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15 帰宅後

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あの後、真剣な顔をしたサバラン様に「古の森には行かず、真っ直ぐ帰宅することになったから、お前を家まで送る」と言われた。行きにかかった時間から推測すると、着くのは早くても昼近くになりそうだった。


馬車に乗ってからは、誰も話さなかった。各々がそれぞれ気になることがあったのだろう。身じろぎするのも憚られる静寂が、シエルには有難くも疎ましくもあった。往路よりも更に飛ばしている様子に救われる思いがする。


頬を怪我する直前、シエルは光るものを拾っていた。先程、しっかり確認したことで、疑念は更に深まっている。窓の外の景色をぼんやりと眺めながらも、先程から思考はポケットの中にいれた黄金色のバッジに行きついてしまっていた。


幾つもの小花でしずく型をしたバッジは、細部の模様が潰れていて花の種類は分からない。バッジの裏が錆びているから金ではなく真鍮製だろう。


実は、これと同じようなバッジを父が付けているのを見た記憶があるのだ。国章のバッジと非常に似ていたので、思わず父に尋ねてしまったのだ。その日、父は珍しく機嫌が良く、花の形が微妙に違うことを説明してくれたっけ。
 

国の紋章のモチーフとなっている精霊の花は、王族しか使用できず、王族に直接仕える王室近衛兵や魔術師も色違いの国章を身につけている。


シエルは、このことをサバラン様達に伝えるか迷っていた。拾ったバッジは、誰かが国章に似せて作った粗悪品を売りさばいただけかも知れないし、父も偽物を掴まされただけかも知れないし、そもそも私の見間違えかも知れない。


伝えない理由が「確証がある訳でもないから」というのは建前であることは自覚している。


(何を期待しているのだろうか?)





いつの間にか眠っていたようで、優しく揺すり起こされると、一瞬ここがどこか分からなくなった。車内灯の眩しさに目をぱちくりさせる。


「おはようございます、シエル様。着きましたよ」
「・・・・・・っ、おはようございます」
「まだ明け方です。私が、お部屋までお供します」


外は仄暗い。ジルバに急かされ、ぼんやりとしそうになった頭を振る。

(私の不在はどうつたわっているのだろう?)


裏口から入り、真っ直ぐ庭を横切って小屋へ入る。中はこじんまりしているが、1人で住むには十分過ぎる広さだった。本館で使わなくなった年季の入った家具が、良い味を出している。


「ジルバ様、ありがとうございました。後は大丈夫です」
「重たくありませんか?中まで運びますよ」


ジルバの申し出を丁重にお断りし、荷物を全て受け取る。使用人が居ないと何も出来ないナハルと違って、シエルは全て一人でこなせるのだ。


簡単な別れの挨拶をしてジルバが去った後、シエルは、荷物をそのまま放って寝ようとした。


「おはようございます。シエルお嬢様、まさか、荷物を玄関に置きっぱなしでお休みになるおつもりですか?」


そこに居るはずの無いゼーリエが仁王立ちしていた。
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