双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

文字の大きさ
22 / 69

22 回想

しおりを挟む
5,6歳の頃から、ナハルとシエルはお母さまから教育を受けるようになった。家庭教師の先生を呼ぶ前に基本的なことをお母さまが教えてくれるというのだ。


(お母さまとずっと一緒にいられるわ!)


普段は一緒にいられないお母さまと長時間過ごせると思うと、シエルはとても嬉しかった。


裁縫のレッスンでは、縫い方を教わった。針で指を刺してしまい、痛い思いをしながらどうにか布と布をくっつけることができた。


「お母さま、出来ましたわ!」
「・・・・・・こんなにぐちゃぐちゃなものを出来たとは言えないわ。やり直しなさいっ」
「ご、ごめんなさい」


肩を落としたシエルは、糸を全て切り、また縫い始めた。お母さまは、用事があるとどこかに出かけてしまったので、帰ってくるまでに終わらせようと一生懸命手を動かす。


「シエル、わたしの分もやってぇ!」
「ちっとも進んでないじゃない、ナハル!自分でやらないとお母さまに叱られるわよ」
「シエルのけち!使用人にやってもらうからいいわっ」


ナハルは針と糸を放り出して、人形で遊び始めた。そんなナハルを放っておいて、シエルは縫い進める。あと少しで縫い終わる時にお母さまが戻ってきた。


「ねぇ、シエル。私の布と交換ね!」
「ちょっと、ナハル!」


ナハルがちょうど縫い終わった布をお母さまに見せに行ってしまう。


「ナハル、私の布を返してちょうだい!」
「シエル、何を騒いでいるの?」
「ナハルが私の布を奪ったのです」
「いいえ、お母さま、私はそんなことはしておりませんわ」


渡された布をじっと見つめていたお母さまが、顔を上げた。ナハルを叱って、シエルを褒めてくれると期待して待っていた。


「シエル、いい加減になさいっ!ナハルのやったことを自分のやった事だというなんて、ありえないわ。罰として、庭の草むしりを一人でやってらっしゃい。ナハル、おやつにしましょう」


(そんな、わたくしはがんばったのに、どうして?)


「お母さま、そんな!ナハルではなく、私が縫ったのです」
「う、うぅ、シエルが私を虐めてくるのですっ」


ナハルが泣き真似をし始めた。お母さまは私を睨みつけ、おやつの用意ができたことを知らせに来たゼーリエに「シエルに夕食は与えないでちょうだい」と言ってナハルの肩を抱いて出ていってしまった。ナハルが、こちらを振り返って勝ち誇ったように笑った。




別の日の音楽のレッスンでも、シエルはお母さまから叱られていた。


「シエル、あなたはどうしてこんなに簡単なことも出来ないの?ナハルをご覧なさい!」
「お母さま、ごめんなさい・・・・・・」
「もういいわ、あなたは何をやらせてもダメね」


マナヴィエルは、魔石の魔力で円盤が回ることで音が出て、鍵盤を操作して音色を変えて演奏する鍵盤つきの弦楽器だ。魔石から魔力が勝手に引き出される訳ではなく、自分で魔石から魔力を流さなければならないのだ。


魔石から魔力を流すという簡単な作業も、弾きながらになると、難しい。


「お母さま、私も練習したいです!はやく弾けるようになってお母さまに聴いて欲しいのです」
「あら、嬉しいわ。シエル、楽器を返しなさい!」
「え、でも、私まだナハルから貸してもらったばかりで、ナハルの半分の時間も練習を・・・・・・」
「どうせあなたには出来やしないわ。時間の無駄よ、さぁナハルに渡しなさい」


有無を言わせず、取り上げられた楽器。シエルの番は1日に1度回ってくれば良い方だった。


「あなたは、どうしてまだ音も満足に出せないのかしら?不快な音を聞かせないでちょうだいっ。はぁ、もうナハルと変わって、あなたは掃除をしてきなさい」
「お母さま、わたくしも、」
「煩いわね、私の視界から消えてちょうだい」


叩かれた頬より胸が痛くて、シエルは泣き出しそうだった。涙を堪えながら部屋を出て、拾った枝で自作した鍵盤の模型で練習を重ねる。


(わたしがいけないんだわ、満足に音も出せなくて。練習して上手くなればお母さまもきっと褒めてくださるわ)



シエルは薬草の勉強がとても好きだったし得意である。外から草を採ってきては、家にある薬草の本を何度も繰り返し読んでいたから、レッスンが待ち遠しかった。


(これでやっとお母さまに褒めてもらえるわ!)


今日は、早く出来たらおやつを選ばせてくれるというので、いつもよりも張り切っていた。シエルは、ナハルよりも先に薬を作って、お母さまに見せに行こうとした。


「うわっ」
「あら、ごめんなさいね」 


ナハルが私にわざとぶつかって薬をこぼしたのだ。ニンマリと笑うナハルに、怒りが込み上げてきたが、ぐっと我慢して作り直す。


(大丈夫、まだナハルよりも早い。落ち着いて)


1回目よりも作業に慣れて、はやく作ることが出来た。容器を置けるよう机の上を片付け、ゴミを捨てに行って戻ってくると、ナハルがシエルの鍋に薬草を入れるところだった。


「ナハル!どうして私の薬に他の薬草を入れたの?!いつもわたしの邪魔ばかりするの、ひどいわっ」


完成した薬には、大量の薬草が入れられて、ひどい色と臭いになっていた。それを見た瞬間、ナハルに掴みかかっていた。


「痛いわ、シエル!やめてちょうだい。間違えてしまっただけなの、本当よ、信じてちょうだい!台無しにするつもりなんてなかったの」
「うそよ、わざとでしょう!いつもナハルのせいよ」


怒りにでどうしようもなくって、ナハルの髪の毛をぐいぐい引っ張る。ナハルも抵抗て、私の髪の毛を引っ張り、異臭のする鍋の中に頭を押し込んできた。


「きゃあっ、何するの!な、なにか、あついし、いたいっ」
「何をやっているんです!どうして薬を、酷い臭いだわ。きゃっ、絨毯まで汚れているじゃないっ!ナハル、怪我は無かったわね?」


シューシューと髪の毛から不気味な音がする。汗のように液体が頭から滴り落ちてくる。


(うぅ~気持ち悪いわ!)


お母さまが布を渡して頭に巻くように言ってくれた。気遣ってくれたことが嬉しかった。今回はお母さまもナハルが悪いと分かってくれたんだと思うと、胸がいっぱいになった。


「この汚れとれるかしら?はぁ、この絨毯はとても高価なものだったのに!シエル、あなたは、いつも何かしでかして邪魔をしないと気が済まないのね。どうしてそうもういいわ、部屋から出ていきなさい。臭いが消えるまで本館への出入りを禁じるわ!」

シエルは呆然とした。お母さまは、私を心配きしてくださっていたのではないの?

使用人からも臭いを嫌がられ、外に放り出されたシエルは、とぼとぼと別館の部屋に戻る。自分で桶に水を汲んできて、髪の毛を洗うが全く落ちない。


「ひぐっ、うぅ、どうしていつもわたしばかり怒られるの?ナハルはなんで叱られないの?わたしは何もしてないのにっ」


結局、3ヶ月以上、本館に入れて貰えなかった。食事の量が減って仕方なく森に行って木の実を食べて凌いでいたが、冬はそれも限界だった。


本館に入れるようになった時には、冬も終わりかけていた。そして、お母さまは、シエルと、名前も呼んでくれなくなっていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...