【R18】Fragment

Nuit Blanche

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無口な同級生に下僕にしてくれと言われた結果

無口な同級生に下僕にしてくれと言われた結果 2

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「えっ、何何? あっつん、何したの? 一世一代のプロポーズ?」

 二人の間だけ時間が止まったような空気の中、不思議そうにやってきたのは篤宏と一番仲が良いと思われる男子――大槻おおつき健吾けんごだった。彼はお調子者のきらいがあるが、古い付き合いらしく篤宏も無下にする風でもなく、花は不思議に思っていた。
 健吾もまた同じクラスであるのだが、偶然か狙ったのか、彼が教室にいない間に篤宏は動いた。だからこそ、今し方教室に戻ってきた彼の目には篤宏が皆の前で花に告白したように映ったらしい。
 もし、そうだったならば話は簡単だっただろう。実際には花には理解し難いことだったから困り果てているのだ。

「そう受け取ってもらっても構わない」
「うわっ、あっつん、だいたーん!」

 篤宏は眉間に皺を刻むが、健吾は茶化すような口調をやめなかった。

「でも、もっちーは凄く困ってるみたいだよ?」

 チラリと健吾に視線を向けられて、もっちーとは自分のことなのかと花は考える。彼とも話したことはないのだが、どうやら勝手にあだ名を付ける癖があるらしい。

「って言うか、俺、聞いてない! もう一回! 俺のためにもう一回言って? 再現して?」
「望野に下僕にしてくれと申し込んだところだ。邪魔するな。お前に聞かせる言葉はない」
「はぁっ!?」

 些か大仰に健吾は驚くが、無理もない。しかし、花は彼がどうにかしてくれないかと期待していた。おそらく篤宏に何か言えるとすれば彼だけだ。

「も、もっちー、そういう趣味あるの? 実はドS? 女王様?」

 まさかそんな誤解が生じてしまうとは考えもしなかった花はぶんぶんと首を横に振って即座に否定する。

「あっつん、何で急にそうなっちゃったの?」

 再び篤宏に向き直り、健吾は問いかける。皆が気になっていることだろう。

「急ではない。この数日、ずっと考えていた」

 篤宏は至って真面目な調子のまま答える。あの数日、篤宏との接触があったわけでもない。そんな素振りなど微塵も感じなかった花は益々わからなくなる。

「どうやら俺は望野の足が好きらしい」
「足……?」

 思わず視線を落として花は自分の足を見詰めてみる。見慣れた足は特別だとも思えないが、篤宏は近付いてきた時からずっとふざけているつもりはないのだろう。だからこそ、余計に謎が深まる。

「だから下僕になればその足を堪能できると思った、って?」
「そういうことだ」

 健吾の解釈を篤宏が肯定するからこそ花は困惑するしかない。自分の足の何がそれほど特別だと言うのか。どこに魅力を感じたと言うのか。

「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの? 何か変な物食べた? 頭ぶつけた?」

 信じられないものを見るように健吾は言う。そんなことを言えるのは彼くらいのものだろう。篤宏も怒るわけでもない。

「俺だってあっつんが足フェチだなんて知らなかったのに、突然そんな性癖暴露されて、もっちードン引きだと思うよ」
「そうなのか?」

 答えを求めるように篤宏に見詰められ、花は慌てて首を横に振る。自分は引いているのだろうか、あまりの混乱でそんなことさえよくわからなくなっている。しかし、篤宏に対して恐れがあるからこそ、頷くこともできない。

「普通は、彼氏になりたいって考えると思うよ。普通は」

 普通は、と繰り返し強調する健吾に篤宏はむっとする素振りもなく首を傾げている。気を許しているのか、大して気にも留めていないのか、どちらにしても二人の関係は上手くいっているのだろう。

「彼氏とは下僕よりも簡単になれるものか?」

 不思議そうに問う篤宏に健吾の口から深い溜息が零れ落ちた。

「普通は下僕になりたがらないよ。普通はさ」

 普通ではないと言われていることに気付いていないのか、どうでも良いのか、篤宏は反論するわけでもない。

「……あっつん、もっちーとちゃんと話した方がいいと思うよ」

 ほんの数分の間に健吾は疲れ果ててしまったようである。その声には力がない。

「ところで、お前はそんなに望野と仲が良かったか?」
「うわぁっ、嫉妬丸出しで殺人光線出すのやめて! お願いだから、それよりももっちーにちゃんと説明してあげて!」

 篤宏の問いに健吾は元気を取り戻したように花の目には映っていた。健吾の方を向いた篤宏の表情は花には見えない。だが、泣き出しそうな健吾の顔はよく見えた。

「……そうだな、お前と話していても無駄だ」

 視線が外れて健吾はほっとしたようだったが、再び篤宏に見詰められた花は緊張で心臓が締め付けられる気持ちだった。
 しかし、見詰め合うこと数秒、篤宏の口が開かれることはなかった。

「えっと……ちゃんと話すの、初めてだよね……?」

 どうにか花は言葉を絞り出す。健吾がいる今ならば多少のフォローは期待できるかもしれないが、言葉を間違えて彼の機嫌を損ねるようなことは避けたかった。

「そう、だな……」

 これは会話が続かないと花は直感した。喋るのが得意ではないからこそ、健吾のようにリードしてくれる方が話しやすいのだが、篤宏に期待しても無駄なのだろう。

「あーもうっ、何で大胆な告白できるくせに口下手なの!?」

 じれたような健吾はもう元気を取り戻したのかもしれない。

「もっちーはあっつんのこと、嫌いではないよね? でも、怖いよね?」
「そう、なのか?」

 健吾だけならば頷けたが、篤宏の視線を感じては正直に頷くことさえできなくなる。しかし、その態度が何よりも雄弁に物語っていたのかもしれない。

「ご、ごめんなさい……」
「もっちーは謝らなくていいからね。全部あっつんが悪いからね。って言うか、もっちー、フリーなの? 好きな人は?」
「い、いないけど……」

 篤宏に対して失礼なような気がしているのに、健吾が畳みかけてくるから花はその一言を口にするので精一杯だった。

「じゃあ、あっつんと試しに付き合ってみちゃうのはいかがでしょう?」
「えっ!?」

 健吾からの提案に花は思わず大きな声を出してしまった口を慌てて塞ぐ。だが、彼も冗談で言っている様子はない。

「もうさ、ここから拡散されて学校中の噂になっちゃいそうだし? そうなると、もっちーに絡む変な虫もたくさん湧きそうだし? あっつんが責任持って、その殺人光線出す目を光らせて虫除けになるしかないのでは?」
「な、なるほど……」

 一理ある、と花は心の中で頷きながら篤宏を見る。彼はそれでいいのだろうか。

「お互いのこと、ちゃんと知ったらさ、あっつんも単に足だけが良いのか、もっちーのことが好きなのかわかるだろうし? 違ったら、ほとぼりが冷めた頃に別れればいいだけ」

 そう言われれば、特に難しいことではないようで感じて花は納得していた。お互いを知らないのは事実なのだ。

「望野、よろしく頼む」
「は、はい……こちらこそ」

 差し出された手に花がそっと自分の手を乗せれば包み込まれる。大きな手は熱く、力強さを感じさせながらも優しかった。
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