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遠ざけて近付いて
遠ざけて近付いて 1
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五十嵐大倫にはかつて良くない噂があった。落ち着いたはずの悪い噂はクラス替えを切っ掛けに再燃してしまう。
以前彼に助けられた立川小春は放っておくことができなかったが……(全五話+おまけ)
[シリアス 現代 学園 高校生 同級生 強姦 レイプ 無理矢理 身長差 体格差 両片想い?]
* * * * *
一歩前に踏み出せば、じりじりと後退った背中が壁についたのだろう。逃げ場を探すように動く顔の横に手をつけば檻になる。壁ドンなどと言えば聞こえは良いが、ときめきを感じられるような状況ではないだろう。
恐怖を湛えた顔が彼を見上げる。小さな体が震えるのがひどく哀れだった。
「もう俺に関わるなって言ったよな?」
五十嵐大倫は立川小春を見下ろし、威嚇するように低い声を出す。
小春は眼差しの鋭さに唸るような声に完全に気圧されていた。彼の体の全てが怒りを露わにしているようだ。だが、逃げるタイミングを見失ったわけでもない。猛獣の懐に自ら飛び込んだのだ。彼の言葉通り、彼女が警告を無視したのだ。
「でも……」
思うところはあっても、言いかけた言葉は大倫の一睨みで途切れる。自分の正義がいかに陳腐だったかを思い知らされたかのようだった。
小春は同じクラスになった彼を放ってはおけなかった。元々正義感が強いタイプではなかったが、恩義という言葉だけでは言い表せない感情があったからこそ、孤立していく彼を見ていられなかったのだ。
彼とは親しいと言えるほどではなく、小春が一方的に懐いていたと言うのが正しいのかもしれない。
入学当初から長身で目立っていた彼には良くない噂が付き纏った。睨まれた、他校の生徒と喧嘩したなどと噂が広まり、大倫が不良だと言う噂が一人歩きして敬遠されるようになってしまったのだ。
とは言っても友人がいないわけでもない。噂通りの人物でないことを知る人間はいるのだ。
小春は約一年前に柄の悪い男子達に絡まれていたところを助けられたのがきっかけで彼を『いい人』だと認識し、見かければ挨拶をしてきた。だから、彼の名前を同じクラスの中に見つけた時、喜んだものだ。
この一年、彼は問題を起こすわけでもなく、噂は落ち着いたと小春は安堵していたのだが、見事に再燃してしまっている。
「俺に近付くなら何をされても文句は言えないって言ったよな?」
咎めるような問いに小春は頷くことさえできなかった。自分を助けてくれた彼が自分を傷付けるはずがないと高をくくっていたのだ。
彼がクラスで孤立しているのも誤解なのである。何やら険しい表情をしていた大倫にある男子が睨まれたと騒ぎ出したのが発端だった。大倫が『お前なんか見ていない』と言ったことが火に油を注ぎ、以来執拗に敵視される原因になったのである。
ほんの些細なことなのだが、クラスメート達は大倫を煙たがるようになり、それを察したように彼は教室から姿を消すことが増えてしまった。
小春は誤解を解こうとして、大倫を教室に連れ戻そうともしたが、拒絶されて今に至るわけである。
「震えてるぜ? 二度と俺に関わらないって誓うなら逃がしてやるよ」
指摘されて初めて自分の足がガクガクと震えていることに気付いた小春は動揺を隠せずにいた。たとえ『いい人』と認識していても、小柄な彼女にとって大柄な彼が怒りを露わにしていれば恐怖を覚えるものだが、これまで自分に向けられたことのない怒りにどうすれば良いのかわからずにいた。
「逃げねぇなら食うぞ?」
壁と大倫の間に挟まれた状況でどう逃げろと言うのか。小春には逃げ道が見えない。
まだ警告を続ける大倫は隙を作っているつもりなのかもしれない。逃げる素振りを見せれば阻止しないのかもしれない。
だが、小春は納得していないのだ。一度拒絶されても彼が潜んでいるこの屋上前まで自らの意思で足を運んだのだ。
「逃げない……五十嵐君が授業に出てくれるまで付き纏うから……!」
絞り出した声は震えていたが、小春の覚悟に違いなかった。目を逸らすことなく大倫を見上げる。
一度助けられたのも気まぐれだったのかもしれない。目障りだったという言葉通りだったのかもしれない。恩を返すことを義務だと感じているわけでもない。
ただ小春が嫌なのだ。彼を好意的に思っているからこそ、悪者にされることが許せなかった。
「そうかよ」
意外に頑固な小春に大倫は舌打ちをする。
そんな些細なことにさえ彼女はびくりと体を震わせるくせに、逃げ出そうとはしない。最早、意地なのかもしれない。
小春は今の大倫が怖くてたまらなかったが、逃げてしまえば二度と彼が教室に来なくなるような考えに取り憑かれていたのかもしれない。今の状態が続けば彼は学校からも消えてしまうかもしれないのだ。
「そっちがその気なら泣いて暴れてももう逃がさねぇ。思い知らせてやる」
一体、何をする気なのか。殴られはしないだろうとぼんやりしていた小春は大倫の顔が近付いてくるのをわかっていながらも動くことができなかった。
「んんっ!」
唇が触れている。キスをしたことがない小春にとっては想像と異なる行為に感じられて驚きで目を瞬かせるが、そもそも大倫にキスされる理由は見当たらない。はっとして腕を突っ張っても大倫の体はびくともしない。それどころか大倫は小春の後頭部に手を回し、腰を引き寄せ、より密着させる。言葉の意味を示すかのように。
「……っふ、ぅぁっ……んんぅっ!」
小春は息苦しさで眉間に皺を刻み、指先は大倫のシャツを掴む。
まるで藁を掴むような小春は溺れているも同然だった。ろくに鼻呼吸もできていない。突然のこととは言っても行為に慣れていないのは一目瞭然だ。
不意に唇が解放されて、やっと苦しさが伝わったのかとほっとする暇など小春には与えられなかった。
酸素を求めて開いた唇にぬるりと大倫の舌が入り込む。
吐息さえ奪おうとするような荒々しく貪る口づけに頭がくらくらして小春は立っていることさえ難しくなっていた。
以前彼に助けられた立川小春は放っておくことができなかったが……(全五話+おまけ)
[シリアス 現代 学園 高校生 同級生 強姦 レイプ 無理矢理 身長差 体格差 両片想い?]
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一歩前に踏み出せば、じりじりと後退った背中が壁についたのだろう。逃げ場を探すように動く顔の横に手をつけば檻になる。壁ドンなどと言えば聞こえは良いが、ときめきを感じられるような状況ではないだろう。
恐怖を湛えた顔が彼を見上げる。小さな体が震えるのがひどく哀れだった。
「もう俺に関わるなって言ったよな?」
五十嵐大倫は立川小春を見下ろし、威嚇するように低い声を出す。
小春は眼差しの鋭さに唸るような声に完全に気圧されていた。彼の体の全てが怒りを露わにしているようだ。だが、逃げるタイミングを見失ったわけでもない。猛獣の懐に自ら飛び込んだのだ。彼の言葉通り、彼女が警告を無視したのだ。
「でも……」
思うところはあっても、言いかけた言葉は大倫の一睨みで途切れる。自分の正義がいかに陳腐だったかを思い知らされたかのようだった。
小春は同じクラスになった彼を放ってはおけなかった。元々正義感が強いタイプではなかったが、恩義という言葉だけでは言い表せない感情があったからこそ、孤立していく彼を見ていられなかったのだ。
彼とは親しいと言えるほどではなく、小春が一方的に懐いていたと言うのが正しいのかもしれない。
入学当初から長身で目立っていた彼には良くない噂が付き纏った。睨まれた、他校の生徒と喧嘩したなどと噂が広まり、大倫が不良だと言う噂が一人歩きして敬遠されるようになってしまったのだ。
とは言っても友人がいないわけでもない。噂通りの人物でないことを知る人間はいるのだ。
小春は約一年前に柄の悪い男子達に絡まれていたところを助けられたのがきっかけで彼を『いい人』だと認識し、見かければ挨拶をしてきた。だから、彼の名前を同じクラスの中に見つけた時、喜んだものだ。
この一年、彼は問題を起こすわけでもなく、噂は落ち着いたと小春は安堵していたのだが、見事に再燃してしまっている。
「俺に近付くなら何をされても文句は言えないって言ったよな?」
咎めるような問いに小春は頷くことさえできなかった。自分を助けてくれた彼が自分を傷付けるはずがないと高をくくっていたのだ。
彼がクラスで孤立しているのも誤解なのである。何やら険しい表情をしていた大倫にある男子が睨まれたと騒ぎ出したのが発端だった。大倫が『お前なんか見ていない』と言ったことが火に油を注ぎ、以来執拗に敵視される原因になったのである。
ほんの些細なことなのだが、クラスメート達は大倫を煙たがるようになり、それを察したように彼は教室から姿を消すことが増えてしまった。
小春は誤解を解こうとして、大倫を教室に連れ戻そうともしたが、拒絶されて今に至るわけである。
「震えてるぜ? 二度と俺に関わらないって誓うなら逃がしてやるよ」
指摘されて初めて自分の足がガクガクと震えていることに気付いた小春は動揺を隠せずにいた。たとえ『いい人』と認識していても、小柄な彼女にとって大柄な彼が怒りを露わにしていれば恐怖を覚えるものだが、これまで自分に向けられたことのない怒りにどうすれば良いのかわからずにいた。
「逃げねぇなら食うぞ?」
壁と大倫の間に挟まれた状況でどう逃げろと言うのか。小春には逃げ道が見えない。
まだ警告を続ける大倫は隙を作っているつもりなのかもしれない。逃げる素振りを見せれば阻止しないのかもしれない。
だが、小春は納得していないのだ。一度拒絶されても彼が潜んでいるこの屋上前まで自らの意思で足を運んだのだ。
「逃げない……五十嵐君が授業に出てくれるまで付き纏うから……!」
絞り出した声は震えていたが、小春の覚悟に違いなかった。目を逸らすことなく大倫を見上げる。
一度助けられたのも気まぐれだったのかもしれない。目障りだったという言葉通りだったのかもしれない。恩を返すことを義務だと感じているわけでもない。
ただ小春が嫌なのだ。彼を好意的に思っているからこそ、悪者にされることが許せなかった。
「そうかよ」
意外に頑固な小春に大倫は舌打ちをする。
そんな些細なことにさえ彼女はびくりと体を震わせるくせに、逃げ出そうとはしない。最早、意地なのかもしれない。
小春は今の大倫が怖くてたまらなかったが、逃げてしまえば二度と彼が教室に来なくなるような考えに取り憑かれていたのかもしれない。今の状態が続けば彼は学校からも消えてしまうかもしれないのだ。
「そっちがその気なら泣いて暴れてももう逃がさねぇ。思い知らせてやる」
一体、何をする気なのか。殴られはしないだろうとぼんやりしていた小春は大倫の顔が近付いてくるのをわかっていながらも動くことができなかった。
「んんっ!」
唇が触れている。キスをしたことがない小春にとっては想像と異なる行為に感じられて驚きで目を瞬かせるが、そもそも大倫にキスされる理由は見当たらない。はっとして腕を突っ張っても大倫の体はびくともしない。それどころか大倫は小春の後頭部に手を回し、腰を引き寄せ、より密着させる。言葉の意味を示すかのように。
「……っふ、ぅぁっ……んんぅっ!」
小春は息苦しさで眉間に皺を刻み、指先は大倫のシャツを掴む。
まるで藁を掴むような小春は溺れているも同然だった。ろくに鼻呼吸もできていない。突然のこととは言っても行為に慣れていないのは一目瞭然だ。
不意に唇が解放されて、やっと苦しさが伝わったのかとほっとする暇など小春には与えられなかった。
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