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25 回想④
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その日から、シエルは見習いになったばかりのフィンについて回って色々と教わった。薬作りよりも、体力を消耗する作業が多くヘトヘトになったが、シエルよりも細いフィンは平気な顔をしていたのが悔しかった。
年が割と近いフィンと出会えたことで、シエルは色んなことを学べた。
まず、この工房にいる子供はみんな親に売られたか捨てられたかしているということ。フィンも親に売られてこの工房に来たから、何処にも行けないという。
驚いていたら「シエルも同じなんだろう?」と言われてしまった。すぐに否定したが信じてなさそうだった。シエルも1年以上なんの連絡も貰えてないことを思い出し、説得力が無いことに気づいて、開きかけた口をまた閉じた。フィンが優しく背中を叩いて慰めてくれた。
他にも、食事は3の鐘と、4か5の鐘が鳴った時に配られ、ご飯が足りない時は、修道院に行けば子供には分けてくれることを教えてくれた。
「ライ麦パンとスープばっかりで飽きちゃったよ。来たばっかりの頃みたく粥じゃないだけマシだけどね、すぐ腹が減るから修道院でラグーとチーズをいつも貰ってんのさ」
「ラグーってなに?」
「知らねぇの?魚か、ほんとーにたまに、肉が細かく切られて入った煮込んで作ったスープみたいなもんさ。パンにつけて食べると上手いんだぜ」
こんな風にフィンはシエルが知らない食べ物をいっぱい知っていて、作り方も教えてくれた。
またある日は、シエルは家から持ってきた2枚の服を交互に着ていたが、ついに破れてしまった。
「どうしよう、私お金持ってない!ペテロいつ来るかな?」
「そうか、お前2着しか持ってないんだな、待ってな」
そう言ってこっそり職場を抜け出したフィンは、暫くして戻ってきたかと思うとお日様みたいな色のワンピースをくれた。
「ど、どこで手に入れたの?!高かったんじゃ・・・?」
「んー、これは俺からのプレゼントだ!上手く交渉したんだ」
「こうしょう?」
「あぁ、この街で、どこで服を安く買えるのか、貰えるのかを俺は知ってるからな。それで他の店の情報を教える代わりにタダで貰ってきたんだ。へへ、どうだ、すげぇだろ!」
誇らし気に胸を張るフィンは、本当にお兄ちゃんみたいで嬉しくって気づいたら、抱きついていた。
シエルが魔道具工房に来てから1ヶ月が過ぎた頃、フィンが春の祭りに連れていってくれた。
出かける時、ペテロが「別の場所に連れていく。フィン達とはもうお別れだから楽しんできなさい」とお金をくれたので、2人で何を買うか話しながら通りを歩いていく。
そこで、ちょうどお店から出てきた女の子の後ろ姿に見覚えがあった。じっと見ていると女の子の後から大人が2人出てきた。振り向いた女の子の顔を見て、シエルは固まった。
「えっ、」
「んぁ、どーした?」
あれは間違いなくナハルだ。お父さまとお母さまと仲良く手を繋いでいる。やっと会えた。
「お父さま、ありがとうございます!こんなに素敵なお洋服を買っていただけて嬉しいです」
「あぁ、勉強を頑張っていたからな。さすが私の自慢の娘だ」
微笑むお父さまの方へシエルは駆け出す。角を曲がろうとしている。
「待って、行かないで!」
急いで追いつこうとして足がもつれてしまった。あっと思う間もなく地面に激突していた。
「くっ、うぅっ」
「おい、大丈夫か?!」
泣きたいのを我慢して立ち上がる。と、派手に転んだらしく、ナハルとお父さまたちもこちらを見ていた。
(わたしを心配してくれているんだわ!これで、やっとお父さまに褒めてもらえる!お家に帰れるわ)
目をぐいっと乱暴に拭って走り出す。お腹の底からありったけの大声を出した。
「おとうさまっ、シエルです!待ってくださいませ!」
一瞬、目が合った。声も聞こえているはずなのに、お父さまは、ナハルとお母さまの背中を押して角を曲がっていってしまう。
「そんな、どうして?!お父さま、シエルですっ!!」
角を曲がった瞬間、シエルは誰かにぶつかった。歪んでいく視界の中で、その人が何かーーーを呟いていたような気がする。聞き取ろうと必死になるが、意識は待ってはくれなかった。
優しく揺らされ、薄く目を開ける。顔を覗き込んでいたのはフィンではなく、なぜかペテロだった。ぼやけた景色の中で、ペテロの悲し気な表情がくっきりとしていた。
(あぁ、私は、捨てられたのね。フィンたちと同じように捨てられたのね・・・・・・)
目が覚めた時には、何日も経っていた。それからシエルは何も考えず、淡々と職人のもとで仕事を覚えていった。
月日が流れていく間に、シエルは泣くことも笑うことも無くなっていた。技術の対価が感情だったのではないかと思うほどだった。
操り人形のようだ、そう人々は囁くようになった。
年が割と近いフィンと出会えたことで、シエルは色んなことを学べた。
まず、この工房にいる子供はみんな親に売られたか捨てられたかしているということ。フィンも親に売られてこの工房に来たから、何処にも行けないという。
驚いていたら「シエルも同じなんだろう?」と言われてしまった。すぐに否定したが信じてなさそうだった。シエルも1年以上なんの連絡も貰えてないことを思い出し、説得力が無いことに気づいて、開きかけた口をまた閉じた。フィンが優しく背中を叩いて慰めてくれた。
他にも、食事は3の鐘と、4か5の鐘が鳴った時に配られ、ご飯が足りない時は、修道院に行けば子供には分けてくれることを教えてくれた。
「ライ麦パンとスープばっかりで飽きちゃったよ。来たばっかりの頃みたく粥じゃないだけマシだけどね、すぐ腹が減るから修道院でラグーとチーズをいつも貰ってんのさ」
「ラグーってなに?」
「知らねぇの?魚か、ほんとーにたまに、肉が細かく切られて入った煮込んで作ったスープみたいなもんさ。パンにつけて食べると上手いんだぜ」
こんな風にフィンはシエルが知らない食べ物をいっぱい知っていて、作り方も教えてくれた。
またある日は、シエルは家から持ってきた2枚の服を交互に着ていたが、ついに破れてしまった。
「どうしよう、私お金持ってない!ペテロいつ来るかな?」
「そうか、お前2着しか持ってないんだな、待ってな」
そう言ってこっそり職場を抜け出したフィンは、暫くして戻ってきたかと思うとお日様みたいな色のワンピースをくれた。
「ど、どこで手に入れたの?!高かったんじゃ・・・?」
「んー、これは俺からのプレゼントだ!上手く交渉したんだ」
「こうしょう?」
「あぁ、この街で、どこで服を安く買えるのか、貰えるのかを俺は知ってるからな。それで他の店の情報を教える代わりにタダで貰ってきたんだ。へへ、どうだ、すげぇだろ!」
誇らし気に胸を張るフィンは、本当にお兄ちゃんみたいで嬉しくって気づいたら、抱きついていた。
シエルが魔道具工房に来てから1ヶ月が過ぎた頃、フィンが春の祭りに連れていってくれた。
出かける時、ペテロが「別の場所に連れていく。フィン達とはもうお別れだから楽しんできなさい」とお金をくれたので、2人で何を買うか話しながら通りを歩いていく。
そこで、ちょうどお店から出てきた女の子の後ろ姿に見覚えがあった。じっと見ていると女の子の後から大人が2人出てきた。振り向いた女の子の顔を見て、シエルは固まった。
「えっ、」
「んぁ、どーした?」
あれは間違いなくナハルだ。お父さまとお母さまと仲良く手を繋いでいる。やっと会えた。
「お父さま、ありがとうございます!こんなに素敵なお洋服を買っていただけて嬉しいです」
「あぁ、勉強を頑張っていたからな。さすが私の自慢の娘だ」
微笑むお父さまの方へシエルは駆け出す。角を曲がろうとしている。
「待って、行かないで!」
急いで追いつこうとして足がもつれてしまった。あっと思う間もなく地面に激突していた。
「くっ、うぅっ」
「おい、大丈夫か?!」
泣きたいのを我慢して立ち上がる。と、派手に転んだらしく、ナハルとお父さまたちもこちらを見ていた。
(わたしを心配してくれているんだわ!これで、やっとお父さまに褒めてもらえる!お家に帰れるわ)
目をぐいっと乱暴に拭って走り出す。お腹の底からありったけの大声を出した。
「おとうさまっ、シエルです!待ってくださいませ!」
一瞬、目が合った。声も聞こえているはずなのに、お父さまは、ナハルとお母さまの背中を押して角を曲がっていってしまう。
「そんな、どうして?!お父さま、シエルですっ!!」
角を曲がった瞬間、シエルは誰かにぶつかった。歪んでいく視界の中で、その人が何かーーーを呟いていたような気がする。聞き取ろうと必死になるが、意識は待ってはくれなかった。
優しく揺らされ、薄く目を開ける。顔を覗き込んでいたのはフィンではなく、なぜかペテロだった。ぼやけた景色の中で、ペテロの悲し気な表情がくっきりとしていた。
(あぁ、私は、捨てられたのね。フィンたちと同じように捨てられたのね・・・・・・)
目が覚めた時には、何日も経っていた。それからシエルは何も考えず、淡々と職人のもとで仕事を覚えていった。
月日が流れていく間に、シエルは泣くことも笑うことも無くなっていた。技術の対価が感情だったのではないかと思うほどだった。
操り人形のようだ、そう人々は囁くようになった。
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