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21 布職人
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角を曲がって細い街道を迷いながら進んでようやく見つけた。クリーム色の漆喰に木骨で、傾斜の無い赤レンガ屋根の3階建ての家だ。看板らしき木の板は文字が塗りつぶされていて読めないが、カレーム先生から教わった特徴と合っているから、ここで間違いないだろう。シエルは、深呼吸し、扉を叩く。
「はい、どちら様?」
「シエルです。カレーム先生からのご紹介で伺いました」
薄く開けていた扉を広げて出迎えてくれたのは、背の高い白髪の女性だった。痩せ細り、皺だらけだが、ぴんと伸びた背筋と鋭い目付きは、「まだまだ若い人には負けん」という気迫を感じさせる。
「あぁ、聞いとるよ。さぁ、入んな」
「お邪魔します。あと、こちら果物と痛み止め薬です。どうぞお受け取りくださいませ」
「ご丁寧にどうも。あんた貴族っぽくないねぇ」
包みを無造作に置いたケーニスさんは、ジロジロと上から下まで舐めまわすように見てきた。シエルは慌てて自分の服が汚れていないか確認する。
「すいません、動きやすさを重視した格好で・・・・・・。失礼をして」
「いんや、こっちまで肩の凝りそうな服装じゃなくてほっとしてんのさ。あんた、ヤギミルクかエールどっちがいい?」
「いえ、お構いなく!」
「貴族様に来てもらって何も出さない訳にはいかないのさ」
「あ、でしたらケーニスさんと同じものを頂きます」
「ふんっ、なら、ビールだね。わたしゃ朝から晩までビールを飲んでるのさ」
ドンッと木製のコップが置かれ、キメの細かい白い泡が溢れそうになっていた。お礼もそこそこに、シエルは慌ててすすった。
(ん?いつものと違って飲みやすい!美味しい)
ごくごく。乾いていた喉を潤す。一気に半分ほど飲んでしまった。グラスを置く時、ケーニスさんと目が合う。
「いい飲みっぷりだねぇ」
「っすいません、はしたなくて。いつも飲んでるビールと違って飲みやすかったので」
「ふんっ、あんた本当に貴族かね。このビールは、私の故郷でよく飲まれてたラガービールさ」
「まぁ、これがラガービールですか!最近流行ってるみたいですね、私初めていただきましたわ。これは、サブレビアとベニモチを使用したエールの味に似てますね」
「へぇ、詳しいじゃないか。配合にも手を出しているくちだね」
「あ、分かります?あのムッとする芳醇な香りと後から来る苦味が苦手で・・・・・・。少しでも苦味を減らして爽やかな味にしたくて色々試したんですよ」
「ふん、そんな苦労しなくとも、ワインか、果実水か、水でも飲めばいいんじゃないか」
「えぇ、そうだったら良いのですが、ワインや果実水は滅多に飲めませんの。水もたまに頂ける程度ですので・・・・・・」
またも、胡散臭そうにじっと見てくる。貴族なのに変わっていると思われたか、それとも貴族であることが嘘だと思われたかは定かではないが、良くも悪くも関心を持ってはくれたようで、ほっと胸をなで下ろした。
カレーム先生の言葉が思い出される。
「いい、ケーニスは布職人として腕は一流だが、人が嫌いで、特に貴族嫌いでもある。私の紹介だから門前払いされることは無いだろうけど、とりあえず、関心を持って貰えるように振る舞いなさい。話はそれからよ」
(先生、どうも私、嫌われているようです)
いつ本題に移ろうか、タイミングを見計らっていると、ケーニスさんは、2杯目のビールを飲み干すところだった。
「それで、何の用だい?」
「えぇ、布職人でいらっしゃるとお聞きしました。布の染める工程についてお話いただけませんか」
「染めるねぇ・・・・・・。そもそも、あんたが知りたいことは、布作りの工程じゃないんだろう。目的を教えてくれなきゃあ、話せないね」
これが意地悪では無いことは、目を見れば明らかだった。しかし、シエルは躊躇った。目的は、空間魔術の改良型のためだ。もっといえば、家を、国を出て自由に暮らすための道具をつくることである。
(んー、貴族なのに、家や国を出たいなど、理解して貰えるのかしら?)
残っていたビールを一気に飲んで、グラスを置く。ごちゃごちゃ考えるよりも、全て話してしまおうと決めたのだ。
「目的は、空間魔術の魔道具を改良するためです。私は、家を、いえ、国を出たいのです。貴族という身分ではありますが、私は諸事情で、家では使用人のような扱いです。勿論、暮らしていけるだけ有難い事だと思っておりますが・・・・・・」
「お嬢様が家を出る?笑わせるねぇ。使用人というが、本当に底辺の暮らしをあんたは経験したことなど無いから、そんな甘っちょろいことが言えるのさ」
「甘いかも知れません。家での扱いが酷くても貴族として生を受けたことは、恵まれていたでしょう。ですが、わたくしは、誰かの身代わりの人生は嫌なのです!!これまでも、この先も、」
・・・・・・誰かの人形でなど、いたくなかった。
「はい、どちら様?」
「シエルです。カレーム先生からのご紹介で伺いました」
薄く開けていた扉を広げて出迎えてくれたのは、背の高い白髪の女性だった。痩せ細り、皺だらけだが、ぴんと伸びた背筋と鋭い目付きは、「まだまだ若い人には負けん」という気迫を感じさせる。
「あぁ、聞いとるよ。さぁ、入んな」
「お邪魔します。あと、こちら果物と痛み止め薬です。どうぞお受け取りくださいませ」
「ご丁寧にどうも。あんた貴族っぽくないねぇ」
包みを無造作に置いたケーニスさんは、ジロジロと上から下まで舐めまわすように見てきた。シエルは慌てて自分の服が汚れていないか確認する。
「すいません、動きやすさを重視した格好で・・・・・・。失礼をして」
「いんや、こっちまで肩の凝りそうな服装じゃなくてほっとしてんのさ。あんた、ヤギミルクかエールどっちがいい?」
「いえ、お構いなく!」
「貴族様に来てもらって何も出さない訳にはいかないのさ」
「あ、でしたらケーニスさんと同じものを頂きます」
「ふんっ、なら、ビールだね。わたしゃ朝から晩までビールを飲んでるのさ」
ドンッと木製のコップが置かれ、キメの細かい白い泡が溢れそうになっていた。お礼もそこそこに、シエルは慌ててすすった。
(ん?いつものと違って飲みやすい!美味しい)
ごくごく。乾いていた喉を潤す。一気に半分ほど飲んでしまった。グラスを置く時、ケーニスさんと目が合う。
「いい飲みっぷりだねぇ」
「っすいません、はしたなくて。いつも飲んでるビールと違って飲みやすかったので」
「ふんっ、あんた本当に貴族かね。このビールは、私の故郷でよく飲まれてたラガービールさ」
「まぁ、これがラガービールですか!最近流行ってるみたいですね、私初めていただきましたわ。これは、サブレビアとベニモチを使用したエールの味に似てますね」
「へぇ、詳しいじゃないか。配合にも手を出しているくちだね」
「あ、分かります?あのムッとする芳醇な香りと後から来る苦味が苦手で・・・・・・。少しでも苦味を減らして爽やかな味にしたくて色々試したんですよ」
「ふん、そんな苦労しなくとも、ワインか、果実水か、水でも飲めばいいんじゃないか」
「えぇ、そうだったら良いのですが、ワインや果実水は滅多に飲めませんの。水もたまに頂ける程度ですので・・・・・・」
またも、胡散臭そうにじっと見てくる。貴族なのに変わっていると思われたか、それとも貴族であることが嘘だと思われたかは定かではないが、良くも悪くも関心を持ってはくれたようで、ほっと胸をなで下ろした。
カレーム先生の言葉が思い出される。
「いい、ケーニスは布職人として腕は一流だが、人が嫌いで、特に貴族嫌いでもある。私の紹介だから門前払いされることは無いだろうけど、とりあえず、関心を持って貰えるように振る舞いなさい。話はそれからよ」
(先生、どうも私、嫌われているようです)
いつ本題に移ろうか、タイミングを見計らっていると、ケーニスさんは、2杯目のビールを飲み干すところだった。
「それで、何の用だい?」
「えぇ、布職人でいらっしゃるとお聞きしました。布の染める工程についてお話いただけませんか」
「染めるねぇ・・・・・・。そもそも、あんたが知りたいことは、布作りの工程じゃないんだろう。目的を教えてくれなきゃあ、話せないね」
これが意地悪では無いことは、目を見れば明らかだった。しかし、シエルは躊躇った。目的は、空間魔術の改良型のためだ。もっといえば、家を、国を出て自由に暮らすための道具をつくることである。
(んー、貴族なのに、家や国を出たいなど、理解して貰えるのかしら?)
残っていたビールを一気に飲んで、グラスを置く。ごちゃごちゃ考えるよりも、全て話してしまおうと決めたのだ。
「目的は、空間魔術の魔道具を改良するためです。私は、家を、いえ、国を出たいのです。貴族という身分ではありますが、私は諸事情で、家では使用人のような扱いです。勿論、暮らしていけるだけ有難い事だと思っておりますが・・・・・・」
「お嬢様が家を出る?笑わせるねぇ。使用人というが、本当に底辺の暮らしをあんたは経験したことなど無いから、そんな甘っちょろいことが言えるのさ」
「甘いかも知れません。家での扱いが酷くても貴族として生を受けたことは、恵まれていたでしょう。ですが、わたくしは、誰かの身代わりの人生は嫌なのです!!これまでも、この先も、」
・・・・・・誰かの人形でなど、いたくなかった。
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