に浮か上がった魔法陣があり、そこから紅く光る細い線が生み出されているようだった。


シエルは、ほうっと息を吐き出した。捕縛作業は順調そうだ。もう決着がつくだろうと高を括ったのは、シエルだけではなかった。従騎士二人も武器を置いて薬を呑んでいた。


そんな三人を嘲笑うように爆発音と似た破裂音が響き渡る。何が起きたかよく分からないままシエルは、爆風と衝撃で投げ出された。受け身もままならずに木に激突して止まった。が、不思議と痛みはない。まじまじと身体を検分している内に煌めく光の粉は消え去っていった。


「シエル様、ご無事ですか?!」


ジルバは警戒態勢を解いてなかったようで、約束の言葉通りシエルを守ってくれたようだ。


「はい、ありがとうございます!」


咳き込みながらも、大きな声で返事をし、周囲を見廻す。随分と散り散りに飛ばされたようだ。視認できる範囲でどうにか全員の無事を確認できた。


魔法陣から放たれた赤い光はとうに消え失せている。先程までよりもひと回りは身体を大きくしたリガスケラスが、お尻をふりながら後ろ足の爪を地面にのめり込ませていた。それはまるで見つけた獲物を捕食するための準備運動をしているよう。


目が合った、と思う。じーっとこちらを見つめるリガスケラ。


(なぜ私を狙うのかしら?1番弱いから?)


ゴクリと唾を飲み込む。  慌ててポケットから紙切れを取り出す。



リガスケラスは、俊敏な動きで更に長くなった尻尾を振り回しこちらに突進してくる。光線が次々と飛んでくるのも、効いている気配を見せず真っ直ぐ進んできた。


(どうにかしなければ!)


周囲を見回す。黒い花ばかりが群生している。何か、何かないかーーーーー。



まだ大きくなった尻尾の扱いに慣れていないのか、木々にぶつかってなぎ倒しながら向かってくる。


サバラン様とジルバが並走しながら次々と呪文を浴びせているのが目で捉えられた。リガスケラスは、時々手で薙ぎ払うような仕草を見せるが、2人は、綺麗にそれを避けていく。そこに従騎士2人も合流してきた。


苛立ちを募らせたらしいリガスケラスは、尻尾を無茶苦茶に動かした。木から跳ね返った尻尾が不規則な動きで襲いかかってくる。その動きを止めようとしたのか、尻尾のつけ根に槍で突撃した従騎士の背中に後ろ足が迫る。


「危ないっ!」


避けきれなかった従騎士を庇ったジルバが尻尾に直撃し、10メートル以上吹き飛ばされる。ジルバは、衝撃を回避しようと必死の形相で呪文を唱えている。
 

「風の精霊よシルフよ力を貸し給え、アエリーゾ」


が、何も起きなかった。為す術なく地面に叩きつけられたジルバは動かなくなった。


(どうして?なんで?)






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...